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新作映画
 アイアンマン
『アイアンマン』
〜この秋最大の娯楽アクション超大作、遂に日本上陸!〜

(2008年 アメリカ 2時間5分)
監督:ジョン・ファヴロー
出演:ロバート・ダウニー・Jr、テレンス・ハワード、ジェフ・ブリッジス、グウィネス・パルトローほか
9/27(土)〜 TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、梅田ブルク7、アポロシネマ8、TOHOシネマズ二条、 MOVIX京都、OSシネマズミント神戸、シネ・パレス山陽座ほかにて全国一斉ロードショー

公式ホームページ→
 文句なしに面白い! 北米だけで3億ドル以上の興行収入を上げ、6月に発表されたMTVムービー・アワードでは、あの『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』を押しのけて“現時点でのサマー・ムービー賞”を受賞したことから大きな期待を寄せて鑑賞に挑んだが、予想を更に上回る出来映えに思わず快哉を叫んだ。
【巨大軍事企業の社長にして天才発明家のトニー・スタークが、商談先のアフガニスタンでテロリスト集団に襲撃される。囚われの身となったトニーは、監視の目を盗んで密かにパワード・スーツを開発し、その強大なパワーによって脱出に成功するのだが、彼は自身の開発した兵器がテロリスト集団に悪用されていることを知り、一切の軍事兵器生産を中止して、テロ組織撲滅のためにパワード・スーツの強化に没頭する。しかし、副社長オバディアが密かに暗躍を開始し・・・・・・】
というストーリーは実に明快でそのもの。おまけに、125分という決して短くない上映時間であるにも関わらず、片時も退屈することがなかった。見せ場を随所に散りばめた脚本を、メリハリのある演出が支え、超一級の娯楽アクション大作に仕上げている。

 主演は当代随一の演技派として名高いロバート・ダウニー・Jr。当初、アクション・ヒーローを演じるには軽妙さに欠けるという不安があったが、なんの、なんの! 富と名声に溺れるトニーが、危機的状況の中で真実を知って正義に目覚めるという内面の移り変わりを巧みに表現しながら、決して重苦しくなり過ぎることなく、茶目っ気さえ感じさせるというバランスの良さが絶妙だ。そこに、オバディアを演じるジェフ・ブリッジスの嬉々とした悪役振りが相まって、怒涛のクライマックスになだれ込む様は圧巻の一語。加えて、ヒロインのペッパーを演じるグウィネス・パルトローや、トニーの右腕的存在であるローディを演じるテレンス・ハワードも、芸達者振りを存分に発揮していて上手い。
 『ダークナイト』の陰影に富んだ重厚なドラマも素晴らしかったが、本作の明朗快活な活劇としての完成度も負けず劣らずの完成度だ。大迫力のSFX映像と、スピーディーでありながら重量感もある善と悪のパワード・スーツ・バトルには手に汗握ること必至! 大画面&大音響の醍醐味を存分に味わって!!
P.S.
最後の最後にアメコミ・ファンにはたまらない一幕が用意されているので見逃さないで!

【喜多匡希の映画豆知識:『アイアンマン』】
・主人公トニー・スタークのモデルとなったのは、マーティン・スコセッシ監督作品『アビエイター』でレオナルド・ディカプリオが演じたことでも知られる実在した大富豪&映画監督のハワード・ヒューズ。トニーの父親の名がハワードというのも一つのお遊びとしてニンマリできるポイントだ。

(喜多 匡希)ページトップへ
 イキガミ
『イキガミ』
〜「暗黒管理社会」を舞台にした、胸を揺さぶる人間ドラマ〜

監督:瀧本智行(2008年 日本 2時間13分)
原作:間瀬元朗
出演:松田翔太、塚本高史、成海璃子、山田孝之、風吹ジュン
9/27〜上映劇場 TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ伊丹 他
公式ホームページ→
 生命の価値に対する国民の意識を高め、社会の生産性を向上させるための「国家繁栄維持法」という法律により、1000人に1人の確率で選ばれた18歳から24歳までの若者の命が奪われる世界。“対象者”には死亡時刻の24時間前に、政府から発行される死亡宣告書“逝き紙(イキガミ)”が届けられる。厚生保健省の国家公務員・藤本賢吾の仕事は、イキガミを配達すること。彼は職務をまっとうしようとするが、死を前にした人々の生命の輝きを目の当たりにし、心に激しい葛藤が生まれる。
 「週刊ヤングサンデー」誌にて連載され、大反響を呼び起こしている間瀬元朗原作のコミックを、『犯人に告ぐ』の瀧本智行監督が映画化。一種の「暗黒管理社会」を舞台にした物語だが、観ていてなにより恐ろしかったのは、まったく“ありえない”話ではないと思えてしまったことだ。それほど、いまの時代は不安定で、先の見えない真っ暗闇の中を彷徨っているのだと…。
 だが、この作品からは死より生、絶望より希望のほうが強く感じられる。なぜなら、イキガミが届き、“名誉の死”を遂げる3人の若者たちの姿が、“死に様”ではなく、“生き様”を観る者の胸に残すからだ。夢を掴んだものの、本当に大切なものを失ってしまったミュージシャンの青年、政治家である母親からの期待に押しつぶされてひきこもりになった少年、両親の死後、自分の人生はそっちのけで盲目の妹を守り続けてきた兄。たった1日という時間の中、彼らはそれぞれの“最期の願い”を実現しようとする。つまり、それは自分という人間の集大成を築くことでもあるのだろう。だからこそ、その壮絶なまでの魂の燃焼が、エネルギッシュなほど熱く、強く、観る者の心を揺さぶるのである。
 そして、何と言ってもキャスト陣の演技が素晴らしい。松田翔太、塚本高史、成海璃子、山田孝之といった若手実力派たちはもちろん、笹野高史や風吹ジュンの存在感も忘れがたく、重厚な人間ドラマをさらに奥深く、魅力的なものにしている。中でも、盲目の妹を安心させるために、いつも嘘ばかりついてしまう不器用な兄に扮した、山田孝之の演技が光る。
 「国繁」に逆らおうとした者は「退廃思想者」として“処置”される。国家に従順になるしかない世界の中で、藤本が密かに心に抱く「抵抗」。それは、続編を予感させるようなラストシーンでさらにはっきりと浮かび上がる。

 この物語は、日々をやり過ごし、生きている感覚さえ麻痺してしまっている現代人にとっての警鐘にほかならない。そして、たとえねじふせられそうになっても立ち向かおうとする強さ、現状を変えようとする勇気を持つことが、暗闇の中、光の射す方へたどり着ける一歩につながるのだというメッセージが力強く伝わってくる作品だ。
(篠原 あゆみ)ページトップへ
 次郎長三国志
『次郎長三国志』
〜親分に惚れ込んだ子分衆の厚い人情にほろり〜

