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 ★ 2010年 3月公開
 ルド and クルシ
 マイレージ、マイライフ
 アニマルスパイ Gフォース
 ハート・ロッカー
 花のあと
 フィリップ、きみを愛してる!
 渇 き(中西バージョン)
 渇 き(江口バージョン)
 噂のモーガン夫妻
 シャーロック・ホームズ
 NINE ナイン
 スイートリトルライズ
 シャネル&ストラヴィンスキー
2010年2月公開ページへつづく
 
新作映画
 ルド and クルシ

(C) 2008 CHA CHA CHA, INC. All rights reserved
『ルドandクルシ』
〜メキシコから届いたおバカな兄弟の
                ハートフル・ムービー〜


(2008・メキシコ/101分)
配給 東北新社
監督・脚本 カルロス・キュアロン
出演 ガエル・ガルシア・ベルナル ディエゴ・ルナ ギレルモ・フランチェラ ドロレス・ヘレディア アドリアナ・パズ
3月20日(土)シネ・リーブル梅田 5月15日(土)京都シネマ
公式サイト⇒  http://rudo-movie.com/
 アルフォンソ・キュアロン×アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ×ギレルモ・デル・トロが手を組んだ!!この凄さ、一体何人の方に伝わるのか…。コアな映画ファンでないと、ただ舌を噛みそうな名前のおっさん3人という認識で終わってしまいそうだが、実はこの人たちはメキシコ映画界を牽引する名監督なのです。代表作は、キュアロン『天国の口、終わりの楽園』『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』、イニャリトゥ『アモーレス・ペロス』『バベル』、デル・トロ『パンズラビリンス』『永遠のこどもたち』。(「おぉ〜、作品名を聞いたら分かるよ!」という声が聞こえてきそう・笑)
 そんな3人がメキシコ映画界の新たな才能を発掘するため、製作会社「チャ・チャ・チャ・フィルムズ」を立ち上げた。その記念すべき1作目が『ルドandクルシ』で監督はアルフォンソ・キュアロンの実弟、カルロス・キュアロンが担い、サッカーを通してメキシコ社会に置ける人生の教訓を描く。そして主演は『天国の口、終わりの楽園』で大ブレイクしたガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナの最強コンビ!まさしく本作は、メキシコのスターたちがメキシコのために作ったメキシコ映画。だからか、日本での公開に際する扱いは地味だけど、いい感じに楽天的で、ちょいシリアスで、最後にはハートフルなラテン作品として心地よい仕上がりとなっている。
 ストーリーは、メキシコの田舎のバナナ園で働く貧乏兄弟、兄のベト(ルド=タフな乱暴者)と、弟のタト(クルシ=ダサい自惚れ屋)が、サッカーの素質を見出されて選手にスカウトされるというもの。田舎でくすぶっていた2人に来たまさかのチャンス。都会のチームで一躍スターになり、セレブの仲間入りを果たすも、ベトはギャンブルとクスリに、タトはセクシー女性に“骨抜き”にされていく。
 彼らが一気にスターにのし上がる過程は“メキシカンドリーム”を追体験できるほどあざやか。だが、天国の終焉はあっという間にやってくる。兄弟に訪れるジェットコースターのようにスピーディーな自業自得の“落差体験”は苦笑いするしかないが、とても純粋でまっすぐな彼らを見ていると単なる愚かさでは片付けられない不思議な感情に出会う。成功に喜び、失敗を嘆くが、嵐が通り過ぎ去る頃には平常心に戻っている。良くも悪くも能天気な兄弟のテキトーさは、ストレスをためない生き方のお手本のよう。母に家をプレゼントしたいという親孝行な夢も、義理の弟に先を越されてしまう天然ぶりで笑わせてくれるが、そんなこと少しも気にしない。時にプライドをかけてひがみ合うも、結局は家族を一番大切にしている。そう思い知らされたラストシーンを見て、メキシコの陽気さが持つ爽快な懐の深さを実感した。
(中西 奈津子)ページトップへ
 マイレージ、マイライフ
『マイレージ・マイライフ』(Up in the Air)
〜足が地に着いていない人生……、虚しいなぁ〜

