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【シネルフル】
HP管理者:

河田 充規
河田 真喜子
原田 灯子
藤崎 栄伸
篠原 あゆみ

〒542-0081
大阪市中央区南船場4-4-3
心斎橋東急ビル9F
(CBカレッジ心斎橋校内)
cine1789@yahoo.co.jp


新作映画
 ディパーテッド
「ディパーテッド」  

香港ノワールの名作「インファナル・アフエア」をハリウッドがリメイク!


(2006年 アメリカ 2時間32分)
監督:マーティン・スコッセシ
出演:レオナルド・ディカプリオ,マット・デイモン,ジャック・ニコルソン


公式ホームページ→

 舞台は,香港からアイルランド系移民が多いアメリカのボストンに移し変えられた。
アイリッシュ・マフィアの世界で、マフィアに潜入した警察の男(レオナルド・ディカプリオ)と警察に潜入したマフィアの男(マット・デイモン)が描かれる。二人の運命を操るアイリッシュ・マフィアのボス、コステロ(ジャック・ニコルソン)の存在が光る。

 表と裏、お互い顔を知らない二人の男が、自分の影に怯えつつ、生死をかけて対決する。常に死と隣り合わせの中で、生き残る唯一の方法は敵対する“組織内”潜入者を見つけ出すこと。繊細で脆く、時には凶暴性を発揮するディカプリオと,知性と自信に満ちたデーモンの,若手演技派の対決がメインとなる。

   一方,コステロは,老境とはいえ常に前線に身を置き、ギラギラした欲望にまみれ、気に入らないことがあれば即抹殺。この男の暴力への渇きは納まらない。長年アメリカ社会で差別されてきたアイリッシュの悲しみが底辺に流れる。彼の存在により作品に暗い影と深みが出て、オリジナルを越えるリメイク作品となった。
              
               
(後藤 一郎)ページトップへ
 Gガール 破壊的な彼女
『G−ガール 破壊的な彼女』

〜史上最強の“エロカッコいい”ヒロイン誕生!〜

(2006年 アメリカ 1時間38分)
監督 アイヴァン・ライトマン
出演 ユマ・サーマン、ルーク・ウィルソン、アンナ・ファリス

2月10日より,OS劇場,敷島シネポップ,TOHOシネマズ二条,OS阪急会館

            公式ホームページ

 彼女いない歴・半年のマットが声をかけたのは、おとなしそうな黒髪のメガネ美女ジェニー。しかし、何度目かのデートで彼女が町の治安を守る正義の味方・Gガールであることが判明する。始めは浮かれるマットだったが、次第に彼女のスーパーパワーについて行けなくなり別れを切り出すのだが・・・。

  普段は正義の味方。しかし、恋愛に関してはかなりの嫉妬深さを発揮し、過激な復讐を繰り返す無敵のスーパーヒロイン“Gガール”を、スタイル抜群のユマ・サーマンが天性のコメディセンスで熱演。そのやり切った感がとても笑える最高のラブコメアクション!
(中西 奈津子)ページトップへ
 あなたを忘れない


〜実話をもとに描いたある青年の短くも美しい人生〜

(2006年 日本・韓国合作 2時間10分
 ソニー・ピクチャーズ配給)
    監督:花堂純次
   出演:イ・テソン、マーキー、金子貴俊、ジョン・ドンファン、
        竹中直人、他

1月27日公開
上映劇場 梅田ブルク7、MOVIX京都、神戸国際松竹、MOVIX六甲、MOVIX堺、他
                 
                  公式ホームページ
  2001年1月26日、JR新大久保駅のホームから線路に転落した男性を助けようとして命を落とした、韓国からの留学生イ・スヒョンさん。夢と恋に生きるごく普通の青年だったスヒョンさんが、なぜ異国の地で自らの命を投げ出してまで、見ず知らずの人を助けようとしたのか―? その答えに気付いたとき、私たちは改めて本当の強さとは、愛とは、そして“命”の本当の意味とは何かを考えさせられる。
 
  日本で暮らすことに夢と希望を抱いて留学してきた青年イ・スヒョンと、音楽で成功することを夢見るストリート・ミュージシャンのユリ。広い東京の真ん中で偶然出会った2人は、音楽を通じて友情を育み、やがてそれは恋へと変わっていく。様々な壁を乗り越えて、互いにかけがえのない存在になった2人。そんな時、悲劇は起きた…。
 実話の中にフィクションを織り交ぜたことで、スヒョンさんの他人を思いやる心や夢に対するまっすぐな気持ちが鮮明に浮かび上がり、観る者の胸を打つ。そして、イ・スヒョンを演じるイ・テソンの優しさと温もりに満ちた笑顔が、全ての人を慈しむような大きな愛を感じさせ、作品に深く息づいている。

  また、彼と強い絆で結ばれていくユリを演じたマーキーの心に響く歌声は、ラストでより切なく染み渡り、深い余韻を残す。
  かけがえのない自分の命だからこそ、同じように大事な他人の命を守ろうとした彼の行動は、“自分が一番大事”な人間ばかりの現代において、不思議に感じられたことだろう。しかし、他人の命を愛せてこそ、自分の命も愛せるのだということを、彼は身をもって照明してくれたのだと思わずにはいられない。そして、彼が残した“命”という日韓の架け橋から生まれたこの映画で、その“魂”を感じてほしい。
(篠原 あゆみ)ページトップへ
 悪夢探偵
 「悪夢探偵」

 〜日本映画に新たなダーク・ヒーロー誕生!〜
    
 (2006年 日本映画 1時間46分
 監督:塚本晋也
 出演:松田龍平,hitomi,安藤政信

1月27日(土)より、テアトル梅田、敷島シネポップほかにて上映中!
2月中旬より、シネカノン神戸にて公開!
京都みなみ会館にて、近日公開!

 他人の悪夢の中に入り込む特殊な能力を持つ“悪夢探偵”(松田龍平)の活躍が描かれる。

  若い女性が自らを切り刻んで死亡する事件が発生。キャリア組から現場へと配属された女性警部・霧島(hitomi)の最初の事件は、自殺として処理されようとしていた。しかし、今度は中年の男が同様の方法で死亡。二人の携帯には、同じ発信履歴が残されていた・・・

  カルトの鬼才・塚本晋也監督が書き下ろしたオリジナル原作を自ら映画化。演出は、たたみかけるようなスピード感溢れる映像と凄まじい音響デザインで、恐ろしい悪夢の世界を構築しており、塚本ワールドが炸裂。

 “自殺”という今日的なテーマを扱い、現代に蔓延する“死にたい病”を巧みにドラマに取り入れ、都会の闇に潜む得体の知れない狂気を描く。肉体に宿る精神性を抉り出すといった塚本監督お得意のテーマも健在だ。

 何よりも主人公の悪夢探偵の設定がユニークだ。江戸川乱歩の陰影ある探偵ものをイメージしつつ、全てにおいて後ろ向きのネガティブな性格。他人の醜い内面を知ってしまうため「あああ、いやだ、いやだ」が口癖の頼りなげなキャラクターが、暗いユーモアを誘い、陰惨なドラマを緩和させる。

 黒いマントを羽織、現実と夢の世界を行き来するダーク・ヒーローは、主演の松田龍平の当たり役となった。父・優作の血を受け継ぐ彼が、新たな探偵ヒーローを生み出したことは、感慨深い。シリーズ化ということで、次回作にも期待したい。

(後藤一郎)   ページトップへ  
 長州ファイブ

「長州ファイブ」

(2006年 日本 1時間49分)
監督:五十嵐匠
出演:松田龍平(山尾庸三),
    山下徹大(野村弥吉/井上勝)
    北村有起哉(志道聞多/井上馨)、     三浦アキフミ(伊藤俊輔/伊藤博文)
    前田倫良(遠藤謹助)


2007年2月10日(土)、シネマート心斎橋、MOVIX堺、
2月、新京極シネラリーベ
3月、三宮シネフェニックスにて公開

 幕末・維新ものに関しては,傑出した人物や耳目を引く出来事が多いため,これまでにも数多くの映画が生み出されてきた。その中で,本作は,これまでの幕末・維新ものとは一線を画しており,その視点のユニークさに特色があり,大いに興味をそそられる。

  物語は,江戸末期の1863年ころから始まる。長州とは,言わずと知れた長州藩であり,攘夷を唱えて外国人を排斥することに躍起となっていた。ファイブとは,若き20代の長州藩士5人であり,先進の技術を修得して「Living Machine(生きたる機械)」となるため,幕府の禁を犯してイギリスに密出国した。
 監督は「今だからこそファイブ」と説明している。つまり,現在もファイブが生きた時代と同じように光が見えない時代,どう生きればよいかが見えない時代だという思いがあり,そこからこの映画が生まれたらしい。

  ところが,残念ながら,映画の中で描かれた江戸末期が現代と同期しないため,断髪して命懸けでイギリスを目指さざるを得ないという追い詰められた心情が今一つ伝わって来ない。自分たちの行動に疑問を感じ,本来やるべきことは何かと模索した末,密航の決意を固めた経過が説明されるが,その痛みや苦しみが他人事のように思えてしまった。
  そうは言っても,5人がイギリスに着いてから,映画は本領を発揮する。ストーリー的にはヨコにもタテにも広がりを見せくれる。鉄道や造船といった先進技術だけでなく,その暗部ともいうべき貧富の差,外国から日本を振り返ることの大切さ,文明を生み出す人間やその人間を慈しむ自然など,視野がどんどん開けていくような感じを受ける。

  毎年行われる「造幣局の通り抜け」のアイデアは,江戸末期にイギリスで生まれていたのかどうか,その真偽はともかく,ファイブが日本に持ち帰ったものは果てしなく大きい。映像的なスケールは小さい印象を受けるものの,監督の確かな視点に潔さが感じられる。
(河田 充規)ページトップへ
 酒井家のしあわせ

「酒井家のしあわせ」

(2006年 日本 1時間42分)
監督:呉美保(お みぽ)
出演:森田直幸(もりた なおゆき)
友近(ともちか), ユースケ・サンタマリア
濱田マリ(はまだ まり), 赤井英和(あかい ひでかず)

12/23〜シネマート心斎橋,テアトル梅田
’07,2/3〜 シネカノン神戸
’07,2月下旬〜京都シネマ

 なかなかしっかりと構築された家族のドラマである。人間の顔が全体の作りは共通していても細部は一人ひとり違っているように,社会的な集団の最小単位である家族の姿もまたそれぞれ個性を持っている。

  ここでは「酒井家」の個性を丁寧に描きながら,ラストでは普遍的な家族の「しあわせ」が示される。

 母親の照美は,夫と長男を交通事故で亡くし,二男の次雄を連れて年下の正和と再婚し,長女の光をもうけた。次雄は,正和を父親として全面的には受け入れていない。こうした背景が,特に説明的なセリフやシーンが挿入されていないのに,自然と明らかになってくる。その語り口が熟練した感じで実に巧い。

