砂時計 |
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『砂時計』
〜もどかしく切ない恋を描いた、人気少女コミックを映画化〜
監督:佐藤信介 (2008年 日本 2時間1分)
出演:松下奈緒、夏帆、井坂俊哉、池松壮亮、戸田菜穂、藤村志保
4/26〜 TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ伊丹
他
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芦原妃名子による、シリーズ累計600万部突破の人気漫画を映画化したのが、本作『砂時計』。4人の男女が歩む12年間を、ヒロインの初恋の行方を軸に描いた“究極の純愛物語”だ。 |
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両親の離婚で東京から母の故郷、島根にやって来た14歳の杏は、近所に住む同い年の大悟、藤、藤の妹・椎香と打ち解け、田舎の暮らしにもなじんでいく。だがある日、人生に疲れ果てた杏の母が自殺。母の異変に気付きながらも、何もできなかった自責の念と、孤独感に押し潰されそうになる杏。そんなとき、彼女を支えてくれたのは大悟だった。やがて、2人は付き合うようになるが…。 |
多感な年頃に母を自殺で亡くした杏は、“大好きな人が突然いなくなってしまう”恐怖に怯え、自分の存在が大切な人を苦しめているのでは…と思い悩むようになる。大悟が側にいるのに、不思議と彼女が1人に見える瞬間さえあるのは、喪失感の中に埋もれたままの杏が、無意識の内に周りの世界をシャットアウトしているからだろう。少女時代の杏を演じる夏帆は、その繊細さをふとした表情の中に見事に浮かび上がらせ、彼女を“ほっとけない”大悟や藤の男心にも思わず納得してしまう。 |
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また、舞台である島根の温かい方言の響きも本作の魅力のひとつで、標準語だとむずがゆくなりそうな台詞も、すんなりと受け入れられる。中でも大悟が杏に言う「ずっと一緒におっちゃるけん」は、女性ならばノックアウトされること必至の、“言われてみたい度No.1”な言葉だ。
好きだからこそ自ら相手を遠ざけてしまったり、本当の気持ちを伝えられずにすれ違ってしまう。けれど、逆さまにすると“過去が未来に変わる”砂時計のように、やり直せることだってある。お互いを想い合いながらも、一度はその手を離してしまった杏と大悟の恋の結末が、それを物語っている。 |
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紀元前1万年 |
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『紀元前1万年』
〜驚異のアドベンチャーワールドにようこそ!〜
(2008年 アメリカ 1時間49分)
監督:ローランド・エメリッヒ
出演:スティーブン・ストレイト、カミーラ・ベル、クリフ・カーティス
4/26(土)〜梅田ピカデリー、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他全国ロードショー
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紀元前1万年――人類が文明を生み出す前の先史時代を描いた作品。だが、「これは歴史のレッスンではない。叙事詩的かつ神話的なスペクタクル・エンタテインメント作品だ。」と監督自身も言っている通り、史実に忠実に創られたわけではないので、あくまでもフィクションとして楽しんでほしい。そして、劇中登場するピラミッドのような建造物は当時存在していなかったとしても、マンモスやサーベルタイガーは生息していたらしい。タイムマシーンでもなければ見ることができない紀元前1万年という世界を、最新のCGを駆使して甦らせた紀元前1万年の映像は、我々の想像を絶するものがある。特に、ネイチャームービーファンならワクワクするような驚異的映像にご注目!
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シャーマンが支配する山の民のデレー(スティーブン・ストレイト)は、残忍な襲撃者達に誘拐された運命の女・エバレット(カミーラ・ベル)と村人達を救おうと、未知の世界へと飛び込んでいく。だが、その行く手には、どう猛な生き物が生息するジャングルがあり、荒涼とした砂漠が広がり、他の民族との出会いがあった。そして、試練の果てに辿り着いた場所は、正体不明の“神”が支配するところだった。果たしてデレーは、シャーマンの予言通りエバレットと一緒に新しい時代を築けるのか? |
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ローランド・エメリッヒ監督は、これまでも『スターゲイト』『インデペンデンス・デイ』『GODZILLA/ゴジラ』『デイ・アフター・トゥモロー』などで、想像を遙かに超える世界をダイナミックに見せてくれた。今回は、視覚効果だけでなく、ロケ地にもこだわった原始の壮大な風景もみどころとなっている。山の風景はニュージーランド南島の海抜1500メートルほどにあるワイオラウ・スノー・ファームで、ジャングルの風景は南アフリカのケープタウンで、砂漠の風景はスタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』でも撮影されたナミビア南西に広がるスピッツコップで、それぞれ撮影された。 |
また、この映画の面白い点は、白人系と黒人系が登場するところだ。舞台を特定していないので、主人公のデレーがヨーロッパ人種かどうかは不明だが、その足取りのコースを考えると様々な人類の軌跡を辿っているようにも思えて、興味が尽きない。いろんな意味で、観客の想像をかき立てるアドベンチャー映画だ。是非、大きなスクリーンで、あなた自身で冒険の旅をお楽しみください。 |
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スパイダーウィックの謎 |
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『スパイダーウィックの謎』 (SPIDERWICK
CHRONICLES)
〜こんな妖精見たことない!
ユニークでミステリアスな“別世界”へようこそ〜
監督:マーク・ウォーターズ (年1時間36分)
出演:フレディ・ハイモア、サラ・ボルジャー、メアリー・ルイーズ・パーカー
4/26〜 上映劇場 TOHOシネマズ梅田、梅田ブルク7、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸
他
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目に見えない“イタズラ”に好奇心を刺激されたこと、誰もがあるのでは?本作でその“正体”に出会ったとき、大人になって閉じていた心の「瞳」が再び開く!