(2009年 アメリカ 1時間49分)
監督 ジェイソン・ライトマン
製作 アイヴァン・ライトマン、ジェイソン・ライトマンほか
出演 ジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリック
2010年3月20日(土)〜TOHOシネマズシャンテ、TOHOシネマズ梅田 他全国ロードショー
公式サイト⇒ http://www.mile-life.jp/
 何事もドライに考え、自分のペースを崩さず、決して深入りしない。クールでカッコよく見える主人公ライアン(ジョージ・クルーニー)のような生き方を貫くと、案外楽かもしれない。でも、人間って「情の生き物」だから、それだけでおさまるはずがない。この人物がいつ破綻するのか、ぼくはハラハラしながら観ていた。
 彼は企業のリストラ対象者に言葉巧みに解雇を宣告する首切り人だ。相手は初対面で1回限り。だからこそ一見、柔らかく接しつつ、情にほだされず冷徹な言葉を言い放てるのだろう。イヤな仕事だが、プロ意識に徹し、全米各地を飛び回っている。何と年間322日も出張というのだから恐れ入る。移動は飛行機。マイレージがどんどんたまる。ちょっと分けてほしい……。1000万マイルが人生の目標だという。もろに宙に浮いているなぁ。
 女性の新入社員ナタリー(アナ・ケンドリック)がまたすごかった。ライアンを上まわる超合理主義者で、面談でのリストラ通告は無駄だとし、ネットであっさり解雇を言い渡すべきだと主張する。杓子定規と言おうか、マニュアル人間の典型例だ。人生を左右する仕事なのに、その人と交わろうとはしない。アホか〜と叫びそうになった。その彼女の教育係をライアンが担当するうち、人とのつながりの大切さを実感する。当然、当然。
 決定打を与えたのが、空港で知り合ったキャリア・ウーマンのアレックス(ヴェラ・ファーミガ)。大人のつき合いと割り切っているはずなのに、ライアンは彼女の世界に土足で踏み込み、痛い目に遭う。他者とそこそこの距離感を持つのを信条にしているけれど、そうは言ってられないのが恋愛感情。その当たり前のことに彼が気づいてホッとした。
 「バックパックに入らない〈人生の荷物〉を背負わない」。これがライアンの決まり文句だが、そういう荷物こそ大切なのでは? 特大のバッパックを用意すればええんちゃう〜!?
(武部 好伸)ページトップへ
 アニマルハウス Gフォース

『スパイアニマル Gフォース』
〜モルモット目線で描くデンジャラスなスパイ・アクション〜

(2009・アメリカ/89分)
監督 ホイト・H・イェットマン、JR.
出演 ビル・ナイ ザック・ガリフィアナキス
声の出演 サム・ロックウェル トレイシー・モーガン ペネロペ・クルス ジョン・ファヴロー ニコラス・ケイジ ブラッドリー・ベイカー スティーヴ・ブシェミ
2010年3月20日(土)全国ロードショー
公式サイト⇒ http://www.disney.co.jp/movies/gforce/
(C)
Touchstone Pictures and Jerry Bruckeimer, Inc. All Rights Reserved.

 ダーウィン、ブラスター、フアレス、ハーレーら“モルモット”と、モグラのスペックルズ、ハエのムーチで構成された特殊部隊「Gフォース」が、鍛え抜かれた技と知恵を駆使して世界滅亡の危機を救うスパイアクション。モルモットが主役だからといって、お子様映画と侮ってはいけない。動物が主人公の映画は数あるが、本作はその中でも群を抜いてよく出来ている。モルモットがスパイというギャップを最大限に利用したスピーディーで迫力あるアクションは本格的で、大人でも充分な驚きを得られるだろう。春休みに家族で映画に出掛けるなら『スパイアニマル・Gフォース』に決定だ!

  Gフォースの敵は、巨大電気メーカーのCEOレナード・セイバー。(演じるのは『パイレーツ・オブ・カリビアン』のデイヴィ・ジョーンズ役で知られるビル・ナイ!)元兵器ディーラーであるレナードは、“トランスフォーム”する家電製品を武器に世界征服を企んでいた。Gフォースたちはその事実を突き止めるが、彼らを邪魔者扱いするFBIから逃れるうちにペットショップへと迷い込んでしまう。 随所に“動物あるある”的小ネタを散りばめながら、巨悪に立ち向かっていく彼らの闘いぶりはスリルとユーモアにあふれており最後まで飽きさせない。なかでも最大の見せ場は、超ハイテク機器と最小の身体を活かして敵陣に乗り込む序盤のスパイ活動と、後半に展開される怒涛のカーチェイスだ。タフなトム・クルーズやブルース・ウィルスも真っ青のアクションにモルモットたちはスタントなし(?)で“挑戦”している。

