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【シネルフル】
HP管理者:

河田 充規
河田 真喜子
原田 灯子
藤崎 栄伸
篠原 あゆみ

〒542-0081
大阪市中央区南船場4-4-3
心斎橋東急ビル9F
(CBカレッジ心斎橋校内)
cine1789@yahoo.co.jp


新作映画
 4ヶ月、3週と2日
『4ヶ月、3週と2日』
〜主人公の心の内側に肉薄するカメラ〜

(2007年 ルーマニア 1時間53分)
監督・脚本:クリスティアン・ムンジウ
出演:アナマリア・マリンカ、ローラ・ヴァシリウ、ヴラド・イヴァノフ
3月29日〜テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、4月19日〜京都シネマ

公式ホームページ→
 1987年、チャウシェスク大統領による独裁政権末期のルーマニア。出産が奨励され、中絶は重大な犯罪とされた時代。ルームメイト、ガビツァの違法中絶を手伝う女子大生オティリアの1日を描く。気分が悪いというガビツァに代わり、ホテルの予約、医者の出迎えと、準備に奔走するが、次々と問題が発覚。妊娠4ヶ月を過ぎ、母体へのリスクを考えるともう先には延ばせない。深刻な事態を前に、戸惑いながらもオティリアは友達のために、ある決断をする……。
 妊娠期間を偽った、ガビツァの悪気のない嘘が、事の発端とわかっても、オティリアは、心配ばかりかけるガビツァを放っておくことはできない。法を犯したという秘密を共有する者同士、同じ女性同士、ガビツァの身体を優しく気遣い、我が身を犠牲にして世話を焼く。恋人と口論になっても弱音を吐かず、淡々と一人、耐え抜くオティリアの姿を、手持ちカメラが綿密に追いかけ、その苦悩に迫る。
 説明的なセリフをそぎ落とし、登場人物の感情の揺れを繊細に伝える脚本は、観客の心をつかんで離さない。1シーン1ショットで撮影された長回しのカメラにより、その場の空気がリアルに伝わってくる。俳優たちの緊迫感あふれる演技に息を飲む。

  自由を奪われた社会で、人は、友達のために、オティリアのような勇気と誠実さと忍耐を持って、危険を犯してでも、行動することができるだろうか。
 夜、ひとけのない街を、一人、早足で歩くオティリアの表情をとらえ続けるカメラからは、底知れぬ不安と恐怖が伝わる。最後まで真摯にガビツァを守りぬこうとする姿には、友情を超えて、人間の尊厳に迫るものがある。セリフを最小限に抑え、観客の想像力に多くを委ね、最後まで緊張感を持続させる構成と、監督の緻密な演出力に圧倒された。 
(伊藤 久美子)ページトップへ
 ダージリン急行
『ダージリン急行』
〜スルメのように噛めば味が出てくる映画〜

(2007年 アメリカ 1時間44分)
監督:ウェス・アンダーソン
出演:オーウェン・ウィルソン、エイドリアン・ブロディ、ジェイソン・シュワルツマン、アンジェリカ・ヒューストン
3月15日(土)〜シネ・リーブル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸、他
☆『ホテル・シュヴァリエ』(13分)同時上映☆

公式ホームページ→
 主要な登場人物は3人の兄弟であり,長男フランシス(オーウェン・ウィルソン),二男ピーター(エイドリアン・ブロディ),そして三男ジャック(ジェイソン・シュワルツマン)だ。しばらく絶交しており,長男の呼び掛けで久しぶりに会ったというシチュエーションだが,詳しい事情は分からない。3人の兄弟の誰かに感情移入できるとストーリーの世界に入って行きやすいが,本作は安易な感情移入を拒否する。その意味で取っつきにくい映画だが,与えられた情報のパーツを組み合わせて振り返ると,噛めば噛むほど味わい深くなっていくような雰囲気を持っている。
 インドで3人の兄弟が乗った列車自体が,レールの上を走っているはずなのに,道に迷ってしまうエピソードがあった。人は皆しっかりと前を見てレールの上を走っているつもりでも,いつの間にかルートから外れていることがある。だからこそ人間だともいえる。そんな迷える人々に対する慈しみに満ちているようだ。
 また,実際にインドで撮影されたということで,インドに行ったことがなくても,インドの色や匂いを体験したような思いがする。特に,現地の子供の葬祭のシーンは,兄弟3人が父親の死を追体験する意味合いを帯びており,迷子の列車と共に印象に残る。さらに,3人は行方不明になっていた母親を訪ねてヒマラヤの修道院へ赴く。糸の切れた凧のような存在の母親(アンジェリカ・ヒューストン)がかえって彼らの絆を深めたようだ。

 兄弟3人の中で全てを支配しようとする長男は,スケジュールのとおりに進まないと落ち着かないようだ。二男は,なぜか父親の遺品であるサングラスを身に付け,妊娠中の妻との関係に距離感を抱いている。3人の中で最も家族の匂いを発散させている。三男は,作家でフワフワと浮遊しているように見えて,長いヒモで繋がれているような,あるいはGPSで居場所を探知されているような雰囲気で存在する。
この3人の兄弟が隔たりを感じたり衝突したりしながらも,最後に装飾を捨てて再び列車に乗ったとき,”兄弟”や”家族”という概念による縛りから解放されるのかも知れない。そんな感じのラストだった。

