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★海洋天堂

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『海洋天堂』 (OCEAN HEAVEN)
〜自閉症の息子と余命わずかの父が織りなす葛藤と絆〜

(2010年 中国 1時間38分)
監督:シュエ・シャオルー
出演:ジェット・リー、ウェン・ジャン、グイ・ルンメイ他

2011年7月16日〜梅田ガーデンシネマ、7月23日〜シネ・リーブル神戸、9月〜京都シネマ、他にて順次公開
公式サイト⇒ http://www.kaiyoutendo.com/
 「こんなジェット・リーは、見たことがない!」と、彼の精悍なアクションスターぶりを知る人なら驚くに違いない。男手一つで自閉症の息子を育ててきた父親に扮し、自らの最期の瞬間まで息子のために生きる姿を市居の人になりきって演じている。『北京バイオリン』の脚本を手がけた女性監督シュエ・シャオルーは、丁寧な描写と瑞々しい映像で父子の絆をスクリーンに映し出した。
 海に浮かぶヨットに佇むシンチョン(ジェット・リー)と、自閉症の息子ターフー(ウェン・ジャン)。美しく穏やかな光景は、次の瞬間に悲劇へと転じる。自分が余命わずかであることを知ったシンチョンは、一人残されるターフーのことを心底案じて、二人で飛び込み心中を図る。ターフーの機転で生還した二人が共に過ごせる時間はわずか。シンチョンはターフーが自活できるように、必要なことをすべて教えようと決意するのだが・・・。
 服のたたみ方、バスの乗り方、ガスコンロの使い方を繰り返し教える姿。21歳と施設に入るには大きすぎる息子を受け入れてくれる場所を探し奔走する姿。父子が本気で向き合う中で、それぞれの苦悩や葛藤、自閉症の息子を取り巻く厳しい現実が、時にはユーモアを交えながら淡々と描かれる。自分の恋愛も封印して息子に生きていくすべを教え続けるシンチェン、その無償の愛は何よりも尊い。ジェット・リーが演じるひたむきな父親像が静かに心を打つ。
 一方、息子ターフーを演じたウェン・ジャンは、長年自閉症の人たちと関わってきたシュエ・シャオルー監督だから描けるキャラクターや細やかなエピソードを見事に体現している。ターフーの純粋さや、機転が利かないことが引き起こすさまざまなトラブルも、どこか微笑ましく一つの個性として描く視点がいい。そんなターフーが恋をするピエロの女性を、『言えない秘密』のグイ・ルンメイが爽やかに好演。シビアな現実の中でファンタジーのようなきらめきを放つ。シンチェンの職場、水族館が舞台の淡い恋物語は、ターフーが一人の青年として自立の一歩を遂げた証なのかもしれない。
 ウォン・カーウァイ監督作品の撮影を手がけたクリストファー・ドイルの瑞々しく、遠くから見守るような映像は、登場人物たちの心の声を響かせる。泣きたくても泣かない彼らを見ながら、こちらの涙腺は緩みっぱなしだった。シンチェンとターフーを支える周りの人たちの温かさにも触れながら、永遠の父子の絆を清々しく刻んだ物語。家族の絆を改めて考えるきっかけを与えてくれることだろう。
(江口 由美)ページトップへ
   
             
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