  しかも,中学2年の次雄のナレーションで物語を進行させており,この手法も効果的だ。

次雄は,照美や正和との距離が近すぎることも遠すぎる こともなく,絶妙のポジションを保っている。その結果,我 々は,過度の感情移入に陥ることなく,一定の距離を保っ て酒井家の人たちに接することができる。

  すなわち,単に酒井家を疑似体験するだけではなく,酒井家を客観視する中から,自分とその家族の姿をも顧みる余裕が与えられるのである。

 また,次雄は,親友の母親から「子が親を選べないように親は子を選べない」と諭されたり,伯父からそれまで知らなかった照美のエピソードを聞かされたりするうち,大人の世界が少し見えてくる。このような次雄の体験が描かれているからこそ,次雄が初めて正和を父親と認めて「お父さん」と言ったことが違和感なく受け入れられる。ここには人間の心理に対する洞察力の鋭さが感じられる。

  この映画は,どこにもありそうな家族の姿を等身大で捉えることに成功している。監督の力量はもとより,次雄に扮した森田直幸と照美に扮した友近の功績が大きい。特に友近の母親像は,家族をはじめ人間を見る目の確かさに裏打ちされたものだろう。人間社会の基本となる家族を見直す機会が与えられた。

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 ラッキーナンバー7

「ラッキーナンバー7」

(2005年 アメリカ 1時間41分)
監督:ポール・マクギガン
出演:ジョシュ・ハートネット, ブルース・ウィリス
ルーシー・リュー, モーガン・フリーマン
ベン・キングズレー

1月13日〜梅田ピカデリー,シネマート心斎橋,MOVIX京都,神戸国際松竹のて公開

 主役級の出演者がずらりと並んでいて壮観だ。相対立する大物ギャング2人にそれぞれモーガン・フリーマンとベン・キングズレー。最初は巻き込まれ型サスペンスの主人公のようなジョシュ・ハートネット。彼に近付く隣人で検死官のルーシー・リュー。敵か味方か分からない暗殺者のブルース・ウィリス。この豪華なキャスティングで,謎が謎を呼ぶストーリーが展開して,なかなか面白い。

  いきなり駐車場で背後から銃で撃たれる男が映し出されるなど,冒頭から衝撃的なシーンが続くが,映像の展開の鮮やかさに目を奪われるせいか,凄惨さはあまり感じない。この流れるような映像に続いて,ブルース・ウィリスが登場し,20年前に競馬で借金を抱えた男とその家族の話をする。「7」という数字は果たしてラッキーナンバーなのか?

 撮影だけでなく,脚本も優れている。何よりリズミカルな運びが見事で,ぐいぐいと引き込まれていく。随所に重要なセリフが巧みに挿入されているので,目が離せない。考えるヒマもないまま物語が急展開するのでは面白くないが,絶妙の間隔で考える時間が与えられる。だが,予測はなかなか難しい。このリズムが最後まで持続するからたまらない。

  また,ギャング2人のいる向かい合わせのビルの外観など,街の雰囲気にも何気なさそうな工夫が見られる。レトロっぽい感じと近未来的なイメージが重なり合うようで面白い。俯瞰のショットではCGが巧みに使われているらしく,視覚的な効果も楽しめる。室内のシーンでも,渦巻きのような内壁のデザインなどにユニークさが感じられて興味が湧く。

  それでいて,人間不在には陥っていない。ジョシュ・ハートネットとルーシー・リューのロマンスだけでなく,ブルース・ウィリスのジョシュ・ハートネットに対する思い,2人のギャングの切っても切れない繋がりなど,少々物足りなさが残るとはいえ,結構しっかり人間味を感じさせてくれるところがいい。
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 オーロラ
「オーロラ」

(2006年 フランス 1時間36分)
監督:ニルス・タヴェルニエ
出演:マルゴ・シャトリエ, キャロル・ブーケ
フランソワ・ベルレアン, ニコラ・ル・リッシュ


1月13日〜OS名画座,三宮シネフェニックス
2月24日〜京都シネマ


 バレエ映画と言えば,英国ロイヤル・バレエによる傑作「赤い靴」を始め,ミハイル・バリシニコフの「ホワイトナイツ/白夜」,ジョルジュ・ドンの「愛と哀しみのボレロ」が思い浮かぶ。他に,伝記映画「アンナ・パブロワ」があり,バレエダンサー志願の少年を描いた「リトル・ダンサー」もあった。

  今回の「オーロラ」は,これまでのバレエ映画の枠に収まらないものがある。映画の中にバレエが取り込まれているだけではなく,バレエと映画が融合して渾然一体となっているのだ。バレエそのものが,ステージではなく,スクリーンの上で展開される。
 
  フランスで生まれたバレエが,その生まれ故郷のフランスで,新たな境地を開いたといえよう。
 物語は,架空の王国を舞台にしたファンタジーだ。要するに,オーロラ姫の結婚相手を募るため舞踏会が開かれるが,オーロラ姫自身は肖像画を描いてくれた画家に恋してしまうというもの。彼女は,踊ることによって心の内面を表現する。バレエではセリフがなくマイム(身振り手振り)でストーリーが進行するので,プロットは至って単純だ。その意味で映画に向いているかも知れない。

  バレエシーンはひたすら美しく幻想的だ。城の庭で踊るシーンから始まり,画家の前で妖精が情熱を迸らせるようなダンスを経て,雲の上の世界でのパ・ド・ドゥ(男女ペアの踊り)まで,バレエの醍醐味を堪能できる。パリ・オペラ座バレエ学校のマルゴ・シャトリエがオーロラ姫に扮して妖精のような魅力を発散している。振付もコンテンポラリー・ダンスの雰囲気があって新鮮に映る。画家に扮しているのはパリ・オペラ座バレエのエトワールであるニコラ・ル・リッシュだ。

  また,オーロラ姫に求婚する王子が舞踏会で自国の踊りを披露するシーンも変化に富んでいて見応え十分だ。中でもジパンゴというジパングつまり日本を連想させる王国の踊りは,何と日本発の暗黒舞踏であり,これには驚いた。フランスではエキゾティックに見えるのだろうか。ともあれ,一流の顔ぶれが揃っているので,これを見逃す手はない。

 ただ,オーロラ姫が雲の上へ飛翔するシーンは,束縛から解放された歓びの表現として,もう少し映像的な空間の広がりがあれば良かったと思う。だが,映画館の中でパリ・オペラ座バレエに酔いしれるという体験には得難いものがあるので,バレエには興味がなかったという映画ファンにぜひ観てもらいたい!
(河田 充規)ページトップへ
 ブロック・パーティー

ブロック・パーティ」

(1時間43分)

12月
23日〜テアトル梅田,シネリーブル神戸にて公開中

 
 ソウル界の帝王(ゲロッパ)のジェームス・ブラウンが亡くなった。 世界中のポップミュージックに影響を与え続けた彼の偉業は語り 尽くせない。アメリカではジェームスの亡くなったその日彼をモデル
にした映画「ドリームガールズ」が公開され、ここ関西では彼を敬愛 するブラック・アーティスト達によるドキュメンタリー映画「ブロック・ パーティーが公開された。なんという偶然!

 ニューョークのブルックリンでシークレットライヴが行われようとしていた。 発案者は現代のアメリカを代表するコメディアン、デイブ・シャペル、 降りしきる雨の中彼に賛同したカニエ・ウエスト、エリカ・バドゥ、モス・デフ といったブラック・ミュージックのスター達が激しいステージを展開する。

 そしてラストには大御所ローリンヒル、と、ところが彼女はなんと6年ぶり にフージーズを復活させてやって来たのだ。ラップ音楽を誕生させてくれた この街にありったけの感謝(ソウル)をこめて彼女が歌う「やさしく愛して」は 音楽ファンには必見です。いや、そうではない人にもこのすばらしいドキュメ
ンタリィー映画を観てほしい。

そしてジェームス・ブラウンよ安らかに・・・・。
(藤崎 栄伸)ページトップへ
 007/カジノロワイヤル
 「007カジノロワイヤル」 

〜あなたはニュー・ボンド誕生を目撃する〜


 (2006年 イギリス 2時間24分) 
 監督:マーティン・キャンベル
 出演:ダニエル・クレイグ, エヴァ・グリー
     ジュディ・デンチ


ナビオTOHOプレックス、梅田ブルク7、TOHOシネマズなんば他 絶賛公開中

 若きジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、「殺しのライセンス」と呼ばれる“OO(ダブル・オー)”に昇格。最初の任務は、テロリストの資金源と呼ばれる謎の男“ル・シャッフル”を追うこと。そして、彼が資金を“カジノロワイヤル”のポーカーに賭けることを突き止めたボンドは・・・

 新ボンド役を射止めたダニエル・クレイグは、最初ボンド・フアンから猛反発を受けたものの、公開されるや世界中で大ヒット、作品評価も高く、「007シリーズ中最高傑作、最高のボンド役者!」と大ブーイングを大絶賛に変えてしまい奇跡の男となった。

 今回、初任務に燃え、粗暴で荒削りな若きボンドが実に魅力的であり、秘密兵器に頼らず、自らの肉体を駆使し、走り、跳び、傷付く人間ボンド像が最大の見所だ。
 
  また、エヴァ・グリーン扮するヒロインが、殺人に関与してしまい、傷心した彼女をボンドが抱き一緒にシャワーに打たれ“悲しみを共有する”シーンが胸を打つ。今だかって、そんなボンドを見たことがない。

 007シリーズ21作目でのリニューアル大成功、タフでシャープなニュー・ボンド誕生。
お馴染みの“ジェームズ・ボンドのテーマ曲”がようやく聞こえる頃、全ての観客は彼の虜になっている。

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 どろろ
「どろろ」

〜本当の自分を探す「旅」の扉が開かれた!〜

2007年 日本映画 2時間18分
監督 塩田明彦
主演 妻夫木聡、柴咲コウ

1月27日より全国ロードショー

 左腕に繋がれた妖刀を使い、魔物と闘う男がいた。名は「百鬼丸」(妻夫木聡)。体の48箇所を魔物に奪われ、それを取り戻すため闘い続ける若者だ。

 戦乱の世のゆえ、女だてらに少年の姿をしている野盗「どろろ」(柴咲コウ)と出会い、幾多の危険を乗り越えながら旅を続ける。

 そして運命は彼らを一人の男へと導いていく……その男こそ、百鬼丸を野望と引き換えに魔物に捧げた実の父親だった!

