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 サマーウォーズ

 ココ・シャネル(原田バージョン)

 ココ・シャネル(河田充バージョン)

 ココ・シャネル(三毛家バージョン)

 色即ぜねれいしょん

 湖のほとりで

 不灯港
 ボルト
 グッド・バッド・ウィアード
 南極料理人
 3時10分、決断のとき
 ポー川のひかり
 HACHI 約束の犬
            つづく・・
 
新作映画
  『96時間』
『96時間』
〜今のハリウッド映画に稀少なストレート活劇〜

(2008年 フランス 1時間33分)
監督:ピエール・モレル
出演:リーアム・ニーソン、ファムケ・ヤンセン、マギー・グレイス、リーランド・オーサー、ジョン・グライス、ホリー・ヴァランス

2009年8月22日(土)〜TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条ほか、全国公開中
公式サイト⇒ http://movies.foxjapan.com/96hours
 日本で公開はされるけれど、アメリカよりは日本では何やら売れなくなったらしい、このところのハリウッド映画事情。元気がなくなった理由はいろいろあるとは思うけれど、そんなハリウッド映画に対し、他国のアクション映画がとても活気にあふれている。
 例えば、フランスのリュック・ベッソン率いるヨーロッパ・コープの、とてつもない元気の良さはどうだ。『トランスポーター』シリーズ(2002〜2009年)の、トンデモ弾けぶりはもはや、どこにも敵なしの状態なんだけれど、本邦登場中の本作は、ヨーロッパ・コープの過去最高にコンテンポラリー化したアクションがサクレツ。ホントにホント、トンデモないアクション映画となった。『ボーン・アイデンティティー』シリーズ(2002〜2008年)なんかもあるのだが、シンプル・イズ・ベストな形でアクションを追究するタイプの映画は、ハリウッドでも今や希少価値となっている。
 それに加えて父と娘の絆を、これほどのド派手なアクションで包み込んだ作品もまた、そんなに多くはない。しかも、アメリカからパリへ飛んでの活劇で、過去には『フレンチコネクション2』(‘75年)が描いたパリもあったが、今までとはビミョーに違うパリ描写がある。そのパリにおける銃撃戦、カーチェイスも、かつてない撮り方や編集を試みた仕上がり。現場検証シーンがあり、事件現場におけるケータイ録音でのやり取りなども、今までにない作り。
 そんな風に思わせてくれるのは、ひとえにリーアム・ニーソンの、命を懸けたとも思える凄まじいタイム・リミット(誘拐された娘がどこかに売り飛ばされる96時間というリミット)・アクション演技の連続だ。かつて『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(‘99年)の演技などで、活劇演技を披露してくれた彼だ。これまでは、実に渋みある人間ドラマ演技が多かったけれど、ここにきて遂に大スパークしてとんでもないくらいに弾けてみせる。まさに、ハリソン・フォードが演じた『インディ・ジョーンズ』シリーズ(‘81〜’89年・2008年)のミラクルや、『パトリオット・ゲーム』(‘92年)などジャック・ライアン・シリーズの、家族を守り抜く鬼気迫るノリが、役柄に乗り移っているみたいだ。ハリソン・フォード・ファンはぜひ確認してほしい。往年のハリソン君がそこにきっといるはずだから。
 これだけのドトウの活劇の中でも、しかしホッと和むシーンもあって安らげる。歌手志望の娘に対して、もちろん嘘だけども父が、ビヨンセやマライア・キャリーが買ったなんていうカラオケ・セットをプレゼントしたり、ラストの、父がホントに娘に伝えたかったことの実現となるオチは、何とも心地よい気持ちになれるはず。
(宮城 正樹)ページトップへ
  『8月のシンフォニー −渋谷2002〜2003

『8月のシンフォニー』
〜シンガーソングライター・川嶋あいの自伝をアニメ化。
    夢を諦めず、ひたむきに生きる姿に感動!〜


<イベント日時>
■ 日時:8月11日(火)18:30〜19:00
■ 場所:シネマート六本木 SCREEN1
■ 登壇:監督・西澤昭男&川嶋あい
 


(2009年 日本 1時間58分)
監督・脚本:西澤昭男 
原作:川嶋あい 『最後の言葉』 (ゴマブックス刊)
声:福圓 美里 高橋 惠子 高橋 和也 山本 學 吉野 裕行 主題歌:川嶋あい『大丈夫だよ』(つばさレコーズ)

2009年8月15日〜大阪シネ・リーブル梅田先行ロードショー
2009年8月22日〜渋谷東急ほか全国でロードショー

川嶋あいは思い出の地・渋谷C.C.Lemonホールにて 8月20日、8月26日にライブを行う予定

公式サイト⇒ 
http://www.8gatsu-eiga.com/

川嶋あいオフィシャルHP⇒ http://www.kawashimaai.com/index2.php
つばさ祭オフィシャルHP⇒ http://www.doublewing.co.jp/

 本作は、“路上の天使”と呼ばれたシンガーソングライター・川嶋あいの手記『最後の言葉』をアニメ化したものである。夢を諦めず、ひたむきに生きる姿勢は、周囲の人々に勇気を与え、人との関係が希薄になった現代に新鮮な感動を巻き起こす。近年のアニメ映画は、ストーリーは勿論、キャラクターデザインや構成・画質・音響に至るまで、その進歩には凄まじいものがある。スピーディでスケール感を謳う斬新な作品に出会う度驚かされるが、本作はそうした類のものとは一線を画し、家族や他人との関わりを愚直なほど丁寧に描いて、素直に感動できる映画だ。

 歌手を目指して福岡から上京した高校1年生のアイは、たった一人で渋谷の街頭で路上ライブをしていた。だが、立ち止まって聴いてくれる人は少なく、落ち込んでは母に電話で励まされていた。苦労して仕送りをしてくれる母のためにも、必ず歌手になる! そこで、「路上ライブを1000回やろう」と決意する。ある雨の日、地下通路で歌っていたアイの歌に惹かれて声を掛けてきたのが、秋葉社長と学生カンファレンスのメンバーだった。彼等は、アイの夢に対する真摯な姿勢と心を捉える歌の力に魅了され、アイの歌手活動を支えるプロジェクトを立ち上げる。 専門的な音楽知識もない学生達だったが、路上ライブをサポートしたり、手作りCDを売ったり、地方巡業に出たり、次第にアイのサポートそのものが彼等の中心活動となってくる。そんな矢先、病弱の身で無理して働いていた母が倒れる。・・・・・・