(2008年 日本 2時間6分)
監督:マキノ雅彦
出演:中井貴一、鈴木京香、北村一輝、温水洋一、近藤芳正、笹野高史、岸部一徳、竹内力、佐藤浩市
9月20日(土)〜梅田ピカデリー、なんばパークスシネマ、三宮シネフェニックス、MOVIX京都他、全国ロードショー
公式ホームページ→
 今年生誕100年を迎える日本映画界の巨匠マキノ雅弘監督の十八番「次郎長三国志」に甥のマキノ雅彦監督が挑んだ。マキノ雅弘監督は、東宝で、森繁久彌を森の石松に迎え、シリーズとして9作(モノクロ)余り撮り、東映で、鶴田浩二、藤純子(現在の富司純子)、松方弘樹、藤山寛美と豪華メンバーを揃えて4作(カラー)撮った。その他、自身でのリメイクなども合わせると、計27本の“次郎長もの”を手がけており、いかにこの題材を気に入っていたかがわかる。
 清水港の次郎長というのは、実在した幕末の侠客で、講談、浪曲、芝居、映画、小説と、様々に語り継がれてきた。人情もろくて、義理がたい、海道一の次郎長親分のもとに、一癖も二癖もある子分たちが集まり、喧嘩や恋に花を咲かせる。この群像劇のおもしろみ、楽しさこそ、“次郎長もの”の魅力の一つ。
 マキノ雅彦監督は、シリーズのみどころを凝縮して1本完結とした。次郎長(中井貴一)とお蝶(鈴木京香)の祝言に始まり、渡世修業を経て、東海道に名を馳せる次郎長。しかし、その分、敵も増え、裏切りにあって、一家は危機に瀕する……。
 お蝶と次郎長の夫婦愛を軸に、子分たちの人情味豊かなエピソードが散りばめられる。やくざになった息子の鬼吉を勘当した手前、金の無心に来られても、怒鳴って追い返すしかできないが、裏口からこっそり、男の義理は果たせと、なけなしの金を渡す父親を、長門裕之が演じ、情け深い親心に思わず目頭が熱くなる。高岡早紀演じる投げ節のお仲、木村佳乃演じるお園も、きっぷがよくて色っぽく、女優陣も奮闘。
 お蝶の病床のシーンから、クライマックスの仇討ちに至る展開は見事。軽快な三味線の音楽をバックに、次郎長親分を先頭に子分たちが一列になって颯爽と走ってゆく。そこに、真っ赤な紅葉が川の流れに乗って運ばれてゆく、美しい映像がはさみこまれ、セリフなしで一気にチャンバラへとひた走る、このテンポのよさ。

 10月上旬に開催される第6回京都映画祭では、傑作と名高い東宝版「次郎長三国志」9作品の一挙上映が実現する。新作、旧作を、ほぼ同時期に堪能できるのは、滅多にない機会。新作を観て、“次郎長もの”のおもしろさに触れた方は、ぜひともマキノ雅弘の世界ものぞいてほしい。さらに明るく楽しい子分たちの姿に、きっと夢中になるにちがいない。
(伊藤 久美子)ページトップへ
 おくりびと (喜多バージョン)
『おくりびと』
〜死を通して生が輝く出色の二重奏〜

(2008年 日本 2時間10分)
監督:滝田洋二郎
出演:本木雅弘、広末涼子、山崎努、余貴美子、杉本哲太、峰岸徹、山田辰夫、橘ユキコ、吉行和子、笹野高史ほか
2008年9月13日(土)〜 梅田ピカデリー、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹ほかにて全国一斉ロードショー

公式ホームページ→
・モントリオール世界映画祭 ワールド・コンペティション部門グランプリ受賞!
 公開直前に飛び込んできたモントリオール世界映画祭グランプリ受賞の報がたまらなく嬉しい! では、何がそんなに嬉しいのかと言うと、この受賞が華々しく報道されたことによって、知名度が飛躍的に高まり、巷の関心をグッと惹くことに繋がるからである。掛け値なしに優れた作品でありながら、一見地味で目立たない本作は、同時期に公開される大作や話題作に埋もれる可能性が高いと思われ、それが最大の懸念であった。そこにこの朗報である。
 死者に死化粧を施し、納棺の儀式を行う“納棺師”なる職業を通じて、“生と死” が決して断絶されたものではなく、地続きであることを示し、その先に“絆” “心”といった人間味溢れるテーマが浮かび上がる。知られざる職業の実態を丹念に描き、HOW TO映画として切り込み方で観客の興味を惹き付けつつ、更に深く人間の営みに踏み込んでみせたきめ細やかな演出は、これ円熟の味である。
 主演の本木雅弘が素晴らしい! 『納棺夫日記』(青木新門・著)を読んで感銘を受けたという彼が、自ら映画化を切望したという入魂の企画だけに、その入れ込みようは半端でなく、スクリーンからもその意欲がビンビンと伝わってくる。名演と言えよう。東京で夢破れた元チェロ奏者の主人公・大悟が、東北の実家に帰り、ひょんなことから“納棺師”の職に就く。チェロで培った指先の所作の美しさが、新しい職でも見事に活きてくるというあたりのさりげない演出は実に巧み。しかし、それ以上の意味がチェロには込められている。数ある楽器の中でも、人間の声に最も近い音色を奏でるのがチェロだという。しかし、楽器は奏者がいなければただのモノだ。新しい生活の合間に、心からチェロを弾きたくなった大悟が奏でる音色は、東京でのそれとは明らかに異なる。大悟は、当初嫌がっていた“納棺師”という職業を通して大きく成長し、その結果としてチェロに新たな生命を吹き込んでみせる。見ず知らずの人々の“死”を通して“生”が輝く様が、大悟の人間としての成長に重ねられているのだ。その成長を支える人間関係の豊かさにも目を見張る。人間は決して一人では生きられない。家族や友人といった周囲の人々とのふれ合いを通して、人間は成長していくのだということを、重々しいお説教としてではなく、フンワリと包み込むように描いている点にも好感を覚えた。また、セリフに頼り切ることなく、表情・所作・音楽などで心情を表現しているのもいい。
 鑑賞中、涙がとめどもなく溢れ出し、何度も頬を拭いながらの鑑賞となったが、片時もスクリーンから目を離せず、釘付けとなったものである。上映後、場内が明るくなり、屋外へ一歩踏み出した時、鑑賞前より風景が輝いて見えた。このたまらない充実感を是非味わっていただきたい。