 かつてない着想と壮大さを兼ね備えた手塚治虫の原作コミックは、40年の時を経ても色褪せる事なく普遍的なテーマを持つ。そのメッセージを固苦しくなく、スピード感溢れる映像で表現した見事なエンターテインメント作品が誕生した。

  主役を務める2人の演技も素晴らしいが、脇を固める名優達がこのファンタジックな世界観をリアルで人間らしい世界観へと変えていく。中でも百鬼丸の実の父親を演じた中井貴一と、育ての親を演じた原田芳雄の演技は見応えあり。

  最先端の映像技術を駆使した魔物退治も見所の一つだが、単なる娯楽作品ではなく、切っても切れない家族という絆の間で葛藤する主人公達の心が作品に厚みを持たせている。

  「天才」と呼ぶに相応しい数少ない人物、「手塚治虫」。彼が描く主人公はみな「業」を背負っている。しかし、ただそれを受け入れるわけではない。自分の運命と闘う勇気、そして、その先にある希望……手塚治虫の想いが今、新しい風となってあなたの元へと届く。

(芝田 佳織)ページトップへ
 悲しき天使
「悲しき天使」

(2006年 日本 )
監督:大森一樹
出演:高岡早紀,筒井道隆,山本未来

 2006年10月8日,鶴見区民センターで大森一樹監督「悲しき天使」が1回だけ上映された。このとき,監督の舞台挨拶も行われた。
  この映画は,公開の目途がなかったが,見た人の評判が良かったらしく,8月24日には映画の舞台となった大分県の湯布院映画祭で上映され,更に10月27日に京都映画祭でも上映された。
そして,いよいよ12月16日から大阪のシネ・ヌーヴォで一般公開される。

 松本清張原作,野村芳太郎監督の映画「張込み」のリメイクからスタートした企画だそうだ。そのため,前半は,岸部一徳と高岡早紀が扮する2人の刑事の張り込みのシーンが続く。だが,内容的には大きく改変されており,高岡早紀に山本未來と河合美智子が加わった3人の女優により,30歳代の女性の三者三様の思いがリアルに表現されていた。このキャスティングが絶妙で,特に中核となる高岡早紀の好演が光っている。彼女のおかげでラストシーンが胸に迫るものとなった。

  男優にも目を向けると,何より筒井道隆が優しさの中にも一本芯の通った男を好演しており,河合美智子の演じる妻の選択に説得力をもたらしている。また,岸部一徳は,仕事にちょっと疲れたような刑事の姿が似合っている。特に,娘が婚約者に父親の仕事を秘密にしていることを寂しげに語るシーンは,しみじみとした味わいがある。ただ,結婚を考える高岡早紀の姿とうまくオーバーラップしていないように感じたのが残念でならない。

  脚本は,ある殺人事件について,冒頭で犯人を示したうえ,その人物像を徐々に具体化していく。彼女は,計画的でなかったとはいえ,義父を殺してしまう。その背後には,彼女の婚約者まで巻き込んだ,彼女と義父との暗くて重い関係が大きく横たわっていた。ごくありふれたプロットだが,犯人を待ち続ける女性刑事の視点と犯人の元婚約者の妻の心情を通して,悲しみを堪えて生きてきた犯人の姿が浮かび上がる点で,一見の価値がある。

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 暗いところで待ち合わせ

「暗いところで待ち合わせ」
(2006年 日本 2時間9分)

監督:天願大介
出演:田中麗奈,チェン・ボーリン,井川遙


12月2日(土)より、シネ・リーブル梅田/ユナイテッドシネマ岸和田/ 京都みなみ会館/シネ・リーブル神戸/MOVIX橿原

  題名が「暗いところで待ち合わせ」で,しかも心を閉ざして生きている男女が主役の映画だが,暗くはなく,後味はさわやかだ。ここでは「幻遊伝」とは全く別の田中麗奈とチェン・ボーリンに会うことができる。

  男は,今まで社会の中で居場所を見付けられず,職場でも殻に閉じこもって,ますます居心地が悪くなり,今では職場の先輩を殺したと疑われている。女は,母親に去られ,事故で目が見えなくなり,更に父親に先立たれ,小学校からの友人の助けを唯一の支えとして,孤独に生きている。そんな男女の,同じ屋根の下にいながら,同居しているとはいえない,ちょっと不可思議な姿が捉えられている。

  男はアキヒロといい,女はミチルという。ミチルの家の窓からは駅が見える。その駅のホームからアキヒロの職場の先輩が転落し電車に轢かれて死亡するという事件が起きる。これが切っ掛けとなり,アキヒロがミチルの家に上がり込んできて,それまで全く繋がりのなかった2人の人生が交錯していく。

  映画の前半では,ミチルの父親が急死し,その葬儀のシーンと併せてミチルの過去と現在が端的に描かれる。また,アキヒロが駅のホームで先輩を線路上に突き落とそうとするシーンが示され,その理由が明らかにされていく。手際よい展開で,2人の人物像が自然に浮かび上がってきて,この2人によって紡ぎ出される世界に違和感なく入り込める。

 ミチルは,目が見えないとはいえ,家の中の様子がちょっと違っていることに気付きながら,それに気付いていない振りをしている。一方,アキヒロは,自分の存在がミチルに気付かれていることを感じ取りながら,なかなか声を掛けられないまま息を潜めている。そんな2人のいじらしい姿を捉えたショットが積み重ねられていく。これによって,ラストシーンが哀愁の漂う印象深いものとなった。

  また,2人に関わってくる人物のうち,アキヒロの先輩とミチルの近所に住むハルミが,映画全体にアクセントをつけ,興趣を盛り上げてくれる。職場でアキヒロをいじめる憎々しげな先輩に扮した佐藤浩市の好演が光る。彼が後輩達に聞かせる女性についての話もまた,ラスト近くでハルミの哀しみの深さを痛感させる伏線となっており,何とも心憎い。

  監督・脚本の天願大介は,父親の今村昌平監督作品「うなぎ」等の脚本に参加している。その成果かどうかはともかく,本作全体の構成や展開に安定感があり,巧さが窺われる。
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 とかげの可愛い嘘

「とかげの可愛い嘘」 (2006年 韓国 1時間57分)

監督:カン・ジウン
出演:チョ・スンウ,カン・ヘジョン


 韓国純愛映画の王道だが,主演のチョ・スンウとカン・ヘジョンの魅力が全開で,「とかげの可愛い嘘」というキュートな題名に違わず,愛おしい映画に仕上がっている。

 
 宇宙からやって来て宇宙へ帰って行った彼女と,そんな彼女を朴訥なほど誠実に受け止めて愛したボクの物語だ。彼女の健気さと彼の純朴さは「ユア・マイ・サンシャイン」の主役の2人に通じるものがある。同作品がコクのあるアイスクリームだとすれば,本作品はサッパリ系のシャーベットのようだ。

  彼女はイ・アリことキム・ウンジョンで,彼はチャ・ジョガンだ。この2人の子役たちもなかなか良い雰囲気を出している。特にジョガンが子供のころ逃げたトカゲをアリのため懸命に捕まえようとするシーンは,その後アリを待ち続けたジョガンの心情を端的に示しており,味わい深いものがある。

  これに続いて,ジョガンがアリに手作りの”木彫りのとかげ”を渡すシーンがある。韓国のドラマや映画では,かつてのヒッチコック作品のように,小道具が伏線として効果的に用いられ,後々まで印象に残ることが多い。本作品では,”木彫りのとかげ”がジョガンの性格を示すと共に,アリとウンジョンを結びつける道具として巧みに用いられている。

  また,本筋とは関係ないが,ジョガンの父親が板前で寿司店を経営している。店の表に日本語で「酒」や「日本」と書かれていたと思う。もしかして韓国でも日本食ブームが…。韓国映画の「鯨とり」と「青春スケッチ」が日本のロードショウ館で初めて上映された昭和の終わりころと比べ,韓国と日本の関係が大きく変化したことを実感させられた。

  話を戻そう。カン・ヘジョンは,映画の前半では,捕まえようとするとスルリと逃げてしまうような,掴み所のない雰囲気をうまく表現している。「トンマッコルへようこそ」で彼女が演じた妖精のようなヨイルの姿が重なってくるようだ。そして,物語が進行するに連れ,彼女の姿に「永遠の片想い」のイ・ウンジュの姿がタブってきて哀しい。

  アリはジョガンに「宇宙船が迎えに来たら笑顔で見送ってくれる?」と尋ねる。彼女はかぐや姫なのか……彼女が子供のころ黄色いレインコートを着てトカゲを持っていたワケが明かされるときには,涙腺がゆるゆるになっているに違いない。「愛してる」と「ごめん」が繰り返され,スクリーンが霞んでくる。くれぐれもハンカチを忘れないように。
(河田 充規)ページトップへ
 あるいは裏切りという名の犬

「あるいは裏切りという名の犬」           

〜 激シブ男たちの熱いドラマに全編鳥肌が立った!〜

(2004年 フランス 1時間50分 )
監督:オリヴィエル・マルシェ
出演:ダニエル・オートュエ, ジェラール・ドパルデュー 
        
2007年1月6日〜テアトル梅田、シネ・リーブル神戸にて公開

 オルフェーブル河岸36番地、パリ警視庁(原題)。次期長官の座を競う二人の警視がいた。仲間からの信頼が厚い強行班リーダー・レオ(ダニエル・オートュエ)と権力志向の強いドニ(ジェラール・ドパルデュー)かって二人は親友同士であり、同じ女性を愛し奪い合った。パリでは、凶悪な現金輸送車襲撃事件が多発、犯人逮捕を巡って男たちの野心と思惑が激突する・・・

  枯れた映像美と無駄のない語り口。友、仁義、野望、権力、裏切り、復讐といったフランス映画のお家芸であるフイルム・ノワールの伝統を見事現代に甦らせた。派手なハリウッド製アクション映画とは一線を画し、バイオレンスも極力控えたエレガントな作りだが、二転三転する計算尽くされた脚本には最後まで釘付けとなる。

  オートュエ演じるレオの顔に深く刻み込まれた苦渋の皴に本物の男を見た。ドニに扮するドパルデューの禍々しい巨体に悪の魅力を感じた。正にフランス映画の伝統を体現した二人だ。彼らの肉体は男のあるべき姿を示している。

  元警官のオリヴィエル・マルシェが脚本と監督を担当、実話を基にした迫真のリアリズムと先読み不可能な激しい運命のドラマに全編圧倒された。フランス映画にしかできない骨太なサスペンスと男のダンディズムに酔いしれて下さい。

(後藤 一郎)ページトップへ
 水 の 花
「水の花」

(2005年 日本)
監督・脚本:木下雄介
出演: 寺島 咲 ,小野ひまわり,田中哲司
     黒沢あすか ,津田寛治

 冒頭,カーテンの隙間を通って窓から差し込む日差しが少女の背中を柔らかく照らし,ラストでは,逆に少女の内側から光が放射されるようだ。この少女を中心とする主要な登場人物4人の関係や心情が,日常の何気なさそうな会話や行動を的確に捉えることにより,浮き彫りにされていく。 1981年生まれの新人監督の感性と語り口の上手さが輝いている。

 美奈子は,7歳のときに母親の詩織が男を作って家を出て行った後,恨みや空しさなどが入り混じった複雑な心境から逃れられない。通学先の中学校の保健室にあるベッドで独り横になるシーンに象徴されるように,自分が世間から隔絶した感じを受けることもある。このように美奈子の心の内側を巧みに描写している点にまず感心させられる。