  彼らと対比するようなイメージで,ビル・マーレイが映画オープニングとエンディングに登場する。装飾を捨てられない限り,幸せ行きの列車に乗れないのだろうか。
 また,本編のプロローグのような短編「ホテル・シュヴァリエ」でナゾの女に扮したナタリー・ポートマンが1カットだけ本編でも姿を見せてくれる。この短編もまた味わい深い。三男が滞在するパリのホテルにナゾの女が訪ねてくるという。2人の過去から現在に至る関係がミステリアスな映像とセリフで綴られていく。情熱に駆られているわけではないが,追い掛けざるを得ない女と,逃れようとしながらも,受け止めてしまう男との,微妙な関係に痛みさえ感じられる。ナタリー・ポートマンが妖艶ではなく硬質の輝きを発しているのがよい。
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 観察 〜永遠に君をみつめて〜
『観察 永遠に君をみつめて』
〜方向音痴のオトコと距離感のないオンナ〜
(2007年 日本 2時間13分)
監督:横井健司
出演:緒川たまき、小沢和義、光石研、江口のりこ
3月15日(火)〜シネ・ヌーヴォXにて公開

公式ホームページ→
 引越を繰り返して友達のいないオトコ・三上茂樹(小沢和義)と,家族の中にいても孤独を抱えたオンナ・名取弥生(緒川たまき)。オトコはオンナを見詰め続ける,オンナの娘の美津野智代からオンナのオトコに対する想いが込められた荷物が届けられるまで。
 映画は本質的に”ノゾキ”だと言われることがある。カメラのレンズを通して見える世界をフレームで切り取ってフィルムに焼き付けていく。観客もまた提示された映像を自らのフレームで切り取り,自分の中に取り込んでいく。そこには日常生活の営みでは体験できない”ヒミツ”を覗き見る快感がある。他人の心の中を覗き見ることによって,自分自身を振り返ることもできる。その他人は,被写体だけに限られず,被写体を覗き見る人であることもある。観察する者がいつしか観察されている,”観察”という営みの面白さ。
 説明過剰なセリフや回想シーンが満載の映画に辟易することがある。そんな映画と違って,本作は説明的なシーンやセリフは控え目で,これらの間に挟まれた,いわば沈黙の時間が実に効果的で,かえって雄弁に語りかけてくる。このようなゆったりとした時間の流れの中で,じっくりと登場人物たちの思いを聴くことができる映画として,最近観た中では『人のセックスを笑うな』があった。本作とは全く違った内容を扱いながらも,ジワッと染み渡る感覚を味わわせてくれる点で,本作と共通するところがある。
 本作では,観る者と観られる者との相互の関係に焦点が絞られている。双方の立場をクロスカットの手法で描いていくのではなく,前半で観る者=オトコの事情を描写し,後半で観られる者=オンナの思いを明らかにしていき,最後に両者をリンクさせて完結させている。前半のオトコの描写の中で,後半に繋がるいくつかの疑問を残すなど,伏線を配して後半に興味を惹き付けていく。
 『バンテージ・ポイント』のように,23分間の出来事を角度を変えながらフラッシュバックのように次々と提示していく作品のスピード感に酔い痴れるのも映画の大きな楽しみの一つだが,本作のようにじっくりと登場人物の心情を反すうして味わいながら過ごす時間も捨て難い。

 オトコは,妻から「普通に不倫された方が良かった」と言われ,オンナは,夫から「弥生は僕を見てくれていない」と言われる。そんなオトコとオンナの風景が丁寧に描かれ,そこから普遍的な人生の哀切が浮かび上がってくる。
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 マイ・ブルーベリー・ナイツ 
『マイ・ブルーベリー・ナイツ』
〜本当の愛に気づくまでの道のり〜

(2007年 フランス=香港 1時間35分)
監督:ウォン・カーウァイ
出演:ノラ・ジョーンズ、ジュード・ロウ、デイヴィッド・ストラザーン、レイチェル・ワイズ、ナタリー・ポートマン
3月22日〜TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、なんばパークスシネマ、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸他

公式ホームページ→
 インターネット、携帯電話でほしい情報は簡単に手に入り、行きたいところへの道順もすぐわかる現代。でも、人と人の心が通じ合うのに、昔も今も近道はない。時間をかけてゆっくりと機が熟するのを待つ。焦らず、自分自身の気持ちを確かめて、少しずつ相手の心との距離を近づけていく。運命の人とはそんなふうにして出会いたい。
 電車が走る音が聞こえてくる、ニューヨークの街角の混み合うカフェ。オーナーとして店を切り盛りするジェレミーの顔をアップで追うスリリングな画面で、映画は始まる。手痛い失恋から立ち直れずにいるエリザベスを元気づけようと、ジェレミーはブルーベリー・パイを焼く。その優しさに癒されるエリザベス。でも、前の恋人への想いを断ち切れないエリザベスにとって、新しい一歩を踏み出すには、時間と距離が必要だった。何も告げずに一人旅に出たエリザベスは、働きながらのアメリカ横断旅行を通じて、自分の本当の気持ちに気がついていく。
 ウォン・カーウァイ監督初の全編英語作品。主人公エリザベスを演じるのは、グラミー賞8冠に輝く歌姫ノラ・ジョーンズ。映画初主演となった本作では、初めて演じることへの不安や緊張、素直で謙虚な姿勢が、出会いを通して成長してゆくエリザベスにぴったりで、初々しい存在感は好感度大。ウォン・カーウァイ監督独特のスタイリッシュなカメラにより、ジュード・ロウ、レイチェル・ワイズ、デイヴィッド・ストラザーンら超豪華キャストたちの表情が、鮮やかな色彩の映像世界の中にとらえられ、新鮮。
 とりわけ精彩を放つのはナタリー・ポートマン。父への屈折した思いを抱えつつ、たくましく生き抜く、勝気なギャンブラーとして、涼やかな印象を残す。荒涼とした風景の中、エリザベスの運転する車と別れていくシーンもいい。ライ・クーダーの叙情的なギターの響きが映像に溶け込み、心地よい。
 エリザベスの旅はどこに行き着くのか?ニューヨークから離れるにつれ、二人の心の距離は狭まっていく。光あふれるNYのカフェでの出会いに始まり、再び戻ってくるのか?ぜひその行く末を見届けてほしい。 
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 燃えよ!ピンポン
『燃えよ!ピンポン』

