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★キャタピラー

『キャタピラー』
〜お国のため、
正義のための戦争の中で生き抜いた夫婦の叫び〜


(2010年 日本 1時間24分)
監督:若松孝二
出演:寺島しのぶ、大西信満、吉澤健、河原さぶ、篠原勝之他

2010年6月25日特別先行上映(大阪市中央公会堂)、8月14日〜テアトル梅田、第七藝術劇場、京都シネマ、シネリーブル神戸ほか全国にて公開
・記者会見レポートはこちら
・公式サイト⇒ http://www.wakamatsukoji.org

 『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』の若松孝二監督が今回描いたのは、第二次世界大戦最中の時代。戦地や闘いの最前線を描くのではなく、四肢を失い、代わりに勲章を携えて帰ってきた主人とその妻の終戦までの日々を描くことで、戦争が人々に残した凶暴な爪痕をくっきりと浮かび上がらせた。
  お国の為に戦地で負傷し、軍神と村人たちに崇めたてられた久蔵(大西信満)。軍神に尽くすことがお国への奉公だと口々に告げられる妻のシゲ子(寺島しのぶ)。変わり果てた夫の姿に嫌悪感を露わにしながらも、理想の妻としての務めを遂げるべく上から下まで全ての世話をするシゲ子は当時の女性の鏡のような存在だ。そんなシゲ子の内面を寺島しのぶが言葉にできない憤りや諦め、悟りといった感情が滲み出る迫真の演技で表現している。
 戦地では加害者となり、また家にいるときは妻に手を上げたこともある久蔵は、戦争の被害者となりながら軍神と崇められ、見世物のように生かされる。自分では何もできず、脳裏に戦地での被害者の壮絶な顔がよぎる生き地獄の中、唯一自分を保てる術が犠牲の代わりに手にした勲章であることはあまりにも切ない。食欲も性欲も妻の世話になるしかないのに軍神呼ばわりされ、人間としての尊厳や精神の安定を失っていく久蔵は本作における戦争の象徴なのかもしれない。
 移り変わる四季と共に刻々と悪化していく戦況も、ラジオ放送では事実を告げられることはない。果ては「家庭は最後の決戦場なり」と弱者や女までも駆り出される戦争の終末期の姿がそこにあった。原爆投下時の映像を目の当たりにし、改めて歴史を繰り返してはならないと心に刻むのだ。夫が軍神と崇められることに違和感を感じ続けたシゲ子が家の中で見せた壮絶な叫びを忘れてはならない。「忘れるな、そして繰り返すな、戦争を。」そんな若松監督の意思が最後までズドンと心に響いた。
(江口 由美)ページトップへ
   
             
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