  一方,優は,詩織が美奈子とその父親を置いて家を出たときに宿していた別の男との間の娘であり,未だ7歳とはいえ,体全体で母親が近くて遠い存在となってしまったことによる寂しさを表現し,しかも美奈子に対する触媒のような重要な役割を果たしている。

  美奈子は,“あの女”すなわち詩織が優を連れて近所に戻ってきたため,漸く忘れかけていた記憶を呼び覚まされる。美奈子は海を見に行こうと優を誘うが,それが運命に導かれた必然的な成り行きのように感じられ,不思議な味わいがある。決して明確な目的があったわけではなく,優の心の中に自分と共通する孤独があるのを感じ取ったに違いない。

 本作では,優が詩織からもらった口紅が小道具として上手く使われている。口紅が女性の成長を暗示するだけなら,安直さを否定できない。だが,口紅は,母から娘に受け継がれ,優と美奈子の距離を縮める道具であり,ラストでも重要な役割を与えられている。

  そしてまた,美奈子がピアノを弾き,優がバレエを舞うシーンも,温もりのある終幕を予感させるものとして印象に残る。バラバラだった2人が互いに心の中に相手の存在を受け入れた瞬間を感じさせ,美奈子の心の中に明かりが灯ったことを示してくれる。

  更に,美奈子と優だけでなく,美奈子の父親に詩織,そして優の父親の描写も過不足なく的確であり,ストーリーに奥行きを与えている。その結果,ただ1度だけ美奈子が語気を強めるシーンが重く心に響くものとなった。

  美奈子は詩織に「勝手に決めないでよ」と言う。自分は母親失格だから優をその父親に引き渡すと詩織から言われたとき,母親の身勝手さに対する押さえ切れない感情が吹き出したのだ。大人は子供の心を少しでも考えたことがあるのかという悲痛な叫びでもある。

  ラストでは,立ち上がった美奈子が手前のカメラを真っ直ぐ見つめる。その瞬間,彼女の唇に塗られた口紅が鮮やかに目に飛び込んできた。ここでは彼女が口元に指をあてがうシーンは必要なかったと思う。それほどはっきりと,過去を受け止めて前向きに生きようとする彼女の心情が示され,爽快感が残る。

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 愛の流刑地
「愛の流刑地」

〜死にたくなるほど人を愛した事がありますか?〜              
 (2007年 日本 2時間5分)

 監督:鶴橋康夫
 出演:豊川悦司,寺島しのぶ

                            
 2007年1月13日より 全国東宝系ロードショー

「殺してください。本当に愛しているのなら……」

 かつてのベストセラー作家である村尾菊治(豊川悦司)はその指で、誰よりも愛している女性・冬香(寺島しのぶ)を絞殺してしまう。二人は一年前に知り合い身も心も惹かれあうが、その愛は決して許されるものではなかった。なぜ、女は男に死を求めたのか、なぜ男は女を殺めたのか……禁断の愛が行き着く果てにある「真実」とは。

 渡辺淳一のベストセラー小説を、テレビドラマ界の巨匠・鶴橋康夫監督が映像化。濃密な「愛」のシーンに注目が集まっているが、「大人の純愛」の強さ、深さ、恐さを感じさせ、女性にもぜひ観て欲しいと言える作品に仕上がっている。

 裁判と回想が交錯していく中で、観客たちも菊治と冬香の深愛の中に落ちてゆく。恐いくらいに変わっていく冬香に女の「性」を見せ付けられ、妻と女のはざまで苦しむ姿に心が揺れ動かされる。愛が裁かれる時に明かされる一人の女の「死」の深意に貴方は何を感じるだろう。(ちなみに私は自然と涙がこぼれた) 

 禁断の愛を知ったものだけが辿り着く場所に、貴方も流されてみませんか?

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 オーロラ姫

「オーロラ姫」

(2005年 韓国 )

監督:バン・ウンジン
出演: オム・ジョンファ,ムン・ソングン,パン・ウンジン

 2006年10月24日から29日まで開催された第5回京都映画祭において,28日19:30から祇園会館で韓国映画「オーロラ姫」が上映された。その上映前にはパン・ウンジン監督の舞台挨拶が行われた。

  ただ,予定されていた主演女優オム・ジョンファの舞台挨拶がキャンセルになったのは残念だった。
 題名の「オーロラ姫」とは,連続殺人事件の犯人が現場に残すオーロラ姫のステッカーを意味する。バレエ「眠れる森の美女」ではなく,日本のアニメ「SF西遊記スタージンガー」のオーロラ姫だ。監督は,同じく松本零士原作の「銀河鉄道999」に登場するメーテルにも大きな影響を受けたそうだ。

  本作は,犯人捜しではなく,犯人の動機に焦点が当てられている。ヒントが散りばめられ,徐々に主人公である犯人の行動の意味が分かってくる。バラバラのピースを集めていくと,最後には一枚の絵が完成するのだが,そのピースの示し方の巧さに引き込まれ,目が離せなくなってしまう。

  5人の男女が別々の手口で殺害されるが,警察の捜査によっても被害者の共通点が明らかにならない。しかし,ラスト近くになって共通点が明かされる。その語り口が鮮やかだ。セリフに頼らないで映像で語られる。映像の切れ味という点ではパク・チャヌク監督に一歩譲ることになるが,全編を通じて女性監督らしい優しいまなざしが感じられる。だからこそ,ラストの種明かしでは,人間的な温もりが伝わってくるのだ。

  残酷なシーンもあるが,目を背けたくなる一歩手前で踏みとどまっている。色彩面でも赤の使い方がユニークであり,トイレの扉の赤,血の飛沫の赤,水の中に広がる赤など,印象に残る。そして,ここで描かれているのは復讐劇である。復讐劇と言えば,パク・チャヌク監督の復讐三部作が思い浮かぶが,その中の一本「親切なクムジャさん」のイメージが本作に一番近い。しかし,内容的には,本作の方が技巧的な感じがなくて分かりやすく,人生の寂しさや虚しさがビビッドに伝わってくる。オム・ジョンファの哀しみを湛えた眼が目に焼き付いて離れない。

  監督は,本作のテーマは「怒り」であり,その底には「愛」があると言われていたが,正にその通りだ。同じく韓国映画の「グエムル 漢江の怪物」でも家族愛が描かれていたが,本作では特に母親の娘に対する愛が全面に押し出されている。ソウルの街を走る車のライトが流れる描写など,全編を通じて柔らかい光が体全体を包んでくれるような,何とも言えない安心感があるのが不思議だ。

  主人公の行動は客観的には自分本位なものであり,私的な復讐は決して容認されるものではない。だが,パン・ウンジン監督の深い愛情に支えられた映画全体のプロットの巧みさと映像の美しさ,そしてはまり役と言うべきオム・ジョンファの好演によって,いつの間にか主人公の心情に共感させられている。

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王の男

「王の男」

〜時空を超えて燦然と輝く世紀の傑作〜

監督 イ・ジュンイク
(2005年 韓国 2時間02分)
出演 カム・ウソン、 イ・ジュンギ、 チョン・ジニョン

 シェークスピア劇のような悲劇性の中に巧みに喜劇的な要素を織り込みながら,宮廷や王侯と市井や芸人とを対置することにより,悲劇的な結末を回避して,庶民の自由闊達な生命力や躍動感を前面に押し出している。その重層的な構成の巧さに感嘆させられる。

  16世紀初め,朝鮮王朝第10代王ヨンサングンの時代。旅芸人のチャンセンとコンギルは,一旗揚げようと漢陽の都で芸を披露し,思わぬ展開で宮廷内に住むことになる。そのころ,宮廷の外には万華鏡のような華やかさがあったが,内部では猜疑や欺瞞がうごめいていた。

 命懸けで運命を切り開こうとするチャンセン。運命に身を任せようとするコンギル。この2人に,王でありながら運命に絡め取られたようなヨンサングンが加わり,3人の人物を中心とする壮大なアンサンブルが繰り広げられる。その醍醐味は他では味わえない。

  チャンセンは,世渡りの術となる強靱さを備えており,主役でありながら狂言回し的な役割をも果たす。とりわけ綱渡りの綱の上で王の放つ矢をかわすシーンがその役柄を象徴するかのようだ。また,コンギルとの強い絆もプロットの上で重要な意味を持っている。

  王の寵愛を受けたコンギルは,王の愛妾や一部の重臣から敵視される。陰謀が渦巻き,正に手に汗握る展開の中で,次第にコンギルの外見だけではない内面の純粋な美しさが浮かび上がる。王の心の空洞を感じながらもチャンセンに殉じるコンギルの美しさが映える。

  一方,カリカチュアされたヨンサングンの王らしくない言動が滑稽だが,その底には深い悲しみがあった。母親を毒殺されたことによる心の傷を引き摺り,先王の影響の大きさに打ちひしがれていた。王の地位にあることによって人間性を奪われた悲劇が見えてくる。

  また,映像と音楽がよくマッチし,心の底から湧き出てくるような,人間であるが故の逃れられない悲しさが奏でられる。だが,決して重苦しい悲劇ではなく,軽喜劇の要素を内包しながら,全体が崇高で毅然とした美しさに包まれている。何よりツボを押さえた心憎いほど巧いカメラワークに魅せられる。

  ラストでは,今度生まれてきたときもまた芸人になるというチャンセンとコンギルの,一世一代の研ぎ澄まされた芸が,観る者の目と耳を通じて体全体に染み渡り,胸が熱くなる。この2人の掛け合いが絶妙の間合いで,まるで迫真の舞台劇を観ているようだ。その根底には人生を謳歌する逞しさがある。

(幕兵衛ことマクベス)(河田充規)ページトップへ
武士の一分

「武士の一分」

〜妻は愛する夫を支え、夫は妻のために「一分」をかけて剣を抜く!〜

監督 :山田洋次
出演 :木村拓哉、檀れい、桃井かおり


12月1日〜梅田ピカデリー,MOVIX京都,国際松竹神戸他全国ロードショー


 つつましく分相応な暮らし、かけがえのない夫婦の幸せ。かっての日本人が持っていた、
お互いを思いやる美しい心。「武士の一分」は、侍として、夫として様々に揺れ、苦しみながらも妻を愛し抜いた男と、献身的に夫を支えた美しい妻との夫婦愛にあふれた心温まる物語である。

  「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」と続く藤沢周平原作・山田洋次監督の時代劇三部作の中の最高作に仕上がった。「テレビでは、見られない木村拓哉を見せる。」と山田監督が述べたように、巨匠の演出により役者としての資質を問われた木村拓哉は、ささやかな暮らしを生きる平凡さから一転、光を失った絶望、裏切りへの怒りに至る心の起伏を見事に演じ切った。幼い頃から剣道に打ち込んでいたという、正に“腕におぼえあり”の殺陣をこなし、剣劇のできる新たな“映画スター・木村拓哉”の誕生を心から喜びたい。