森の屋敷に、母親と姉弟と共に引っ越してきた少年・ジャレッドは「決して読んではならない」と警告された謎の本を見つける。そこに記されていたのは、様々な<妖精たちの秘密>。やがて、彼の身に次々と不思議な出来事が起こり始め…。 |
愛嬌たっぷりのものから、醜悪で凶暴なものまで、登場する妖精たちの何が飛び出すか分からない“びっくり箱”的な魅力に、思わず心が弾む。そして“戦い”を通じて成長を遂げる少年とその家族の姿は、人生への「冒険心」をも思い起こさせてくれる。 |
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アイム・ノット・ゼア |
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『アイム・ノット・ゼア』 (I’M NOT THERE)
〜6人の俳優による贅沢なボブ・ディラン物語〜
(2007年 アメリカ 2時間16分)
監督:トッド・ヘインズ
出演:クリスチャン・ベイル、ケイト・ブランシェット、ヒース・レジャー、リチャード・ギア 4/26〜梅田ガーデンシネマ/シネマート心斎橋/京都シネマ/シネカノン神戸にて公開
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1962年の歌手デビュー以来、世界のポップカルチャーに影響を与え続けカリスマ的存在となっているボブ・ディラン。その謎めいた人物像に迫ろうと、詩人、放浪者、牧師、映画俳優、ロックスター、アウトローと名前も時代も違うキャラクターをディランの人生にオーバーラップさせて描いた大変ユニークな作品だ。 |
そこから見えてくるものは、社会のひずみであり、スターとしての苦悩であり、人間としての葛藤である。常に時代を反映させてきた彼の歌は、今を生きる私達の心にも何かを問いかけているようだ。
しびれる程クールなK・ブランシェットの男装。そして、今年1月夭逝したヒース・レジャーの雄姿に、改めて哀惜の念がこみ上げる。 |
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少林少女 |
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『少林少女』
〜闘いの後の仲村トオルの表情は、見逃すな!〜
(2008年 日本 1時間47分)
監督:本広克行
出演:柴咲コウ、仲村トオル、キティ・チャン、ティン・カイマン、ラム・チーチョン、岡村隆史、江口洋介 4月26日〜TOHOシネマズ梅田他全国東宝系ロードショー
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柴咲コウは,「黄泉がえり」では,隠れた主役RUIとなって「月のしずく」を歌い上げ,観客の心を振るわせ,次の「着信アリ」のラストで見せた笑顔があの映画の中では一番怖かった。また,「メゾン・ド・ヒミコ」ではゲイの父やその周囲の人たちと接して身も心も美しくなるOLに扮し,「どろろ」では,彼女のはじけた演技がリアル感を生み出してドラマを支えていた。本作では,文字通り「少林少女」として,少林拳の心を体得していく主人公を好演しているのはもちろん,見事な少林拳のアクションで魅せてくれる。 |
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彼女が扮するのは,中国で3000日にわたる少林拳の修行を終えた少女・凜。日本に戻って少林拳を広めようと意気込むが,なぜかラクロスをすることになり,突出したプレーで一人浮いてしまう。また,彼女は,計り知れない気の力を秘めており,少林拳の心を修得して力をコントロールできなければ,闘いの世界に引き込まれてしまうそうだ。そんな彼女がチームワークと少林拳の心を身に付けていく様子が描かれていく。…この2つの関連が最後までよく分からなかったが…。そして何と,エンディングでは,彼女のラクロスのチームが「TIME」の表紙を飾っていた。 |
一方,悪役は,大場という仲村トオル扮する人物で,最強を求めて闘いを繰り返してきたという設定だ。この悪の造形が今一つで,薄暗い照明で胡散臭さを表現しようとしたようだが,余りにも安直で,不気味さが全く感じられない。クライマックスでは破天荒に突き抜けた闘いが展開されるのに,悪の魅力が乏しいのでカタルシスが得られないのが残念だ。ここではストーリーを忘れ,凛と大場との究極の闘いを描いた映像パワーに没頭して楽しむのが賢明だろう。「ドラゴンボール」の実写版を観ているような感覚で楽しめる。 |
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ところで,少林拳をやるのと引換えに凜をラクロスに誘うaaにキティ・チャン(張雨綺)が扮している。本作では,柴咲コウと並んで少林拳をやるシーンで,彼女のフォームの美しさの引き立て役になっているが,今後が楽しみな女優だ。2008年6月には「長江七号(ミラクル7号)」の公開が予定されており,その次にはツイ・ハーク(徐克)監督のコメディタッチの新作「女人不壊」に出演し,抜群の美貌とセクシーさを武器に世間を渡り歩く,野心に満ちた女性を演じるそうだ。一方,柴咲コウの次回作は,TVドラマ「ガリレオ」の劇場版「容疑者Xの献身」だ。 |
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裸足のギボン |
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『裸足のギボン』
〜大好きな母のために走る。実話から生まれた感動のドラマ〜
(2006年 韓国 1時間40分)
監督:クォン・スギョン
出演:シン・ヒョンジュン キム・スミ イム・ハリョン 4月12日〜シネマート心斎橋、布施ラインシネマ
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のどかな田舎のタンレイ村に住むギボンは、幼い頃の熱病がもとで、年齢は40歳だが、知能は8歳で止まったまま。年老いた母親と二人暮らしの彼は、村人の下働きをして生活を支えていた。ある日、ひょんなことから村のマラソン大会に参加したギボンが入賞。その才能に目をつけた村長は、ギボンを全国アマチュアハーフマラソンに出場させようと考える。優勝すれば賞金がもらえると知ったギボンは、歯が悪い母親に入れ歯を贈ろうと、特訓を始めるのだが…。
実話をもとに、母と子の絆をシンプルかつ丁寧に綴った物語だが、もっと単純に“人間同士の繋がり”を描いているとも言える。中でも、ギボンの行きつけの写真屋さんで働く女性との交流は微笑ましく、優しい気持ちにさせられる。
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また、歯が悪い母親に入れ歯を買ってあげたい一心で練習に励むギボンの姿に、“再選狙い”で自らギボンのトレーナーをかって出たはずの村長が心を打たれ、本気でサポートしていく様子も、人と人とが“無償”で繋がる感動的な瞬間だ。そんな村長の息子は昔からギボンをからかっている、ろくでなし。仲の良いギボン母子と対照的に描かれる、ぎくしゃくした村長父子の関係は修復されるのか?ギボンが母親をおんぶする場面がその伏線となっているので、注目してほしい。 |