 父亡き後、母との強い絆で歌手への夢を追いかけてきたアイ。そして、両親とアイとの思いもよらぬ秘密・・・16歳の少女が抱えるには重すぎる現実に、身も心も押し潰されそうになるが、そんなアイを心配して励ます仲間たちがいる。世の中捨てたもんじゃないな、と思わせる。血は繋がってなくても、アイのために身を粉にして働いてくれた母に、どんなにか、ステージでスポットライトを浴びる自分の姿を見せたかっただろうか・・・渋谷音楽ホールでのコンサートシーンでは、両親やアイを支えてくれた人々への熱い感謝の想いがひしひしと伝わり、胸を締め付けられる。川嶋あいの歌には、そうした誠実な想いがいっぱい詰まっているからこそ、聴く人の心を清らかにするような魅力にあふれているのだろう。

 西澤昭男監督は、「微妙な表情の変化や動きの小さい日常の芝居を、実写映画のようなリアリティをもった形でアニメ化したい 」と。そのため、劇団の役者に実際に演じてもらって、その動きを写し取るような製作過程をとったそうだ。登場人物も多く、セリフも多い脚本だが、アイの悲しみや孤独感、サポートする側の不安など、感情の変化を読み取るには実に説得力をもった映像に仕上がっている。

 親兄弟がいない人や独身のため自分の家族がいない人、また、家族が居ても心が通じ合えず孤独を抱えて生きている人など、家族に縁の薄い人やは沢山いるだろう。アイの両親が示してくれた深い愛情や、アイを支えてくれた秋葉社長や学生達の優しさを見ていると、血の繋がりだけが家族とは言えないような気がしてくる。他者への思いやりと寛大さこそが、人を幸せに導いてくれる大切なことだと教えてくれているようだ。

(河田 真喜子)ページトップへ
 キヲクドロボウ
『キヲクドロボウ』
〜車が空を飛び,他人の記憶が移植される〜

(2007年 日本 1時間33分)
監督:山岸謙太郎,石田肇
出演:正木蒼二、木村有、森川椋可、小山剛志、柴木丈瑠、上山克彦

上映日程:2009年8/29(土)〜9/4(金)
上映劇場:シネ・ヌーヴォ
公式サイト⇒ http://kiwoku.jp/
 2007年11月に本作の予告編を初めて観たときには驚いた。「ブレードランナー」を思わせるようなSF映画で,空中カーアクションがある。しかも,記憶を巡ってストーリーが展開するというのだから,「トータルリコール」も思い浮かぶ。正にこれはフィリップ・K・ディックの世界ではないか,と期待させられる。そして何と,制作費は300万円だという。そんなのは絶対にウソだと思うほど,本格的な近未来の映像世界が展開している。
 監督は2人とも映画制作の経験があるが,本職はデザイナーだそうだ。まず自分達が観たいと思うプロットを作ることから始めたという。小説やマンガの映画版とは違う,舞台でも演じられそうなオリジナルストーリーが出来上がった。CGの大半はパソコンで作り上げたというが,その完成度の高さにはビックリさせられる。武闘(≒舞踏)シーンも専門家の指導でみっちり稽古したというだけあって,かなりの迫力が画面から伝わってくる。
 近未来社会では,脳障害の問題に対応するため,人間の記憶を取り出して保存する技術が開発された。だが,その実用化のためには記憶を脳に戻す必要がある。その移植技術が自殺したリーサ・グレツキー博士の記憶に残されていたという。そこで,タロウとスラッシュが彼女の記憶データを盗み出そうとする。大企業に侵入して記憶を盗み出すシーンの展開には緊迫感がある。2人の会話も面白く,意味深長な感じが漂っていて,聞き逃せない。
 スリリングなストーリー展開が堪能できるだけでなく,人間の記憶を巡るドラマも冴えている。アイデアと工夫,そして地道な努力と入念な準備があれば,こんなに面白いSF映画ができるのだ。特にカズマと呼ばれるオンナの設定が秀逸で,他人の記憶を移植された人間の虚無感や絶望感が増幅される。ラストでタロウとスラッシュの秘密や苦悩も明らかになる。エンドロールが流れるとき,自分の記憶が存在することを確かめてホッとする。
(河田 充規)ページトップへ
 サマーウォーズ
『サマーウォーズ』

(209年 日本 1時間54分)
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:細田守
出演:神木隆之介 桜庭ななみ 富司純子 谷村美月 斎藤歩 
8月1日(土)〜梅田ブルク7 ユナイテッド・シネマ岸和田 ワーナー・マイカル・シネマズ茨木 ワーナー・マイカル・シネマズ大日 ほか
公式サイト⇒ http://s-wars.jp/index.html

 『時をかける少女』で数多くの賞を受けた細田守監督が、前作の完成度を軽く超えておくる感動巨編。これは、年々進化する巨大ポータルサイトの意外な落とし穴と、失われつつある古きよき大家族の信頼と結束を、ひとつの空間にまとめあげたジャパニメーションの傑作である。

 メールや情報検索はもちろん、電子決済や公共サービスまで、誰もが簡単に利用できるインターネット上の仮想都市「OZ」(オズ)が世界中に普及した現在。高校2年の健二は、憧れの先輩・夏希の頼みで長野の田舎へ行くことになる。だが、到着するとそこは室町時代から続く戦国一家。90歳の祖母・陣内栄をはじめ、26人の親戚一同が大集合していた。困惑する健二に夏希は、みんなの前で「フィアンセ」のふりをしてほしいと切り出す。慌てふためきながらも何とか大役を務めた健二。