  尚、30年超の歴史を誇るモントリオール世界映画祭で日本映画がグランプリを受賞したのは史上3本目。正に10年に1本の傑作である。
【関連書籍情報】
映画『おくりびと』から生まれた絵本『いしぶみ』(小山薫堂:作、黒田征太郎:画 小学館・刊行)が、全国書店のほか、『おくりびと』上映劇場でも販売されます。心から温かくなれる1冊。こちらもおすすめします。
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 パコと魔法の絵本 (河田バージョン)

『パコと魔法の絵本』
〜強く生きていくだけが人生ではないんだ〜

(2008年 日本 1時間45分)
監督:中島哲也
出演:役所広司、妻夫木聡、阿部サダヲ、土屋アンナ、小池栄子、加瀬亮
9月13日(土)〜TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、アポロシネマ8、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸

公式ホームページ→
 大きな大きなお池(世界)の小さな小さなカエル(人間)のお話。ヘンな人が回想する大いに変な病院での出来事。1日しか記憶を保てない少女パコは「ガマ王子とザリガニ魔人」という飛び出す絵本を大切にしていた。病院の人たちは彼女のために絵本の世界を劇にして上演する。回想シーンの中に劇中劇があり,三重構造になっている。ハリウッド的などんでん返しの後,もう一捻りして着地する。そして,フィニッシュでは3つの世界が1つに溶け合ったようなほんわか気分になる。
 全編を通じて超カラフルでミラクルな映像世界がアップテンポで展開されていく。いかにもファンタジックな音楽が流れてもあざとくなく,妙に心地良く響いてくる。映画の中の包帯グルグル巻きの楽団員の1人がのこぎりを持っているが,これも立派な楽器の1つだそうだ。最古の電子楽器テルミンのようなフシギな音色が耳に残る。また,その一員には主題歌を作詞して歌っている木村カエラも。
 出演者のキョーエンもまた楽しい。役所広司は,会社での会議中に倒れるまで強い人間を演じ続けてきたワガママ爺に扮して貫禄を示す。阿部サダヲが舞台のノリで笑いを引き出して,はまり役。土屋アンナのヤンキー看護師には悲しい過去が…。妻夫木聡と小池栄子は,ヤゴとトンボの比ではないほど凄まじい変貌を遂げている。そんな彼らは全員で,“人間って強くないといけないのか〜!”,“そんなに突っ走って大丈夫か〜!”と叫んでいるようだ。
 何と言っても圧巻は劇中劇のシーンだ。絵本が飛び出すどころか,縦横無尽に飛び跳ねる。実写とCGが渾然一体となって怒濤のように押し寄せるかと思うと,束の間の静けさが訪れる。スクリーンから溢れ出す奇想天外な世界にボー然となる。いつしか病院と絵本の2つの世界が合体し,涙が止まるまで思い切り泣かされるのだ。過去がどうであっても根は優しくて弱く不器用な人間のために。カラフルな映像の底にはペーソスが流れていた。
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 バックドロップ・クルディスタン
『バックドロップ・クルディスタン』
〜小さな映画からとてつもなく大きな問題が…〜

(2007年 日本 1時間42分)
監督:野本大
撮影:野本 大、山内大堂、大澤一生
編集・製作:大澤一生
2008年9月27日(土)〜第七藝術劇場にて公開

公式ホームページ→
 監督の野本大(のもとまさる)は,1983年6月生まれで,若い。日本映画学校の卒業制作として身近にいたクルド人の家族を撮り始めたことがきっかけとなり,同校を中退して本作を完成させたという。その意味では小さな映画だが,とても好感の持てるドキュメンタリーに仕上がっている。日本でのシーンは,彼が何を見てどんな疑問を持ってトルコへ行こうと決意したかを説明しているだけだ。が,トルコでのシーンになると,俄然面白くなる。
 クルド人のカザンキラン一家は,日本で難民認定を得られず,父親と長男がトルコへ強制送還され,残された家族も第三国(ニュージーランド)へ去っていった。野本は,なぜ彼らが日本から去らねばならなかったが分からない。自分の身近で起こった出来事が理解できない。そこで,その答えを求めてトルコへ行き,彼らの故郷を訪ねるのだ。その取材の過程があくまで野本の視点で綴られるので,観客も彼と同じ体験を重ねていくことになる。
 カザンキラン一家の父親アーメットは,トルコ政府がクルド人を迫害しており,帰国すると生命の安全さえ脅かされると言っていた。野本が実際にトルコへ行くと,トルコ人であっても,クルド人はテロリストだと言う人がいれば,クルド人を友達に持つ人もいる。トルコ政府内にはクルド人の大臣がいるという。また,トルコ政府から迫害されたことはないと言うクルド人や,クルド語を忘れたいと言う子供がいる。何だか単純ではなさそうだ。
 ここで”国家と民族”というとてつもなく大きな問題に行き当たる。同じクルド人であっても,かなりの温度差がある。トルコ国内で生活する限りそのルールに従おうとする人がいる。あくまでも独立運動を展開しようとする人もいる。個人にとって,理想と現実とは異なるのかも知れないし,どのように生きるかは簡単に決められる問題でもない。だが,現代の国際社会や歴史を考えるときには,決して避けて通れない問題であることも確かだ。
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 弾突
『弾突 DANTOTSU』
〜スティーヴン・セガール芸能生活20周年記念作品!〜

(2007年  アメリカ 1時間40分)
監督:ロエル・レーヌ
出演:スティーヴン・セガール、ランス・ヘンリクセン、ブランチャード・ライアン
ポール・カルデロン、ほか
9/13(土)〜 東京:銀座シネパトス
9/20(土)〜 大阪:天六ユウラク座 にてロードショー