天真爛漫なギボンを演じるのはドラマ「天国の階段」で日本でも多くのファンを獲得したシン・ヒョンジュン。彼がこれまで演じてきた役柄からすると(『銀杏のベッド』の報われない恋に身を焦がす将軍や、『ガン&トークス』のクールな殺し屋など)、かなり思い切った“イメチェン”のように思えるが、いきいきとした笑顔が新鮮で、ぶっきらぼうだけど温かい母親役のキム・スミとのコンビネーションもばっちり。まるで本当の親子のようだ。
いつも側にいてくれて、どんな自分でも受け止めてくれる母親という存在。永遠のように感じてしまうその温もりとも、いつかは別れなければならない。ギボンにとって“走る”ということは、一人で生きていくためのスタートを切ることでもあったのかもしれない。
当たり前だったものがなくなる“覚悟”は前もってできるものではない。だからこそ、何気ない日常さえも大切にしなければならないと、素直に感じさせてくれる作品だ。 |
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名探偵コナン 戦慄の楽譜(フルスコア) |
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『名探偵コナン 戦慄の楽譜〈フルスコア〉』
〜クラシックブームの中,1度は観たい“名探偵コナン”〜
(2008年 日本 1時間55分)
監督:山本泰一郎
声の出演:高山みなみ、毛利蘭、山崎和佳奈 【2008年4月19日(土)全国東宝系ロードショー】
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人気アニメシリーズ・名探偵コナンは,1997年から毎年一本ずつ制作され,今年で第12作になる。しかも,毎年コンスタントに日本映画興行収入の上位を占めるヒット作だ。もっとも,2004年の第8作以降は,ファンの間でも内容的にイマイチだと言われているようで,興行収入でも5位,11位,10位,10位とやや低迷していた。ところが,本作は,本格推理ミステリーとして完成度が高い。ファンはもちろん,これまでコナンに縁がなかった人も,毎年恒例のコナンシリーズに参加する絶好のチャンスだ。人生初体験でも,冒頭でコナンを始めシリーズの登場人物が紹介されるので,予備知識を仕入れなくても大丈夫だ。 |
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本作は,いきなり堂本音楽ホールのレッスン室が爆発するシーンから始まる。このホールには大きなパイプオルガンが設置されていた。パイプオルガンは,パイプの中に一定の空気を流すことで音を出すものだ。この仕組みがクライマックスで絶対音感とも絡めて巧く使われている。ピアニストからパイプオルガン奏者に転向した堂本一輝,彼の専属のピアノ調律師だった譜和匠,絶対音感を持つソプラノ歌手の秋庭怜子らが登場し,誰が何の目的で完成したばかりの音楽ホールを爆破したのか,秋庭怜子が何度も狙われるのはどうしてかなどといったナゾが重ねられていく。 |
音楽の関係では,ソプラノ歌手の千草ららの歌の部分を担当しているのが木村聡子だ。ちなみに,彼女は,ディズニー映画「魔法にかけられて」の主人公ジゼルの歌と台詞の吹き替えを担当している。そして何より,本作の主題歌「翼を広げて」は十分聴き応えがある。坂井泉水が1993年に歌詞を提供したDEENの2ndシングルを,ZARDがセルフカバーしたものだ。ZARDの楽曲は,第9作「水平線上の陰謀」の主題歌「夏を待つセイル(帆)のように」のほか,TVアニメのオープニングやエンディングのテーマでも使われてきた。彼女は残念ながら2007年5月に40歳で亡くなったが,その歌声が消えることは決してない。 |
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脚本に古内一成が復帰したからだろうか,クラシックを道具としてサスペンスを盛り上げていくストーリー展開が冴えている。クライマックスでは,1000人以上の観客のいる音楽ホールでコンサートが開催されているが,その会場への出入りが犯人によって封じられてしまう。そして,ホール全体が賛美歌「アメージング・グレイス」の美しい旋律に包まれ,戦慄のクライマックスを迎えるのだ。この曲は工藤新一と毛利蘭の中学時代のエピソードにも絡んでくる。そして,謎解きだけでなく,親友や友情について語られ,相手を思いやる気持ちこそが大切だということが謳い上げられることで,物語の厚みが増している。 |
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あの空をおぼえてる |
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『あの空をおぼえてる』
〜 喪失の苦しみから希望へと向かう、ある家族の物語〜
(2008年・日本・1時間55分)
配給 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
監督 冨樫森 原作 ジャネット・リー・ケアリー
出演 竹野内豊 水野美紀 広田亮平 吉田里琴 小日向文世
4月26日(土)梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX京都
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愛する家族を突然、奪われる悲しみはとてつもなく深い。一家の宝物のような愛娘を失ってしまったら、残された家族はただもう呆然と泣き崩れるしかない。でも、残された者にとっての“生”はまだまだ続く‥‥。 |
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英治は、幼稚園児の妹、絵里奈と両親と暮らす小学4年生。突然の交通事故で、家族は娘を失う。子供達の笑い声は消え、家は静けさと冷たさに包まれる。事故について自責の念に苛まれ、心を閉ざしてしまう両親を心配し、励まそうと、英治は悲しみをこらえて明るくふるまおうとする。 |
現実の世界しか見えない大人に比べ、子供はファタンジーの近くで生きている。大人には感じられない、みえないものが、子供にはみえることがある。英治は夢の中で死んだ妹に会う。現実にはいなくても、心の中になら、以前と変わらぬ妹がいる。心の中の妹と対話することで、英治は目の前の現実と向かい合えるようになる。 |
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過去と現在を交錯させた構成で、娘を亡くした親の衝撃と悲しみの深さが痛切に伝わる。
英治の健気な思いに最初に気づくのは母。自分から這い出そうとしなければ、絶望の底から出ることはできない。前向きに生きていこうと決心し、その思いを英治が後押ししてくれる。変化はゆっくりとやってくる。
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最後まで、悲しみの殻に閉じこもり続ける父。英治が父親に自分の思いのたけをぶつける、長回しのシーンは心に残る。親は子供に育てられ・・という言葉のとおり、子供が親を助けることになる。