  だが、その夜。彼のもとに数字が無数に並んだ不思議なメールが届く。数学が得意の健二は夜を徹して暗号を解読。すると翌朝。ネット上の仮想都市「OZ」に、ラブマシーンと名乗る謎のアバターが出現し、凶悪な意思で4億人ものアカウントを奪取。世界を混乱に導き始めていた。
 システムの麻痺により、交通、消防、病院、全ての情報がダウン!健二が出した解答は、どうやらオズの管理棟に侵入するためのパスワードだったらしい。しかも、もっと根にある元凶には、陣内家の問題児が関係している!?「現実とOZ」2つの共存する世界で発生した地球規模の非常事態に、大家族が思わぬ形で対抗する姿を怒涛の展開で描く。
 健二のトキメキの夏休みから始まった物語は、サスペンス、ファンタジー、アクション、そして少年の成長物語へとテンポよく加速していく。常に観客の一歩先を行くストーリー展開に加え、イマジネーションが弾けるオズの世界観は刺激的で冒険心にあふれている。特にバーチャル世界での“ラブマシーン”と“キングカズマ”のダイナミックな対決にしびれる! だが、その一方で、メインテーマでもある普遍的な家族愛をさわやかに描くことも決して怠らない。
 本作は監督とスタッフの「親戚ってやっかいだよね」という会話から生まれたという。だけど、その家族特有の煩わしさはピンチを迎えると強靭な絆に変わる。どんなに社会がデジタル化しても「人類最古のネットワークは家族の力」だと監督は強く示す。戦国武将の末裔であるアナログな陣内家が“電子機器”を手にOZ内での戦いに挑むラストシーンは、高揚と感動で胸がいっぱいになった。事件の決着が付くと、自分まで陣内家の一員になり夏の思い出を共有したかのような気分にさせられる。解放感と威勢の良さは今夏いちばんだ!
(中西 奈津子)ページトップへ
 ココ・シャネル (原田灯子バージョン)

(c) 2009 ALCHEMY/PIX ALL RIGHTS RESERVED.
『ココ・シャネル』 COCO CHANEL
〜女性の生き方に自由を吹き込んだ人、
           その情熱に満ち満ちた人生の物語〜


(2008年 アメリカ、イタリア、フランス 2時間15分)
監督:クリスチャン・デュゲイ
出演:シャーリー・マクレーン、バーボラ・ボブローヴァ、マルコム・マクダウェル、オリヴァー・シトリュック、サガモア・ステヴナン

2009年8月8日よりBunkamuraル・シネマ、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
関西では、梅田ガーデンシネマ、シネマート心斎橋、OSシネマズミント神戸、京都シネマ

公式サイト⇒  http://coco-chanel-movie.jp/index.html
 世界で最も有名なブランドの一つ、シャネル。私にとっては、その真っ赤なマニキュアを塗っただけでも気分が高揚するくらいの威力を持つ。シャネルに憧れている人も、全く興味のない人も、生みの親であるガブリエル・“ココ”・シャネルの女っぷりには間違いなく惚れ惚れするだろう。

 物語は、1954年、パリで行われたシャネルの復帰コレクションのシーンで始まる。著名な友人たちをはじめ多くの人々が期待を胸に集まっていた。が、やがて会場に不穏な空気が流れる。15年ぶりのコレクションが失敗に終わったのだ。しかし、ココはあくまで毅然としている。「失望は何度も味わっている」と。
 そう、いつだって乗り越えてきた。私が私でいるために。12歳で入った孤児院での生活、身分違いの恋、戦争、愛する人との別れ、そして―。再起を賭ける50年代のココを軸に、彼女が思いを馳せゆく過去の出来事をリンクさせながら、ココと帽子から始まった「シャネル」の歩みをたどっていく。

 若き日のココを演じたバルボラ・ボブラーヴァの生命力溢れるチャーミングさが新鮮。一方、50年代の断片的なシーンで、若い頃からの一貫したココの生き方、言動に説得力を持たせているシャーリー・マクレーンの存在感は圧倒的である。

 まだ女性の生き方に制約の多かった時代にあって、うまくいっても、うまくいかなくても“やるべきことをやったまで”という揺るぎのないココの潔さは、選択肢が増え「どうしたいか」「どうなりたいか」を見失いがちな現代女性の迷える心に一つの指針を示してくれるだろう。作品中のたくさんのシャネルコレクションも楽しみの一つ。

  私たちは、「シャネル」にココという一人の女性の生き様を投影し、身に着けることで自分らしいスタイルの確立を決意したいのではないだろうか。きっとココも常に私たちの背中を押してくれるに違いない。その確信が私たちを「シャネル」に惹きつけて止まないのだ。

(原田 灯子)ページトップへ
 ココ・シャネル (河田充規バージョン)

(c) 2009 ALCHEMY/PIX ALL RIGHTS RESERVED.
『ココ・シャネル』 COCO CHANEL
〜流行ではなくスタイルを作ったシャネル〜

(2008年 アメリカ、イタリア、フランス 2時間15分)
監督:クリスチャン・デュゲイ
出演:シャーリー・マクレーン、バーボラ・ボブローヴァ、マルコム・マクダウェル、オリヴァー・シトリュック、サガモア・ステヴナン

2009年8月8日よりBunkamuraル・シネマ、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
関西では、梅田ガーデンシネマ、シネマート心斎橋、OSシネマズミント神戸、京都シネマ

公式サイト⇒  http://coco-chanel-movie.jp/index.html
 ココ・シャネルは,1910年パリに店を開いたが,1939年フランスがドイツに宣戦布告した直後,56歳で閉店してしまった。ところが,彼女は,1954年2月5日にコレクションを再開する。本作は,そのときの情景で幕を開ける。そのファッションはあまりにもシンプルで,メディアに酷評される。だが,1年後にはシャネルは真の復活を遂げていた。その晩年のシャネルと,彼女が回想する1895年から1926年までのシャネルが交互に描かれていく。
 大女優シャーリー・マクレーンが晩年のシャネルに扮し,貫禄を示している。そこに体現されたシャネルの姿は,揺るぎない自信に溢れており,まるでメディアの酷評をも自身のエネルギーとして吸収しているかのようだ。これに対し,若いころのシャネルに扮したのは,馴染みのないバルボラ・ボブローヴァという女優だ。現在のスロヴァキア出身だという。芯が強そうでちょっと高邁にも見えるシャネルを嫌みなく演じており,好感が持てる。