(2007年、アメリカ、1時間30分)
監督:ロバート・ベン・ガラント
出演:ダン・フォグラー、クリストファー・ウォーケン、マギーQ、ジョージ・ロペス 
3月22日(土)〜敷島シネポップ、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズ二条、三宮シネフェニックスにて公開
公式ホームページ→
 『少林サッカー』のチャウ・シンチーの新作か?と思わせるチープなタイトルに、一瞬“ニヤリ”とする。燃えよ(カンフー)とピンポン(卓球)のあわせ技で、コメディ映画を一本作ってしまおうなんて、なかなか勇気ある行動だ。ウケるかスベるか、ふたつに1つ。しかし、そこはさすが自由の国アメリカというべきか。そんな危険な賭けに名優クリストファー・ウォーケンを“中国人役”で担ぎ出し、2500万ドルの予算を使い果たして「トータル大目にみても決してA級ではないが、見逃すにはもったいないB+レベルの作品」を作ることに成功した。
 卓球の天才少年ともてはやされながらも、オリンピックで無残な負け方をし、父親を殺されたランディは、20年後、ピンポンの曲芸で生計をたてていた。そんな彼の元に、ある事件の捜査に協力してほしいとFBI捜査官ロドリゲスが訪ねてくる。その内容は、裏社会の犯罪を取り仕切っている極悪人フェンを内偵するため、彼が5年に一度開催する卓球トーナメントに出場して欲しいというものだった。フェンが父親を殺した張本人だと知ったランディは、捜査協力を快諾。20年のブランクを埋めるためピンポンマスターであるワン師匠のもとに弟子入りする。しかし、そのトーナメントは、負けたら“吹き矢で瞬殺”のデスマッチだったことが判明する!
 卓球シーンは9割CGだというが、思った以上に自然なリアルさが追求されている。「少林サッカー」のようにボールが縦横無尽に動いたり、勢いあまって燃えたりしないのだ。ちゃんと、規格内に収まりつつの“大技”に徹しているところが、卓球の地味さにマッチしていて好感がもてる。さらに、ラリーのように調子よく交わされる、失笑または苦笑に近い“ベタな笑い”もドリフのコントを見ているかのようで心地いい。ランディが“ドラゴン”と対決する場面や、フェンから一夜のお相手としてオカマちゃんをプレゼントされるシーンなど、妙な笑いのツボを押してくるネタが満載だ。
 ランディ役は、本作をきっかけにアメリカでも大ブレイクを果たしたというダン・フォグラーが演じている。コメディセンスをもつ機敏なおデブちゃんキャラとして、日本でもポスト・ジャック・ブラックとして人気が出そうだ。大また開きで華麗なアクションをみせるマギーQにも注目したい。監督は『ナイトミュージアム』の原案と脚本を担当したロバート・ベン・ガラント。
(中西 奈津子)ページトップへ
 Sweet Rain 死に神の精度
『Sweet Rain 死神の精度』
〜 死神が人に与えたもの。人が死神に伝えたこと。〜

監督:筧 昌也 (2008年 日本 1時53分)
原作:伊坂幸太郎「死神の精度」
出演:金城 武、小西真奈美、富司純子、光石 研
3月22日(土)〜梅田ピカデリー、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他全国ロードショー

公式ホームページ→
 金城武が「死神」を演じる。そう聞いただけで何だかワクワクしませんか?
暗くて、不気味で、恐ろしくて、人の命を奪っていく―そんなイメージとはかけ離れたキャラクターの死神・千葉。穏やかで、紳士的、ミュージックを心から愛し、どこかしら天然で、雨男・・・。7日後に不慮の死を予定されたターゲットに接触、観察し、「実行(死)」か「見送り(生)」かの判定をするのが彼の仕事。
 1985年。ターゲットは藤木一恵、27歳。愛する人すべてに先立たれてしまった彼女は、「たまに本気で死にたくなる」ほどの孤独を背負って生きてきた。電器メーカーの苦情処理係の一恵には、今日も彼女ご指名のクレーマーから電話がかかる・・・。こうして迎えた判定の日、千葉は一恵の死を見送ることを決める。クレーマーが彼女に告白した思いがけない顛末がそうさせたのだった!
 この後、場面は2007年、2028年と展開し、それぞれ40歳のヤクザと70歳の美容師の物語が紡がれていく。年代やターゲットに合わせてガラッと変わる千葉の変貌振りも見所の一つで、ダンディーからチャーミングまで、金城武の魅力がたっぷりと楽しめる。3つの物語からなるオムニバス形式だが、最後の物語が進むにつれスーッと視界が晴れていくように、ある一つの人生が浮き彫りになってくる。クセになりそうな快感だ。

  「死」に対する人と死神との感覚の違いが、ユーモラスな会話で描かれる。誰にでも死は訪れる。特別じゃないけど、とても大切なもの。理屈じゃない。雨のやさしいマイナスイオンに包まれて、死神と「生きる」ことを見つめ直した。
(原田 灯子)ページトップへ
 ギプシー・キャラバン
『ジプシー・キャラバン」』
〜世界各地の音楽をつなぐ一つの大きな輪〜


(2006年 アメリカ 1時間55分)
監督・脚本:ジャスミン・デラル
出演:アントニオ・エル・ピパ・フラメンコ・アンサンブル(スペイン)、
タラフ・ドゥ・ハイドゥークス(ルーマニア)、エスマ(マケドニア)、
ファンファーラ・チョクルリーア(ルーマニア)、マハラジャ(インド)
特別出演:ジョニー・デップ
3月1日(土)〜第七芸術劇場、
4月 京都みなみ会館、神戸アートビレッジセンターにてロードショー

公式ホームページ→
 北インドから世界に散らばったと言われるジプシーたち。そのミュージシャンの奏でる音楽はもちろん,ダンスをも堪能することができる映画だ。4つの国籍で9つの言語に分かれる5つのバンドが6週間にわたってアメリカの各都市を回るツアーを追い掛けるドキュメンタリーだが,コンサートのシーンに止まることなく,舞台を離れてメンバーの表情を捉え,彼らの故郷を訪ねてルーツを探る。