公式ホームページ→
 スティーヴン・セガールにとって、日本は第二の故郷である。17歳で来日し、英語教師をしながら合気道・禅・剣道・柔道・空手・太極拳などを学び、結婚。10年間を大阪・十三で過ごした後、1983年アメリカに帰国した。映画デビューは『刑事ニコ/法の死角』(1988)。いきなりの主演デビューであった。東洋武道のバックボーンを活かし、ニュー・アクション・スターとして脚光を浴びた。そんなセガールが大ブレイクしたのが『沈黙の戦艦』(1991)だ。以後、『沈黙の○○』というタイトルの作品が続々と製作・公開されることになる。実はこのシリーズ、正当な続編は3作目の『暴走特急』のみで、ほかは全て無関係の作品ばかり。ここに日本の映画会社の労と洒落っ気が垣間見えて微笑ましいではないか。
 そう。日本でのスティーヴン・セガール人気は微笑ましい。「新味がない!」「マンネリだ!」などと批判するのは野暮というものだ。このマンネリ振りこそがセガール作品の醍醐味なのである。
 演じる役柄も常に決まり決まったもので、(元)刑事、(元)CIA職員、(元)兵士のいずれかであることがほとんどだ。そんな大差のない“お約束”な肩書きをぶら下げたセガールは、毎度毎度、得意の肉体アクションとこだわりの銃撃戦を繰り広げる。この“いつも一緒”という金太郎飴の如きマンネリ具合を望んでいる映画ファンは少なくない。セガール・ファンは、“いつも一緒”のセガール見たさに映画館に足を運ぶのだ。つまり、セガールは“ハリウッドの寅さん”なのである。セガールが、特に日本で根強い人気を誇っているのは、この寅さん的な持ち味ゆえと言えよう(尚、彼のトレードマークであるポニーテールは、侍のチョン髷をイメージしている)
 本作でも、セガールの寅さん振りが見事に発揮されており、長年のファンにとっては嬉しいところ。
【ギャンブルの借金で首が回らなくなった元警官のマットが、借金の肩代わりを条件に悪人殺しを依頼される】というストーリーには、およそ共感できる要素がない。マットの思慮の浅さも相当だ。しかし、そこは<セガールだから>という暗黙の了解ですべて許せてしまう。
 となれば、後はいつものセガール・アクションを心行くまで堪能するのみ! 典型的なB級アクションだが、クライマックスでは、それなりに派手なカー・チェイスと墓地での銃撃戦が用意されており、ファンが望んでいるものをしっかり見せてくれる。このマンネリが生む安定感は貴重だ。

 セガールの芸能生活20周年記念作品とのことであるが、今後もこの道を独走していただきたい!
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 グーグーだって猫である
『グーグーだって猫である』
〜現実とファンタジーの間をたゆたいながら〜
監督・脚本:犬童一心(2008年 日本 1時間56分)
原作:大島弓子
出演:小泉今日子、上野樹里、加瀬亮、森三中、林直次郎 
9月6日公開 梅田ガーデンシネマ、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル神戸、京都シネマ ほか

公式ホームページ→
 平凡な毎日の中にこそ、小さな発見、ささやかな幸せがあるはず。愛猫サバの死、病気、失恋……、人生には悲しいことがたくさんあるけれど、優しさを忘れず、毎日を精一杯、生きることが大切。そんな暖かいメッセージが作品全体から醸し出される。
 原作は大島弓子の自伝的エッセイ漫画。人気漫画家麻子が、年下のアシスタントの女の子達や、恋人、新しい飼い猫のグーグーといっしょに過ごす日常を、住処のある吉祥寺という街ごと、すくいとるように描く。ときに幻想世界にさまよいこみながらも、飼い猫が主人を思い、主人が猫を思う気持ちが伝わり、人間と猫との不思議な関係に、いつしか心ひかれる
 冒頭、麻子の部屋のガラス窓に外の景色が映り、窓辺のカーテンのすきまから猫のサバが顔を出し、外を眺めるシーンの可愛らしさ。サバは、仕事に追われる麻子を優しく見つめ、静かに別れを告げる。映画はサバの死から始まり、その死を受け入れ、立ち直っていく麻子の姿を描く。
 麻子が死んだサバと再会するファンタスティックなシーンも不自然ではなく、二人がともに過ごした時間のぬくもりが伝わり、暖かい気持ちになる。「グーグーが病気しませんように」と新しい愛猫の健康を祈りつつ、元気いっぱいにふるまう麻子さんの姿はすがすがしく、観る者を元気づけてくれる。
 身の回りの人や動物だけでなく、生きとし生けるものへの慈しみ、愛おしさにあふれており、映画の中の生き物達の息遣いに耳をすましてほしい。
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 TOKYO!
『TOKYO!』
〜不可思議な世界の一端をのぞきみる面白さ〜

<インテリア・デザイン>
監督・共同脚本:ミシェル・ゴンドリー
出演:藤谷文子、加瀬亮
<メルド>
監督・脚本:レオス・カラックス
出演:ドゥニ・ラヴァン、ジャン=フランソワ・バルメール
<シェイキング東京>
監督・脚本:ポン・ジュノ
出演:香川照之、蒼井優
(2008年 仏=日=韓=独 1時間50分)
9月6日公開 梅田ガーデンシネマ、シネマート心斎橋、MOVIX京都
10月上旬〜シネ・リーブル神戸

公式ホームページ→
 世界で活躍する3人の鬼才が東京を舞台に生み出したオムニバス映画。どれもまさに不条理な物語。現代日本に生きる私たちの心の光と闇を映し出す。

<インテリア・デザイン>  恋人と一緒に上京したものの、引越し先も見つからず、就職もうまくいかないヒロコ。自分に自信をなくし、誰の役にも立てないと悩んでいると、ある日、胸にぽっかりと空洞ができていることに気づく……。
<メルド> マンホールから現われた謎の男“メルド”。伸びた髭に長髪、緑色のすりきれた服。真昼間、銀座の歩道を、凄いスピードで歩きながら、通行人からすれちがいざまに花や紙幣を奪い、むしゃむしゃと食べながら突き進む。東京のあちこちに出没し、ついには渋谷の歩道橋で、手榴弾を無差別に投げはじめ、東京中の人々を恐怖に陥れる……。

<シェイキング東京> 10年間、誰とも接触せず、引きこもりを続けてきた男。ピザ配達の少女と目を合わせてしまう。その瞬間、戸惑いとときめきが男の全身を貫き、男は少女に一目惚れ。決死の覚悟の末、少女に会うため、まぶしい戸外へ踏み出す。香川照之が演じる、戸惑いながらもときめき、行動する男の表情に注目。大通りを小走りに急ぐ男の姿に心細さと力強さがないまぜになる。

 猛スピードで変化していく“東京”という巨大な都市に生きる人間の小ささ、孤独の深さを描くと同時に、一人ひとりの人間の“心”の中に秘められた、未知なる可能性を暗示する。それぞれの物語に決定的な結末はない。始まりは終わり、終わりは始まりというが如く、物語は再び東京という混沌の世界に帰っていくようだ。
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 ゲキ×シネ ツアー2008

『メタルマクベス』
ゲキ×シネ ツアー2008 全5作品
たとえば 『メタルマクベス』

〜劇団☆新感線のパワーをスクリーンで!〜

(2006年 日本 3時間21分)
演出:いのうえひでのり
脚色:宮藤官九郎
出演:内野聖陽、松たか子、森山未來 、北村有起哉、橋本じゅん、高田聖子、粟野まこと、上条恒彦
2008年9/24〜10/17 なんばパークスシネマにて特別上映

公式ホームページ→
 舞台の良さは,肌で空気を感じられるところにある。役者の息遣いが伝わってくるし,同じ空間を役者と共有している感覚が堪らない。観客は,舞台全体を視野に入れながら,自分の目と感覚で特定の場面をクローズアップにして楽しむこともできる。ただ,同じ席で同じ角度からしか観られないのが,ちょっと悔しい。だが,ゲキ×シネでは,観客席からは体験できないアングルや鮮やかなカッティングで,舞台とは違う迫力が生み出される。