  試写で通常版を拝見し、これは3Dにしたらもっと面白いはずと思っていたら、劇場公開時には3D版も同時上映になるらしい。モルモットの毛並みと“ムッチリ”感も実物と見間違うほど完璧なので、3Dで見るとさらに迫力ある映像が期待できそうだ。オリジナルのボイスキャストには、サム・ロックウェルやニコラス・ケイジ、ペネロペ・クルスら豪華スターが名を連ねているが、残念ながら劇場公開は日本語吹替版のみになる。お色気ヒロインに声を当てたペネロペのラテン訛りのセクシーボイスはハマリ役だったので聞いてもらえないのはとても残念。
(中西 奈津子)ページトップへ
 ハート・ロッカー アカデミー賞6部門受賞!!
『ハート・ロッカー』 (The Hurt Locker )
〜命懸けの現場へ招く臨場感〜

監督:キャスリン・ビグロー (2008年 アメリカ 2時間11分)
出演:ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティ
2010年3月6日(土)〜TOHOシネマズ みゆき座、梅田、二条、西宮OS ほか全国ロードショー
公式サイト⇒ http://hurtlocker.jp/



 この原稿を書いている時点ではアカデミー賞の結果は不明だが、もし最優秀作品賞を逃していても、この作品が傑作であることは間違いない。

 『ハートブルー』(1991年)『K−19』(2002年)など、ダイナミックなアクションと精緻な演出の双方に冴えを見せてきたキャスリン・ビグロー監督がここで描くのはイラク戦争での米陸軍の爆弾の処理班。“命懸け”の状態が恐怖や不安を超え、麻薬にも似た感覚となって人間の心を侵す様子を冷徹に見据えていく。これまでにも、ベトナム帰還兵を追った作品などにこういったテーマのものはあった。それらの作品には、エキセントリックな描写で兵士の内なる狂気を描くものが多かったが、この作品は違う。兵士の外側の、通常よりもいくぶん近い位置にカメラを据えて、兵士の行動をあくまでも外から捉え続ける。それはドキュメンタリーのタッチに近い。すると観客は客観的でいながら、いつしか兵士達に密着した感覚になり、彼らと同じ緊迫感を味わうことになる。英の名匠ケン・ローチの作品で知られるバリー・アクロイドの撮影も大いに貢献している。そこにヒロイズムはなく、あるのは殺伐とした心象だけだ。主演に有名俳優がいないのもそのためだろう。そして、心をむしばむ真の恐怖がある。
(春岡 勇二)ページトップへ
 花のあと

(C)2010「花のあと」製作委員会
『花のあと』
〜桜の季節からはじまる秘めたる恋、
                そして 包みこむ愛〜


(2009年 日本 1時間47分)
監督:中西健司
出演:北川景子、甲本雅裕、宮尾俊太郎、市川亀治郎、國村隼他
2010年3月12日〜梅田ブルク7、なんばパークスシネア、三宮シネフェニックス、MOVIX京都ほか全国東映系ロードショー
公式サイト⇒ http://www.hananoato.com/
 『蝉しぐれ』、『武士の一分(いちぶん)』など時代劇映画の原作者として人気の藤沢周平が江戸時代の武家の娘を主人公に描いた同名短編小説を映画化。桜の季節からはじまり、四季が巡るように、主人公以登がさまざまな経験を乗り越えて成長する姿を描く。
 春、桜の花の下で以登(北川景子)は藩内随一の剣士、江口孫四郎(宮尾俊太郎)と出会う。女性ながら剣術に長けていた以登は、真剣に竹刀を交えてくれた孫四郎に恋心を抱くが、以登には許嫁がおり、孫四郎も上士の家への縁談が進められていた。恋心を静かに断ち切ろうとした以登にその後もたらされたのは、江戸で孫四郎が自害したとの知らせだった・・・。
 北川景子演じる以登の江戸時代の武家の娘の奥ゆかしさ、凛とした佇まいが清々しい。自分の運命に抗うことなく、受け入れる潔さを持ちながら、不条理な孫四郎の死に対して果敢に立ち向かい、自らの真剣で決闘を申し込む芯の強さ。彼女の表現する静と動は、まさにかつての日本人が大事にしていた心の動きと重なる。
 そして、単なる悲恋物語に終わらせない重要な存在が以登の許嫁である片桐才助だ。甲本雅裕が演じる才助は、剣の鍛錬とは無縁そうな、酒も女も興味津々の普通の男。だが、孫四郎の仇討ちをたった一人でしようとする以登を影から支え、意外に器が大きいところをサラリと見せていく。仇討ちが終わり、以登の心に咲いた恋の花が天に舞ったとき、身近にある大きな愛に寄り添う以登の笑顔は、まさに桜の花のように観る人の心を和ませてくれることだろう。
 舞台となる東北の四季折々の風景を織り交ぜながら、江戸後期の武家の暮らしぶりや、女性たちの生活、所作に至るまで丁寧に描かれている。そのつつましさ、質素な中の美しさ、品の良さが作品全体の質感に繋がっているのだろう。『青い鳥』で監督デビューした中西健司監督は、藤沢正平作品を描くことで、今の日本人が忘れてしまった心の在り方、運命に負けない心の強さ、そして日本の美しさを見事に浮かび上がらせているのだ。
(江口 由美)ページトップへ
 フィリップ、きみを愛してる
『フィリップ、君を愛してる!』
(原題:I Love You Phillip Morris)