  男女の結びつきが安易な現代だからこそ、心に響く夫婦の純愛。「武士の一分」は、時代劇の枠を超えたラブ・ストーリーの傑作だ。                                                   
( 後藤 一郎 )ページトップへ
マリー・アントワネット
「マリー・アントワネット」

〜”バカげた”宮殿生活をエンジョイしたマリー〜


監督・脚本 ソフィア・コッポラ
( アメリカ・フランス・日本・2時間03分)
出演 キルスティン・ダンスト、     ジェイソン・シュワルツマン、     アーシア・アルジェント

 豪華な装飾や衣装,均整のとれた庭園の風景を見るだけでも,リッチな気分が味わえる。実際にヴェルサイユ宮殿で撮影が行われたそうだ。庭園で打ち上げられる満開の花火,明け方の柔らかな日差しなど,実際に宮殿まで行ってもなかなか体験できるものではない。
 
  主人公は,オーストリア皇女で,1770年にフランス王太子ルイ(後のルイ16世)と政略結婚させられた,あの有名なマリー・アントワネット。だが,この映画の中に”王妃”は登場しない。たまたまヴェルサイユ宮殿で暮らすことになった一人の女性の,その宮殿での生活が,ソフトなタッチで綴られていく。

  冒頭,ウィーンから馬車に揺られてフランスとの国境に向かうマリー・アントワネットの様子が短いショットを重ねて丁寧に描かれている。ウィーンを出発するシーンの次はすぐ国境での儀式のシーン…とはならない。ここに映画全体の視点が端的に示されている。

  社会性や重厚さが乏しいなどという不満を持つ向きがあるかも知れない。だが,ここでは歴史劇に対する固定観念を捨てて監督の意図を素直に受け止め,乙女チックなラブ・ロマンスなどが盛り込まれた,ソフィア・コッポラ独特の感性とポップな映像を楽しもう。
    

(ラデュレのマカロン)(河田 充規)ページトップへ
ヘンダーソン夫人の贈り物

「ヘンダーソン夫人の贈り物」

〜ウィンドミル劇場、それは戦時下で上演を続けたたった1つの劇場〜


(2005年 イギリス 1時間43分)
監督 スティーヴン・フリアーズ
出演 ジュディ・ディンチ、ボブ・ホスキンス、ウィル・ヤング


12月23日〜梅田ガーデンシネマ,1月上旬〜シネカノン神戸,1月下旬〜京都シネマ

 紳士・淑女の街ロンドンに「ヌードレビュー」が登場?!

 1937年のイギリスを舞台にウィンドミル劇場のオ―ナー・ヘンダーソン夫人と支配人、そして勇気を持ち衣装を脱ぎ捨てた女性達の実話を描いた作品。「ショー」という華やかな世界と「戦争」という暗い現実の間に隠された「優しい真実」……それは大空襲の中でも決して「閉館」の道を歩まなかった夫人から贈られた希望と言う名の光。

本作で2005年米国アカデミー主演女優賞にノミネートされたジュディ・ディンチ(当時70歳)のキュートな演技が最高!

(芝田 佳織)ページトップへ
敬愛なるベートーヴェン

「敬愛なるベートーヴェン」

〜愛を知らない「楽聖」のもう一つの物語〜

2006年 イギリス・ハンガリー 1時間44分
監督  アニエスカ・ホランド
出演  エド・ハリス、ダイアン・クルーガー、マシュー・グード


12月9日〜  ナビオTOHOプレックス
        敷島シネポップ
        TOHOシネマズ二条
12月16日〜 三宮シネフェニックス

 「第九」誕生の裏に一人の女性コピスト(写譜師)がいた……耳が聞こえない悲劇の天才音楽家・ベートーヴェンが奏でる愛の賛歌が魂を揺さぶる最高の音楽ドラマ。10分間に及ぶ「第九」演奏シーンは胸の高鳴りを抑え切れない「神の息吹」に包まれる。

  孤独な音楽家が唯一信頼し、心を通わせていく女性アンナを演じたD・クルーガーの美しさは必見。凛々しく、全てを包み込む様な眼差しはまるで聖母。二人の心が溶け合う瞬間を音楽でみせた女性監督、ホランドの手腕が光る。

(芝田 佳織)ページトップへ
リトル・ミス・サンシャイン

「リトル・ミス・サンシャイン」

〜家族なんて大嫌い、でも大好き! 負け組家族が輝くロードムービー!〜

監督:ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス
(2006年 アメリカ? 1時間40分)
キャスト:アビゲイル・ブレスリン、トニ・コレット、グレッグ・キニア


シネリーブル・梅田、京都シネマ、シネリーブル・神戸にてお正月ロードショー


 「勝ち組」や「負け組」というモノサシに縛られていないだろうか?
「負け」の概念を吹き飛ばしてくれる本作は5年の紆余曲折を経て公開され、3つの映画祭で観客賞受賞という快挙を成し遂げた。
 
  負け組家族の代名詞となる、アリゾナ州に住むフーヴァー一家。9歳の娘・オリーブは、お腹ポッコリの眼鏡っ子だがビューティークイーンを夢見ている。天真爛漫な彼女が、「ミス・リトル・サンシャイン」コンテスト地方予選で繰り上げ優勝!決勝戦へ出場するため、一家はオンボロバスでカリフォルニアを目指すのだが…。

  「負け」を否定する成功論提唱者のパパ・リチャード、色んな理由で沈黙の兄・ドウェーン、ヘロイン中毒だが心は現役の祖父・グランパ、家族をまとめようと頑張るママ・シェリル、そしてゲイで自殺未遂のプルースト学者の叔父・フランク。実力派俳優による、ユニークな集合体としての「家族」の面白さが絶妙だ。

  印象的なのは、故障したバスを皆で押しながら次々に乗り込むシーン。バラバラだった家族が道中を共にすることで絆の感触を掴み、それぞれの居場所を見出してゆく様をユーモラスに描いてみせた。負け組家族のロードムービー、その切り口に脱帽である。

(原田 灯子)ページトップへ
長い散歩

「長い散歩」

〜魂で触れ合いたい…静かで力強い人間ドラマ〜


(2006年 日本 2時間16分)
監督:奥田瑛二
出演:緒形拳,杉浦花菜,高岡早紀,松田翔太


1月13日〜第七藝術劇場,梅田ガーデンシネマ,京都シネマ 他近日三宮シネフェニックスにて公開

 日本映画界が誇る名優・緒形拳。彼にインスパイアされた奥田瑛ニ監督が、“緒形在りき”でスタートさせた企画は、3〜4年の時を経て見事に実を結んだ。モントリオール世界映画祭でのグランプリを含む3冠受賞の栄誉を手に、堂々の凱旋上映だ。

 妻を孤独のうちに死なせてしまった松太郎は、過去を償うかのように、初めての土地でひっそりと暮らし始める。アパートの隣室には、手製のボール紙の羽を背負った幼い少女・幸がいた。度重なる虐待を受け、体も心も傷だらけのこの天使を救おう――松太郎は遠い記憶の中に在るユートピア目指し、幸を “長い散歩”へと連れ出す。しかし、彼の行為は誘拐とみなされ、警察に追われる身となるのだった。

 もし近所から助けを求める子供の声が聞こえたら、私たちはそこに関わっていくことが出来るのか? 意味を履き違えた個人主義がもてはやされ、対・人間の繋がりが希薄になっている現代社会。愛し方を知らずに虐待を繰り返す母親や、二人が出会う訳有りの青年もまた、その犠牲者のようだ。真のユートピアとは何なのか? 老人と少女が繋いだ手と手がいつか大きな輪になったら、それは見つかるのかもしれない。                     

  (川口 桂)ページトップへ
幸福な食卓

「幸福な食卓」

〜家族のこと、本当に理解していますか?〜


 監督:小松隆志 (2006年 日本 1時間48分)
出演:北乃きい、勝地涼、平岡祐太、さくら、羽場裕一、石田ゆり子


2007年1月27日公開(梅田ピカデリー、MOVIX堺、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸 他)

一番身近な存在である「家族」。お互いをわかっているようだが、それは“つもり”に過ぎない。守ってきたものが崩れたときにこそ、家族の本当の意味が試される。

 それぞれに問題を抱え、いまにも壊れそうな家族を健気に支えている娘の佐和子。そんな彼女の前に現れた転校生の大浦君。彼は佐和子の心の支えとなっていくが…。

 皮肉にも、「他人」との関わりによって再生していく家族。人の温かさと優しさ、そして「希望」に満ちたラストが心に染み渡る。

(篠原 あゆみ)
ファミリー

「ファミリー」

〜不器用な親子の愛に涙〜  


監督・脚本:イ・ジョンチョル (2004年 韓国 1時間36分)
出演:スエ、チュ・ヒョン、パク・チビン

12月23日公開(OS名画座)

 愛するからこそ、ふとした誤解で憎しみが生まれ、憎いからこそ、その愛しさに気付く。そんな、誰もが共感してしまう“親子の情愛”を描いた名作が韓国からやってきた。

 長い間、深い溝ができていた父と娘。ようやく向き合えた時、そのささやかな幸せを脅かす影が忍び寄っていた。家族の未来を守るため、2人はそれぞれ、ある決断をする。

 毎日のように、親が子を、子が親を殺す事件が起きるこんな現代だからこそ、いまもう一度家族の温かさと、深い愛を感じてほしい。                       
              

(篠原 あゆみ)ページトップへ
それでもボクはやってない

「それでもボクはやってない」

〜痴漢行為を通して分かりやすく描かれた日本の裁判〜  

(2006年 日本 2時間23分)
監督・脚本:周防正行
出演:加瀬亮・役所広司・瀬戸朝香・山本耕史・もたいまさこ

1月20日(土)全国東宝系ロードショー

 「Shall we ダンス?」の周防正行監督による11年ぶりの新作。テーマは『裁判』。私たち一般人が日常であまり触れることのない世界、知っているようで知らない刑事裁判の在り方を、数式を使って証明するかのように一つ一つ丁寧に解き明かしてゆく。派手さはないが、観た人全員に何かを訴え
かける社会派エンタテイメントとして成功した作品だ。

  金子徹平(加瀬亮)は、就職の面接会場へ向かう途中の満員電車で痴漢をしたとして逮捕されてしまった。取調べで「ドアにはさまった服を引っ張っていただけ。痴漢なんかしていない!」と主張するも、留置場に勾留されてしまう。それでも無実を訴え続けたが,起訴される。そしてついに、彼にとって長く屈辱的となる裁判が始まった―。

  監督が、“痴漢事件の無罪判決”をきっかけに感じた、日本の刑事裁判システムへの疑問点を真っ向から切り取ったと言うだけあり、まるで本物の裁判を傍聴しているかのような緊張感が漂う。上映時間の143分はあっという間だ。3年に及ぶ徹底取材の成果と、「無実」だと確信を持ちつつも、段々と追い込まれていく主人公をリアルに演じた加瀬亮の存在が光る。「疑わしきは罰せず」なのか否か。あなたは判決を聞いてどう感じるだろうか?