そうして、家族がやっと娘の死を受け入れ、新しい一歩を踏み出す。亡くした娘の思い出が家族の絆を強くする。娘はいつでも胸の中にいる。そのことを言葉でなく、美しい映像に昇華し、頭でなく心に伝えてくれる。森のトンネルの木漏れ日、青い空と、ラスト数分の美しいこと。
富樫森監督は、『ごめん』('02)での、子ども達の無邪気な元気さと気持ちの揺れをすくい取った演出がみごとだったが、本作でも子役2人の存在感は大きい。
家族の心の中で、娘はいつまでも笑いながら青い空を駆け回っているにちがいない。
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ブラックサイト |
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『ブラックサイト』
〜ホンモノの恐怖を描くのは難しいけれど…!〜
(2008年 アメリカ 1時間40分)
監督:グレゴリー・ホブリット
出演:ダイアン・レイン、ビリー・バーク、コリン・ハンクス、ジョセフ・クロス、 メリー・ベス・ハート 4月12日(土)〜梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、109シネマズHAT神戸 他
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我が国でもネットワーク利用犯罪は増加傾向にあるが,現実には詐欺,児童ポルノ等が多数を占める。だが,平成14年には,猫を虐待して殺害し,その模様をインターネットの掲示板サイトで実況中継したという事件が発生した。本作では,拘束された人間の殺人シーンがサイトでライブ中継され,そのサイトへのアクセス数が上がるほど死が早まるという仕掛けになっている。ネット社会に潜む恐怖をタイムリーに映像化した着眼点は鋭い。 |
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前半は,FBIのハイテク犯罪捜査官ジェニファー(ダイアン・レイン)の視点から,2人の男性が続けて犠牲になる様子が描かれる。抗凝血剤や加熱ランプを利用してジワジワと死に至らせるという冷酷で残虐な犯行を目の前にして,これを阻止できない焦燥感が募る。しかも,不特定多数の人々の好奇心や匿名性から来る無責任さが殺害行為に利用されるのだ。こうして姿の見えない共犯を生み出すネット社会の特徴にゾッとさせられる。 |
もっとも,犯人像がすっきりしないのは難点だ。動機と手段がアンバランスで,最初の被害者2人とその後の展開のギャップが大きい。後半は,ジェニファーの周囲に不穏な雰囲気が漂い,その相棒が3人目の犠牲者となる。この辺りから犯人の動機や人格が変化したような印象を受ける。実際,唐突に犯人の姿が真正面から映し出され,これには驚かされた。犯人の視点から描かれていたら,おそらく犯人像がブレることはなかっただろう。
とはいえ,犯人がサイコパスの本性を現した後,いよいよジェニファーとの対決のときが迫ってくる。その場所がジェニファーの自宅内というのがミソだ。エンディングには,ダイアン・レインの大きな見せ場が待っている。それまでとは打って変わってスピーディになり,まさしく手に汗握る展開で楽しませてくれる。そして,映画を観ている自分が映画の中でネット映像を観ている人々と同じだと気付いたとき,何だか妙な不安に包まれる。 |
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ヒットマン |
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『ヒットマン』
〜愛すべきB級アクションで味わう壮快感〜
(2007年 アメリカ 1時間33分)
監督:ザヴィエ・ジャン
出演:ティモシー・オリファント、ダクレイ・スコット、オルガ・キュリレンコ、ロバート・ネッパー、ウルリク・トムセン
4月12日(土)〜TOHOシネマズ梅田、梅田ブルク7、敷島シネポップ、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸 他
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本作は,フランツ・シューベルトの「アヴェ・マリア」で幕を開ける。主人公を始め登場人物が手際よく紹介される。主な舞台になるのはサンクトペテルブルクだ。西欧諸国の都市にはない暗さや重さを抱えながらも,将来に向かって変ぼうを続ける魅力的な街で,本作の展開にぴったりだといえる。主人公は,冷酷非情な殺人マシーンとして登場する。彼は,人間らしい感情や欲望を封じられ,名前さえ抹消され「47」と番号で特定されていた。見応えのあるアクションが展開する中で,彼の人間として再生する様子が描かれていく。 |
フランスのザヴィエ・ジャン監督の技が冴えていて壮快だ。主人公は,自分自身を”製造した”組織との関係はもちろん,彼を3年以上も追い続けるインターポールの刑事との微妙な関係も含め,全てを清算して過去とのしがらみを断ち切る。ストーリーの骨組みがしっかりしており,緩急自在の映像テクニックを満喫でき,アクション映画のヴァリエーションを楽しむことができる。武闘シーンが舞踏シーンに通じるような華麗さがもっと欲しかった気もするが,映画の中に描かれた現実世界から遊離せず,その世界に止まったからこそ,主人公に人間味が出たといえよう。 |
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しかも,主人公の卓越した資質や彼を取り巻く状況に説得力があるので,観ていて安定感がある。もともと記憶力が抜群で,機転も利き,冷徹に周囲の状況を見通しているという,人物像が浮かんでくる。だからこそ,組織から裏切られ,同じように捨てられた女ニカと出会い,その左頬のタトゥーに触発されて,彼女の心の奥に自分と通底するものを感じ取ったのだろう。「47」に扮したティモシー・オリファントは,甘さの漂うマスクで,ラストではいい表情を見せてクールになった。オルガ・キュリレンコがニカに扮して「薬指の標本」とは全く違ったキュートさを見せてくれたが,次回作は007新作のボンドガールということで,これまた期待させられる。 |
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つぐない (原田バージョン) |
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『つぐない』 〜人生を懸けたつぐないと命を懸けた愛の物語〜
(2007年 イギリス 2時間03分)
監督:ジョー・ライト
出演:キーラ・ナイトレイ、ジェームズ・マカヴォイ、シーアシャ・ローナン、ロモーラ・ガライ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ
4月26日〜テアトル梅田、TOHOシネマズなんば、三宮シネフェニックス
5月3日〜京都シネマ ★
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人は誰でも過ちを犯す。「つぐない」、この言葉の持つ意味をアナタはどう受け止めるだろうか?