〜愛のためならどこまでも!ミラクルラブストーリー〜

(2009年 フランス 1時間37分)
監督:グレン・フィカーラ、ジョン・レクア
出演:ジム・キャリー、ユアン・マクレガー他
2010年3月13日春〜梅田ガーデンシネマ、京都シネマほか全国にて公開
公式サイト⇒ http://iloveyou.asmik-ace.co.jp/

 ストレートすぎるタイトルも、見終わったら「まさしくそう!」と納得してしまう。愛を貫くため懲役167年を科せられた天才詐欺師の、とてもキュートなラブストーリー。

 妻子と幸せに暮らしていたが、自分の秘密を伝えられずにいた警官のスティーヴン(ジム・キャリー)は、自分らしく生きるためにゲイであることを妻に告白し、家を出る。その後ボーイフレンドとの生活費を工面するため詐欺を重ね、逮捕されて刑務所へ。そこでスティーヴンはフィリップ(ユアン・マクレガー)と運命的な出会いを果たす。フィリップには自分は弁護士だと嘘をつき、釈放後幸せな暮らしを始めた二人だったが、詐欺や不正行為は続き、ついにフィリップに嘘がバレてしまう。

 全体的に甘いキャラメルの味がするような、スイーツな雰囲気が魅力的だ。たとえそこが刑務所の中であっても、二人だけの恋する空間となり、ダンスを踊るシーンは切なさよりも幸せオーラが満開!華麗なる詐欺も全ては愛のためということが、作品の軸となって貫かれているのも気持ちいい。嘘に気付かれフィリップが去ろうとも自分のスタイルを崩さず、次なる作戦を企てるタフさは、もはやラブコメの域である。
 また、この愛の物語を見事に体現したジム・キャリーとユアン・マクレガーの演技は必見もの。愛のために死をも辞さない詐欺大作戦を決行してしまうスティーヴンと、ストレートな男性でも守りたくなるぐらいキュートなフィリップ。そんな魅力的な二人が演じると、子どもの頃のトラウマも、妻子へのカミングアウトも、破局の危機も、全て軽く飛び越えられそうだ。このとんでもないストーリーが実話だというからびっくり!その軽さと作品全体を優しく包むユーモアがたまらなく愛しいのだ。
【おまけ】
 
この日の試写は狙ったかのように『ウディ・アレンの夢と犯罪』と『フィリップ、君を愛してる!』の二本立て(笑)正反対のキャラを演じたユアン・マクレガーをたっぷりと堪能したあとは、頭の中がユアン〜ユアン〜!! 特に本作、フィリップのキュートさはオンナもハマると思います♪
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 渇 き  (中西バージョン)

(C)2009 CJ ENTERTAINMENT INC., FOCUS FEATURES INTERNATIONAL & MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED
『渇き』 (原題:Bak-Jai)
〜欲望と信仰心の狭間で愛と血の渇きに葛藤する〜

(2009年 韓国=アメリカ 2時間13分)
監督:パク・チャヌク
出演:ソン・ガンホ、キム・オクビン、シン・ハギュン、キム・ヘスク
2010年3月13日(土)〜テアトル梅田、敷島シネポップ、TOHOシネマズ二条、シネ・リーブル神戸ほか全国にて公開
公式サイト⇒ http://www.kawaki-movie.com/
 ある人体実験の失敗から“吸血鬼”化した敬虔な神父が、幼なじみの若妻との愛欲に溺れるうち、周囲の人々を巻き込み取り返しのつかない事態を招いてしまう…。簡単なあらすじだけで“お腹いっぱい”感が漂うパク・チャヌク監督の最新作は、『オールド・ボーイ』を越える強烈な独創性とアイデアで見る者を禁断の世界へと誘う。
 聖職者が“ヴァンパイア”という型破りなタブーでさえ、我が物にしてしまうソン・ガンホの説得力ある熱演はさすが。神父ゆえ人を殺められず、入院患者の点滴チューブから血を拝借する変質的な場面も、彼が演じることによってギリギリの道徳心が保たれたように思う。そんな欲望への葛藤から生まれる奇妙なユーモアが本作最大の魅力だ。さらに、神父との出会いにより抑圧された生活から解き放たれる若妻に扮したキム・オクビンの存在も見逃せない。背徳と血の渇きに墜ちるほど、生命の輝きを増していく女を発狂に近いテンションで演じた女優魂は強烈!
(中西 奈津子)ページトップへ
 渇 き  (江口バージョン)