『SHIROH』
 今回は,「メタルマクベス」「朧の森に棲む鬼」「SHIROH」「髑髏城の七人〜アカドクロ」「髑髏城の七人〜アオドクロ」のゲキ×シネ5作品が順次上映される。すべて劇団☆新感線の舞台であり,その座付き作家といえば中島かずきだ。最近では映画「隠し砦の三悪人」の脚色を担当していたし,新感線の中でも「阿修羅城の瞳」等のドラマ性を前面に押し出した,いわゆる”いのうえ歌舞伎”にとって欠かせない役割を果たしてきた。

『髑髏城の七人〜アオドクロ』
 5作品の中では「メタルマクベス」だけが宮藤官九郎の脚色で,SFアクション感覚の「マクベス」が生み出された。シェークスピアの世界が,2つの時代を巧みにリンクさせながら,目から鱗のスケール感で展開されていく。しかも,これを新感線特有のパワーと笑いを前面に押し出した舞台に作り上げてしまうのだから,いのうえひでのりの演出も凄い。そして演じる役者もまた凄い。内野聖陽と松たか子に森山未來…みんなが弾けている。

 舞台を基にした映像作品としては,古くからTVの録画中継等があり,最近ではシネマ歌舞伎等がある。その中で,ゲキ×シネは,単に舞台をフィルムに写し取って記録しただけのものではないし,従来の映画の概念からも大きく外れている。演劇を素材とした全く新しい映像世界だといえる。音響に関しては舞台や映画と比べて見劣りすることがなく,ライブ感が大切にされ,演じる役者の汗がかなりリアルに迫ってくるので,見応え十分だ。
(河田 充規)ページトップへ
 イントゥ・ザ・ワイルド
『イントゥ・ザ・ワイルド』
〜アメリカ映画の魂を受け継ぐショーン・ペン、渾身の生命賛歌〜

(2007年  アメリカ 2時間28分)
監督:ショーン・ペン
出演:エミール・ハーシュ、ハル・ホルブロック、キャサリン・キーナー、ジェナ・マローン、
ウィリアム・ハート、ヴィンス・ヴォーン、マーシャ・ゲイ・ハーデンほか
9/27(土)〜 TOHOシネマズ梅田、ワーナー・マイカル・シネマズ茨木、TOHOシネマズ二条、ワーナー・マイカル・シネマズ高の原、三宮シネフェニックスにてロードショー予定

2008年アカデミー賞 助演男優賞(ハル・ホルブロック)&編集賞ノミネート
公式ホームページ→
 【大学を卒業したばかりの青年クリス・マッカンドレスが放浪の旅に出る。約2年後、彼はアラスカの荒野に捨て置かれたオンボロバスの中で、彼の死体が発見された】

 クリスの足跡を、遺された手記と幾葉かの写真から辿ったのがジョン・クラカワーのノンフィクション小説『荒野へ』(集英社・刊)だ。  一見、何不自由なく育ったように見える有能な若者は、生まれて初めて自らの決断によって踏み出したその歩みの先に何を見、何を考えたのか?
  監督を務めたショーン・ペンは、この原作を一読し、即座に映画化権獲得に向けて動き出したという。現代アメリカ映画界が誇る最高の名優にして、孤高の映画作家の一人である彼は、この原作のどこに惹かれたのだろう? それは、物質文明を否定して自然主義に目覚める青年の意志か? はたまた、放浪の果てに人知れず息絶えた若者の姿か? 否、そのどちらでもない。
 突然の鉄砲水、カヌーでの急流下り、荒山の頂から見下ろす光景、雪に覆われたアラスカの大地、熊・兎・鹿といった動物たち、天に向かって育つ木々や草花、そして燦々と輝く太陽…… 

  本作におけるクリスの役割は語り部だ。彼が目にしたアメリカの大自然こそが真の主人公である。『イントゥ・ザ・ワイルド(野性の中へ)』というタイトルの通り、クリスは大自然に抱かれ、その中で歓びを見出していく。その歓びは全く予期しなかった<死>によって無残に断ち切られるのだが、本作は<死の不幸>を殊更に見詰めるのではなく、ひたすらに<生の輝き>をこそ訴えている。そのことは、ラストで示される一葉の写真からも明らかだ。その写真に収められているのは、死の予感など全く感じられない微笑みに満ちたクリスの表情。これこそ、今まさに<生>を謳歌している若者の姿に他ならない。
 枯れた味わいの傑作を生み出し続けて来たショーン・ペンが、ここに来て生の瑞々しさに満ちた何とも素晴らしいロード・ムービーを撮り上げたわけだが、その作品群は<アウトロー>という共通項でしっかりと地続きとなっている。その証拠に、本作中にも、ショーン・ペンが敬愛して止まないアメリカ映画界のアウトロー:クリント・イーストウッドの影響がさりげなく盛り込まれている。
 アメリカン・ニューシネマの伝統を真っ直ぐに受け継ぐショーン・ペン渾身の生命賛歌。紛れもない傑作である。決して見逃して欲しくない1作だ。
(喜多 匡希)ページトップへ
 パコと魔法の絵本 (中西バージョン)
『パコと魔法の絵本』
〜大人も子供も笑って泣けるワンダー・ランドへようこそ〜

(2008・日本/1時間45分)
監督 中島哲也
出演 役所広司 アヤカ・ウィルソン 妻夫木聡 土屋アンナ 阿倍サダヲ 加瀬亮
9月13日(土)〜TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、アポロシネマ8、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸

公式ホームページ→
 本作の映像は斬新を超えて革命だ。大袈裟でも何でもなくこんな映画始めて観た!
舞台は医者も患者も変わり者ばかり集まる病院。イジワルで嫌われ者のジジイ・大貫が、1日しか記憶のもたない少女・パコのために、彼女がいつも読んでいる絵本『ガマ王子vsザリガニ魔人』を病院のみんなで上演しようと提案。その準備に向け奮闘する姿を3DCGと実写の融合でリアルかつ幻想的に描く。
 わがまま人生を省みる絵本の中のガマ王子と大貫の姿をリンクさせ、誰かのためを思う気持ちが芽生えたとき、本当の優しさと勇気を手に入れることが出来ると説いた物語は感動的で誰の胸にもストレートに届く。
 そんな感動を極彩色の映像で包み込んだ演出に負けず劣らず圧巻なのが、大貫役の役所広司を初めとする豪華俳優たちだ。役所の泣きの熱演には舌を巻き、判別不能の特殊メイクを施され「ブゲゲゲ!」と叫ぶ小池栄子、いつにもましてエンジン全開の阿倍サダヲの笑いに徹する突き抜けぶりにはプロ魂を見た。でも、一番の注目はやっぱりパコ役のアヤカ・ウィルソンの天才子役ぶりだろう。可愛さも演技力もハンパじゃない。大人をおとぎの国に連れて行く天使のように無垢なパコをぜひ大スクリーンで!
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 デイ・オブ・ザ・デッド
『デイ・オブ・ザ・デッド』
〜ゾンビ・ホラーの金字塔『死霊のえじき』、ここに新生!〜