政府官僚の長女・セシーリアは身分の違いを越え、使用人のロビー・ターナーとお互いに愛し合っていることに気づく。その思いを確かめ合った正にその日、妹のブライオニーの大きな誤解と偽りの発言により、2人の仲は残酷にも引き裂かれてしまう。時は1930年代のイギリス、戦火が忍び寄っていた・・・。 |
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原作である文学作品の香りを存分に味わえる格調高い仕上がり。ブライオニーの人生を、3人の女優が切り取ってつないでゆく。それぞれの個性を殺すことなく、それでいて面影を投影させる確かな演技力で魅せてくれる。時間軸の揺さぶりによるサスペンスタッチの展開や、光や水を巧みに配した瑞々しい映像は、その場の湿度や空気感、体温まで立ち昇ってくるかのようだ。 |
多感な少女の過ちに翻弄されるセシーリアとロビーだが、自分たちの愛を信じ抜く真っ直ぐでひたむきな想いは切なくも濃密。2人の一瞬の手の重なり、そのぬくもりにどんなラブシーンよりも体の芯が痺れる。少女時代を通ってきた大人の女性にこそ見て欲しい。つぐないと愛の結末を。 |
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つぐない (河田バージョン) |
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『つぐない』
〜言葉では尽くせぬ文芸の香り豊かな映像〜
(2007年 イギリス 2時間03分)
監督:ジョー・ライト
出演:キーラ・ナイトレイ、ジェームズ・マカヴォイ、シーアシャ・ローナン、ロモーラ・ガライ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ
4月26日〜テアトル梅田、TOHOシネマズなんば、三宮シネフェニックス
5月3日〜京都シネマ ★
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1935年,13歳の少女ブライオニーの一つのウソが姉セシーリアとロビーに悲劇を招く。ブライオニーは,セシーリアとロビーのただならぬ様子を2度も目撃してしまう。この2つのシーンではいずれも,まずブライオニーが目撃した状況を描いた後,時間を遡らせてセシーリアとロビーの視点から再びその出来事を描いている。ブライオニーが見た主観的な状況と実際に起こった客観的な出来事との間の微妙なズレを示しているようで面白い。 |
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その後,ロビーの回想シーンの中で,ブライオニーがロビーに恋心を抱いていたことが示されたとき,彼女のウソの背景にある複雑な心境が伝わってくる。愛情に誤解が被さって憎しみを生み出し,それがウソという形で表れ,セシーリアとロビーを離ればなれにし,自身は罪の重さに苛まれ,つぐないを求める。だが,兵役に就いたロビーが負傷しながらもセシーリアの面影を追い求める姿が痛切であればあるほど,贖罪への道は果てしなく遠い。
1935年のシーンは,色彩が豊かで牧歌的な雰囲気さえ漂っており,ブライオニーはもちろん,セシーリアやロビーにも明るい将来が目の前に広がっているような輝きがある。だが,その4,5年後のシーンは,くすんだ感じで荒涼とした雰囲気さえ漂っており,単に戦時下というだけではなく,人生の流れが負の方向に動き始めてしまった3人の内面をも反映しているようだ。贖罪は成し遂げられるか,それによって人生は正の方向に向かうのか。
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本作では,2人のブライオニーが贖罪をする。18歳の彼女は,勇気を振り絞ってセシーリアの家を訪ねて行き,決して許してもらえなかったとはいえ,そこにはロビーがいた。一方,脳血管性認知症になった老年の彼女は,本当は2人には会っておらず,また会えなかったことを告白し,遺作の中で贖罪をする。それは弱さや言い逃れではないと言い張るが,小説家の自己満足ではないのか。一面的には捉えられない事実の重みが迫ってくる映画だ。 |
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フィクサー |
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『フィクサー/MICHAEL
CLAYTON』 〜本物志向を好む映画人が手を組んだ
大人向けの社会派サスペンス〜
(2007・アメリカ/2時間)
監督・脚本 トニー・ギルロイ
製作総指揮 スティーヴン・ソダーバーグ ジョージ・クルーニー アンソニー・ミンゲラ ジェームズ・A・ホルト
出演 ジョージ・クルーニー トム・ウィルキンソン ティルダ・スウィントン シドニー・ポラック 4月12日(土)〜TOHOシネマズ梅田、TOHOなんば、TOHOシネマズ二条、三宮シネフェニックス 他全国東宝系にてロードショー
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ブラッド・ピットもマット・デイモンも慕うハリウッドの兄貴ジョージ・クルーニーが、法律事務所で他人の揉め事を処理するフィクサーを好演!一見カッコよさげだが、彼が今回演じるマイケル・クレイトンは、とある負債を返すため仕方なく今の仕事を続けているという“ちょいダルオヤジ”だ。そんな彼がある日、3000億円の薬害訴訟を担当していた同僚の不審な行動を追う内に、クライアントが隠ぺいする重大な不正を知ってしまう。やがて中年男の転機とばかりに、人命より利益を優先する巨大企業の陰謀に立ち向かうが…。 |
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正義もモラルも崩壊寸前のアメリカ社会の闇に迫る。悪に挑むジョージの渋さも素敵だが、本作で農薬会社の法務部長を演じてオスカーを獲得したティルダ・スウィントンの存在感は群を抜いている。企業勝訴の責任を背負うキャリアウーマンの意地と不安を血の通った演技で体現。企業のため良心を犠牲に精魂尽くしたにも関わらず、まさかの結末に崩れ落ちる彼女の憔悴具合がリアルでやるせない。
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MONGOL モンゴル |
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『モンゴル』
〜悠久のときを経て いま浮かび上がる英雄の素顔〜
(2007年 ドイツ・ロシア、カザフスタン、モンゴル)
監督:セルゲイ・ボドロフ
出演:浅野忠信 スン・ホンレイ クーラン・チュラン 4月5日(土)〜梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、三宮シネフェニックス 他全国東映系にてロードショー
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独占インタビュー→
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“幼児をあなどるなかれ、長じて虎となるやも”地鳴りのようなホーミー(モンゴル独特の歌唱法)の響きと共に浮かぶ字幕に、いやが上にも期待は高まる。浅野が全編モンゴル語でチンギス・ハーンを演じ、アカデミー賞外国語映画賞に挙がったのは記憶に新しい。受賞は逃したものの、未定だった日本での公開が早くも実現したのが反響の大きさを物語る。
チンギス・ハーン−モンゴル帝国を一代で築き上げ、歴史にその名を刻んだ偉大なる英雄。最盛期にはその威光は中国北部、中央アジアにまで及んでいたという。
