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『トロッコ』 川口浩史監督インタビュー


(C)2008TOROCCOLLP.
AllRightsReserved.
『トロッコ』
〜台湾で蘇った芥川の『トロッコ』〜

(2010年 日本 1時間56分)
監督:川口浩史
出演:尾野真千子、原田賢人、大前喬一、ホン・リゥ、チャン・ハン、メイ・ファン、ブライアン・チャン他

2010年5月22日(土)〜梅田ガーデンシネマ、7月〜京都シネマ、9月元町映画館 ほか全国にて公開
公式サイト⇒ http://www.torocco-movie.com/
 待望久しい映画監督が登場した。監督にとっても、また映画ファンにとっても待望久しい、ひと言でいえば“助監督上がり”、映画畑出身の監督である。全編台湾ロケという異色の日本映画「トロッコ」は、長年様々な監督の下で修業してきた川口浩史監督(39)のデビュー作。キャメラアングルやカット割り、何よりもどっしり腰を据えた映画作りが落ち着きを感じさせる、昔懐かしい「活動屋」の匂いがする。

―――― 映画監督志望のきっかけは?
「高卒後、バッグパックひとつで半年間、旅に出た。神戸から上海→シベリア特急→モスクワへと…外国の人とコミュニケーションを取りたかった。その時、世界中のいろんなところに映画館があることに刺激を受けた。ウィグル族でもタクラマカン砂漠のオアシスで映画を上映していた。映画こそ外国人とコミュニケーションが取れる最強アイテム、と」

―――― 日本映画学校に進んだのは?
「高校の推薦で入った。小さい時から母親に連れられて映画はよく見に行っていた。ディズニーから“がんばれベアーズ”、小学校時代は“007”やブルース・リー、後にはジャッキー・チェン…。普通の映画ファンだったかな」

―――― 助監督経験が長いが・・・。
 「映画学校卒業後は2時間ドラマなどテレビをずっとやっていた。映画監督への夢は持ち続けていて、日活で助監督募集していたので応募した」

―――― 五十嵐匠(みすゞ)、辻仁成(フィラメント)、篠田正浩(スパイ・ゾルゲ)、奥田瑛二(長い散歩)、行定勲(春の雪)…そうそうたる監督と仕事している。今どき珍しい。
 「いろんな人とやれたのは得がたい体験。監督は個性の強い人ばかりだからそれぞれの特徴、クセがあるが、監督への道程と考えたら、いずれもいい経験だったと思う」

―――― 中でも一番参考になったのは?
 「五十嵐監督はドキュメンタリーからスタートした人で感覚的に近かった。チーフである僕に任してくれてずいぶんいい経験を積ませてもらった。五十嵐監督は地方に行って、地元の人を引き込んで。地元の人と一緒に映画作りに取り組む。そんな方法がとても新鮮で刺激的だった。今回の台湾ロケでそのやり方が出来た」

―――― 「トロッコ」を最初に選んだのは?
 「最初に教科書で芥川龍之介の”トロッコ”を読んで主人公の良平に心底から共鳴した。撮影できるトロッコを日本中探したけど、見つからなかった。そんな時、行定監督”春の雪”で一緒に仕事した台湾のキャメラマン、リー・ピンビンから”トロッコある”と聞いて行った。トロッコを見つけて”こりゃ映像になる”と直感した。あちらではサトウキビ、石炭、林業で線路幅が違う。いろんなものを見た中で長く、高低差のあるトロッコを選んだ。台湾の空間をそのままに芥川の大正時代を繰り広げた。
―――― 台湾人の夫を亡くした母(尾野真千子)と2人の幼い息子が遺骨を持って初めて台湾を訪れる物語に違和感なく、工夫のあとも感じられる。
 「シナリオは16まで書いた。“日本人だけで書いてちゃダメだ”と10稿目から台湾人に手伝ってもらって完成した。少年が成長する、大人になる瞬間をとらえたかった。あこがれから一歩踏み出る話、それがトロッコに乗ってどこへともなく走り出すこと。子供たちの成長には母さんも成長しなければならない。台湾のおじいちゃんがそこで大きな役割を果たす。このおじいちゃんは日本の童謡を孫たちに聴かせるなど日本人が忘れてしまった感覚を持っている。日本で失われたものを撮影で探しに行った感じですね」
―――― 長らく抱き続けてきた映画を撮って次は?
 「実はもう第2作は出来てるんです。“チョルラの詩”で、今度は韓国人キャストで韓国・全羅道でオールロした三角関係の物語です。アイデンティティを模索する人間。これが僕の大きなテーマですね」
 台湾の次に韓国とは…バッグパックを担いで世界放浪の旅に出かけたのが映画監督になる決め手となった川口監督は、アイデンティティを求めて“2度目の世界放浪“か。視野の狭い日本映画に汎アジアのスケールを備えた”新人“の登場である。
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