(C)2009 CJ ENTERTAINMENT INC., FOCUS FEATURES INTERNATIONAL & MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED
『渇き』 (原題:Bak-Jai)
〜バンパイヤーになった聖職者の愛と渇望の日々〜

(2009年 韓国=アメリカ 2時間13分)
監督:パク・チャヌク
出演:ソン・ガンホ、キム・オクビン、シン・ハギュン、キム・ヘスク
2010年3月13日(土)〜テアトル梅田、敷島シネポップ、TOHOシネマズ二条、シネ・リーブル神戸ほか全国にて公開
公式サイト⇒ http://www.kawaki-movie.com/
 『オールド・ボーイ』を含む復讐三部作でその存在を世界に知らしめたパク・チャヌク監督。期待の新作はバンパイヤー映画の常識を覆す発想で、新たな人間の究極の愛と罪を描き出す意欲作だ。

 神父サンヒョンは、致死率100%の謎のウイルスのワクチンを開発するため、わが身を捧げる覚悟で人体実験に志願する。奇跡的に助かり生還したサンヒョンは、幼馴染ガンウの家で彼の妻のテジュと出会う。幼少からガンウ母子と暮らし、その生活から逃げ出したかったテジュと、聖職者として禁欲の生活をしてきたガンウとが惹かれあうのに時間はかからなかった。そして、サンヒョンは愛を渇望すると同時に血を求める自分の体の変化にも気づいていたのだった。
二人が愛し合うことは、サンヒョンの中では罪の意識を覚えることであり、テジュの中では自分が生まれ変わる原動力となっていく。ガンウ殺害を企てるまでは、秘めた燃え盛る愛だったが、邪魔者がいなくなってしまってから、交われば交わるほど、より快楽を求めるテジュと罪の重さを背負うサンヒョンとの間のズレが、時には荒々しく、時には官能的に新たな罪と悲劇を生み出していくのだ。

 愛と罪のはざまで悶える禁欲的なバンパイヤーを演じるのは、『殺人の追憶』、『グエムル〜漢江の怪物〜』などでシリアスからコミカルまでこなす名優ソン・ガンホ。殺生をしない草食系バンパイヤーであるための努力はなんとも涙ぐましい。サンヒョンとの愛で自分の本性に目覚める人妻テジュを演じるキム・オクビンの幼さと大胆不敵さが混じった表情は、女の業を見せつけ、誰も止められない飽くなき欲望をスクリーンに刻み込む。

 パク・チャヌク監督が映し出す独特の世界は、部屋の色、主人公の衣装の色など視覚的にも主人公の心の動きを観る者に訴えかけてくる。ガンウ母子のオールドファッションな韓国装飾が施された家が、ガンウ亡き後はテジュによって白く色塗られ、人間の営みが感じられない無機質さを漂わせる。罪を重ねた二人が最期まで渇望したのは愛なのか、生き続けるための血なのか。そして彼らに復讐に満ちた目を向け続けていた者とは・・・愛と欲望の行き着く先を是非見届けてほしい。

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 噂のモーガン夫妻
『噂のモーガン夫妻』
(原題:Did You Hear About The Morgans?)