  ツアーに対する期待は,観客にジプシーに対する理解を深めてもらうことと,ジプシーたちの間に一体感が生まれることだという。
 ジプシーには差別を背負ってきた悲しみの歴史があり,ジプシー音楽には人生の悲しみと喜びが込められている。特別出演のジョニー・デップは,ジプシー音楽に触れることで本当の姿が分かる,誤った観念を捨てないといけないと語る。また,以前はジプシーであることを隠していたが,エスマの歌がユーゴスラビアで大ヒットしてからジプシーであることを恥じなくなったという話も紹介される。
 同じジプシーであっても,住んでいる国が違うし,育ってきた風土や文化も異なっている。カルロス・サウラの映画を通じて一気に親しみを増したフラメンコのルーツもジプシー音楽だという。エミール・クストリッツァの映画で使われていた音楽にジプシー音楽が取り込まれていることもよく分かる。エスマの歌を聴いていると,何年か前にブームとなったインド映画の音楽とダブってくる。このように多様なジプシー音楽だが,その共通点は同じ思いを分かち合っていることだという。
 音楽に聞き惚れ,踊りには目が釘付けになる。メリハリのある凛とした美しさが眩しく映えるフラメンコは,喜びも悲しみも呑み込んだような迫力がある。それにまた,インドのマハラジャの踊りが珍しい。膝で踊るのだという。これが踊れるのは世界で2人だけで,結婚式をすっぽかされた花婿の体面を守るために花婿の男友達が花嫁に化けるのだそうだ。
 5つのバンドのメンバーが同じバスで移動するうち,互いの理解が深まり親しみが増してくる。ツアーの始まりから彼らに接してきた観客もまた,いつしか彼らに親しみを感じている。そして,ツアーの終わりが近付くと,別々のバンドが同じステージで共演する。カメラは,彼らの間にズケズケと入り込むことなく,適度に半歩ほど引いてやや控え目な感じだ。そのため熱くなりすぎず,ちょっとした達成感を共有できて心地良いものとなった。

  このように耳と目から滋養を吸収できるのはもちろん,更に,ナチスがジプシーを大量虐殺したことや,マケドニアのジプシーがコソボからのジプシー系の難民を受け入れたことなどが語られ,偏見や紛争といった歴史や世界地図のマイナス面が圧縮された痛みも感じる。だが,カメラが映し出す人々の笑顔の素晴らしさにほっとさせられる。エンディングでは,迫害された復讐は子供に教育を与えることで果たしたいというセリフが刻まれる。
(河田 充規)ページトップへ
 映画 クロサギ
『映画 クロサギ』
〜忘れ物はライター,心を灯すライター。〜

(2008年 日本 2時間07分)
監督:石井康晴
出演:山下智久、堀北真希、山崎努、大地真央、竹中直人、笑福亭鶴瓶
3/8(土)〜TOHOシネマズ梅田 他全国東宝系ロードショー

公式ホームページ→ 
 オープニングでいきなり山下智久の顔がでっか〜く映し出され,ラストも同じようなショットで締め括られる。彼の七変化が楽しめるし,彼の話す英語や大阪弁を聴くこともできる。紛れもなく,これは山下智久ファンのための映画だ。そして,彼が扮する黒崎は,あくまでも”史上最凶の詐欺師”であり,今後もずっとクロサギであり続ける。だが,本作には,それだけでは終わらない深さがある。

  人は動き回る影に過ぎない…このシェークスピアの「マクベス」のセリフが冒頭や劇中で示される。人は哀れな役者だ,自分の出番のときだけ舞台の上で見得を切り,喚き,そして消えてなくなる…と続くセリフだ。この世の舞台で哀れな役者である人が人を欺かずにはいられない哀しみの向こう側に,それでも人を思う気持ちを捨てきれないのが人間であるという,そんな思いが込められた映画だ。

  チラシに「詐欺師を騙し討つ」「巧妙に仕組まれた罠」などと謳われると,「スティング」のようなコンゲームを思い浮かべる。だが,本作では,映画の中の世界だけで人々が互いに騙し騙されている。観客も巻き込んで,どのような趣向を凝らして騙すのか,ウソがバレないかなどといったハラハラ,ドキドキする展開にはならない。騙したり騙されたりのゲーム感覚の面白さや爽快感を期待すると,残念ながら裏切られてしまう。その意味では本作自体が大いなる”サギ”に違いないが…。

  しかし,本作の面白さはこれとは全く別のところにある。特に山崎努のフィクサー桂木がなかなかいい味を出している。黒崎に日本刀の切っ先を首筋に突き付けられても動じない剛胆さとこれを支える深い洞察力が凄まじい。同時に,自分自身の人生を演じてきた自分を観客の立場から振り返るようなイメージを醸し出している。彼の自分自身の過去に対する悔恨でも哀惜でもない複雑な感情の背後には,その内部に封印されたライターの灯火のような人間性が垣間見えるような気がする。

  桂木が黒崎と会うバーに漂うブルーな雰囲気も彼の内面によくマッチしている。なぜか水槽の中のワニと赤い金魚のシーンがリンクし,爬虫類の冷たさに思わず腕をさすって確かめる。また,彼の下で働く女に扮した奥貫薫も,特に黒崎と教会の中で会うシーンなど,ミステリアスな雰囲気を湛え,桂木の深みをサポートしている。黒崎が桂木の掌の上で踊らされているに過ぎないとすれば,桂木は一体どのような舞台で踊っていたのだろうか。