 本作は,シャネルの回想という形で,その原動力を探ろうとしたようだ。彼女が乗馬ズボンやジャージーに着目したエピソードや,ポール・ポワレとの出会いのシーンなど,要領よく,しかもユーモラスな感覚をも交えて,若いころのシャネルの姿が捉えられていく。特に,ポワレとの関わりを描いた部分は,まるで「ココ・アヴァン・シャネル」の欠落を補っているようだ。また,ボーイ・カペルとの関係に比重を置いた構成も,成功している。

  ただ,スクリーンには現象面だけが映し出されたという印象を拭えない。シャネルの体験をできる限り漏らさず取り込もうとして,かえって彼女の着眼の鋭さやその原点までは十分に迫れなかったようだ。とはいえ,ラストでは完全復帰したシャネルのコレクションが輝いている。そこには時代を超えた凄さが映し出されているようだ。正に彼女が作り出したのは流行ではなくスタイルであり,そこには時間の流れとは関係のない新しさがある。

(河田 充規)ページトップへ
 ココ・シャネル (三毛家バージョン)

(c) 2009 ALCHEMY/PIX ALL RIGHTS RESERVED.
『ココ・シャネル』 COCO CHANEL
〜時代を超えて受け継がれるシャネルの「スタイル」はいかに誕生したのか〜

(2008年 アメリカ、イタリア、フランス 2時間15分)
監督:クリスチャン・デュゲイ
出演:シャーリー・マクレーン、バーボラ・ボブローヴァ、マルコム・マクダウェル、オリヴァー・シトリュック

2009年8月8日よりBunkamuraル・シネマ、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
関西では、梅田ガーデンシネマ、シネマート心斎橋、OSシネマズミント神戸、京都シネマ

公式サイト⇒  http://coco-chanel-movie.jp/index.html
 シャネルと言えば誰でも名前を知っている、世界でもっとも有名なブランドの一つと言っていいだろう。そのシャネルの創始者であるココ・シャネルの生誕125周年を記念して作られた彼女の波乱に富んだ人生の物語である。一度は成功を収めたあと、表舞台から姿を消し、再起を賭けて15年ぶりに開いたショーで酷評を浴び、崖っぷちに立ったココの脳裏を、若かった日の思い出がよぎっていく。
 幼いころに母を亡くし、妹と修道院に預けられた幼少時代。必ず迎えに来ると言った父が迎えに来ないまま、18になったガブリエル(ココの本名)はパリでお針子として働き始める。ただ正確に縫うことを求められる中でも彼女は個性的な才能の片鱗を見せ始める。そして将校のエチエンヌと恋に落ち、彼の別荘で暮らし始める。ズボンをはいて馬に乗ること、麦藁帽子で競馬の観戦に行くこと、当時の女性としては型破りな行動をとる彼女の魅力に惹きつけられつつも、所詮愛人として遇することしか考えないエチエンヌにココは次第に自立の決心を固め、パリに帽子の店を開く。
 これは単にシャネルというブランドの成功物語というだけではなく、一人の女性がその時代の女性観と勇敢に戦って、時にはボロボロになりながらも次第に共感を得て女性の服装にある意味革命をもたらした物語である。たとえば、当時の女性のドレスは複雑で手の込んだ作りであるがゆえに、一人で着ることが困難だった。もちろん、着心地など二の次でまさに「服に体を合わせる」のが常識だったようだ。それを一人で着ることができ、着心地も良く動きやすい服を作ることで様々な制約から女性を解放し、ひいては社会進出への一助となったと言っても過言ではないだろう。

 晩年のココを演じるシャーリー・マクレーンはさすがの貫録と存在感を見せつけて圧倒的だが、若き日を演じる女優さんも強い意志とプライドを全身から発していてとても印象的で魅力的だ。恋に悩み、仕事で壁に突き当たり、時には大きな失敗も犯してしまう。しかし、彼女は絶対に失敗を恐れず、自分の選択を後悔もしない。そういう潔い生き方が彼女を輝かせ、私たちの心を掴んで離さない。次々と生み出される衣装ももちろん、見所のひとつだ。シャネルが大好きな人にはもちろん、あまり興味のなかった人、そして男性にもぜひ見てもらいたい作品だ。
(三毛家)ページトップへ
 色即ぜねれいしょん
『色即ぜねれいしょん』
〜モヤモヤを吹き飛ばしても余りある
             青き血潮のエネルギーかな〜

(2009年 日本 スタイルジャム 1時間54分)
監督:田口トモロウ  原作:みうらじゅん
出演:渡辺大知(黒猫チェルシー)、峯田和伸(銀杏BOYZ)、岸田繁(くるり)、堀ちえみ、リリー・フランキー、臼田あさ美、石橋杏奈、森岡龍、森田直幸

2009年8月8日(土)〜梅田ガーデンシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸にて、京阪神先行ロードショー!
全国では、8月15日よりシネセゾン渋谷、新宿バルト9ほかにて公開