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見渡す限りの大平原に人間の姿は蟻のごとくだ。そんななか、父を毒殺されたテムジン(チンギス・ハーンの本名)は追われる身となる。子どものうちは見逃しても、成長すれば殺される。再起を誓い、捕らわれては何度も逃亡を企てるうち、次第に野生の獣のようになるテムジン。そして、モンゴル人が恐れる雷をも厭わぬ男になった・・・。 |
監督は『コーカサスの虜』のセルゲイ・ボドロフ。準備から完成までに4年もの歳月を費やした。俳優陣には馬術・剣術の特訓を徹底。撮影は内モンゴル自治区を皮切りに中国西部、新疆ウイグル自治区を股にかけ2年に及んだ。最大の見せ場である戦闘シーンでは600人のクルーと1000人を超すエキストラ、300頭の馬が辺境の地に結集した。 |
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さらに、とことんこだわったのはテムジンの人物造形だ。投獄された時期があったとの説から、監督は瞑想によって偉大なる英雄への足がかりを掴んだと考えた。この時期、浅野の演技も修行僧の様相を呈してくる。顔には仮面のごとく垢がこびりつき、表情は窺い知れない。しかし目の光は鋭く、それでも尊厳を失わない王者の風格が漂っている。そして、彼をそこまで突き動かしたのは、妻ボルテへの一途な愛とモンゴル民族としての誇りだった。 |
興味深いのは、恩義を忘れない、女子どもを殺さないなど、モンゴル族の掟を守りながらも、ここ一番では慣習にとらわれず自らの正義を貫くところだ。こんなところにもボドロフ監督の解釈が垣間見える。本作がデビューとなるモンゴル人女優クーラン・チュランも監督が惚れ込んだ一人。また『初恋のきた道』のスン・ホンレイとの男同士のドラマも見逃せない。歴史上の英雄としてではなく、血肉を持った一人の人間チンギス・ハーンがここに生まれた。 |
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地上5センチの恋心 |
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『地上5センチの恋心』
原題: ODETTE TOULEMONDE 〜幸せ上手の魔法がかかる♪〜
(2006年 フランス=ベルギー 1時間40分)
監督・脚本:エリック=エマニュエル・シュミット
出演:カトリーヌ・フロ、アルベール・デュポンテル
4/5(土)〜シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、5月〜京都シネマにて公開
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うんと嬉しい時、心が弾み、頬が緩み、足取りは軽く、フワフワ飛んでいる気分になりませんか? 「最近ないなぁ・・・」なんてぼやいているアナタ、〈幸せのレッスン〉のはじまりはじまり! |
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一見なんてことのない主婦のオデットこそが、幸せ上手なヒロイン。愛する夫に先立たれ、昼はデパートの店員、夜は羽飾りの内職に励む。子どもは2人、美容師の息子は彼氏をとっかえひっかえ、定職につかない娘は家に恋人を連れ込んでいる。結構悩ましい状況のはずなのだが、歌い踊る楽しそうな毎日。そんな彼女の楽しみは、お気に入りのベストセラー作家・バルタザールの本を読むこと。なんとサイン会で渡したファンレターがきっかけで、傷心のバルタザールが彼女の家に転がり込んできた! |
憧れの人の前で緊張しすぎて、自分の名前が上手く言えないかと思えば、「恋ではなく愛してしまった」なんて告白をキメる。オデットの可愛らしさと格好よさとが同居するたたずまいは、きちんとしているのに肩の力が抜けている。自分にも人にも誠実に向き合うって、こういうことなのだろう。
監督の心温まる実体験から生まれた本作、「地上5センチ」の世界を熱い音楽とパステルカラーが彩っている。 |
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悲しみが乾くまで |
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『悲しみが乾くまで』
〜変えられないことを受け入れ,変えられることを変える勇気を〜
(2008年 アメリカ 1時間59分)
監督:スサンネ・ビア
出演:ハル・ベリー、ベニチオ・デル・トロ、デヴィッド・ドゥガヴニー、アリソン・ローマン、オマーベンソン・ミラー、
ジョン・キャロル・リンチ 4月5日(土)〜梅田ガーデンシネマ、京都シネマ、シネカノン神戸 全国ロードショー
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夫とその妻子という家族の中に夫の親友が入り込んでくる。不慮の事故で夫を亡くした妻の喪失感や苛立ちが痛々しいまでに伝わってくる。しかも,夫の親友の存在が彼女の嫉妬心や怒りを?き立てる様子が仮借なくあぶり出される。それでもなお,夫に最も近しい親友の存在が彼女の心を癒してくれる。その親友もまた,ヘロイン中毒に苦しんでいる。悲しみや心の弱さを乗り越えて希望の光を捉えようとする人々への慈しみに満ちた逸品だ。 |
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妻オードリーが警官から夫ブライアンの死を告げられるシーンが素晴らしい。夫の帰りが遅いため心配していた妻が警官と向き合う。妻の不安そうな表情をアップで見せた後,夫の死の直前のシーンに切り替え,続いて手で口元を押さえた妻の驚きの表情を捉え,また夫のシーンに戻る。まるでオードリーの心に浮かぶシーンをそのまま覗き見ているようだ。大きな衝撃と深い悲しみがどんな言葉より雄弁に語られ,後の展開に説得力が生まれる。 |
また,取り上げられるエピソードが心憎いほど的確にオードリーの心情を浮き彫りにする。ブライアンの子供のころの逸話を知っているジュリー。その彼を見るオードリーの表情が何とも言えない。また,彼は,夫より上手に6歳の息子が頭までプールの水に浸けられるように導くし,10歳の娘とブライアンの年に1度の微笑ましい隠し事を知っていた。オードリーのジュリーに対する嫉妬とブライアンの存在が淡くなることへの怖れが浮かぶ。
夜寝る前にブライアンに耳たぶを引っ張ってもらうことで安心できるオードリー。日常の中のささやかな幸せだ。彼女は夫の親友ジュリーに空虚さを埋めさせようとする。だが,それはイミテーションに過ぎない。本物は心の中にある。ガレージの火事のとき,ブライアンは「焼けたのは物にすぎない。僕らは生き残ったじゃないか。」と言ったという。肉体は滅んでも,魂は残された人々の心の中で生き続ける。その輝きを残して映画は終わる。
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恋の罠 |
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『恋の罠』 韓国原題 淫乱書生
/ 英題 Forbidden Quest 〜人間の本性があぶり出されたスキャンダラスな恋の物語〜
(2006年 韓国 2時間19分)
監督・脚本:キム・デウ
出演:ハン・ソッキュ、キム・ミンジョン、イ・ボムス
4月5日(土)〜 シネマート心斎橋、順次 京都シネマ ★
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官能に目覚めた貴族作家の男、その男との禁断の恋に溺れる王妃、立場を忘れ、秘密の仕事にのめり込んでいく議禁府の役人。ふとしたきっかけで“たがが外れてしまった”登場人物たちの運命が、李朝時代の宮廷を舞台に鮮やかな原色の世界の中で描かれる。 |