  更に,黒崎がターゲットとするシロサギ石垣に扮した竹中直人は,不安と猜疑に彩られた目をしている。トップを演じることはできても,決して頂点には立てないという,いわば常に人の背中を見ながら走ってきた男を好演している。綿貫というナゾの人物に扮した笑福亭鶴瓶もまた,ストーリー展開の上でその存在が十分に生かされていない憾みがあるとはいえ,少ない登場シーンの中で意味ありげな雰囲気を出して強い印象を残してくれた。

  一方,被害者側の人間として登場する女優2人にも重要な役割が与えられる。飯島直子は,石垣に大金を騙し取られる役回りだけでなく,娘の心臓手術のためにはその金を取り戻さないといけない立場に置かれている。予測された範囲内の展開で,サスペンスを盛り上げるほどではないとしても,彼女のエピソードが爽やかな灯りをもたらしてくれたことだけは確かだ。そして,大地真央は,桂木に対するアンビバレンツな心情を抱えてきた女性であり,ライターの温もりを象徴する存在として,人を思う優しさをにじませている。

  彼女らのお陰で,冷淡になりきれない人間の心の奥にある温もりが浮かび上がり,全体にほっこり感が生まれている。詐欺師側の造形だけでなく,被害者側の事情を描き込むことにより,体温が感じられるものとなり,厚みが増したことは間違いない。夾雑物や無用の装飾を取り払って有効なパーツだけに着目すると,オセロのような面白さが見えてくる。
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 ジャンパー
『ジャンパー』
〜スクリーンを超えて広げよう,想像の翼〜

(2008年 アメリカ 1時間28分)
監督:ダグ・リーマン
出演:ヘイデン・クリステンセン、ジェイミー・ベル、レイチェル・ビルソン、ダイアン・レイン、サミュエル・L・ジャクソン
3/7(金)〜
TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸 他にて全国ロードショー
公式ホームページ→ 
 ジャンパーは,行きたい場所に一瞬のうちに移動できる能力を持っている。一方,パラディンは,人類を守るためにジャンパーを抹殺しようとする。瞬間移動の能力は,人間が持ってはならない力であり,神のみが持つべきものであるから,このような能力を持つ人間が存在することは許されないというのだ。
 しかし,瞬間移動の能力も神が一部の人間だけに与えた力ではないのか。そうだとすると,神から特別の能力を付与された人間を,その能力を持たない人間がまるで狩りをするように抹殺することもまた,神に背くことではないのか。中世の魔女狩りもパラディンが行ったものだというセリフがあるなど,ジャンパーとパラディンとの人類創世以来の世界各地を駆け巡る確執と闘争,そんな感じの壮大なストーリーを予感させながら,まるで伝説の萌芽のように,その一端だけが描かれる。
 映画の時制は現在に限定されており,過去や未来へ飛翔することはない。タイムスリップではないので,それでよいのかも知れないが,パラディンがジャンパーを執拗に追跡するというストーリーに説得力を持たせるためには,両者の過去に何があったのかを示すエピソードを少しでも示して欲しかったと思う。そうでないと,現代社会の中でドロボーはするが,その点を除くといかにも人畜無害といった感じのジャンパーを殺害するのはかえって非道に見えてくる。もっとも,地球規模でジャンプするアクションには新鮮さがある。

  しかも,VFXだけでなく,ロケがふんだんに行われているので,劇場にいながら世界各地の光景を色々と楽しむことができる。フィジーの大波でサーフィンして,スフィンクスの頭の上でランチする。そこからカメラが引き,スフィンクスとピラミッドを斜め上から見下ろすという,得難い経験もできる。コロッセオでは,円形競技場の中まで縦横無尽にカメラが動き回っている。実際にローマへ行ってもこのような体験はできないだろう。
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 胡同の理髪師

『胡同の理髪師』
〜失われゆく風景と、北京/路地に生きる人々〜


監督:ハスチョロー(2006年 中国 1時間45分)
出演:チン・クイ チャン・ヤオシン ワン・ホンタオ ワン・シャン
3/8(土)?第七芸術劇場にてロードショー
     シネマート心斎橋にてモーニングショー
3/29(土)?京都シネマにてロードショー
3 月 シネ・リーブル神戸にてモーニングショー

公式ホームページ→
 

 “近代化とは風景の変化である”という文章に出会った。なるほどと思った。オリンピック招致を合図に都市部はクレーンの山を築き、中国にはまさに近代化の波が押し寄せている。そして、それは建物だけではない。人もまた、風景の一部なのだ。

 北京市の旧城内を囲んで点在する路地、胡同(フートン)。地の利にすぐれたこの地区は再開発の対象になっていた。そんな旧い家並みの入り組んだ一角にチンさんは住んでいる。朝6時起床、入れ歯を入れ髪をなで付けたら1日が始まる。荷台に大きな籠のついた三輪車でチンさんはどこへでも出かけてゆく。馴染みの客を訪ねたら、馴染みの店でモツを食べ、仲間と麻雀の卓を囲む。胡同でチンさんを知らない者はいない。御歳93歳、実在する現役の理髪師だ。
 ハスチョロー監督はチン・クイさんを数年前にドキュメンタリー番組で見たときから、その姿が頭から離れなくなったという。今回チンさんを演じたのは当のご本人だ。ドキュメンタリーではないが、カメラはチンさんの日常を淡々と捉え、彼もまた演技らしい演技をしない。しかし、その仕事ぶりから、毅然とした佇まいから、チンさんの歩んできた人生がにじみ出ている。
 生活とは活き活きと生きる、と書く。チンさんは活き活きと、そして丁寧に生きている。
病気で動けない人のため、道具を携え自宅を訪れる。電気剃刀は使わない。血圧の高い人や心臓の弱い人への配慮からだ。監督はチンさんをはじめ胡同に生きる生活者の実際の生活風景をとおして、変わりゆく町並みや人の営み、失われつつある伝統的なものを次世代へ残そうとした。