公式サイト⇒ http://shikisoku.jp/indexp.html

 「優しい両親、平凡な毎日、それが僕のコンプレックス」なんて贅沢なことをのたまう“ぼんぼん”の、ひと夏の恋と成長を描いた青春讃歌――などと書くとダサイ印象があるが、この映画は、平凡な高校生が脱皮するように成長する瞬間を、驚きと感動を持って見ることができる。学生運動が下火になった1974年の京都を舞台に、イデオロギーも社会性も感じさせないが、その温もりのあるゆるゆる感が堪らない。それもそのはず、「マイブーム」や「ゆるキャラ」などの造語で有名なマルチタレントのみうらじゅんの自伝的小説が原作。その世界観を、朋友の田口トモロウが“あ・うん”の呼吸で映像化している。
 仏教系男子校に通う高校1年生の乾純は、小学生の頃から憧れている女の子に告白もできず、ヤンキーのスポーツ系が幅を利かせる高校では肩身の狭い思いをしていた。そんな純でも得意とするものがひとつあった。それは音楽。ボブ・ディランに憧れてはいるが、恵まれた家庭環境にあって、何一つ反骨精神をみなぎらせる理由を見い出せずにいた。そこで、夏休みに友人達とフリーセックス主義者が集まるという隠岐島ユースホステルへ行くことに。そこで出会うセクシーな女子大生や自由な生き方を謳歌するヒゲゴジラ、また親が勝手に付けてくれたヒッピーのような一風変わった家庭教師など、少しずつ純を大人へと導いてくれる。
 何はともあれ、純を演じた渡辺大知がいい。優しすぎる親に閉口する態度や女性と初めて親密になる表情も可愛いが、ギター片手に舞台で才能を発揮するシーンの格好いいこと! 予想以上のエネルギッシュなパフォーマンスに圧倒される。小心で平凡な男の子が、一躍輝かしい存在へと変貌する瞬間を目撃することで、こちらまで成長エネルギーをもらえたようで、元気が出る。そんな渡辺くんに出会えるだけでも、この映画を見に行く価値があると思う。
 また、純を取り巻く大人達がいい。高校生に酒を飲ませる家庭教師も変わってるが、岸田繁が純を“ぼん”と呼ぶ京都弁が堪らなく心地良いのだ。それに、酔っ払った純を優しく介抱する両親がこれまた面白い。旅に出る時も余分にお金を持たせてくれたり、初めて女性を家に連れて来た時の気の遣い様など、堀ちえみとリリー・フランキーのほんわか親ぶりには和まされる。純達が人生の師匠と尊敬する峯田和伸扮するヒゲゴジラも味がある。こうしたキャスティングの妙がこの映画の魅力になって、私達を楽しませてくれる。
 将来像を見つけにくい現代だからこそ、かつての自分に影響を与えてくれた人々を今一度思い出し、今の自分を見つめ直すいい機会になればいい。そして、人と繋がっていることで生まれる温もりを、改めて感じてほしい。
(河田 真喜子)ページトップへ
 湖のほとりで
『湖のほとりで』
〜苦しみの果てに……悩める家族たちの姿〜
(2007年 イタリア 1時間35分)
監督:アンドレア・モライヨーリ
原作:カリン・フォッスム著「見知らぬ男の視線」
出演:トニ・セルヴィッロ 、ヴァレリア・ゴリーノ、オメロ・アントヌッティ、
ファブリツィオ・ジフーニ

8月8日(土)よりテアトル梅田
公式サイト⇒ http://www.alcine-terran.com/lake/
 家族のなかにはいつも愛だけがあるわけではない。家族のことで、人にいえない悩みや苦しみを抱えていることもある。また、愛する家族に自分の苦しみを打ち明けられず、一人思い悩むこともある。それぞれに問題を抱えた家族の、苦しみとやさしさを丁寧に描写し、その心の内側に迫る。
 北イタリアの小さな村で発見された美しい少女の死体。少女の名はアンナ。元アイスホッケーの選手で、恋人もいて、輝かしい青春の真っただ中にあった。緑の森に囲まれ、透明な湖のほとりに横たわるアンナの死体はあまりに美しく、おだやかな表情で、まるで眠っているよう。村に赴任したばかりの初老の警部は、争った形跡もないことから、顔見知りの犯行と考え、アンナの家族や周囲の人々に聞き込みを始める。小さな村で、ちょうど窓から一軒、一軒、家の中の様子がみえるように、警部は、捜査を通じて、様々な問題を抱え、傷ついた家族に出会っていく。犯人捜しのミステリーというより、それぞれの家族が抱えた悩みや苦しみが浮き彫りになってゆく濃密な人間ドラマ。
 イタリア映画界の名優たちが勢揃いし、重厚な演技を披露。なかでも、ヴィクトル・エリセの『エル・スール』(’83年)で父親を演じたオメロ・アントヌッティが出演。知的障害のある息子と二人、村のはずれで暮らし、自身も車椅子で不自由な生活をしており、息子の障害を憎み、受け入れられない苦しみと、本当は父として息子を愛したいという複雑な思いが伝わり、心に残る。
 警部自身も、若年性痴呆症で家族のことを忘れてゆく妻の姿を、娘に見せられないという悩みを抱えており、いつも冷静沈着な警部が、家では、思わず娘に声を荒げてしまう。障害を持つ3歳の少年アンジェロの母の言葉からは、家族の問題は毎日のことだけに深刻であり、子どもを育てる苦労と追い込まれた辛さが強烈に伝わってきた。ラストの、警部と娘の最後の笑顔は、現実の問題を受け入れ、直視するところから、新しい出発、新しい関係が生まれるはずだという可能性を示唆しているように思え、深い余韻が残る。
(伊藤 久美子)ページトップへ
 不灯港

(C)PFFパートナーズ
『不灯港』
〜こんな無骨で、一途な愛に生きる男がいたら…〜

(日本 2008年 1時間41分)
監督・脚本:内藤隆嗣
出演:小手伸也、宮本裕子、広岡和樹、ダイアモンド☆ユカイ、麿赤兒

8月1日〜シネ・リーブル梅田、秋公開予定〜京都シネマ
公式サイト⇒ http://manzo-movie.jp/
 主人公は38歳の漁師、万造。髭面で、黒のトックリセーターにジャージ。無骨で、寡黙で、およそ女性にもてそうにはみえない。そんな万造の唯一の願いが「お嫁をもらうこと」。港で老夫婦が仲睦まじく水揚げ作業をしている姿を一人、まぶしそうな眼差しでみつめたりしている。お見合いパーティでも全く空振りだった万造が、ひょんなことから、美しい女、美津子と出会い、ぞっこん惚れ込む。美津子の息子まさおとともに、同じ一軒家で、擬似家族のような生活が始まる。何もかも美津子に尽くし、幸せいっぱいの万造の恋の行方は?

