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  ・ヤン・デクレール主演『椅子』
   撮影現場レポート

  ・ヤン・デクレール主演『椅子』
   撮影現場取材を終えて

 
記者会見レポート
  ヤン・デクレール主演『面影』(椅子)撮影現場レポート 

『ヤン・デクレールさん主演短編映画「椅子」の
                   撮影現場取材報告』

〜大阪発!ベルギーの名優を招き、
            万田邦敏監督メガホンをとる〜

 
平成21年11月26日から3日間、大阪市平野区の和菓子屋店と港区のギャラリーで、大阪ヨーロッパ映画祭のゲストとして来日したベルギーの名優、ヤン・デクレールさんを主演に迎え、短編映画『椅子(仮題)』の撮影が行われた。監督は、『接吻』の万田邦敏監督。財団法人ベルギーフランドル交流センターが企画。映画のアイディアを一般公募し、最終選考作品を万田珠実さんと万田監督が脚色。

 デクレールさんは1946年ベルギー生まれ。主演する『キャラクター〜孤独な人の肖像〜』が‘97年アカデミー賞外国語映画賞を受賞。映画・テレビへの出演回数がベルギーで最も多く、深みのある演技と渋い容貌で「ベルギーのジャン・ギャバン」と称される。本作で演じるのは、仕事で大阪を訪れた家具職人エリック。家具づくりを学ぶため日本に行ってしまい、家業を継がなかった息子ステファンの作品の展示を観にいくが、ステファンは事故で3年前に亡くなっていた。エリックは、食事に入った団子屋で、店の主人と息子との留学をめぐる言い争いを耳にする。その団子屋は、かつてステファンが常連だった店。エリックは、ステファンがつくって主人に贈ったという椅子を見せられる……。
 撮影前に2日間かけて読み合わせやリハーサルが行われ、撮影初日はギャラリーで、残る2日は和菓子屋店で撮影が行われた。最終日、現場取材をする機会に恵まれた。週末とあって、店の回りの交通量は前日と比べ少なく、撮り残しのシーンも含め、撮影は快調に進んだ。
 前日まで続いた暖かな日と打って変わって、この日は、昼頃からめっきり冷え込み、見学者らがマフラーやカイロで寒さをこらえる中、デクレールさんは、薄いコート一枚で淡々と演技を続けられた。すべての撮影が終了したのは午後5時過ぎで、辺りはすっかり暗くなっていた。記念写真の撮影後、興奮冷めやらぬ中、デクレールさんと万田監督に順にお話をうかがった。