根は実直だが、王妃との情事を“ネタ”に淫らな小説を執筆する大胆不敵な主人公ユンソ。演じるハン・ソッキュの柔軟さと、そこはかとなく漂うユーモアが“粋”。また、一族の宿敵でもある役人グァンホンに挿絵を頼んだことで生まれる、“共犯者”のような絆が面白く、思わずニヤリとしてしまう。 愛と欲の間で揺れ動いた主人公に訪れる結末に、あなたもきっと究極のカタルシスを覚えるはず! |
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さよなら。いつかわかること |
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『さよなら。いつかわかること』
〜やるせなさの根源〜
監督:ジェームズ・C・ストラウス(2007年 アメリカ 1時間25分)
出演:ジョン・キューザック シェラン・オキーフ グレイシー・ベドナルジグ
アレッサンドロ・ニヴォラ 4/26(土)〜梅田ガーデンシネマ、シネカノン神戸 6/7(土)〜京都シネマ
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2003年イラク侵攻−アメリカではこれを“イラク戦争”または“イラク進攻”と呼んでいる。ジョン・キューザック演じる二児の父はホームセンターで働いている。この家では父親が主婦の役割も果たしている。何故なら娘たちの母親は遠く戦地にいるからだ。
原題は『GRACE IS GONE』グレースは娘たちの母親の名前だ。このGONEからはさまざまな気配が感じられる。戦地に赴いたこと、日常から隔たってしまったこと、そして何よりも死んでしまったこと。GONEには行ったきりになる、という意味がある。DEADとちがっているのは、DEADが固定した死を意味するのに比べ、GONEには亡くして間もない喪失感が漂っている。本編にはまさにこの喪失感がたえず立ち込めているのだ。それをイーストウッドの創り出した音楽がさらに際立たせる。 |
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この作品はほとんどが親子3人のシーンだ。それも車や部屋の中と狭い空間が多い。ロードムービーの側面を持ちつつワンシチュエーション劇のような閉塞感を感じさせる。それがまた、妻を亡くした夫のはまった袋小路を如実にあらわしているようだ。ただ、しんしんとやるせなさだけが雪のように降り積もる。何かを察しつつある長女の思慮深そうな眼差しもときおり脆さを見せる。そんななか次女の天真爛漫さだけが唯一の救いだ。しかし、そのやるせなさをもたらした背景について考えることこそが、この作品の意義だろう。 |
邦題の“いつかわかること”という言葉は幼い娘たちがいつか母親の取った行動、信念、生き方を、わかる日がくるという祈りと読み取れる。しかし、その一方で愛国心に燃える両親とはべつの見方もまた、アレッサンドロ・ニヴォラ演じる叔父の立場から姉妹に示唆されている。であるならば、それも含めて“いつかわかる”と読まなければならないのかもしれない。
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大いなる陰謀 |
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『大いなる陰謀』
〜無関心ではいられないアメリカの”今”〜
(2007年 アメリカ 1時間32分)
監督:ロバート・レッドフォード
出演:ロバート・レッドフォード、メリル・ストリープ、トム・クルーズ、マイケル・ペーニャ、デレク・ルーク、アンドリュー・ガーフィールド
4月18日(金)〜TOHOシネマズ梅田、梅田ブルク7、TOHOシネマズなんば、なんばパークスシネマ、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸 他にて公開
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3つのシチュエーションが巧く組み合わされている。ワシントンでのジャーナリストのジャニーンとアーヴィング上院議員の,カリフォルニア大学での大学教授と学生の,それぞれの丁々発止の腹の探り合いのようなやり取りが同時並行で進行する中,アフガニスタンへ侵攻した米軍の模様が挿入されていく。そして,この3つのストーリーの関連が少しずつ明らかにされ,最後には1つにまとめられていく。その語り口の巧さに酔わされる。 |
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トム・クルーズ扮する上院議員がベテランのジャーナリスト(メリル・ストリープ)に独占取材の場を提供して話し始める。観客もまたジャーナリストと同じ立場に置かれ,士官学校を首席で卒業したという議員の話の内容やその目的に注意を集中させられる。イエスと答えてもノーと答えても進退窮まる問いを突き付けられるなど,スリリングな展開の先には一体何が待っているのか。議員の「手段を選ばない」という言葉が心に引っかかる。
一方,ロバート・レッドフォード扮する大学教授が1人の学生(アンドリュー・ガーフィールド)を呼び出して話し始める。教授が何を伝えようとしているかを,観客が学生と共に推し量れる仕組みになっていて惹き付けられる。2人の有能な教え子が志願兵としてアフガニスタンにいること,教授自らもベトナム戦争で従軍した苦い経験を抱えていることなどが分かってくる。TVのテロップ「米軍が電撃作戦で高地確保」の持つ意味は重い。
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そのころ遠く離れたアフガニスタンでは,教授の教え子2人(マイケル・ペーニャ,デレク・ルーク)が議員の立案した作戦に従事し,想定外の事態に遭遇して窮地に陥っていた。メキシコ人と黒人である彼らは,マイノリティが住みやすい社会を築くという夢を実現するため,陸軍に志願して経験を積み視野を広げようとしていた。そんな彼らが最後に運命を共にする決意の下に立ち上がったときのシルエットは,実に美しく,心に染みる。 |
机上の論理のとおり実際に上手く計画が実現するとは限らない。社会生活の中で思惑が外れるというのは誰しも経験することだろう。それが国家的規模で,しかも戦争状態の中での出来事だとすれば,見込み違いによる犠牲は個人にとってあまりにも大きいが,国家レベルでは大局の中に呑み込まれてしまう。その計画がもし私欲と結び付いていたとすれば,あまりにも痛ましい。そんなことを思うと,世界の出来事に決して無関心ではいられない。 |
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スルース |
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『スルース』
〜虚実が入り交じる妖しさに包まれた世界〜
(2007年 アメリカ 1時間29分)
監督:ケネス・ブラナー
出演:マイケル・ケイン、ジュード・ロウ
4月12日〜テアトル梅田、敷島シネポップ、シネカノン神戸、京都シネマ にて公開
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推理小説家アンドリュー・ワイク(マイケル・ケイン)と彼の妻の愛人マイロ・ティンドル(ジュード・ロウ)がワイクの邸宅で1対1の対決をする3幕の2人芝居だ。ティンドルがワイクに離婚を迫るところからゲームが始まる。虚と実の境があいまいになって痺れるような恍惚感がある。セリフそのものに含蓄があるのはもちろん,セリフとセリフの間にある沈黙が疑惑や不安を増幅させる。2人の男優の演技の中に演技が見え隠れして,ついには妻の存在などどうでもよくなってしまうような,ねじれた面白さも生まれてくる。 |