(2008年  アメリカ 1時間25分 R-15指定作品)
監督:スティーヴ・マイナー
原案:ジョージ・A・ロメロ作品『死霊のえじき』
出演:ミーナ・スヴァーリ、ニック・キャノン、ヴィング・レイムス、マイケル・ウェルチ、ほか
8/30(土)〜 東京:シアターN渋谷、銀座シネパトス
9/13(土)〜 大阪:敷島シネポップ
そのほか、全国順次公開予定ほか全国順次ロードショー

公式ホームページ→
  『バイオハザード』(3部作)、『28日後…』『28週後』『プラネット・テラー in グラインドハウス』『アイ・アム・レジェンド』など、ここに挙げた作品はいずれもゾンビ映画である。ゾンビはしぶとい。映画の中に登場するゾンビもだが、それ以上に、ゾンビ映画そのものがしぶといと感じる。1970&80年代に巻き起こったスプラッター・ホラー・ブームが下火となった現在でも、ゾンビ映画はコンスタントに公開・ソフトリリースが行われている。
 ゾンビ映画には70年以上の歴史があるが、そのイメージを決定的なものとしたのはジョージ・A・ロメロ監督による<ゾンビ・サーガ>だ。

・『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年 訳題『生ける死者たちの夜』)
・『ゾンビ』(1978年 訳題『死者たちの夜明け』)
・『死霊のえじき』(1985年 訳題『死者たちの日』)
・『ランド・オブ・ザ・デッド』(2005年 訳題『死者の国』)
 20年振りに発表された4作目を除いた3作品を<ロメロ・ゾンビ3部作>と呼ぶが、2000年代に入ってから、1作目が『超立体映画 ゾンビ3D』として、2作目が『ドーン・オブ・ザ・デッド』としてリメイクされており、本作は3作目のリメイクとなる。

 オリジナル版では、ゾンビが地上に溢れかえった終末世界を舞台に、地下基地に避難した少数の軍人と科学者の対立を軸としたドラマが繰り広げられた。しかし、本作はゾンビ・ウイルスの漏出によって危機に陥ったコロラド州の田舎町を舞台としたサバイバル・ホラーとなっており、オリジナル版のファンも全く新しい作品として鑑賞できるのが嬉しいところ。
 ただし、スティーヴ・マイナー監督の演出は良くも悪くもオーソドックスなもので、この手の作品のファンならばニンマリできる箇所が多々あるのだが、全体的には、よくあるB級ホラーの域を出ない。とはいえ、全速力で疾走するゾンビやベジタリアン・ゾンビは新世紀らしい味付けで、見どころの一つではある。また、今秋には本家ロメロのゾンビ・シリーズ第5弾『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』(2007年 11月日本公開予定)が公開されるため、その予習にもなる。ゾンビ映画ファンなら見逃す手は無い!
(喜多 匡希)ページトップへ
 おくりびと (原田バージョン)
『おくりびと』
〜こんなにヒューマンな作品、ずっーと待ってました!〜

監督:滝田洋二郎 (2008 日本 2時10分)
出演:本木雅弘、広末涼子、山崎努、余貴美子
9/13〜梅田ピカデリー、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他

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 「納棺」―遺体の身づくろいを整え棺に納めるその技は、残された者の気持ちにも確かに寄り添うことのできる、まさに人間味溢れる芸術。これに魅せられた本木の発案から約10年、涙あり笑いありのエンターテイメント作品が誕生した。
 リストラされ、田舎・山形に戻ってきた元チェロ奏者の大悟。求人広告のチョッとした誤植から納棺師として働くことに! 彼を待っていたのは、百人百様の別れ。妻にも幼馴染みにも非難され特殊な世界に戸惑いながらも、ベテラン納棺師らに支えられ、次第に信念と誇りを持つようになる。妻の懐妊、幼馴染みの母親の死、さらには恋人と駆け落ちし30年間行方知れずだった父親の死、冬から春への季節の移ろいと共に大悟の周りにも大きな変化が訪れて・・・。
 笑いを誘う、飄々としたコミカルな演技が命。もう一つ印象的なのは、言葉にならない思いが「声なき声」として、大きな存在感を放っていること。石で思いを伝える「石文」という粋なエピソードや、チェロの音色を主体とした久石譲の音楽が個性と深みを与えている。
納棺の儀式が、生死を越えた人と人との繋がりを浮かび上がらせる時、「死」は「生」の延長線なのだと腑に落ちる気がするのだ。
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 ウォンテッド
『ウォンテッド』
〜斬新なビジュアル・センスに圧倒される〜

(2008年 アメリカ 1時間50分)
監督:ティムール・ベクマンベトフ
出演:ジェームズ・マカヴォイ、モーガン・フリーマン、アンジェリーナ・ジョリー、テレンス・スタンプ

9/20(土)〜TOHOシネマズ梅田他全国ロードショー
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 ロシア映画「ナイトウォッチ」は,光の世界と闇の世界のバランスを保とうとする監視人の戦いを描いた作品で,制作費420万ドルの低予算ながら,視覚的には目を見張るものがあり,興行的にも成功したようだ。そのため,次作「デイ・ウォッチ」は,予算が大幅にアップし,視覚効果がグレードアップして見応えのある作品に仕上がっていた。これらの作品を生み出したティムール・ベクマンベトフ監督の新作がアメリカからやってきた。
 冒頭からいきなりテンションの高いアクションシーンが展開する。ある男がビルの廊下をダッシュして窓を突き破り,別のビルの屋上に着地する。その男の身体を貫いた弾丸が時間を遡り,発射された銃の中に収まっていく。こうして,撃った男と撃たれた男,そのときの状況が手際よく示される。また,謎の女性フォックスが展開するカーチェイスにも驚かされた。自動車がまるで彼女の身体の一部であるかのように華麗に動き回っている。
 主人公ウェスリーは,ある日突然,父親が暗殺者だったことを知らされ,自らも暗殺者としての能力を開花させるための特訓を受ける。中でも,意思の力で弾道を曲げる能力があるという点が特徴的だ。彼が初めて暗殺を実行するシーンは工夫が凝らされている。正に標的に向けて銃弾を発射しようとしたとき,突然過去のシーンに遡り,再び暗殺現場に戻るのだが,その妙味に富む描写には魅せられる。その後の展開にも手に汗を握らされる。
 システマティックで均整の取れたスタイルにこだわると,架空のゲーム感覚になってしまう。だが,この監督の前2作は,遠い過去から現在に至るまでの人間社会の明暗を投影したような感覚を漂わせていた。本作でも,過去から続く暗殺組織の様子が描かれる。しかも,舞台の設定はシカゴだが,実際にはプラハで撮影されたという。その歴史的な雰囲気が映像に反映されているようで,時空を限定しない広がりと奥行きのある作品となった。
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 蛇にピアス
『蛇にピアス』
〜特異な世界の哀しみと寂しさの先には…〜