(中西 奈津子)ページトップへ
パプリカ

 「「パプリカ」

〜今 敏の脳内ファンタジーを体感!〜


(2006年 日本 1時間30分) 

監督・脚本:今 敏
原作:筒井康隆
声の出演:林原めぐみ、古谷徹、江守徹、山寺宏一

12/2(土)テアトル梅田、京都みなみ会館 
12/23(土・祝)シネカノン神戸

 
監督の仕掛けとも言える冒頭3分。その鮮やかな手法に、まんまと「パプリカ」の世界へと引きずり込まれた。

 互いの夢を共有できるという画期的な発明品“DCミニ”が三機、何者かに盗まれた。まだ未完成のそれは、悪用すると他人の精神を破壊する危険性がある。そんな中、研究所の所長の精神が侵され始めた―。他人の夢へと進入し、心の秘密を探るセラピスト「パプリカ」は、事件の真相を探るため恐ろしい夢の世界へと足を踏み入れていく・・。

 さぁ、この芸術的“パラレルワールド”にあなたは付いて来られるか!?

(中西 奈津子)ページトップへ
ダーウィンの悪夢


「ダーウィンの悪夢」

(2004年フランス・オーストリア・ベルギー)
監督・構成・撮影:フーベルト・ザウバー

2007年1月上旬〜梅田ガーデンシネマ,109HAT神戸,1月下旬京都みなみ会館


 日本人も何気なく口にしているナイルパーチ(白スズキ)。この肉食魚が生物多様性の宝庫であるヴィクトリア湖に放流されたことで、湖の生態系は崩れ、悪夢の連鎖が始まった 。

  琵琶湖でもブラックバスなどの外来魚により、同じような問題を抱えている。だが、タンザニアの現状は環境破壊だけに留まらない。一大魚産業の陰には貧困などの現実が潜み、人々の生活を脅かしているのだ。

 突きつけられる圧倒的なリアル感を前に“悪夢”なら覚めて欲しいと願わずにはいられない。
         

(田中 陽子ページトップへ
不都合な真実

 

「不都合な真実」 (An Inconvenient Truth)

人類滅亡の序曲、地球温暖化の恐るべき真実!


(2006年 アメリカ 1時間36分)
 
監督:デイビス・グッゲンハイム 
出演:アル・ゴア

2007年1月20日(土)〜ナビオTOHOプレックス,TOHOシネマズ二条,OSシネマズミント神戸

 
 環境破壊による地球温暖化の恐怖を,世界各地で多発する異常気象の衝撃映像満載でみせる驚愕のドキュメンタリー映画。

  世界各地で地球と人類の危機を訴え続けている元米国副大統領アル・ゴア氏。彼が示すデータは,京都議定書にも調印しなかった米国にとって不都合なものばかり。誠実で勇気あるゴア氏の活動は,今私達が何をすべきかを解りやすく教えてくれる。

  そして,改めて青く美しい地球の尊さに気付かされる。

(後藤一郎)ページトップへ
魂萌え!

「魂萌え!」

 〜がんばれ、敏子さん!〜


(2006年 日本  2時間5分) 

監督・脚本:阪本順治
原作:桐野夏生
出演:風吹ジュン、加藤治子、常盤貴子、田中哲司、豊川悦司、三田佳子

1月下旬

 何よりもまず、家族を優先し生きてきたお母さま方に、尊敬と応援を込めて届けたい作品だ。
定年の3年後、夫はあっさりと先に逝ってしまった。ショックを隠しきれない妻・敏子(風吹ジュン)。しかし、亡くなった夫の携帯にかかってきた見知らぬ女性からの電話によって、敏子の受身だった人生は一変する。

 主婦の戸惑いと再スタート。妻や母という殻をやぶり、世間に翻弄されながらイキイキと輝きだす女の底力が、笑いを交え見事に描かれている。名女優による女の対決は必見!

(中西 奈津子)ページトップへ
こま撮りえいが こまねこ
「こま撮りえいが こまねこ」

〜こまちゃんに会えば寒さもヘッチャラだ!〜


(2006年 日本 60分)
原作・監督・キャラクターデザイン:合田経郎

12月23日(土)、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸
07年1月6日(土)、イオンシネマ久御山、ワーナー・マイカル系にてロードショー!

  み〜つけた,寒い冬にピッタシの映画。ネコのこまちゃんが,8ミリカメラでコマ撮りフィルムを作ったり,小鳥たちを追いかけたり,ラジボウと遊んだり,雪男(?)と仲良くなったり,ほのぼのとしたお話が全部で5つもあるんだ。

カラダの内側からほっこりポカポカ気分になれるよ。ネコ語はわかんなくても,こまちゃんの気持ちはしっかりと伝わってきて,いっしょに泣いたり喜んだり…,シ・ア・ワ・セ〜♪

(こまいぬ)←困ったイヌページトップへ
鉄コン筋クリート
「鉄コン筋リート」

 松本大洋の大ヒット漫画が日本アニメ最高峰のクリエイターにより待望の映像化! 舞台となる「宝町」に足を踏み入れたかと錯覚するほどのリアルさ、そしてスピード感溢れる映像美は日本の誇り。全世界配給も決まった、泣ける漫画「鉄コン」は世界中の人々の胸を熱くするに違いない。


 義理と人情とヤクザの町「宝町」を自由に飛びまわる少年、クロとシロ。そこに再開発という名の元に「ヤクザ」(ネズミや木村)や「蛇」が現れる……果たしてクロとシロはこの町で生きぬく事が出来るのか……

  日本在住のマイケル・アリアス監督が構想10年以上もかけて仕上げた作品。声優陣も「鉄コン」ファンであったという二宮和也や伊勢谷友介などが参加し、その想いが伝わるほどの熱演を披露。中でもシロを演じた蒼井優の巧さが光る。(ヤクザを演じた田中泯もうますぎて本人にしか見えない!)
 
  誰の心の中にも存在する「闇」。大切な人を失いかけた時、自分の存在価値を見失った時、その闇に落ちてしまう事は簡単だ。この作品は一見、「クロやシロ」、と「ヤクザや蛇」との闘いである。でも本当の敵は自分自身の心の「闇」。彼らはいつしか貴方自身へと問い掛けてくる。最後の最後、貴方は何を信じる?……ソコカラ・ナニガ・ミエル?
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ラッキーナンバー7

「ラッキーナンバー7」 
(LUCKY NUMBER SLEVIN)             

〜緻密に書かれた最高の脚本に豪華スターが集結!〜

 (2006年 アメリカ 1時間51分)
  監督:ポール・マクキガ
  出演:ジョシュ・ハートネット/ブルース・ウイリス
      モーガン・フリーマン/ベン・キングスレー
      ルーシー・リュー 他

                        
  梅田ピカデリー、シネマート心斎橋、MOVIX京都、
  神戸国際松竹 他   1月下旬ロードショー公開  

 おもしろい映画の定義の一つに先の読めないストーリー展開がある。この「ラッキーナンバー7」は、冒頭からラストまで、巧妙に仕掛けられた罠と張り巡らされた伏線に、どんな映画マニアさえ先読み不可能となり、最後には、感嘆の声を漏らし、膝を打つことになるであろう。

 仕事をなくし不運続きの男スレイブン(ジョシュ・ハートネット)は、友人を頼りニューヨークへ。ところが、さらなる不運が彼に襲いかかる。対立する二人のギャング組織の “ボス”(モーガン・フリーマン)と“ラビ”(ベン・キングスレー)、伝説の暗殺者グッド・ キャット(ブルース・ウイリス)、事件を捜査する刑事(スタンリー・トゥッチ)、彼と恋に落ちる女(ルーシー・リュー)、彼らとの出会いがスレイブンの運命を翻弄する・・・

 演出を担当したのが「ギャングスター・ナンバー1」のポール・マクギガン。イギリス人監督だけに、卓越したセンスの良さで、ハリウッド・スターたちを犯罪世界の住人に仕立てあげた、その手腕は圧巻。また、映画好きらしく「007」や「北北西に進路を取れ」を台詞に引用、舞台設定も黒澤明の「用心棒」というあたりの遊び心が憎い。

 「とてつもなく運のない男の話」としてスタートし、誰も予想できない復讐譚に着地するあたりは、痛快である。最後の最後に物語の全貌が見えた時、誰もが後味良く爽快な気分になれる。久しぶりに映画の醍醐味が味わえた作品だ。

(後藤 一郎)
プラダを着た悪魔
監督:デヴィッド・フランケル (2006年 アメリカ 1時間50分)
出演:メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ、
     スタンリー・トゥッチ、エミリー・ブラント

【Story(ストーリー)】
ジャーナリストを目指し、ニューヨークへやってきたアンドレア(アン・ハサウェイ)。オシャレに全く興味のない彼女が、誰もが羨む一流ファッション誌のカリスマ編集長・ミランダ(メリル・ストリープ)のアシスタントに。仕事に一日中振り回され、私生活もめちゃくちゃ。それでもキャリアのため!と、ついにパリコレに同行するほど、仕事ぶりを認められるようになるのだが……。

【Fashion(ファッション)&Music(ミュージック)】
プラダは勿論、数々のブランドのゴージャス、シック、ラブリーなアイテム!それを彩るマドンナ達の豪華なナンバー!目に映るもの、耳にするもの全てが最高に刺激的。

【Actress(アクトレス)】
メリル・ストリープ(アカデミー賞ノミネート最多記録女優)VSアン・ハサウェイ(『プリティ・プリンセス』、『ブロークバック・マウンテン』)
心身ともに〈出来る女〉に成長してゆき、一度は見失いかけた〈本当の夢〉を掴み直すヒロインを等身大で好演したアン・ハサウェイ。「芸術」を着こなし、鋭い一瞥に一文字に結んだ口元、機関銃の様に飛び出す命令は、まさに〈美しいデビル〉のメリル・ストリープ。対照的な役所の2人だが、最後にはどちらにも共感してしまう繊細な描写が心憎い。              原田灯子


サッド・ムービー  

〜「雨(涙)のち晴れ(笑顔)
……別れの向こう側を描いたラブストーリー」

「初恋・恋人・家族……今まで大好きな人との別れをいくつ経験してきましたか?その別れが残してくれたものは、あなたの心の中で今でも宝物のように輝いていますか?」
優しい言葉で別れていく人々を描きたい……そんな少し変わった発想から生まれたこの作品は、8人の主人公達が「ラブ・アクチュアリー」の様に見事に交差し、絡み合っていく群像劇。8人分の「悲しい別れ」を描くことで、逆に人を愛する意味を教えてくれる温かいラブストーリーが誕生した。 
「箪笥」の主役を務めたイム・スジョンに、ドラマ・映画に引っ張りだこのイ・ギウ(かなりかっこいいので要チェック)……「映画らしい主人公たち」ではなく「どこか自分と似ている主人公たち」を描いた優しい脚本に魅了され、韓国のトップスターが集結した。中でも公開作が目白押しのチョン・ウソンが演じているのは、勇敢だが、恋には不器用な消防士「ジヌ」。手話通訳の彼女にみせるヘンテコな手話は、可笑しくて思わず笑みがこぼれるけれど、ラストへと続く大切なメッセージが込められているのでぜひ見逃さないで。
「いつの間にかあなたも8人のうちの1人になり、別れの扉を開けることになる……」。
激しい雨と共に訪れる4つの別れは貴方の心にどう触れるだろう。雨があがり、キラキラとした日差しに包まれる様に、なぜか別れの「悲しみ」は心を和らげ、大好きな人の笑顔がいつもより眩しく感じられるかもしれない。