  一日一日の積み重ねが人生をつくる。時には荒波もたつだろうが、それでも繰り返し日常を重ねることでチンさんのような顔になる。それは風雪を凌いできた顔だ。喜怒哀楽には乏しいが、じんわりと温かい。監督がチンさんを何年も忘れられなかった気持ちがよくわかる。生活とは地味なもので、人生はドラマティックだと思っていた頃にこの作品に出会っていたら果たして自分はどう感じただろう。あの頃に戻って確かめてみたい気がした。今“あの頃”を生きているみなさんはどうだろうか?
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 ノーカントリー
『ノーカントリー』
〜アカデミー賞最多8部門ノミネートの傑作クライムアクション〜

(2007/アメリカ/122分/R-15)
監督・脚本:ジョエル・コーエン イーサン・コーエン
出演:トミー・リー・ジョーンズ ジョシュ・ブローリン ハビエル・バルデム
3月15日(土)〜TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸 他で公開
公式ホームページ→ 
 『ファーゴ』で映画監督として不動の地位を築いたコーエン兄弟の3年ぶりの新作にして最高傑作。逃亡と追撃の攻防戦を乾いた恐怖でクールに描き出し、ぬるいハリウッド映画に慣れた観客の度肝を抜く。

  1980年代のテキサス。人気のない荒野で無数の死体と200万ドルの大金を発見したモスは、危険を承知でその金を持ち去ってしまう。やがて彼は、ある組織に雇われた殺し屋シガーによって絶体絶命の危機へと追い詰められていく。
 基礎となる設定はシンプルだが、ストーリーの運び方と登場人物に奥ゆきがあるため、見慣れた感は一切なく全編クライマックスのような緊張感がラストまで続く。なかでも際立っているのが“7:3ボブ”というヘンテコな髪型で、目に付く者は誰でも殺してしまう狂気の殺し屋シガーを演じたハビエル・バルデムの怪演だ。ボンベのようなエアガンで罪のない人間の脳天を貫き、手錠で警官を絞殺する。ギョロ目はいつも冷静で、不敵な笑みは地獄の在りかを指し示すようだ。そんな不気味で不死身な男を前にすると、もはやこの世に正義など存在しないという事実を突きつけられた気になるから恐ろしい。

  些細な欲が原因で狂い出した人生の歯車は、軌道を取り戻せるか。運命が導く男たちの本能の戦いに心拍数が上がりっぱなしだ。
(中西 奈津子)ページトップへ
 ペネロピ
『ペネロピ』
〜ありのままの私が新しい世界を切り開く〜


(06・イギリス/101分)
監督 マーク・パランスキー
出演 クリスティーナ・リッチ、ジェームズ・マカヴォイ、キャサリン・オハラ
3月8日〜テアトル梅田、109シネマズHAT神戸
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 自分と向き合う大切さをおとぎ話風に説いたファンタジックなラブコメディ。コンプレックスに悩む現代女性、王子様を待つ“夢見がちな独身女性”にもおススメしたい。

  裕福な家のお嬢様ながら、先祖がかけられた呪いのせいでブタの鼻をもって生まれてしまった少女ペネロピ。呪いを解くには名家の仲間の真実の愛が必要なのだが…。
  “個性的な鼻”がネックとなりお見合いには惨敗、25年間まだ屋敷から出たことがないヒロインが、ある青年に恋したことで初めて外の世界に飛び出してゆく姿を描く。

  自信がないと悩む人は自分を主人公に投影してみて。1歩踏み込んだ瞬間、好奇の目と同じだけ世界は可能性に溢れ、人生はどこまでも広がりをみせることに気付くから。『アメリ』チックな暖色系の美術と、俳優のユニークな演技にも注目。
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 ガチ☆ボーイ
『ガチ★ボーイ』
〜プロレス+青春+恋愛+友情+笑+涙+感動=「ガチボーイ」!〜

(08・日本/121分)
監督 小泉徳宏
出演 佐藤隆太 サエコ 向井理 仲里依紗 宮川大輔 泉谷しげる
3月1日(土)〜TOHOシネマズ梅田 他全国東宝系にて公開

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 朝起きると昨日のことを全て忘れてしまう記憶障害を患った青年・五十嵐(佐藤隆太)が、その事実を隠して学生プロレスに入団。様々なハードルを乗り越え“マリリン仮面”として活躍し始める様子をコミカルかつドラマティックに描く新感覚スポ根ムービー。

  毎朝が振り出しというハンデを受け入れ、全力でプロレスに打ち込み、1日の証を身体に刻む青年のポジティブな姿勢には誰もが感動を覚えるはず。クライマックスを飾る、みちのくプロレスの現役レスラー、フジタ“jr”ハヤトと佐藤隆太のスタントなしの迫力“ガチファイト”も必見だ。
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 ライラの冒険 黄金の羅針盤
『ライラの冒険 黄金の羅針盤』
〜美術デザインとキャスティングに注目!〜

(2007年 アメリカ 1時間52分)
監督・脚本:クリス・ワイツ
出演:ニコール・キッドマン、サム・エリオット、 エヴァ・グリーン、
ダコタ・ブルー・リチャーズ、 ダニエル・クレイグ
3月1日〜なんばパークスシネマ、梅田ピカデリー他 全国松竹・東急系にてロードショー

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 全編にわたりファンタジーの世界が広がる。この地球と瓜二つの惑星に,中世と現代と近未来を取り混ぜたような時代があった。そんな時空間で展開される冒険物語だ。登場人物も,運命の子ライラを中心に,その叔父,ナゾの女,魔女族の女王など多彩で,人間の分身で動物の姿をしたダイモンも面白い存在だ。

  本作では,我々が今住んでいる現実の世界とよく似ているが,少し違った雰囲気の漂う不可思議な街が描かれている。レトロな感覚の中に近未来がはめ込まれたような趣がある。飛行船のデザインにも仄かに斬新さの匂いがする。どこかに実在しそうな時空間が創り出されており,その風景だけでも十分楽しめる。
 美術のデニス・ガスナーの名前を覚えておこう。「バグジー」や「ロード・トゥ・パーディション」など,視覚的に印象に残る作品を数多く手掛けている。彼が構築した本作の世界には,ダイモンという人間の魂が動物に具象化された存在が違和感なく収まっている。