(2008年 日本 2時間03分 R−15)
監督:蜷川幸雄
出演:吉高由里子、良健吾、ARATA
9月20日(土)〜シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 他全国ロードショー
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 吉高由里子が「きみの友だち」のハナとは全く違ったキャラクターを演じきる。本作の主人公・19歳のルイは,アマ(高良健吾)と出会ったことから舌にピアスをし,背中に龍と麒麟の刺青を入れる。痛みを伴う身体改造によってのみ自分の存在を実感できることの哀しみが浮かび上がる。また,本当に愛するものを失って初めてその存在の大きさを実感できることの寂しさが漂ってくる。舌ピ,刺青にSMと引いてしまいそうな世界が描かれるが,その先には純愛の輝きが見えてくる。
 本作は,原作に忠実な展開で,ルイの一人称で貫かれているし,セリフもほとんど原作のとおりだ。そのため,彼女が感じる痛みや何とも言えない脱力感などが直截に伝わってくる。原作に描かれた世界と,これまで蜷川幸雄の舞台を観た印象から,かなり濃厚な映画になっているのではないかと思ったが,意外とあっさりしていた。かえって娘の蜷川実花が監督した方が濃厚になったかも知れない。
 また,藤原竜也,唐沢寿明,小栗旬といった蜷川幸雄の舞台でお馴染みの人たちがどんな役柄で登場するのかも楽しみの一つだ。特に,TV画面に映された藤原竜也の顔写真の表情は,彼が「カメレオン」で俊敏に動き回る精悍な姿を見せていただけに,その大きな落差に思わず笑ってしまう。唐沢寿明も,ルイが初めてアマの本名を知ることになる重要なシーンで,何とも言えない表情で登場する。
 ともあれ,製作本数は多いけれど,質的にイマイチの日本映画の中で,本作が見逃せない1本であることは否定できないだろう。冒頭では,原作にないシーンが描かれており,ルイの視線から見た渋谷の風景が音のない世界として映し出される。ルイの世間との隔絶感が端的に示される。このシーンが加わることにより,その後のルイの哀しみや純愛の輝きが一層鮮明なものとなった。このように原作の持つ空気感を的確に舞台や映像に反映させる感性や手腕は,さすが世界のニナガワだ。
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 言えない秘密
『言えない秘密』
〜「二度と会えなくても秘密を伝えたい」〜


(2007年 台湾 1時間42分)
監督・脚本・音楽:ジェイ・チョウ
出演:ジェイ・チョウ、グイ・ルンメイ、アンソニー・ウォン、アリス・ツォン
8/23(土)〜新宿武蔵野館他全国順次ロードショー
9/13(土)〜テアトル梅田、MOVIX京都、シネカノン神戸

公式ホームページ→
 オープニングからしばらくは,何の変哲もなさそうな青春時代の恋愛ストーリーの様相を見せている。だが,そこに張り巡らされた伏線を見逃してはならない。舞台が音楽学校であるため,ジェイ・チョウのピアノ演奏を堪能することもできる。ピアノ・バトルのシーンは聞き応え十分だ。彼の扮する主人公シャンルンが持つピアノの秀でた技巧は,ラストに繋がる最も重要な伏線となっている。初監督作とは思えないほどの完成度の高さだ。
 また,ジェイ・チョウのファンでなくても,彼のダンスシーンは必見だ。ここにも秘密が隠されている。そして,文字通り「秘密(Secret)」という表題の付された楽譜が小道具として重要な役割を果たす。その楽譜には,シャオユーがシャンルン宛に「二度と会えなくても秘密を伝えたい」という書き込みを残していた。その言葉の重さが後になってズシリと響いてくる。プロットは珍しくなくても,その見せ方が実に巧みで,大いに魅せられる。
 本作は,すべてが一人称で描かれている。シャンルンが見聞きしたものによって構成されている。そして,彼が恋に落ちる相手シャオユーにはグイ・ルンメイが扮しており,彼女の笑顔が実に美しくスクリーンに映える。観客は,このシャンルンの主観を彼と同時に体験する。だが,それと同時に,一歩引いた観客の視線から見ると,シャオユーの存在が何となく不確かなものに感じられる。この微妙な違和感を描き出した手腕が素晴らしい。
 観客は,シャンルンと全く同じように幸せを感じ,落胆したり驚いたりする。やがてストーリーが大きく展開し始めると,後は一気呵成に音楽と映像のめくるめく世界に放り込まれる。それまでの蕾が目の前でどんどん大きく花開いていくような感覚は,実に爽快だ。そして,取り壊されていく音楽室の中でピアノを弾くシャンルンにエールを送らざるを得なくなる。1999年と1979年という2つの時間が20年という隔たりを超えて交わっていく。
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♪♪ ピアノ王子VSアジアのスーパースター ♪♪

  イケメンピアニスト・外山啓介と

  台湾が生んだ天才アーティスト、ジェイ・チョウが

  『言えない秘密』試写会イベントで夢の競演!?


    8/18(月)18:30〜そごう劇場
    本編上映前に「ピアノ王子」こと外山啓介さん(ピアニスト)によるミニコンサートが開催されます♪
    詳細は公式ホームページをご覧ください→

 コレラの時代の愛
『コレラの時代の愛』
〜幻覚と現実の狭間に浮かぶ純愛に魅了されて…〜


(2007年 アメリカ 2時間17分)
監督:マイク・ニューウェル
出演:ハビエル・バルデム、ジョヴァンナ・メッツォジョルノ、ベンジャミン・ブラット
8/9(土)〜シャンテシネ、Bunkanmuraル・シネマ 他全国順次ロードショー
9/13(土)〜TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズ二条、9/27〜シネカノン神戸