〜大自然で繰り広げられる
         夫と妻の場外バトルやいかに!?〜


(2009年 アメリカ 1時間43分)
監督:マーク・ローレンス
出演:ヒュー・グラント、サラ・ジェシカ・パーカー他
2010年3月12日〜TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、OSシネマズミント神戸ほか全国ロードショー
公式サイト⇒ http://uwasa-no-fusai.jp/
 夫の浮気を知った妻は・・・どんな時代でも世界共通の話題であり、ともすればドロドロ模様になってしまう題材を大人のラブコメにしてしまう手腕や如何に!見る前から興味津々なのは言うまでもない。
 別居3カ月、修復の見込みも厳しそうなのがニューヨークに住む本作の主人公モーガン夫妻だ。夫ポールはヤリ手の弁護士、妻メリルは不動産業を営み、モデル並みの人気を誇る有名人。何不自由なさそうなセレブカップルもポールの浮気発覚で崩壊寸前だ。未練たっぷりのポールと噛み合わないディナーのあと、二人での帰り道にメリルの顧客が殺される現場を目撃、メリルが犯人と目が合ったことから二人は証人保護プログラムという名のもと田舎で保護生活を送る羽目となる。仕事もダメ、ネットもダメ、電話もダメ、あるのは地平線が見える大自然だけ。えっ・・・クマもいるですって・・・。
 あっという間に田舎での隔離生活となったモーガン夫妻。彼らを世話する保安官夫妻が都会からやってきた険悪な夫婦仲の二人を「私たちもかつてはあんな頃があったわよね。」といった余裕の表情で温かく見守る。喧嘩するほど仲がいいとはよく言ったもの、ヒュー・グラント演じるポールと、サラ・ジェシカ・パーカー演じるメリルの喧々諤々のやりとり、クマや暗殺を狙った犯人グループからの決死の逃亡ぶりなど、様々な出来事を体験する二人にハラハラドキドキしながら、観客はいつの間にかどんどん笑いの渦に巻き込まれてしまう。
 そのような笑いで包みながら、マーク・ローレンス監督は、ポールの浮気の原因や隠していたメリルの秘密、そしてメリルの子どもが欲しいという望みを責任の重さから逃れようとしていた弱さなど、会話を重ねることでお互いのことを再び見つめなおす夫婦再生の姿を描いている。ラブコメ王子ヒュー・グラント×アラフォーの星サラ・ジェシカ・パーカーのゴージャスなラブコメディーは、実はとても素朴でハートフルな、幾つになっても不器用な大人のためのラブストーリーなのだ。
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 シャーロック・ホームズ

『シャーロック・ホームズ』
〜今度のホームズは文武両道〜

(2009年 アメリカ 2時間9分)
監督: ガイ・リッチー
出演: ロバート・ダウニーJr、ジュード・ロウ、
     レイチェル・マクアダムス

2010年3月12日(金)〜大阪・梅田ブルク7、梅田ピカデリー、
    MOVIX京都、109シネマズHAT神戸他全国ロードショー

公式サイト⇒ http://wwws.warnerbros.co.jp/sherlock/

 「男はタフでなければ生きていけない」とはハードボイルド作家レイモンド・チャンドラー(「プレイバック」)の探偵フィリップ・マーロウが吐くセリフだが、本格推理小説の名探偵は本来「ベッドディテクティブ」、つまり事件の概要と関係者の証言を聞いて頭で解決する。その名探偵の本家はコナン・ドイル作のシャーロック・ホームズ以外にない。そんな頭脳派探偵がガイ・リッチーの新作「シャーロック・ホームズ」ではなんと筋肉ムキムキ、相手をぶちのめす武闘派に変身するから楽しい。 




 今度の事件は残忍な連続殺人で、黒魔術を操る犯人ブラックウッド卿がホームズたちに捕まり、死刑となる。だが彼は宣言通り、甦る…。人知を超えた相手とホームズの頭脳の対決は波乱万丈で、過去のホームズ映画とは大違い。ただ原作でも最初に登場した、ワトソン博士の時計で兄の性格分析を完璧にやってのけるという「ホームズのご挨拶」のようなところは映画でも健在。こちらはワトソン博士の婚約者相手に、鋭い観察力で彼女には最近まで男がいたことを看破してしまい、ホームズがワインをぶっ掛けられる。オールドファンならニヤリとするところ。現代にふさわしく、「男はタフでなければ」時代の文武両道スーパー探偵の登場である。

 この映画のもうひとつの特徴は、原作やこれまでの映画では三枚目的だったワトソンに二枚目ジュード・ロウが扮し、颯爽とした相棒役を務めている点。どちらかといえば、ホームズがロウで、ワトソンがロバート・ダウニーJrの方がいいようにも思えるが、このコンビネーションがまた面白い。本当は優しいけれど辛らつ、自堕落でクスリに頼ることもあるホームズに、時に腹を立て、時にあきれ返り、自分は結婚して何度か離れようとするのだが、その都度邪魔され、危機に陥ったホームズを助けもする。ホームズに負けず、ワトソンもけっこう強い。ガイ・リッチーらしく時間を戻したりしてみせる手法もはまっている。
 本格推理小説は本来映画になりにくくて、どちらかと言えばテレビ、2時間ワイドに譲ってきた。本格推理の映画は日本では横溝正史「犬神家の一族」をはじめとする金田一シリーズ、アガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」など一連のポワロシリーズなど数えるほど。エラリー・クイーンはもっと少ない。「頭だけで解決してしまう本格推理は映像化しにくいのでは」と現代の本格推理作家・有栖川有栖氏から聞いたことがあるが、今度のホームズは文武両道、知的な喜びと肉体的な快感を同時に味わえるグリコ(一粒で2度おいしい=古っ!)である。 
(安永 五郎)ページトップへ
 NINE ナイン
『NINE ナイン』
〜感謝しよう,いま目に映っているものに〜

