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★セラフィーヌの庭

(C) TS Productions/France 3 Cinema/Climax Films/RTBF 2008
『セラフィーヌの庭』 (Seraphine)
〜インスピレーションは上から降ってくる〜

(2008年 フランス,ベルギー,ドイツ 2時間06分)
監督:マルタン・プロヴォスト
出演:ヨランド・モロー,ウルリッヒ・トゥクール,アンヌ・ベネント

2010年8月7日より岩波ホールほか全国にて順次公開 9月〜梅田ガーデンシネマ、10月〜京都シネマ、神戸元町映画館
公式サイト⇒ http://www.alcine-terran.com/seraphine
 素朴派に分類される画家セラフィーヌ(1864〜1942)。特定のグループに属さず,独学で絵を修得した画家の1人で,その画風はプリミティブだ。草木を描いた絵は,目のようにも虫のようにも見え,今にももぞもぞと動き出しそうだ。好き嫌いは分かれるかも知れないが,原初的な生命のエネルギーが湧いてくるような力強さがある。彼女は,絵を描くようにとのお告げを聞き,絵を描き始めたという。1枚の絵が美術商ウーデの目に留まる。

  1914年,サンリス。朴訥とした彼女の動きを客観的に坦々と映し出していく。冒頭の数分間でセラフィーヌの人となりが端的に示される。映像と音で生み出される静謐なタッチがしっかりとしたデッサンを思わせる。やがて彼女が絵を描いていることが分かってくる。だが,ウーデに絵の才能を見出されなければ,セラフィーヌが脚光を浴びることはなかっただろう。彼女の人生の中でもウーデと関わった時期に焦点を絞った着眼の鋭さに感服する。

  静けさの中,自然の作り出す音がスクリーンを覆い尽くす。虫や鳥の声が清らかで,川の流れが多彩な音色を奏でる。教会の鐘が鳴り,聖歌を歌い,床を拭く音が響く。画面いっぱいに緑が広がる。セラフィーヌが大きな木の枝に腰掛ける。風にそよぐ枝を見上げる。まるで自然と対話しているようだ。彼女は,悲しいときは田舎に行き木に触るといい,植物や動物と話すと悲しみが消える,とウーデに語る。彼女の絵の根源に触れた思いがする。

  戦争が始まってウーデが去った後も,セラフィーヌはひたすら絵を描き続ける。1927年,ウーデは彼女の絵と再会して名匠と並んだと褒め称える。その後のセラフィーヌの変貌ぶりを体現するヨランダ・モローには目を見張らされる。個展を開くことを夢見る彼女は,ウーデの中に自らを導く見えざる手を見出したのかも知れない。1929年の大恐慌でウーデの援助を失った彼女はウエディングドレス姿で奇行に及ぶ。その姿が痛々しく突き刺さる。
(河田 充規)ページトップへ
   
             
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