 外見は野暮ったくても、心はロマンチスト。バーで酒を飲み、身のこなしはダンディ。まじめ一筋の万造がぽつぽつとしゃべる言葉は、キザすぎるが、ストレートに心に入ってくる。「一人で食う飯はどんな味付けをしたってまずいんだ。一緒に食えるのは最高の調味料さ」、「一日も早く、嫁さんが欲しくて欲しくて、毎日、いてもたってもいられんです」、「花瓶で枯れたいと思う花はないよ」と書き留めたいほど。

 万造の独特なキャラクター設定がユニークで、ユーモアにあふれ、独特の間が魅力的。思わず何度も微笑みたくなる。説明を極力廃し、観客の想像に委ねた語り口で、孤独で気骨のある男の熱い心模様を描き出す。役場主催のお見合いパーティのために、万造が自分で撮った自己紹介ビデオがおもしろい。押入れからのぞく不審な侵入者の姿の唐突さは見事で、驚かされた。

 映画監督への登竜門、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)スカラシップの権利を手にした27歳の俊英、内藤隆嗣の商業長編デビュー作。タイトルは、不凍港という寒々しい土地を舞台にしたいと思った監督が、日本は緯度が低くて不凍港がないため、「不灯港」にしたという。小さくて寂れた漁港は、どこか懐かしさを感じる風景で、郷愁を誘う。こんな町なら、万造のような男もいるような気がする。

 まさおは万造にすっかりなつき、まるで本物の親子のようだ。まさおもまた、万造のような男に育っていくのだろうか。万造の動かす漁船のエンジン音が心地よく耳に残る。
(伊藤 久美子)ページトップへ
 ボルト
『ボルト』 Bolt
〜真の勇気と力に気付いたボルトの旅〜

(2008年 アメリカ 1時間36分)
監督:クリス・ウィリアムズ、バイロン・ハワード
製作総指揮:ジョン・ラセター
声の出演:ジョン・トラヴォルタ、マイリー・サイラス、マルコム・マクダウェル

8月1日〜全国ロードショー
公式サイト⇒ http://www.disney.co.jp/movies/bolt/
(C) Disney Enterprises, Inc. All rights reserved.
 夏休みの子ども向け映画と軽くみてはいけない。冒頭から始まる迫力満点のアクション・シーンに息を飲み、あっという間に映画の世界に入り込む。愉快な仲間たちとの旅道中はユーモアいっぱい。クライマックスでは思わず胸が熱くなってしまった。
 テレビの人気ドラマのスター犬、ボルトは、撮影スタジオの中だけで育てられ、ドラマの設定をそのまま本物の現実と信じ込む。飼い主の少女ペニーを守って、悪と戦い、ボルトが吠えれば、数十台もの車が吹っ飛ぶ。次々に敵をやっつけ、大活躍する裏側では、実は、大勢のスタッフが、ボルトに見られないよう、あちこちでアクションの仕掛けをしていた。舞台は撮影所、映画ファンを楽しませてくれる設定が嬉しい。
 そんなボルトが、アクシデントのために行き着いた先は、はるか遠くのNY。たった一人で見るスタジオの外の現実世界。早く戻ってペニーを助けようと焦るが、唸っても、吠えても、何も起きない現実を目にして……。
 ボルトが出会う仲間たちがユーモラスですてきだ。皮肉屋で疑り深い、NYの捨て猫のミトンズは、ボルトに、今まで信じていたのはつくりものの世界だと教える。ドラマ「ボルト」の熱狂的ファンの太っちょハムスター、ライノは、何があってもやっぱりボルトはヒーローと信じ続ける。ペニーが愛してくれたのは、芝居の中の演技だったのかと悩むボルトは、直接会って確かめようと決心。ハリウッドを目指して3匹の旅が始まる。
 自分がスーパードッグだと信じていたボルトが、外の世界で戸惑う勘違いぶりが、ユーモアいっぱいに描かれる。自信を失い、落ち込むボルトの成長ぶりがすてきだ。自分が、スーパーパワーも何も持たない、ただの平凡な犬だと知ったボルトに、本当の勇気を与えてくれるのは、ペニーへの愛だ。ペニーを愛する気持ちがボルトに力を与え、仲間たちとの友情がボルトの背中を後押ししてくれる。
 動物同志なら言葉を使って会話もできるが、動物が人間にしゃべりかけることはできないという設定。人間からみたら、吠えることしかできない、ただの犬のボルト。そんな姿をドラマに巧みに挿入し、絶妙に描き分ける。果たしてボルトはペニーに思いを伝えられるのか。ボルトの切実な思いを胸に、観客はただ見守るしかない。アニメ映画ならではの醍醐味を生かした快作。大人も子どもも存分に楽しめるにちがいない。
 ボルトの声はジョン・トラヴォルタで、アニメ映画の声優は初挑戦。TVの「アクターズ・スタジオ・インタビュー」のホスト、ジェームズ・リプトンもディレクターの声で登場、お聞き逃しなく。
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 グッド・バッド・ウィアード
『グッド・バッド・ウィアード』
〜ハチャメチャ・ムチャクチャ・トンデモウエスタン〜

(2008年 韓国 2時間9分)
監督:キム・ジウン
出演:ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、チョン・ウソン、リュ・スンス、ユン・ジェムン、ソン・ビョンホ

2009年8月29日〜梅田ブルク7、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸ほかにて全国公開
公式サイト⇒ http://www.gbw.jp/
 女性の方々にとって、西部劇のイメージはどんなものでしょうか。男たちが決闘する大活劇に、胸がワクワクドキドキになれるものでしょうか。ひょっとして、出演している人によるとか、ですか? ならば、この作品はものの見事な、キャスティングとアンサンブル演技が楽しめる逸品となりました。
 『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』(‘09年)で見せた、犬を銃殺してその死体で相手を殴るなんてバイオレンスは序の口。バイバイ(倍倍)・バイオレントなシーンを連続してシュートするイ・ビョンホンは、ワイルド・ガイ。ウエスタンの肝の1つでもある「人生は追いつ追われつさ」なんて分析する、チョン・ウソンはクール・ガイ。そして、鉄カブトみたいなのをかぶって銃弾を防いだりする、ソン・ガンホはコミカル&タフガイ。
 秘宝の在りかを記す地図を巡って、この3人に加え、闇市場の満州現地グループ、日本軍らが壮絶な争奪戦を展開していく。列車内、闇市場などで、大嵐のような銃撃戦が繰り返された後、名作『駅馬車』(‘39年)などを大スケールアップさせたような、クライマックスの追いつ追われつの、ロードムービー大決戦、一大活劇シーンの連続は、超ウルトラ級の、ため息もんの圧巻ぶり。そして最後には、主役3人の息詰まる「荒野の大決闘」が待っている。韓流で中国ロケという意表を突く、トンデモウエスタンが出現したワケだ。
 さて、その本作は、本場アメリカの西部劇に影響を受けたマカロニ・ウエスタンで、セルジオ・レオーネ監督&クリント・イーストウッド主演のあの3部作『荒野の用心棒』(‘64年)『夕陽のガンマン』(‘65年)『続・夕陽のガンマン』(‘66年)に、インスパイアーされて作られたそうだ。しかし本作は、その3部作のように、ニューメキシコを舞台にしてアメリカン西部劇を展開はしない。舞台はアメリカから遠く離れた中国・満州であり、しかも日本が統治していた1930年代を選んでいる。その30年代といえば、アメリカの西部劇が本格化した時代であり、そのシチュエーションそのものにも、西部劇への熱き思いが感じられる作りだ。
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 南極料理人
 (c)2009『南極料理人』製作委員会
『南極料理人』
〜極寒の地から、笑顔になれるご飯を届けます!〜