公式ホームページ→
 ギリシア神話に基づく愛の物語「黒いオルフェ」(1959・仏)や「オルフェ」(1999・ブラジル)で描かれたリオのカーニバルの熱気を思い出す。南米特有のダイナミックな色彩が鮮烈で,熱を帯びて揺らめく空気が画面から流れ出てくる。そんな風景の中で,大きな河の上にどっしりと腰を据えた船が映し出されたとき,19世紀末のペルーを舞台とした「フィツカラルド」(1982・西独)の非現実的な世界へと向かう旅が脳裏に浮かび上がる。
 本作の舞台はコロンビアのカルタヘナ。19世紀から20世紀にかけて生きた,一人の男のあり得ない人生を現実感たっぷりに描き上げている。この世の人間社会には存在しない極端なまでに純化された愛に身も心も捧げた男の一生が,スクリーンから漂ってくる南米の気怠さの中に,確かに実在している。コレラという熱病が蔓延した時代だからこそ,76歳の男の72歳の女に対する純愛がゆらゆらと揺らめく空気の中で説得力を持ち得るのだろう。
 愛は幻想であり,愛がなくても幸せになれる。結婚とは愛ではなく安定である。そうだとすると,女は,心変わりしたのではなく,現実に目覚めたのだ。ただ,その瞬間が愛に生きる男にとって余りにも残酷だった。フェルミーナはフロレンティーノと再会するや,その姿に愛の非現実性を見てしまい,安定を求めてフベナルとの結婚を選択する。しかし,冒頭で描かれた彼の死は,決して威厳に満ちたものではなく,かえって滑稽でさえある。夢を見れない人への皮肉のように思えてくる。
 本作は,ガブリエル・ガルシア=マルケスの同名小説に基づく映画であり,壮大な幻想,あるいは妄想とも言えるラブ・ストーリーだ。摩訶不思議な幻覚を見ているような気分に襲われる映像や音楽にもかかわらず,決して現実離れしたファンタジーではない。朽ちる寸前の果実のように豊潤な愛が,コロンビアの歴史的な現実の中で生きる人々を背景として,リアリスティックに丹念に描き上げられる。
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 落下の王国
『落下の王国』
〜手作り感覚の不思議な映像美を楽しもう〜


(2006年 アメリカ 1時間58分)
監督・脚本:ターセム
出演:リー・ペイス、カティンカ・アンタルー、ジャスティン・ワデル、ダニエル・カルタジローン
9/6(土)〜シネスイッチ銀座、渋谷アミューズCQN 他順次ロードショー
関西では、9/27(土)〜梅田ガーデンシネマ、敷島シネポップ、TOHOシネマズ二条、近日〜シネカノン神戸にて公開

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 昔々,ロサンゼルス。スタントマンの青年が映画の撮影中にけがをして入院する。彼は,恋人を主演男優に奪われ,自暴自棄になっていた。そんな彼が,腕を骨折して入院中の5歳の少女に”愛と復讐の叙事詩”を語り始める。青年が即興的に創り出した物語であるため,現実が投影されている。一人二役で,たとえば,敵役の総督オウディアスが青年から恋人を奪った男優と同一人物だ。物語の後半になると,少女自身も物語の中に登場する。
 本作は,世界遺産13か所,24か国以上でロケ撮影されたそうだ。エッフェル塔や万里の長城がほんの一瞬だけ映し出されるなど,実に贅沢な感じがする。だが,長い歴史を投影したような重々しさは全くない。影絵を見ているような錯覚に捕らわれる思いがしたり,アニメのような雰囲気に包まれたり,これまで体験したことのない映像感覚に驚かされる。しかも,時空を超えた不思議な立体感があり,現実世界の中にしっかりとファンタジーが息づいているという心地良さが残る映画である。
 主なロケ地は,南アフリカ,その北西に位置するナミビアのナミブ砂漠,インドの北部とアンダマンニコバル諸島,そして,リゾート地として人気のバリとフィジーだそうだ。象が泳ぐシーンでは,水の創り出す色彩が美しく映え,象のシルエットに何とも不思議な生き物を見ている錯覚を覚える。その他,エンドレスに続く錯視図のような階段,北京オリンピックの開会式にも参画した石岡瑛子の衣装デザインなど,視覚的に大いに楽しめる。
 何よりも感銘を受けるのは,創作が単なる幻想に終わってしまうことなく,その中に現実が投影され,逆に幻想が現実を変えていくという感覚だ。現実と幻想が融合するだけではなく,そこから一歩進んで現実が変化していく。ラストでコラージュのように示される映像(映画のシーン)を見ていると,心の持ちようによって人生を変えることができるのだと感じて,何だか生きる勇気が湧いてくる。
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 シャカリキ!
『シャカリキ!』
〜<坂>に込められた意味と、努力と協調の尊さと〜

(2008年 日本 1時間46分)
監督:大野伸介
出演:遠藤雄弥、中村優一、鈴木裕樹、小林裕吉、小柳友、池田哲哉、坂本真、柄本明、中越典子、中井美穂、温水洋一、津田寛治、原田泰造 他
9/6(土)〜 TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸、109シネマズHAT神戸、ほかにてロードショー

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 自転車ロードレースに材を採った曽田正人の同名マンガを原作とした青春スポ根映画の快作だ。決して作り込んだ上手さを感じさせるわけではなく、むしろ若干の硬さを感じさせもするのだが、ポイントをきっちり押さえた丁寧な作りに好感を持った。ストレートかつ丁寧に描かれた脚本に、演出と演技が正面から挑んでいる。ここにある素直さが、型通りと思える物語を求心力のあるものにしている。決して気負わせることなく、観客の望んでいるものをきっちりと差し出してくれるのが嬉しく、その直球振りがまた微笑ましい。技巧に頼ることなくハートで勝負している点が、青春期の若い肉体と精神を通した明朗快活さにぴったりで、実に健康的。こういった作品を鑑賞するとホッとする。爽快、痛快!
 【負けん気の強い男子高校生テルが、ひょんなことから廃部寸前の自転車部に入部することになる】という展開はオーソドックスなもので新味はないが、万人をスンナリと引き込む語り口にすっかりノセられた。正攻法の演出の中で綴られる青春模様。苦い挫折を経験した後の努力と根性。そこには大切なものがギュッと詰まっているからこそ本作は清々しい。 
 「坂やっ!!」 
上り坂を見止める度に自信満々の表情を見せるテル。上り坂には絶対の自信を持つ彼だが、上には上がいる。勝てない。そこで輝く<仲間>という存在が、協調することの大切さを力強く物語る。
ここにあるメッセージは、「人生で上り坂(=壁・障壁)にぶち当たっても仲間と共にシャカリキになって頑張れば絶対にやり遂げられる!」というもの。このわかりやすさ・熱さ・素直さは大いに讃えたい。
若さ溢れる肉体が演技の固さをカバーしている若手俳優陣と、自転車部監督に扮して驚くほど頼もしい原田泰三の好演にも注目していただきたい。
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