「トンマッコルへようこそ」(Welcome to Dongmakgol)

(2005年,韓国,2時間12分)
監督:パク・クアンヒョン 音楽:久石譲
出演:シン・ハギュン/チョン・ジョエン/カン・ヘジョン
(C) 2005 Showbox/Mediaplex Inc.
10/28〜シネ・リーブル神戸,シネマート心斎橋,シネ・リーブル神戸,MOVIX京都

トンマッコルという「子供のように純粋な村」は
一体どこにあるのだろうか。

キーパーソンとなるのはヨイル。実在するようでいて,何となくフワフワと浮遊した感じでつかみどころがない。そんな彼女が敵味方に分かれた兵士6人をトンマッコルに引き寄せる。彼女のお陰で違和感なく現実世界からトンマッコルの世界へと誘い込まれる。

 最初は,トンマッコルの人々が余りにも穏やかで,その現実とのズレが可笑しい。だが,そこで暮らす人々の生活や心の動きが丁寧に描かれており,いつしかトンマッコルが実在のものに転化して,厚みのある作品となっている。その結果,争いが絶えない外の世界が戯画化されて面白く,次第に冒頭の戦闘シーンが人間の醜さの象徴のように思え,時折挿入されるアメリカ軍の爆撃の準備を進める様子がアナクロっぽくて滑稽に見えてくる。
 何と言っても,究極はアメリカ軍による爆撃のシーン。まるで花火のように美しく,喜びと哀しみに包まれるから何とも不思議だ。トンマッコルが爆撃から救われたことに歓喜すると同時に,この爆撃という大いなる愚行が痛々しくて哀れに思えてならない。
そして,懐かしい温もりに包まれたラストでは,疲れた心が癒されるだけでなく,人々の寛容さが社会の安寧をもたらすことを思う。心の中のトンマッコルという目に見えない存在が,現実感に満ちたファンタジーとして見事に視覚化され,鮮やかというほかない。                     (河田充規)

「ただ、君を愛している」  

“恋をすれば死んじゃう病気”の女の子・静流に扮した宮崎あおいの一挙手一投足が心に染みるような映画だ。

彼女は,何となく掴み所がなく,人生を達観したような不思議な女の子を好演している。その理由が,そしてまた彼女の言葉の一つ一つ,特に「これから成長して,誠人がびっくりするくらい,いい女になる」という言葉が結構重い意味を持っていたことが,ニューヨークでのシーンで明らかになる。この脚本の巧さとも相俟って,ますます宮崎あおいが輝きを増していく。
更に,みゆきに扮した黒木メイサが,静流と玉木宏扮する誠人をつなぐ重要な存在として登場し,目立ちすぎることなく,バイプレーヤーとして見事に主役の宮崎あおいを引き立てている。とりわけ,ニューヨークで静流の消息を誠人に話すシーンが活きている。話をしているのもスクリーンに実際に映っているのも黒木メイサだが,観客の目には大学生だったころの宮崎あおいの姿が見えてくる。
大学時代の静流の誠人に対する恋は,彼女にとって「生涯ただ一度のキス ただ一度の恋」であり,これによって,彼女は幼虫からさなぎを経て蝶となる。その大学時代のエピソードが過不足なく取り上げられ,丁寧に描かれているため,彼女が幼虫であることを止めて蝶になろうとした心情が痛いほど伝わってくる。「私,私に生まれてきてよかった」という言葉が潔く,清らかに響いてくる。
また,好きな人の好きなものを好きになりたいという思いから静流が始めたカメラ。ニューヨークでの静流の写真展のシーンがまた素晴らしい。生涯ただ一度のキスシーンの写真を見せるまでの間の取り方が巧みで,彼女の撮った写真を見ながら彼女を追想し,蝶となった彼女の写真に涙する。最後に,カメラが引いていくと,手前左側の壁面に一枚の写真が見えてくる。そこには,誠人の記憶の中にある,幼虫から成長を始めたころの静流の笑顔がしっかりと写されていた……。      (河田 充規)

「記憶の棘」  

〜穏やかに輝く透明感に満ちたラストシーンに脱帽〜

何はさて置き,詩情に溢れた美しい映像に引き込まれる。
未亡人アナの前に突然ショーンと名乗る10歳の少年が現れる。彼女は,戸惑いを感じながらも,その少年の中に,10年前に亡くなった愛する夫ショーンの面影を見出していく。果たして少年は亡夫の生まれ変わりなのか。
また,亡夫はアナを愛していたのか。亡夫の親友クリフォードやその妻クララ,更にアナの母親エレノアも絡み,一層ミステリアスに。
その中で,亡夫かも知れない少年に対して微妙に変化していく未亡人の心情を,スクリーンに見事に投影したニコール・キッドマンの巧さが光る。
                                                   (河田充規)


「ウィンター・ソング」  

〜夢幻的な映像に乗せて語られる愛と哀しみの人生〜
原題「PERHAPS LOVE」
(2005年,香港映画,1時間49分) 
監督 ピーター・チャン
出演 金城武/ジョウ・シュン/ジャッキー・チュン/チ・ジニ

ピーター・チャンのこれまでの作品から思い描いたイメージは心地良く裏切られる。
女は男より女優の道を選び,男は女を想い続けてきた。そんな男女が昔の上海を舞台とするミュージカル映画で共演する。そこに女を引き留めようとする監督が絡む。
映画の中の現実とそこで撮影される映画の世界,更にそれぞれの現在と過去を巧みに交錯させながら,妖しさを漂わせる色調で人生模様が織り上げられる。その重力から解放されたような独特の世界にインド映画で見慣れた振付がそこはかとなくマッチし,趣がある。
オペラ座の怪人を思い起こさせるジャッキー・チュンの歌声に魅了され,ジョウ・シュンの愁いを帯びた表情に幻惑される。そして,金城武が思い通りにならない人生の波にたゆたう男の哀切さを醸し出している。
男が女の封印を解いて10年前の過去を甦らせたとき,その先には何が待っているのか。三者三様の未来を暗示して幕は閉じられる。
                                                (河田充規)


16ブロック  

わずか16ブロック先の裁判所まで証人を護送する……1人の刑事に託された証人は 「警察が最も消したい証人」だった!

 敵はNY市警。思わず身を乗り出すほどの絶体絶命・八方塞りのピンチの連続。先の読めない展開も見所の1つだが、「負け犬」の烙印を押された1人のベテラン刑事が、誇りを取り戻すという再生のテーマが織り込まれ、アクション映画の枠を超えて胸が熱くなる作品に仕上がっている。悲哀を感じさせる役作りが完璧だったB・ウィリス。年を重ねるごとに演技の幅を広げ、実は公開作が目白押し。彼の時代はまだまだ終わってなんかいない!

16ブロック (C)2006 Sony Pictures Digital I nc.All Rights Reserved    芝田 佳織

ブラックダリア

〜実在の迷宮入り事件を描いた超一級サスペンス〜
散りばめられた秘密と嘘。ラスト30分、怒涛の様に押し寄せる謎解きに貴方はついてこられるか?「L・A・コンフィデンシャル」の原作者J・エルロイの最高傑作がデ・パルマ監督により入り組んだ立体迷路として浮かび上がる。最後の扉を開けた時、あなたは「真犯人」以上のものを目撃する。

 1947年、ロスで胴体から切断された女性の惨殺死体が発見された。「ブラック・ダリア」と呼ばれた被害者は、女優を夢見ながら大都会の闇に葬り去られた美女。若き刑事バッキー(ジョシュ・H)は相棒リーと共に捜査を開始するが……。
芸術的なカメラワークに、ノワール感漂う独特の世界観。「デ・パルマ」ブランドは本作も品質保証。特に甘美な色彩に女優陣の妖艶さが光る。S・ヨハンソンはもちろん、色気とは無縁だった?ヒラリー・スワンクの悪女っぷりにも注目。被害者とそっくりな謎の令嬢役には、バッキーならずとも惑わされてしまうだろう。
 死してもなお関わる人を魅了し、狂わせて行くブラック・ダリア。友情・愛・嫉妬……微妙な均衡が崩れた時、登場人物全ての心の「闇」が見えてくる。この中で「まとも」な人間は一体誰?
全てのシーンに意味がある。女性陣はジョシュのかわいいお尻に、男性陣はヨハンソンのセクシーな唇に目を奪われて、真相の鍵を見逃さないで。自称「サスペンス・マニア」の私の期待を裏切らなかった出来に感激!                                               芝田佳織


手紙 〜どこかに見ていてくれる人がいるから

2006年・日本映画   2時間1分
監督:生野慈朗
原作:東野圭吾『手紙』(毎日新聞社/文春文庫刊)
出演:山田孝之、玉山鉄二、沢尻エリカ、杉浦直樹、風間杜夫、吹越満、 吹石一恵、尾上寛之
上映劇場:梅田ブルク7、角座、神戸国際松竹、MOVIX六甲、
109シネマズHAT神戸、OSシネマズミント神戸、 MOVIX京都
上映日:11月3日

弟のために夢も持たずに働いてきた兄が、皮肉にも弟の夢を奪ってしまった――。兄が犯した決して取り返しのつかない罪を、“殺人犯の家族”として背負うことになった弟は、社会から疎外され続けながら、それでも必死に幸せを掴もうとする。毎月届けられる、桜の検閲印が押された手紙の重さに耐えられなくなった時、獄中で手紙を待ち侘びる兄に対して、彼が下した決断とは…。
この映画については、あまり多くを語りたくないのが本音だ。加害者とその家族、被害者の遺族、加害者を取り巻く人々に対する私たちの感情が、彼らが交わす様々な手紙を読むうちにどう変化していくのかを、実際に味わってほしいからだ。そして観終わった後、こう感じてもらえたら嬉しい。どんなに辛く厳しい人生にも、きっと光の射し込む場所は在るのだと。
そんな希望を与えてくれるのは、若い役者たちの見事なアンサンブル。特に兄役の玉山鉄二が見せる、“言葉にできない”想いを込めた表情は、映画の印象を決定づけるほどのインパクトを持って、胸に迫る。                                                     川口桂


ワールドトレードセンター

 ベトナム戦争やケネディ大統領暗殺など、現実世界の出来事に目を向け、問題提起を続けてきた社会派監督オリバー・ストーン。彼が描く「9・11」は、意外にも政治色を排除した人間讃歌だった。