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また,邸宅内のデザインが視覚的に楽しませてくれる。これはワイクの妻によるものだということが2人の会話から分かる。彼女が設定した舞台で2人の男が演技をさせられているのだとすれば,シニカルで滑稽だ。それはともかく,邸宅内の造形全体に現代アートの面白さがあふれており,あり得ないようでいて現実に存在しそうな空間が創り出されている。虚実ない交ぜになった舞台としてこれ以上のものは望めないだろう。青や赤などの照明も夢幻的な空間を創り出す効果を上げている。その一方で,監視カメラの映像やエレベーターの動く音が何とも奇妙に現実的だ。 |
ティンドルの職業さえ混乱のタネになる。彼は,職業を聞かれて俳優だと答え,ワイクが美容師と言うのを当初は訂正していたが,そのうち訂正しなくなる。妻から愛人が美容師だと聞いていたワイクが混乱しているだけなのか,本当にティンドル以外の愛人がいるのか,あいまいになる。また,ティンドルがワイクの指示に従って邸宅内の金庫からネックレスを盗む役を演じるシーンが面白い。途中で盗む者と盗まれる者の役回りが逆転してワイクがティンドルにけん銃を突き付けるという,スリリングな展開に移行していく。そして,唐突に静寂が訪れて第1幕が終わる。 |
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第2幕では,ティンドルは刑事に扮してワイク邸を訪れる。ジュード・ロウの二役とティンドルの変装ぶりを存分に楽しめるだけでなく,彼がどのようにワイクを騙し追い詰めるのか,第1幕が終わった後にどんな展開があったのかなど,色々な趣向が盛り込まれている。2人とも,相手を肉体的に傷つけるのではなく,多大の屈辱感を与えることで快楽を味わっているのだ。そして,第3幕になると,2人の間に”いんび”な空気が流れる。幕が下りた後も,ワイク邸で本当は何が起こったのだろうかという疑問さえ浮かんでくる。 |
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Factory Girl (ファクトリー・ガール) |
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『FACTORY GIRL』
〜SHE IS ORIGINAL〜
監督:ジョージ・ヒッケンルーパー
出演:シエナ・ミラー ガイ・ピアーズ ヘイデン・クリステンセン
4月19日〜シネ・リーブル梅田、 シネ・リーブル神戸
4月26日〜 シネマート心斎橋、6月〜 京都シネマ
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1960年代、ニューヨーク。20世紀のアメリカで最も有名なアーティスト・アンディ・ウォーホルの手掛けるポスターや映画などのポップカルチャーが日の目を見、芸術が大衆の手の届く高さまで降りてきた時代。それらを産み出したのが“ファクトリー”だった。マリリン・モンローやコカ・コーラのデザインは特に有名だ。そこはまた、アンダーグラウンドな社交場という側面も持っていた。
名門の令嬢イーディ・セジウィック(シエナ・ミラー)はファクトリーに顔を出すや、その美貌とセンスによって一躍有名になり、互いの個性に惹かれ合うウォーホル(ガイ・ピアーズ)との相乗効果によって二人は時代の寵児へと上り詰める。しかし、ボブ・ディラン(ヘイデン・クリステンセン)の登場によって保たれていた均衡はもろくも崩れ去るのだった。
そうそうたる名前に圧倒される。映画にもなった“チェルシーホテル”も登場する。イーディもある時期住んだ、気鋭のアーティストが集う伝説のホテルだ。また、生地にまでこだわった本物のヴィンテージによる60年代モードが再現され、スクリーンはファッションショーさながらの華やかさだ。 |
しかし、この作品は堕ちた女神の悲劇を美談に仕上げようとはしていない。むしろスキャンダラスに、ウォーホルのエゴもイーディのプライバシーも白日の下に晒している。ミラーのハスキーボイスから繰り出される舌足らずな喋り方。薄い口元から絶えず吐き出される紫煙。隈取りのようにアイホールに添って入れられた大胆なラインが挑戦的でエキゾチックだ。ミラーが醸し出す雰囲気は当時の彼女にあまりに肉迫して寒々とした思いにさせる。
当時の彼女を知る人物たちの声は、彼女を飲み込んだ狂騒的な時代を懐かしむようにも聴こえた。ファクトリーガールはその後も現れては消えたのだろう。しかし、イーディは決して大量生産されたバービー人形ではない。その美貌もセンスも生き方も、そして彼女が胸に抱えていた巨大な空洞も、誰にも似ていない唯一無二のオリジナルだったにちがいない。
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CONTROL (コントロール) |
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『CONTROL』
〜UN−CONTOROL〜
監督:アントン・コービン
出演:サム・ライリー サマンサ・モートン
4月12日(土)〜梅田ガーデンシネマ、京都シネマ、シネカノン神戸 他
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1973年イギリス/マンチェスター、教室には机に落書きをする男子生徒。IAN・・・そして最後のNにもう一本書き加えた。I AM・・・。壁にはデヴィット・ボウイのポスター、灰色の街で自分は何者か探している、どこにでもいる普通の高校生だった。
伝説のロックバンド“ジョイ・ディヴィジョン”。活動期間はわずか3年足らずだったが、後のUKロックシーンに多大な影響を与えたという。イアン亡きあとバンドは“ニューオーダー”として生まれ変わり、現在も活動を続けている。
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この作品はイアンの妻・デボラが発表した伝記「タッチング・フロム・ア・ディスタンス」を元に、“ニューオーダー”のメンバー、“ジョイ・ディヴィジョン”を世に送り出したファクトリー・レコードの創立者、そして、“ジョイ・ディヴィジョン”を撮影した経験を持ち、U2、ビョークなど世界的スターを撮り続けてきた写真家 アントン・コービンによって映画化が実現したものである。コービンは初監督となるこの作品でカンヌ国際映画祭カメラドールほか多くの賞を受賞した。
サム・ライリーの、行進するように両手を振るパフォーマンスはステージを追うごとに激しくなる。熱狂する客席と呼応するように全身を激しく震わせ、ついに“CONTROL”を失い倒れこむ。繊細で翳りをたたえた、まだ幼さの残る表情で魅せた新人俳優は、純粋ゆえに傷つきやすく誠実に生きたいと願いながら叶えられない若きボーカリストの苦悩を演じきった。そして、サマンサ・モートンは一度見たら忘れられない存在感で、愛情と不安に揺れる一方、母性という強さに目覚めてゆく妻デボラを体現していた。
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半生と呼ぶにもまだ足りない23年の生涯で彼は何を手にし、何を喪ったのか?音楽、家庭、夢。愛、希望、絶望。そこから搾り出される肉声は生々しく、拒絶と懇願が同時に存在している。死への恐怖は時として死そのものよりも人を追い詰めるのではないだろうか。表現することの消耗は計り知れない。その闘いに挑む人を見るとき、眩しさと痛ましさがないまぜになる。しかし、この作品はこれほど重い内容でありながら何故か観る者を陰鬱にさせない清々しさがある。それは、作品に携わった人たちの彼に対する確かな愛情が感じられるからだろう。27年の時を経てイアン・カーティスは語られる機会を得た。
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