(2009年 アメリカ 1時間58分)
監督:ロブ・マーシャル
出演:ダニエル・デイ=ルイス(グイド),
    ペネロペ・クルス(カルラ),
    マリオン・コティヤール(ルイザ),
    ニコール・キッドマン(クラウディア),
    ジュディ・デンチ(リリー),ソフィア・ローレン(母),
    ケイト・ハドソン(フテファニー),ファーギー(サラギーナ)
2010年3月19日〜丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
関西では、梅田ピカデリー、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他にて公開

公式サイト⇒  http://nine-9.jp/

 映画が光と影によって作り出された幻影にすぎないとすれば,我々の目に映っている世界もまた実体を伴わないものかも知れない。映画監督グイドの目に映っているのは,彼の内面に浮かび上がる世界だけであり,彼を取り巻く外界もすべて彼の内面に取り込まれてしまう。そこに存在する9歳の頃の自分や娼婦,そして亡母はもちろん,妻と愛人に女優もまた,彼が作り出したイメージでしかあり得ない。新作「イタリア」もまた幻に終わる。
 カルラは,グイドにメイクを施されて野獣を演じるが,夫の許に戻っていく。クラウディアは,ヘアとメイクは衣装係リリーのもので,その下に本当の自分があると言って,グイドから去っていく。ルイザは,かつて魅せられたグイドの言葉が夫ではなく映画監督のものであったことを知り,グイドに背を向ける。3人ともグイドによって作られた自分と決別して本当の自分を取り戻すが,全ての愛を失ったグイドが映画を撮ることはできない。
 ところで,映画の衣装はコリーン・アトウッドよるものだ。本作では,「パトリック・エネミーズ」や「シカゴ」以上の豪華さとセンスの良さが光る。それぞれの役柄やシーンに応じて変化させていく。愛人カルラの赤,妻ルイザの黒,女優クラウディアの金,娼婦サラギーナの赤と黒,雑誌記者ステファニーの銀など。そして,アンサンブルにも決して手抜きはない。それがダイナミックな振付とも相俟って,舞台に広がりをもたらしている。
 それにしても,歌とダンスには圧倒される。中でも,サラギーナ。彼女が歌い終わった瞬間,思わず拍手したくなるほど,迫力が漲っていた。彼女は,9歳のグイドに愛や男らしさを教える。過去の海辺でのシーンとグイドがイメージするスタジオでのシーンを交錯させる編集によって,迫力が倍増する。ラストでは,リリーの導きによって愛と人生の輝きを取り戻したグイドがチネチッタ(撮影所)に戻り,いよいよ新作「NINE」が始まる。
(河田 充規)ページトップへ
 スイートリトルライズ

『スイートリトルライズ』
〜結婚は毎日続くもの,その中で2人は…〜

(2009年 日本 1時間57分)
監督:矢崎仁司
出演:中谷美紀,大森南朋,池脇千鶴,小林十市,大島優子,安藤サクラ,黒川芽以,風見章子
2010年3月13日(土)〜梅田ガーデンシネマ、なんばパークスシネマ、 MOVIX京都、神戸国際松竹 他にて公開
・中谷美紀 舞台挨拶⇒こちら
・小林十市 トークショー⇒こちら
・公式サイト⇒
 http://sweet-little-lies.com

 ある朝,妻・瑠璃子(中谷美紀)が夫・聡(大森南朋)に「怖い夢を見たが,どんな夢か思い出せない」と言う。ありふれた夫婦の姿が映っているように見えるが,そこに流れている空気は冷たい。他人から見ると幸せそうに見える2人だが,妹には変な夫婦だと言われる。実際,聡は自室に籠もってゲームに耽り,そんな聡に瑠璃子は携帯電話で話し掛ける。心が繋がっているようには思えない。特に瑠璃子の心の空洞はかなり大きいようだ。
 瑠璃子は,包丁を使いながら,聡が浮気をしたらその場で刺すと言う。彼女は,テディベアを作って個展も開いているが,あるとき,テディベアに目を取り付けるため,何度も太い針を目の部分に突き刺す。聡に不満を抱いているわけではないが,満たされているわけでもない。だからと言って,怒りや苛立ちを感じているわけでもなく,ただ覆いようのない空虚感が広がっていく。その実体は,たとえばドーナツの穴のようなものかも知れない。
 もちろん,2人は不倫に走ることになる。瑠璃子は個展で出会った春夫(小林十市)と恋に落ち,聡は大学の後輩しほ(池脇千鶴)に惹かれていく。だが,そこで描かれるのは決して燃えるような情熱ではない。嬉しさの中に困惑が漂っているような曖昧な表情である。瑠璃子が聡と出掛けた海に春夫が突然現れたときに彼女が見せた,あの表情。長いヒモで繋がれた風船のように,フワフワ漂っていても,決して遠くへ飛んでいくことはない。
 ただ一つ確かに存在するのは死である。ネクタイで繋がれた男女の心中事件があり,瑠璃子が可愛がっていた犬のビンゴの死がある。ビンゴを飼っていたお婆さん(風見章子)は,昔,寂しかったから,夫を殺したと言う。風船は,死に繋がれているのかも知れない。ただ,ラストに希望がある。瑠璃子は「ただいま」と言い,聡は「俺ももうすぐ帰る」と応える。同じものを見て覚えておくだけではダメで,一緒に思い出すことの方が大切なのだ。
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 シャネル&ストラヴィンスキー