◆ヤン・デクレールさん

 「朝からスケジュールがぎっしり詰まっていて大変でしたが、すばらしい技術を持ったスタッフの方々のおかげで、すばらしい体験でした。大阪の町の真ん中で椅子と対話するというのは、初めての体験でした(笑)」と語るデクレールさん。日本での撮影については、「今まで様々な国の映画に出演してきましたが、映画の撮影はどの国でも皆同じで変わりません」、「日本の方がつくられた台本の、知らない文化の国に行ってしまった息子を探しているうちに、息子は亡くなっており、椅子をとおして息子に出会うというアイデアは、私には思いも寄らないものでしたが、実際に演じてみて、とてもおもしろかったです」
 万田監督の演出については、「3日間スタッフを同じ方向に向かって動けるようにし、ストレスを感じることも全然ありませんでした。すばらしい監督さんだと思います。また、この監督とこのチームで、今度はもっと長編の作品を伝統的な場所でつくりたい。例えばお寿司屋さんとか(笑)」来年、上映される際の観客に向けてのメッセージとしては「大勢の人たちに観に来てほしい。映画の出来がわるいと思ったら私のせいです。よければ、スタッフ達、皆さんのおかげです」
 撮影の待ち時間には小さな椅子に座り、時に、通訳の方やベルギーの取材者の方々とお話をされていたデクレールさんは、和菓子屋店の古く床しいたたずまいにひどく興味を持たれたようだった。キャメラの前に立った時の、異国から来た一人の孤独な初老の男としての風格にあふれた姿は忘れられない。
◆万田邦敏監督
 外国の人を撮るのは初めてという万田監督。「日本映画によく出てくる外国の方は、なんだかアメリカの人、ヨーロッパの人に見えなくて、日本人的なお芝居をし、日本人みたいな感じがするので、そこはきちんと外国人のように、ヨーロッパの初老の人を撮りたいということを心がけました」、
「デクレールさんから、とても小さな役だった女性にもっとスポットを当て、最後の方まで引っ張るための提案をいただきました。とてもおもしろいアイディアでしたし、日本人ではなかなか発想しないことだったので、積極的に取り入れようと思い、脚本も変更しました」、「椅子に語りかけたあとの芝居についても、目を閉じて椅子を見るぐらいしか僕は思いつかなかったのですが、これは少し日本的な発想かなと思い、デクレールさんに直接お聞きしたら、頬ずりをしようと言って、それがとてもよかったです」  
  キャメラを通してデクレールさんを見た感想については、「かっこいいですよ。アップの絵がぴたりと決まりました。日本人にはないですね」、「『ザ・ヒットマン』で、すごい殺し屋を演じておられました。ベルギーの大変ベテランの俳優さんということで、僕も緊張していたのですが、実際に会ってみて、本当に優しくて、気持ちの暖かい方で、会った瞬間からなじんでしまいました。僕としては、もう少し緊張感があってもよかったんじゃないかと、はじめちょっと困ったくらいです」、「親子の会話があったりすれば、デクレールさんの持ってる包容力がもっと芝居の中で出てくると思うんですが、今回は、死んだ息子の残した椅子に向かってということなので、普通の親子の愛情とはちょっと違った見え方がするかもしれません」
 通訳を通す演出を実際にやってみての感想は、「デクレールさんの人となりだからと思うのですが、日本の役者さんとやっているのと、そんなに変わらなかったですね。言葉の問題だけで、気持ちは日本の役者さんとやっている時と同じような感じでできました」撮影期間はわずか3日間とはいえ、「脚本に夜のシーンがなく、陽のあるうちに撮り終わらなければならず、4時半か5時を過ぎるともう暗くなって撮影ができなくなっちゃうので、ハードなスケジュールでした」
 同時録音のため、キャメラが回っている間は、スタッフ達が力をあわせ、店の回りの交通を止めるのに、地域の方々に協力してもらった。辺りが暗くなり、撮影も押し迫る中、周辺の人通りが増えても、焦ることなく、終始、淡々と、丁寧に指示をされていた万田監督の冷静さに、あらためて映画監督の凄さを感じた。
  当初15分のショートフィルムとして企画された本作。万田監督によれば「少し長くなるかもしれません」とのこと。ベルギーの名優の演技がどんなふうにスクリーンに結晶するのか、私たちが完成した作品を観ることができるのは、2010年の「大阪ヨーロッパ映画祭」の予定。関西弁、英語、オランダ語が飛び交い、国や言葉が違っても、親子の衝突や愛情は変わらない。どんな映像世界に出会えるのか、今から上映が待ち遠しい。
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ヤン・デクレール主演『面影』(椅子)撮影現場取材を終えて
『ヤン・デクレールさん主演短編映画の
                  撮影現場見学報告』

〜すべての動きが止まり、カメラが回りだす緊張感〜

 撮影の最終日に当たる11月28日、映画の撮影現場を見学できたので、報告したい。2日間の撮影が行われた和菓子屋店は、大阪市平野区の商店街を少し離れ、住宅街の十字路の角にあった。創業は江戸時代に遡る古いお店とあって、店構えから内装まで奥床しく、歴史の長さを感じさせた。