(2009年 日本 2時間5分)
脚本・監督:沖田修一、原作:西村淳
出演:堺雅人、生瀬勝久、きたろう、高良健吾、豊原功補

8/8(土)〜テアトル新宿にて先行ロードショー
8/22(土)〜テアトル全国ロードショー 

公式サイト⇒ http://nankyoku-ryori.com/
 ぬるかったはずの周りの空気が、スクリーンを見ているうちに冷え冷えしてくる。平均気温マイナス54℃。南極といえども、ペンギンもアザラシもいない、ウイルスさえ存在しない厳寒の“ふじ基地”。でも、そこには奮闘する隊員たちの逞しい姿があり、彼らを支える「ならでは」のご飯があった。
 雪氷学者の本さん(生瀬勝久)、雪氷サポートの兄やん(高良健吾)、気象学者のタイチョー(きたろう)、大気学者の平さん(小浜正寛)、医療担当のドクター(豊原功補)、車両担当の主任(古舘寛治)、通信担当の盆(黒田大輔)、そして調理担当の西村淳(堺雅人)の8人の南極観測隊員たち。望んで来ている研究者もいれば、左遷同様だとぼやきながらのメンバーもいる。好きな人や家族とだって約1年半も離れ離れの生活だ。サボっちゃう時もあるし、けんかにだってなる。ちょっとばかり面倒くさかった家族が恋しくなることだって…。でも、診療所は夜な夜なバーになり、誕生日会だって開催される。時には本音を聞き合い、美味しいごはんで元気になる。
 そうやってオジサンたちのてんでばらばらの個性が少ずつ交じり合っていく様は、南極基地という閉ざされた風景に温かみを宿し、ユーモア旋風を巻き起こす!
 隊員たちの食事を一手に引き受けるのが西村だ。調理環境も勝手が違うし、娯楽の少ない生活の中では「食」が担う役割も大きい。おにぎりから、伊勢えびフライ、手打ちラーメン、フレンチまで。家庭では冴えない父親だけど、戸惑いながらどんな難題にも飄々と向かう彼の真剣な眼差しはたまらなく格好良い。食べる人の笑顔を見る喜び、食べる人を元気にできる嬉しさ―誰かのためにご飯を作るという行為には、優しさが満ち溢れているのだと、西村の心を満たしてゆく思いは同時に、私たちをも満たしてゆく。
 この作品には、見ているものが伸び伸びとホッとしたり、フッと笑ったりする一瞬の間が用意されていて、まるで自分も隊員の一人であるかのような気分になれるのが楽しい。
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 3時10分、決断のとき
『3時10分、決断のとき』
〜かつてない男の友情関係を描いたウエスタン〜

(2007年 アメリカ 2時間2分)
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ラッセル・クロウ、クリスチャン・ベイル、ピーター・フォンダ、グレッチェン・モル

2009年8月8日より新宿ピカデリーにて、
2009年8月22日(土)〜シネ・リーブル梅田、MOVIX京都にて公開

公式サイト⇒ http://www.310-K.JP

 ジョン・フォード監督やハワード・ホークス監督の大傑作が次々に披露された、1930年代後半から1950年代の西部劇黄金時代を体感したアメリカの映画監督は、生涯に1度は西部劇を撮りたいと切に願う人がかなり多かったという。ただ、1970年代以降は、ローレンス・カスダン監督の『シルバラード』(‘85年)や、クリント・イーストウッド監督の『許されざる者』(‘92年)などの傑作が時々出現したが、西部劇は下火となり、21世紀の今やほとんど撮られることがないジャンルとなってしまった。というか『アラモ』(‘60年・2004年)など、かつての西部劇のリメイクが時おりポツンと製作される程度になったのだ。
 だから、ジェームズ・マンゴールド監督の本作も、またそんな流れに乗って『決断の3時10分』(‘57年)をリメイクしたのだと感じたのだが、完成作品を見るとオリジナルを上回る出来であった。男の熱い友情がオリジナルを遥かに超えてヒートアップしていたのだ。それは例えば、リメイクしてオリジナルを構築する「リメイク・オリジナル映画」という新しいジャンルを、確立したかのような仕上がりだ。
 クリスチャン・ベイル扮する貧しい牧場主や、犯人の捕捉時に関わった人たちが、捕捉されたラッセル・クロウ演じる強盗団のボスを、刑場行きの列車に乗せるため遠く離れた駅まで護送する任務を負う。しかし、強盗団の仲間はボスを取り返すため、彼らを追ってくる。西部劇らしいロードムービー・スタイルの追いつ追われつの緊張感あふれるシーンが展開していく。そんな中で、護送に成功すれば大金がもらえる牧場主と、護送が達成されれば死ぬ運命にあるボスとの間で男同士の友情の絆が生まれる。全く正反対の立場にあるこの2人の生死を懸けた友情関係を描くのは、非常に難易度の高いワザだと思うのだが、おそらく脚本と演出の巧みさなのであろう。違和感なく実にスムーズに話は転がっていき、手に汗握るクライマックスへと突入していく。
 加えて、過去の名作西部劇へのオマージュ・シーンが、いくつか繰り広げられる。強盗団の7人という人数にこだわりを見せる点において『荒野の七人』(‘60年)、元シンガーの酒場のマダム・キャラクターは『OK牧場の決斗』(‘57年)や『荒野の決闘』(‘46年)、タイムリミット入りは『真昼の決闘』(‘52年)、ピーター・フォンダの出演は自身の監督・主演作『さすらいのカウボーイ』(‘71年)といった感じ。哀愁のギターやトランペットなどで、往年の西部劇の雰囲気を表現している点にも注目。僕の大好きな『荒野の用心棒』(‘64年)のセルジオ・レオーネ的タッチのサントラ使いがたまらない。
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 ポー川のひかり
『ポー川のひかり』
〜ポー川の雄大な流れに身を任せたくなる快作〜

