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『春との旅』 舞台挨拶

『春との旅』舞台挨拶
ゲスト:小林政広監督、仲代達矢、徳永えり

(2010・日本/132分)
監督・脚本:小林政広
出演:仲代達矢 徳永えり 大滝秀治 菅井きん 小林薫 田中裕子 淡島千景 柄本明 美保純 戸田菜穂 香川照之

2010年5月22日より新宿バルト9、丸の内TOEI2 ほか全国にて公開
関西では、梅田ブルク7、T・ジョイ京都(2010年春新館オープン予定)

公式サイト⇒ http://www.haru-tabi.com/

〜終わりと始まりの旅。人生を省みて気づく、家族の尊さと生きる術〜

 『バッシング』『愛の予感』など海外でも高い評価を得る小林政広監督の新作映画『春との旅』の一般試写会が大阪市内で開催され、小林監督、主演の仲代達矢、徳永えりが舞台挨拶に登場した。『春との旅』は、足の不自由な老人・忠男が孫娘の春と共に、自分の最後の受け入れ先を求めて疎遠になっていた姉兄弟のもとを訪ね歩くロードムービー。高齢化や核家族化による老人の孤立といった社会問題を背景に、人と人が寄り添って生きる尊さと逞しさを情感たっぷりに見せる。



(c) 2010『春との旅』フィルムパートナーズ/ラテルナ/モンキータウンプロダクション

 人には様々な事情があり、それぞれの人生があると分かってはいるが、居候先が見つからず途方に暮れる男を見て、妻にも娘にも先立たれた老人の晩年は、こんなにも惨めで寂しいものかと胸が詰まる思いに駆られた。若い頃、好き放題生きてきた皺寄せか。まるで「自己責任で生きてみろ」とばかりに世間は忠男を突き放す。“生きる場所”を探すことが、こんなにも残酷なことか。衰えた我が身をもてあます未来を想像して、目の前が真っ暗になった。しかし、物語が進むにつれこの映画は真っ向から“人間”を描いていることに気付く。厳しい社会の洗礼を受け、初めて過去と向き合った忠男と春。ふたりは人生を見つめ直し他人を思いやることで、初めて確かな居場所を得る。それは、地上に形作られたものではなく、心の中に芽生えたものだった。本作は、安易な演出で感動を大安売りする大作映画とは違い、繊細は職人技が光る見るべき一本と言える。

 1950年代から俳優として第一線を走り続けてきた仲代達矢はなんと今年で77歳。喜寿を迎えた。元漁師で頑固者の忠男という役柄について「だいたい70歳を過ぎると年齢的にも丸くなり、優しいおじいちゃんの役が多いと思います。だけど、忠男は年を取っても昔からの夢を捨てきれない頑固者で、孫を引き連れて旅に出る元気のいいおじいさん。老人は弱々しいばかりでなく、強く死ぬまでがんばろうという思いがこもっている」と話す。そんな我が儘な祖父を健気に支える春を演じた徳永えりは「現実として目をそらしてはいけない問題が、柔らかいタッチで描かれている」と映画をアピールした。

 終始、二人旅を続けた仲代と徳永。どちらもこの上ない名演を見せてくれたが、世代を越えて俳優仲間としての交流はあったのか聞くと2人は目を合わせて苦笑する。「実は、徳永さんとの共演は初めてだったので、初日に飯を食おうとスシ屋に誘ったんです。だけど次の日、2人で監督から猛烈に怒られまして…(笑)でも、僕はすぐ納得しましたよ。祖父と孫が反目しあって旅を続ける話なので、普段から仲がいいと困る。監督からは一切口を聞くなと言われました。だから徳永さんは可哀想でしたよ(笑)ホテルにこもりっきりで。でも、昔はそういうものでした。黒澤監督の映画で、三船さんの斬られ役を演じていた時、監督から敵同士だから口を聞くなと言われたのを思い出します。仲良くなりすぎて殺気が失われてはいけないと。昔の監督はそういうことを要求しましたね。小林監督は昔気質をもった監督だなと感じました。」

 一方、誰とも口をきくなと言われていた徳永は当時を振り返り「孤独との闘いでした」と告白。「でも、完成した作品を見てそれが正解だったなと思いました。監督と仲代さんから大切なことを教えていただき、すごくいい勉強になりました。」

 監督は本作の原案を10年間温めていたという。その事実について「ずいぶん熟成させたが、年を取ったことで色んなことが分かってきて、やっと納得行く脚本が出来たので、時間は無駄ではなかった。」と語る。さらに、主演はどうしても仲代に演じて欲しいと願っていたそうで「3年前、台本に手紙を添えて仲代先生のところに持って行きました。絶対断られると思っていましたね。僕は、祖父と孫が仲良く支え合って旅をするというのは好きじゃない。やたら我が儘で威勢のいい男にしたかったので、仲代さん以外は考えられなかった。」

 そして最後に監督は「今の問題を取り上げていますが、映画なので泣いたり笑ったりして見て下さい」と映画をPR。続いて徳永も「この作品を見て何か感じてくれれば幸せです。」と思いを述べ、仲代が「俳優生活60年、映画は160本やって来ましたが、そのなかでも5本の指に入る映画です。」と本作を賞賛し舞台挨拶を締めくくった。

ちなみに『春との旅』は、小林監督書き下ろしの小説も発売されている。本の内容は映画とは少し違い、本編の4年後の設定で東京へ出てきた春のこと、過去にさかのぼり宮城県に住んでいた頃の家族の話、忠男の父についても書かれている。

(中西 奈津子)ページトップへ

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