  また,ライラ役のダコタ・ブルー・リチャーズは,色んな表情で魅せてくれるし,彼女のお陰で物語に説得力が生まれている。ニコール・キッドマンは,魅惑的で,ナゾの女がよく似合う。彼女がライラを誘い出した目的は何か,果たして敵なのか味方なのか。何しろまだ3部作の1作目だからよく分からない。
 007の新作が待ち遠しいダニエル・クレイグが扮するのは,ライラの叔父で学者であり探検家でもある。彼は,一体どこへ消えてしまったのか。そして,007に所縁のあるエヴァ・グリーンが魔女族の女王で,なぜかは知らないが,ライラを危機から救い出す。

  イギリスの作家フィリップ・プルマンの原作で「黄金の羅針盤」から「神秘の短剣」,「琥珀の望遠鏡」へと続く3部作だという。その1作目に当たる本作は,壮大なプロローグという感じで,ライラの住む世界や登場人物を紹介しながら,かなり速いテンポでストーリーが展開し,次への予感を残して終わる。
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 アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生
『アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生』
〜疾走感のある映像でアニーの人生を追う〜


(2007年 アメリカ 1時間23分)
監督:バーバラ・リーボヴィッツ
出演:ジョン・レノン/オノ・ヨーコ/デミ・ムーア/ジョージ・クルーニー/キルスティン・ダンスト/ブラッド・ピット/アンジェリーナ・ジョリー/ジュリア・ロバーツ/レオナルド・ディカプリオ/ニコール・キッドマン

3月〜梅田ガーデンシネマ、敷島シネポップ、京都シネマ、シネカノン神戸にて公開

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 ジョン・レノンが裸の赤ん坊のようにオノ・ヨーコにしがみつく写真。彼はその撮影の4,5時間後に凶弾に倒れる。妊娠中のデミ・ムーアのヌード写真。その1枚が世界を駆けめぐり物議を醸した。これまでアニー・リーボヴィッツの名前を知らなくても,彼女が生み出した写真に衝撃を受けた経験のある人は少なくないだろう。彼女自身が,そして彼女と一緒に仕事をしたスタッフが,写真と共に疾走してきた彼女の人生を振り返っていく。
 彼女は,被写体の魂を写し出すため,その人物に密着して空気のような存在になるという。ここに写真家としての彼女の基本姿勢がある。ローリングストーン誌からキャリアをスタートさせ,ローリング・ストーンのツァー・ドキュメントを手掛け,ヴァニティ・フェア誌でセレブリティたちの絶大な信頼を獲得する。その中で彼女の思いや考えが語られ,彼女に影響を与えた写真家が紹介され,スーザン・ソンタグとの出会いと別れへと続く。
 マリー・アントワネットの衣装を着たキルスティン・ダンスト,筋肉もりもりの若いアーノルド・シュワルツェネッガー,バラの花に包まれたベット・ミドラー,ブルーマンのように顔を青く塗ったブルース・ブラザース,ミルク風呂に入るウーピー・ゴールドバーグ,他にもジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツ,キーラ・ナイトレイらの撮影シーン,俳優だけでなくミハイル・バリシニコフ,ヒラリー・クリントン,ドナルド・トランプ…。

  実に興味深い撮影シーンやスチール写真が,軽快なテンポというよりも,疾走感を持って次々と示される。アニーがセットやポーズを指示する撮影シーンの次に出来上がったスチール写真が映し出されると,「なるほど」とか「へえー」とか感嘆するしかない。そしてまた,本作の持つ疾走感は,彼女の人生そのものを反映しているようで爽快だ。よく学びよく考え,チャンスをしっかりと掴めば,きっと夢を実現できるという希望が湧いてくる。
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 プライスレス 素敵な恋の見つけ方
『プライスレス 素敵な恋の見つけ方』
〜スクリーンで恋しよう!あなたの恋愛のツボがわかります〜

監督:ピエール・サルヴァドーリ(2006年 フランス 1時間45分)
出演:オドレイ・トトゥ ガド・エルマレ マリー=クリスティーヌ・アダム
3月22日〜シネ・リーブル梅田、シネカノン神戸にて公開
京都シネマでは近日公開予定
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 男性を見るとき、これだけは譲れない!という条件は何だろう?話し方?食べ方?駐車の仕方?ちょっとしたしぐさに至るまでそれはきっと十人十色。車をバックさせるときシートにかける手がいいとか、急停車したとき助手席に手を差し伸べる、なんていうのはある時期かなり流行ったっけ。
 オドレイ・トトゥの新作は某カード会社のCMの世界のよう。あのCMを見ていていつも不思議に思うのは、「お金で買えない価値がある」という言葉の二重構造。そこから連想するのは“本当に大切なものはお金では買えない”ということ。でも、あのCMから読み取れるのは“モノを買う⇒それを大切な人に贈る⇒支払った金額以上の価値が生まれる”ん?結局価値はお金で買えるってこと!?でもその後「お金で買えるものは○○カードで」と言っているから・・・・・・?と私の単純回路はショート寸前。その点、この映画の「お金じゃ買えない恋」はシンプル!
リッチマンとの結婚でみごと人生の逆転ホームランを狙うイレーヌ(オドレイ・トトゥ)は中盤まるで詐欺師のように男性から金品をむしり取る。新品のタグをブチッと外す音が小気味よく、それを“仕事”と呼ぶに至ってはむしろ清々しい。しかし、当然その報いが待ち受けているのだが、そこへ登場するジャン(ガド・エルマレ)の助っ人ぶりが超キュート。私も久々にスクリーンの男性に恋しました。それはきっと彼が私の挙げる「条件」を満たしていたから。前半のみじめっぽいジャンが後半どんな変貌を遂げるのか?乞うご期待!
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 花  影
『花影』
〜人は内側から変わることができる〜