『シャネル&ストラヴィンスキー』
原題: COCO CHANEL & IGOR STRAVINSKY

〜出会うべくして出会った2人とその別れ〜

(2009年 フランス 1時間59分)
監督:ヤン・クーネン
出演:マッツ・ミケルセン,アナ・ムグラリス,エレーナ・モロゾヴァ,ナターシャ・リンディンガー,グレゴリイ・マヌロフ,ラシャ・ブクヴィチ,アナトール・トブマン
2010年1月16日(土)〜シネスイッチ銀座、Bunkamura ル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開
関西では、3月6日(土)〜シネ・リーブル梅田シネマート心斎橋、
3月上旬〜シネ・リーブル神戸、3月下旬〜京都シネマにて公開

公式サイト⇒ http://www.chanel-movie.com/

 本作は,1913年パリ・シャンゼリゼ劇場でのロシア・バレエ団の公演シーンから始まる。ストラヴィンスキー作曲,ニジンスキー振付の「春の祭典」が初演された。この舞台を再現したのはドミニク・ブランであり,音源としてサイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルによる「ベルリン・フィルと子供たち」のサントラが使用されているそうだ。この初演の再現シーンだけでも見応えがある。これに対する観客の反応もまた丁寧に再現されている。

 開演前,ストラヴィンスキーの落ち着かない様子が映される。指揮者は「リズムをはっきり刻め」「メロディーは忘れろ」「チャイコフスキー,ワーグナー,シュトラウスも忘れろ」と言っている。そして,開幕後,客席の反応は,「騒音だ」「幕を降ろせ」という否定派と「ブラボー」「黙って聞け」という肯定派に分かれる。客席にはココ・シャネルもいた。彼女は,余りにも斬新で大胆すぎると言われた「春の祭典」を受け入れたようだ。
 そして舞台は1920年パリへ移る。シャネルの香水「ナンバー5」が誕生し,ストラヴィンスキーの「春の祭典」がレオニード・マシーンの振付で再演された年である。その前年にシャネルの恋人アーサー・“ボーイ”・カペルが亡くなる。ここまでは先に公開された「ココ・アヴァン・シャネル」や「ココ・シャネル」で描かれたが,本作はその後の1年に焦点を絞る。斬新で大胆という点で共通する作品を生み出した2人に焦点を絞っている。
 シャネルは,ストラヴィンスキーとその妻子のために約1年にわたり別荘を提供する。始まりは経済援助であったとしても,それだけでは済まなかった。ストラヴィンスキーの妻カーチャが初めて別荘にやって来たときの表情は見逃せない。不安が表れているうえ,その笑みにはニヒルな感じさえ漂っているようで,3人の平穏でない未来が見えてくる。ここから3人の心の変化が映像で綴られていき,単純な三角関係で終わらない凄みがある。
 シャネルにピアノの弾き方を教えるストラヴィンスキー,その2人の姿をドアの外から見て黙って立ち去るカーチャ。彼女は,夫に「あなたは他人みたい」と言い,シャネルには「良心の呵責は?」と尋ねる。シャネルはストラヴィンスキーに「奥さんが校正しないと作曲もできない」と言い,逆にストラヴィンスキーはシャネルに「君は芸術家じゃない,洋服屋だ」と言う。これらのやり取りと3人それぞれの表情が的確に彼らの心を映し出す。
 3人の関係を描く中で「シャネルの5番」の誕生や「春の祭典」の再演に至る経過が挿入される。シャネルは,モダンで大胆な香りを化学的に作り出すことを調香師に求める。だが,これとストラヴィンスキーを特に関係付けて描いてはいない。これに対し,「春の祭典」の再演では,舞台そのものを描くことなく,2人の老けた姿を別々に映し,観客の拍手で公演の成功を示す。2人の人生の中でのその意味付けを考えさせる,憎い描き方だ。
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