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『ル・アーヴルの靴みがき』
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ル・アーヴルの靴みがき

(C)Sputnik Oy photographer: Marja-Leena
『ル・アーヴルの靴みがき』 (LE HAVRE)
〜単純なハッピーエンドを超えるエンディング〜

(2011年 フィンランド,フランス,ドイツ 1時間33分)
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
出演:アンドレ・ウィルム,カティ・オウティネン,
    ジャン=ピエール・ダルッサン,ブロンダン・ミゲル,
    ジャン=ピエール・レオ,ライカ

2012年4月28日(土)〜梅田ガーデンシネマ、5/12〜京都シネマ、5/26〜神戸アートビレッジセンター 他全国順次公開
公式サイト⇒http://www.lehavre-film.com/
★2011年カンヌ国際映画祭:国際批評家協会賞他受賞
★2011年シカゴ国際映画祭:グランプリ受賞
★2011年ルイ・デリュック賞受賞

 ノルマンディーの港町ル・アーヴルでコンテナに隠れていた不法移民が発見される。隙を見て逃げ出した少年イドリッサはアフリカのガボンから母親のいるロンドンに密航しようとしていた。監督は,不法移民を描きながら,その社会的な問題を取り上げるのではなく,これに関わる市井の人々の営みを撮り上げた。眼光の鋭さより視線の柔らかさを身上とする監督の面目が躍如としている。本作の主人公はル・アーヴルの靴みがきマルセルだ。
 彼は,妻アルレッティや愛犬ライカと裕福でなくとも幸せに暮らしていた。妻は,激しい腹痛で入院するが,不治の病であることを夫に知られないよう計らう。マルセルは,イドリッサを匿い,カレーまで彼の祖父を訪ねていく。なぜマルセルがそれほど親身に少年を助けようとするのか,という疑問が次第に膨らんでくる。イドリッサを追跡するモネ警視も登場するが,少年が無事ロンドンに行けるかより“なぜ”の方に関心が高まっていく。
 監督によると,ル・アーヴルはフランスのメンフィスで,実在のリトル・ボブはエルヴィスだ。マルセルは,イドリッサの密航費を得るための慈善コンサートを企画する。独りにされ落ち込むリトル・ボブの下にミミが戻ってくる場面は,レトロな中に優しさが満ちていた。懐かしげな情景が続くが,いま起きている移民の話が根底にある。サイレント映画を思わせる映像の中に複数の時代を重ね,いつの時代にも存在する温もりを伝えている。
 いつしか,舞台の奥にあるスクリーンに入院中のアルレッティの姿が映され,その前の空間でマルセルが奮闘しているような感覚が生まれる。全てが終わってマルセルが病院へ行ったとき,ベッドは空で荷物だけが置かれていた。その後,彼に説明する医師からカメラが切り替わってアルレッティの姿が映される。それは,マルセルの無償の善意が浄化された世界を生み出した瞬間であり,人間を信頼する監督の温かな視線が捉えた奇跡である。

(河田 充規) ページトップへ

(C)Sputnik Oy photographer: Marja-Leena
   
             
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