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 『キャタピラー』 寺島しのぶ
  &若松孝二監督 記者会見
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★『キャタピラー』寺島しのぶ&若松孝二監督 記者会見

『キャタピラー』 ゲスト:寺島しのぶ、若松孝二監督

(20101年 日本 1時間24分)R15+
監督・製作 若松孝二 
出演 寺島しのぶ 大西信満 

2010年8月14日(土)〜 テアトル梅田、第七藝術劇場、京都シネマ、シネ・リーブル神戸
・ 作品紹介はこちら
・ 公式サイト⇒ http://www.wakamatsukoji.org

〜戦後65周年の日本から広める平和の尊さと戦争の愚かさ〜

 『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』の巨匠・若松孝二が、戦争に翻弄されたある夫婦の葛藤を通して、戦争とは、正義とは何かを訴える反戦ドラマ。物語は、勇ましい姿で戦地へ向かった夫・久蔵(大西信満)が、両手足を無くした胴体だけの姿で帰ってくるところから始まる。変わり果てた夫の姿を嘆きながらも、シゲ子(寺島しのぶ)は妻として久蔵の世話を受け入れる。食事と排泄の介助を繰り返し、体を求められれば応じる日々が続く…。口も聞けなくなった久蔵を支える誇りは国からもらった勲章だけ。しかし、村の人々から軍神様とあがめられるも、シゲ子の心にはやりきれない悲しみと怒りが募っていく。一方の久蔵もまた戦地で犯した残虐行為を思い出し、心のバランスを失い始めていた−。

 銃撃戦を使わず、夫婦の心情変化だけで、目を逸らしてはいけない戦争の“絶望と憎しみ”に肉迫する。「正義のための戦争はない。戦争はただの人殺しだ」と強いメッセージを映画に込めた若松監督と、シゲ子を演じた寺島しのぶが大阪で記者会見に出席した。残念ながら大西信満の来阪はなかったが、大西と寺島の本能で向き合う体当たり演技は本当に素晴らしく、狂気と生に満ちている。監督は2人をキャスティングした経緯について「『実録・連合赤軍−あさま山荘への道程』を製作している時から、『キャタピラー』を撮ろうと思っていたから、久蔵の役を大西か、地曳豪か、ARATAかで選ぼうと思っていた。中でもやっぱり大西かなと思い、その時から口で鉛筆を加えて字を書く練習をしておけとだけ言っておいた」と明かす。さらに、寺島に関しては「日本の女優の中でこの映画をやれるのは寺島さんしかいない。」と絶賛。「ノーメイクで演じてくれて、モンペも似合う(笑)断られたらどうしようと思った。引き受けてくれた時には、これでこの映画は勝ったな、決まったなと思った。自分の中でいいものが作れるという自信がつきました。」
 監督の自信がそのまま現実となり、寺島はベルリン国際映画祭で銀熊賞(主演女優賞)を獲得した。監督の賛辞を受けた寺島も「色々な台本が届く中で『キャタピラー』だけは身を削ってまでやりたいと思った。映画には監督の思いが全面に出ていて、銀熊賞は監督がくれたものだと思っています」と語る。しかし、本作はほとんどが夫婦2人の密室劇。役者に任されている責任が大きい分、気持ちは張り詰めていた。「映像はごまかしがきかない。心がちゃんと動いていないとカメラに映らないので、果たして2人で映画を引っ張っていけるのかと考えた」と言う。
 だが、監督は演出プランについて何も話はしなかったそうだ。というのも若松監督はぶっつけ本番主義でいつもテストはしない。シゲ子が久蔵を乗せたリヤカーを引く場面も「そこで引いていてください、あとでカメラが寄りますから」とシンプルな指示しかせず「ほとんど寺島さんに任せきりでした。」と振り返る。どういう風にカメラに映るか台本はすべて頭で構築されていると言う若松組の撮影は早い。寺島も初めはその方法に驚いたようだ。「撮影初日にお願いしますと現場にいったら「じゃあ、本番行きましょう」と言われて(笑)これが若松組かぁと。1日に8シーンか10シーンくらい撮っていたので精神的にはとても過酷でした。」
 そんな中でも「この映画をなんとか成功させたい」という気持ちで突っ走った。劇中では久蔵に苛立ちを募らせるシゲ子が、軍神様にと貰った貴重な卵を久蔵の顔になげつける場面がある。軍神様と崇められても、現実は寝たきりで自分では起き上がることさえできない。そんな皮肉にこらえきれなかったのか、それとも“生かされる”哀しみに絶望したのか、わきあがる感情の爆発が見ていて辛い。「あの場面も監督からは好きにやってくださいと言われていました。ただ、卵をなげるということは台本になかったです。あの時、卵をどうして投げつけたのかは自分でも分からない。」
 一方、追い込まれた久蔵は自ら壁に頭を打ち付ける。好きにやらせていた監督もその場面は思わずカットをかけそうになった。「大西が本当に頭を割るから、少し精神がおかしくなったんじゃないかと思った。あのシーンの血は、本当の血なんだよ。彼はカットの後も久蔵から戻るのにしばらく時間がかかっていた。」そして、「寺島さんも芋虫コロコロ、軍神様コロコロと歌う場面があるんですが、“軍神様コロコロ”とは台本に書いてないですからね。それを、自然と言ってくれたので「うまくいった〜」と心の中で叫びました(笑)本当に俳優さんに助けられましたね。」身も心もシゲ子と久蔵になりきった2人のアドリブ合戦は鬼気迫るものがあり、映画に緊張と真実味を与えた。
 そして最後に寺島は「今まで戦争の話も色々やりましたが、ここまで「戦争ってこんなことになるんだ」と思ったのは初めて。それはシゲ子を通してじゃないと分からなかったし、自分のためにもなりました。もう一度、戦争を考えなければいけないって本当に思った。これから観てくださる若い方にも、日本人として自分の祖先が通ってきた道を見て欲しい」と語りかけた。
 本作はまさに「これが戦争だ」という恐怖を見せつける。すべてを破壊し、一生癒えない傷を負わせて、正義を主張する。それが戦争なのだ。終戦を迎えた衝撃のラストシーンに胸をかきむしられていると、元ちとせのエンディング曲『死んだ女の子』がとどめの一髪でボディブローに効く。「平和な世界にどうかしてちょうだい。炎が子供を焼かないように」と歌う反戦歌はいつまでも耳に残り、心に平和の種を植え付ける。どうしても最低一日は暗い気持ちを引きずるが、絶対に観てよかったと思える作品だ。
監督の若い人たちに観てほしいという気持ちから、大学生・専門学校生は1000円、高校生は500円という異例の料金設定になっているので(大人は前売り1000円・当日1300円)、どうかこのチャンスに劇場へ足を運んでほしいと思う。
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