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★わたしを離さないで

(C) 2010 Twentieth Century Fox

『わたしを離さないで』(Never Let Me Go)
〜「あなたといたい」ささやかな願いが高ぶる青春ドラマの佳作〜
(2010年 イギリス・アメリカ 1時間45分)
監督:マーク・ロマネク 原作:カズオ・イシグロ
出演:キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド、
    キーラ・ナイトレイ 
2011年3月26日(土)〜TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ、 TOHOシネマズ梅田 TOHOシネマズなんば TOHOシネマズ二条 TOHOシネマズ西宮OS ほか全国ロードショー
公式サイト⇒  http://movies.foxjapan.com/watahana/

 「日の名残り」でイギリス最高の文学賞ブッカー賞を受賞したカズオ・イシグロの同名小説を『ストーカー』のマーク・ロマネクが映画化。特別な「使命」をもってこの世に生を受け、外界から隔離された寄宿学校へルーシャムで育ったキャシー、ルース、トミーの3人。彼らが自分たちに課せられた非情な運命を全うするまでの複雑な心情を情緒豊かに描く。
 生まれた時から無菌室で守られ、定期的な検診では小さな打ち身でさえも注視される。校庭でボール遊びをしていても、敷地から飛び出したボールを取りにいくことはできない。ヘルーシャムの過剰な管理体制はどこか奇妙だが、ここで産まれた子供たちにはそれが当たり前の日常となっていた。だが、少しずつ大人になり恋を覚える頃になると、3人は自分に強いられた運命をほんのちょっとだけ変えてみようと希望を抱き始める。しかし、宿命を背負った彼らにとって“希望”はあまりにも残酷な終焉への布石となってしまうのだった。
 本作はとても心を打つ悲しい物語だ。人間が息づく確かな鼓動を感じるのに、自意識を抑圧されるような、もどかしい思いが静かに揺れ動く。果たしてこの宿命とは一体何か?映画の宣伝的にそこは“秘密”となっているが、この作品に関しては特に秘密にしておくこともないだろう。なぜなら、それが最も重要な部分というわけではないからだ。何でも“秘密”や“衝撃のラスト”と煽るのは映画宣伝の悪いクセで、そこに注目しすぎると作品が本当に伝えたい真意を見失ってしまう。
 映画の冒頭で、彼らの置かれた状況に大体の予想がつくと思うので言ってしまうと、寄宿舎の子供たちは、どこかで誰かが病を患ったとき、その者の命を救うために存在している“提供者”なのだ。いわば、クローンということになるが、物語にSF的要素は一切なく、あくまで医療が発達した1960代を舞台に時間は進む。私たちは、大人でいられるのは数年という葛藤と閉塞を抱えた青年たちの消えゆく愛と青春のドラマを通じて、生まれてきた意味とこれからも続くであろう未来について深く考えさせられる事となる。

 そして、人の手で操作されたタイムリミットのある彼らの生き様をみて、本当に大切なことは自然でありのままの命を尊重することなのかもしれないと気付く。映画と同じく医療の進歩によって人の平均寿命が100歳を越えるなんて未来はすぐそこに来ているだろう。だが、自然に背く進化はいつも犠牲を生み出してきたことを考えると、人生において一番重要なのは限られた時間をいかに全うするかという理念につながっていく。だれにでも、死は平等に訪れる。自然の摂理を弄んではいけない。キャシー、ルース、トミーの精いっぱいの生命を通して、そんな生きる基本を考えさせられる普遍的な物語でもある。
(中西 奈津子)ページトップへ
   
             
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