 ニューヨークの世界貿易センタービルに2機の旅客機が突っ込み、アメリカの富の象徴があまりにも呆気なく崩壊した、あの日、あの時。世界が悪夢を見ている間、巨大な瓦礫の下では2人の警察官が命を繋ぎ止めようと、必死にあがいていた。
救助活動に向かった彼らは、映画の冒頭近くでいきなり瓦礫の下敷きになる。身動き一つままならず、生死の狭間で励まし合う2人と、無事を祈り続ける家族たち、そして、まだ危険の残る現場で2人を救おうと奮闘する人々が交互に映し出されて展開するストーリー。そこには、テロという名の無差別殺人に対するストレートな怒りが露にされることはない。が、恐怖を体験した大勢のうちの、ほんの一握りの実話にスポットを当てたことで却って、一人一人の命がどれだけ尊いものだったのかということを考えさせる。
・・「9・11」をようやく語り始めたアメリカ。しかし、ここから始まった悲劇の連鎖は、今でも世界各地で終わる気配を見せない。それまでとは確実に違う朝を迎えることになった人たちや、もう朝を迎えることの出来なくなってしまった人たち…全ての生命を慈しむようなストーン監督の目線が、ただ見ているしかない私たちの胸を震わせる。                                       川口桂


オトシモノ

 あまり期待していなかったため,期待度に対する満足度という点では,100%を優に超える。
  「オトシモノ」が転じて「ヒロイモノ」となった好例。
全体に物足りなさはあるものの,後味の良い映画だった。記憶にとどめておきたいモノが,この映画にはある。

高校生の木村奈々(沢尻エリカ)は妹が行方不明になり,その同級生の藤田香苗(若槻千夏)はボーイフレンドを失い,電車の運転手の久我俊一(小栗旬)はトンネル内で得体の知れない何かを目撃する。ホラーというよりミステリー調で展開する中で,この3人が“黒衣の女“によって結びつけられていく。
 大切なモノを奪われたまま亡くなった人間の魂は,成仏できず,地上をさまよい続けるしかない…“オトシモノ”を取り戻すまで。それだけがテーマだとすれば,すぐにでも記憶から消え去ってしまっただろう。だが,この映画では,大都会の中にぽっかりと空いた大きな穴に象徴されるように,現代人の心の空洞がテーマになっている。生きている人間の“オトシモノ”すなわち喪失感に焦点が当てられた結果,記憶に残るモノとなった。
 級長とはいえ,一緒に携帯で写真を撮ってくれる親友がいなかった奈々。いつも仲間とつるんでいながら,心の繋がりを持てなかった香苗。そんな2人が互いに大切なモノを守ろうとして必死になる姿が印象に残る。奈々は,妹を取り戻そうとして得体の知れない存在に果敢に立ち向かい,香苗は親友を奪われまいとして自らの命を賭して突き進む。そして,俊一は,誰にも信じてもらえない心の空洞を,最後には自らの手で吹き飛ばす。
恐怖の映像表現も全体的なストーリー展開も今一つ力不足との感を否めないが,テーマをしっかりと見据えていることで,弱点が補われたといえよう。人間は誰しも心の中に大なり小なり寂しさや空しさを抱えながら生きている。決して自分だけではないことを知ったとき,生きる元気が湧き出てくる。
                                                    (河田 充規)

カポーティ

 稀代の名作を生み出すためには,鋭いインスピレーションに加えて,凄まじいまでの執着が不可欠となる。生み出されるものが小説でも映画でも同様である。映画は,トルーマン・カポーティという人間の多義性に肉薄していく。映画の中では,カポーティが家族4人の惨殺事件の容疑者ペリーの内面を引きずり出そうとする。この二重構造が面白い。

 カポーティがペリーと対峙するシーンは,その回数を積み重ねるに連れ,恐ろしいほどの緊迫感に満ちてくる。カポーティがノンフィクション小説「冷血」を完成させるまでの言動が,第三者的立場から観察するように丁寧に捉えられていく。その結果,小説と映画が共に結末に近付けば近付くほど,冷血という言葉がカポーティ自身に跳ね返ってくる。
 ラスト近く,ペリーを「救えなかった」と言うカポーティに対し,彼の幼なじみで良き理解者でもあるネルが「救いたくなかった」のだと答えるシーンがあった。全てがこのシーンに集約される。カポーティは,自分の中にある他者の存在に否応なく気付かされ,結果として新たな作品を生み出せなくなった。
カポーティにはペリーの内面を透視する洞察力があったに違いない。だが,それだけでは名作は生まれない。ペリーから話を聞き出すため意図的に虚偽の事実を告げるカポーティが実在のものであるとすれば,無意識のうちに事実を歪曲してペリーに伝えてしまうのもまたカポーティ自身である。
 このカポーティの持つ多面性を鋭く冷徹に捉えたダン・ファターマンの脚本が素晴らしく,これを映像化したベネット・ミラーの演出力は驚嘆に値する。カメラは,時折カンザスの風景を遠くから望見することで,冷ややかな空気を漂わせることに成功し,ストーリーに奥行きを与えていた。そして何より,カポーティの内面に限りない孤独が広がっていく様をスクリーンに的確に描き出したフィリップ・シーモア・ホフマンが秀逸である。                                        (河田 充規)

トゥモロー・ワールド

 もはや人類に未来はないのだろうか。
映画の途中で垣間見た真っ青な空が印象に残る。
設定は西暦2027年のイギリスとされているが,そこで描かれている世界は紛れもなく今もどこかに存在する。爆弾テロ,不法移民,政府軍と反政府組織の戦闘など,映画の世界と同じような内容が実際にテレビで報道されたとしても,全く違和感はないだろう。ただ一つ,映画の世界では18歳未満の人間が存在しない点だけ,現代社会と異なっている。

 主人公のセオ(クライブ・オーエン)は,別れた妻ジュリアン(ジュリアン・ムーア)から少女のために通行証を手に入れて欲しいと頼まれたことから,少女と共に政府軍からも反政府組織からも追われることになる。
巻き込まれ型サスペンスのような展開だが,エマニュエル・ルベッキの撮影が実に素晴らしい。しっかりと計算された,ドキュメンタリーよりもリアリティーに富んだ映像が続き,いつしか映画の世界に引き込まれ,セオの目や耳を通じて彼と同じ体験をさせられる。
 なぜ人類は子孫を残せなくなったか,イギリス以外の国家が崩壊した後の現状はどうなっているのかなど,周辺をあいまいにしたままストーリーが展開する。その不透明さが出口の見えない閉塞感を漂わせ,観る者の不安感を増幅させる。セオと少女の行く末を案じて目を離せなくなる効果を生み出している。
また,アルフォンソ・キュアロン監督は,近未来の話を装いながら,歴史は繰り返すといった安直さを排除し,現代社会が抱える問題を的確に示した上で,全世界の平和を希求している。途中,運命の過酷さに悄然とさせられるが,最後には,信念を貫いた先に見えてくる希望の光に触れ,人間はまだまだ捨てたものではないと安堵させられる。
個々人が明日への希望に向かって信念を貫くことにより,それが子孫に継承され,やがて人類全体の運命をも動かすことになるだろう。そんな思いが伝わってくる。             (河田 充規)

涙そうそう

 「沖縄」と聞けば,条件反射的に「ナビィの恋」が思い浮かぶ。そこで主演を務めていた平良とみ扮するオバアが本作のラスト近くに登場して,強烈な印象を残してくれる。長澤まさみ扮するカオルがオバアと並んで立っているシーンだ。カオルは,亡くなった兄への想いが溢れて涙がこぼれ落ちるのを,鼻をつまんで懸命に堪えている。が,オバアは,あのやさしく響く沖縄方言で,我慢しなくていい,うんと泣いたっていいと声を掛ける。
 また,これに連なる重要な存在が洋太郎の母を演じた小泉今日子である。彼女は洋太郎を連れて再婚する。が,父親が出て行った。そのことを洋太郎に話す小泉今日子は,人生に疲れて諦めの境地に達した風情を滲ませながらも,鼻をつまんで涙を止める方法を洋太郎に教え,生きていく底力を見せてくれる。これが本作の底流となり,洋太郎とカオルのふたりの物語を超えて奥行きを生み出した。
 ふたりの間には他の者の介入を許さない濃密な空間が形成されていた。洋太郎は,母の再婚によってカオルという妹と出会い,彼女を心の支えとして生きていく。安易な回想シーンに堕することなく,幼少期のふたりの姿が客観視され,その中に出会う前のふたりの孤独が示されている。これを受けて,妻夫木聡と長澤まさみが,血縁がないからこそ生まれる兄妹の結び付きを巧みに演じ,爽やかな印象を残すと共に,物語を引き締めている。
 洋太郎は,店を持つ夢が破れたとき,鼻をつまむ。カオルは,兄の部屋を出て独立するとき,鼻をつまむ。ふたりとも泣き出しそうになる度にぐっと我慢を重ねてきたことが,丁寧に描き込まれている。これに前述の母親とオバアのシーンが加わることにより,ラストでは,観客もまた,単に兄を想う妹に感情移入して泣くだけではなく,各人がそれまで我慢してきたことが堰を切ったように迸って嗚咽させられるのだ。そして,思いっきり泣いた後,また日々の生活に戻っていく。             (河田 充規)


麦の穂をゆらす風

2006年、カンヌ映画祭パルムドール(最高賞)受賞!

イギリスを代表する監督ケン・ローチが「これは反英映画なのか?なぜ自国を嫌うのだ?」とパッシングされてまで伝えたかったもの……それは今も世界のどこかで繰り返されている「愛する者との絆を引き裂かれる悲劇」。

 1920年、アイルランド。デミアンはイギリス軍による武力弾圧に屈しない同志達に心を打たれ、医師の夢を捨てアイルランド独立運動に身を投じる。やがてアイルランドはイギリスから独立。だが彼を待ち受けていたのは真の自由ではなく、共に闘ってきた同志達が敵味方になり殺しあう内戦。それは兄弟という絆さえ引き裂こうとしていた……。
愛する者と別れ、レジスタンスに身を投じる青年の悲劇を歌ったアイリッシュ・トラッドの名曲「麦の穂をゆらす風」の旋律にのせて、自由を求め闘った名も無い青年たちの姿を真っ直ぐに力強く描いた作品。舞台となるコーク出身で、この役を切望したというキリアン・マーフィーが演じるデミアンは、遠い国で起きた過去の人物ではなく、今この瞬間にどこかで生きている1人の青年として私達に問いかける。人はなぜ過ちを繰り返すのか……中でも心に残るのは医師として人の命を救うはずだったデミアンが、裏切った親友を銃で撃つシーン。「この闘いにそれほどの価値があるのだろうか」……
その言葉は一人の青年を通して監督が伝えたかったメッセージの一つ。その想いはこの愚かな世界に生きる人々の胸に何かを残すに違いない。

11月18日より梅田ガーデンシネマ他にてロードショー 公式HP http://www.muginoho.jp/
芝田 佳織 


 

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