 今日、現場に参加しているのは、デクレールさんのほか、店の主人役の妻方圭修さん、その息子役の小川尊さん。デクレールさん演じるエリックが食事をしていると、店内の奥で店の主人と息子の言い争うのが聞こえてくる場面。監督は、店の主人が饅頭の箱を持ち上げる動作や、セリフを言うタイミングなど、細かに芝居をつけていく。役者達の一連の動きが決まると、監督は、カメラマンや助監督とともに、「ここからここまでがシーン1」とシナリオに線を引いて、カット割と各シーンのカメラ位置を決めていく。製作の方にうかがったところでは、今回は短編で、スタッフの数も少ないからこそ、現場に入り、演技をつけた後でのカット割ができるとのこと。照明やカメラのセッティングが終わり、役者の演技を確認し、カメラテストを経て、いよいよ本番。監督は、カメラとは1、2m離れた所に三脚で立てられた小さなモニターを、ヘッドホンをつけてのぞきこむ。外の光がうつりこまないよう、モニターには布がかかっている。
「よういスタート」の声とともにカメラが回り出す。それまで忙しく動き回っていたスタッフたちの動きが全員止まり、スタッフ一同、息も止まるくらいの緊張感が現場をおおう。デクレールさんの低く、落ち着いた声の響きが店内に響き、一瞬、現実から映画の世界へと運ばれる。「カット」、「OKです」と監督の声が静かに響く。小川さんの片言の英語と、デクレールさんの英語、オランダ語のやりとりに、思わずほろりとさせられた。
 本番と本番の間、カメラや照明のセッティングでスタッフが忙しい時が、監督と役者さんがほんのひととき、気を休める時間になる。手早く煙草を一服する監督。一方、照明のスタッフ達は、何度もモニターをのぞいては、光の具合や画面への映り込みをチェックしている。店の外の道路の端に立って見学している我々は、時々注意を怠り、下手な位置に立っていると「画面に映りこみますので、動いてください」と言われ、あわてて反対側や道路の奥の方へ走り込む。
 照明のライトの前に薄い紙を貼って光を微妙に調節する。入念なチェックが、美しい映像を生み出すのを間近で見た気がした。監督からデクレールさんへの演出は、セリフを言ったり、視線を上げたり、動いたりするタイミングについてが多く、細かい演技指導はあまりないですと通訳の方に教えてもらった。
 前日の撮影では、平日のため車の通行が多く、撮り残しのシーンもあったため、昼食の時間もそこそこに、昼過ぎの短い休憩時間を挟んですぐ撮影は再開された。同時録音のため、店内で撮っていても、車が通ったり、道行く人がおしゃべりすれば、その音が入ってしまい、撮影することはできない。そのため、スタッフ達は、十字路の道の4方向に分かれ、店から数十m離れた場所で待機する。店の中から「本番!」と声が上がると、十字路の真ん中に立ったスタッフが、四方に分かれたスタッフに見えるよう、大きく片手を回して、カメラが回っていることを知らせる。車が来る、自転車が来る、撮影中なのでと丁重にお断りして、回り道してもらうか、「カット」の声がかかるまでの数十秒か1分近く待ってもらう。地域の方々の協力なくしては、撮影もままならない。風が照明のセロハンを揺らしカサカサと音をたてれば、そっと手で押さえるスタッフ。近所の犬が吠える声、自転車のブレーキ音が遠くでキキキとつんざく。どんなときも、監督は落ち着いていて、表情は変わらない。車のエンジン音が入らないよう切ってもらったり、カメラが回っている数十秒は、まさにスタッフ全員の汗の結晶だと実感した。
 店先には和菓子が並んでおり、地元でも有名なお店とあって、近所の方々が時々お饅頭を買いに来る。撮影中の時間だけは、お店の方に協力していただき、営業を休んでもらっていたが、役者の妻形さんは、店の主人役で白い服を着ているせいか、間違って饅頭を買いたいと声をかけられたそうだ。近所の方々も興味津々に撮影を見に来て、お店を遠巻きに見守る。ベルギーフランドル交流センターの所長さんが、ベルギーのチョコと日本のお饅頭のミックスのような映画ですよ、ぜひ観に来てくださいと話し、その撮影の話は地元のおばちゃんからおばちゃんへと広がる。
 夕方近くになると、さらに気温が下がってきて、底冷えがしてきた。私もマフラーをしっかりと巻き、カイロを握りしめる。そんな中、役者の皆さんは薄着で頑張っている。最後に、小川さんからデクレールさんに椅子が手渡される場面が、店の前の十字路で撮影された。ここでもデクレールさんの存在感は抜群だ。椅子を通して亡き息子に出会うというのは、日本的発想と言われたが、椅子との対話の場面での演技はそこはかとなくよかった。

 今回、主に製作に携わったのは、Planet Studyo Plus One 代表の富岡邦彦さん。大阪で自主映画制作に携わっている若者たちがスタッフとして多く参加した。カメラを高木風太さん(撮影『堀川中立売』(2010年公開予定))、助監督には、桝井孝則さん(映画監督『夜光』)、東京から佐藤央さん(映画監督『シャーリーの好色人生』)、小出豊さん(映画監督『こんなに暗い夜』)と、万田監督の下、スタッフ一人ひとりが生き生きと動いていて、責任と誇りを持って撮影現場に参加していることが感じられた。交通整理の役は現場からも遠く、つらい仕事だが、これなくしては映画が成り立たない。スタッフたちの的確な意思の疎通と、決して焦らない監督の指示とが、現場の撮影をスムーズに進めていく。撮影全般を通じて、監督の丁寧な言葉遣いと終始落ち着いた物腰が心に残った。初めて見学した撮影現場。まさに現場はアクションだ。スタッフたちがきびきびと動き回り、アクションに満ちている。そして、用意が整い、「本番」の掛け声とともに、カメラが回り出すや、スタッフたちの全ての動きは止まり、息を飲むのもはばかられるような静寂と緊張感が広がり、今度は役者たちのアクションが始まる。フィルムにもこの空気がとらえられているのだと思うと、作品が仕上がり、上映されるのが楽しみでならない。
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