(2009年 イタリア 1時間34分)
監督:エルマンノ・オルミ
出演:ラズ・デガン、ルーナ・ベンダンディ、アミナ・シエド、ミケーレ・ザッタラ

2009年8月1日(土)〜岩波ホール
2009年8月22日(土)〜梅田ガーデンシネマ、
順次、京都シネマ、シネ・リーブル神戸にて公開

公式サイト⇒ http://po-gawa.net/

 かつての寺山修司の監督作『書を捨てよ町へ出よう』(‘71年)のタイトルが、「書を開いてクギを刺し貫いて、自然界と布教現場へ出よう」になった感じで、理論より実践を旨としたヒューマン映画の爽快作品。キリストの容姿に似た「キリストさん」と呼ばれる主人公が、イタリアのポー川沿いに住まう前期・後期高齢者を中心としたエリアへ、天然生活も楽しみたいなと思いつつ、みんなを癒やしにやって来て、物語が転び出す。
 キリスト的なる人物を演じたといえば、近作ではキムタク木村拓哉が演じた『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』(公開中)などがあるが、超現実的なキムタクより、こちらは現実味あふれる人間臭さで、真っ向勝負した。当初ポー川べりへ来た主人公の描き方は、黙々と主人公の行動を映すサイレント映画的なノリで展開する。このあたりの静謐感は出色の出来である。
 本作の監督エルマンノ・オルミが、かつてカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した『木靴の木』(‘78年)と同様、自然光での撮影をメインにし、ポー川を含めた自然描写の鮮やかなシーンの連続に、目がクギ付けとなるだろう。その描写の方法は、例えば名作『ローマの休日』(‘53年)のようなビジター感覚ではなく、あくまで癒やしのホーム感覚を貫いている。

 キリストさんが語る父子の話などは『父/パードレ・パドローネ』(‘77年)を、ポー川の大河が主役になったとも取れる点では、ジャン・ルノワール監督の『河』(‘51年)を、布教的天然生活の中で少し見られる恋愛描写は『ブラザー・サン シスター・ムーン』(‘72年)なんかを思い出させてくれた。
 そして、何といっても刻々と表情を変える大河の描写は、優しい心地にしてくれる。川面に映える陽光の照り返しやまだら感、グリーンの川とブルーの夜空を対比させる夜のとばり描写、ややセピアの空気感も入った朝焼けや、暮れなずむシーンなど、さまざまな表情に魅せられ続けるだろう。オーケストラのリハーサル的サントラ、チェロとトランペットやサックスの競演、ライブでも奏でられるアコーディオンの温かい響きなど、作品性やシーンに合わせたサントラ使いにも注目したい1作。
 さて、オルミ監督だが、ドキュメンタリー映画はこれからも撮るようだが、ドラマ映画としては本作を最後の作品にしたいと臨んだという。しかし、同じく78歳のクリント・イーストウッドはまだまだ撮るようだし、かつて宮崎駿監督が『千と千尋の神隠し』(2001年)で引退すると言いながら、その後2本も撮っているように、どうなるかは分からない。でも、最後だと信じて鑑賞すれば、感動はより深まるに違いない。
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 HACHI 約束の犬
『HACHI 約束の犬』
〜渋谷から海を越えてアメリカ東海岸へ…〜

配給:松竹(2009年 アメリカ 1時間33分)
監督:ラッセ・ハルストレム
出演:リチャード・ギア、ジョーン・アレン、ケイリー=ヒロユキ・タガワ、サラ・ローマー、ジェイソン・アレクサンダー、エリック・アヴァリ、ダヴェニア・マクファデン、ロビー・コリアー=サブレット
8月8日(土)全国拡大ロードショー
公式ホームページ⇒ http://www.hachi-movie.jp/
リチャード・ギア来日キャンペーンレポートはこちら

 大正から昭和にかけて,飼主の大学教授が亡くなった後も,毎日夕方になると渋谷駅前で教授を待ち続けた秋田犬がいた。彼が,今もJR渋谷駅前で銅像となって座り続けている忠犬ハチだ。その物語は,これまでにも映画化されている。神山征二郎監督,新藤兼人脚本による「ハチ公物語」(1987・日本)だ。今回は,アメリカ東海岸を舞台として,ハチの共演者にリチャード・ギアを迎え,ラッセ・ハルストレム監督によって映画化された。
 監督自身,愛犬家だという。その名前を聞くと,まず,宇宙へ行ったまま帰って来なかったライカ犬を思い出す。「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」(1985・スウェーデン)だ。主人公の少年は,かなり悲惨な状況に置かれるが,ライカ犬に比べれば幸せだと思って生きていく。今回は,リチャード・ギア扮するパーカー教授の孫が学校の授業で”私のヒーロー”について語るとき,HACHIを取り上げる。ハチは,彼の心の支えとなっていた。
 彼によると,忠実であることや大切な人を決して忘れないことをハチが教えてくれたという。その理由として,祖父とハチの関係が語られるのだが,回想や伝承のような形式を取っていないのがいい。決して人間に媚びないハチの視点で貫かれている。監督は,ハチの映画化に当たって,一番難しいのはセンチメンタリズムに溺れないことだと言っている。監督の手により,孤高に,そして一途に生きたハチの姿が鮮やかにフィルムに収められた。
 ハチがパーカー教授に出会うシーンがいい。ハチの方から教授の前まで行って立ち止まるのだ。また,教授がボールを投げてハチに取りに行かせようとしても,ハチは取りに行かない。教授自らが四つん這いになってボールを口にくわえる。その他,エピソードの取捨選択が適切だ。また,ハチから見た世界がモノクロで映像化されているのも面白い。これらは,後半で教授を待ち続けるハチの姿に毅然としたものを感じさせる効果を上げている。
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