(2007年 日本 1時間28分)
監督:河合勇人
脚本:市川森一
出演:山本未來、キム・レウォン、石黒賢、戸田恵子、パク・ジョンス

3月〜 シネマート六本木 ほか全国順次ロードショー
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 本作は,2007年11月3日,大阪アジアン映画祭の一環として,そごう劇場で1回だけ上映された。このとき,河合勇人監督と山本未來がゲストとして来場してトークが行われた。何となく惹かれるタイトルは,脚本の市川森一が付けたものだという。監督は,このタイトルを花と影,生と死,サンミとスンウというように解釈したそうだ。確かに,桜の花が美しく咲き誇り,その側に桜の精のようなスンウが佇んでいるイメージが浮かんでくる。

 主人公・尚美は,ジュエリーデザイナーとして活躍していたが,仕事一筋で,他人の気持ちを考えず,強引に物事を推し進めていく。付き合っていたカメラマンとは破局を迎え,順調だったはずの仕事にも陰りが見え始める。そのころ,仕事でプサンへ行ったとき,咲き誇る桜の木の下で小学校教師のスンウに出会い,これが契機となり,尚美からサンミへと変化していく。尚美は在日三世であり,その名前を韓国語読みするとサンミになるという。
 尚美は,スンウから手紙を受け取り,再びプサンへ向かうのだが,その船の中で表情が軟らかくなっているのにハッとさせられる。山本未來は,尚美から徐々にサンミに変わっていく過程はやり甲斐があったという。しかも,撮影が映画の時間の流れとは逆の順序だったというのだから,変化の過程を表現するのは大変だったと思う。一人二役より難しそうな同一人物の内面の変化がどのように表現されているか,それをしっかりと見届けよう。
 ただ,尚美が突然韓国語を流暢に話せるようになるのは,説明が不十分で,不自然に感じてしまうが,これは桜の精・スンウが起こしたファンタジーとして受け止めないといけない。また,尚美が奈良県五條市の親元に帰るシーンでは,彼女の父親役で笹野高史が登場する。その出番は少ないが,カワイイ娘を遠くから見守っているような味のある雰囲気をよく出している。他に,佐藤浩市や柄本明がどんな役柄で登場するかも楽しみの一つだ。

【 おまけ】
@  監督と山本未來の話によると,キム・レウォンは,爽やかで礼儀正しく,自分の考えをしっかり持っており,演技に関してはシビアで,よく質問しディスカッションをしていたそうで,監督自身,迷っているところなど,いいポイントを突かれるので,プラスになったという。

A  山本未來は,韓国語は初めてだったが,短期間で上達したそうだ。これまで語学に触れる機会が多くてヒヤリングが得意だったし,気持ちをきちんと伝えるためには意味を理解した上で練習しないとダメだという話をしてくれた。とは言っても,結局は「気合いです!」。
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 明日(あした)への遺言 
『明日への遺言』
〜改めて歴史に学ぶことの大切さを訴える〜

(2008年 日本 1時間50分)
監督・脚本:小泉堯史
出演:藤田まこと、ロバート・レッサー、 フレッド・マックィーン、
リチャード・ニール、富司純子、蒼井優
3月1日(土)〜松竹・東急系にて全国ロードショー
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 小泉堯史監督作品として「雨あがる」「阿弥陀堂だより」「博士の愛した数式」がある。いずれも瑞々しく美しい映像で綴られた作品だった。本作は,これらとは一味違っている。

  オープニングでスペイン出身の画家ピカソの作品「ゲルニカ」が映し出される。1937年4月26日,スペイン内乱でフランコ将軍の反乱軍を支持したナチスがスペイン北部のバスク地方の町ゲルニカに対する無差別爆撃を行った。ピカソは,人民戦線政府より依頼されていたパリ万国博覧会スペイン館の壁画としてゲルニカの惨状を描いたという。死んだ子を抱えた母,地面に仰向けに倒れた男,両手を突き上げた女…泣き叫び,苦悶の表情を浮かべ,天に救いを求める人々の姿が胸を打つ。
 主人公・岡田資(たすく)中将は,第二次世界大戦終了後,捕虜となった米軍B29搭乗員に対し正式の裁判を経ないで斬首刑に処した罪でB級戦犯として訴追される。本作の前半は,法廷のシーンで,弁護側の証人が米軍による名古屋空襲の被害の悲惨さを証言する。無差別爆撃を行った米軍搭乗員は,ジュネーブ条約の定める捕虜ではなく,戦争犯罪人であると主張し,これを立証しようというのだ。ここでは戦争の理不尽さが浮き彫りにされる。
 後半では,岡田の毅然とした態度と潔さが印象に残る。彼は,最後まで人間としての誇りを保ち,家族や部下たちに対する優しさを失わなかった。岡田に扮した藤田まことは,尊大にも卑屈にもならず,固く引き締めた口元が効果的で,岡田の内面に秘めた強さを巧みに表現している。彼は,若い部下たちを庇い,元司令官としての責任を全うしようとする。

  本作は,彼の姿を通じて,リーダーはその地位や権限に応じた責任を免れないということを,改めて現代社会に訴えているようだ。
 どんなに困難な状況に置かれても誇りを失わず凛と生きる人間の美しさが描かれており,その美しさを奪ってしまう社会を作り出してはならないというメッセージが浮かんでくる。

【おまけ】
@ 検察官役のフレッド・マックィーンは,スティーブ・マックィーンの息子で,確かに顔立ちは似ている。本作では,開廷前に岡田が赤ん坊(孫)を抱くシーンがあるが,このときの岡田を見詰める眼差しが印象深い。

A 岡田の妻に扮する富司純子が静かな佇まいの中に夫を支える気丈さを滲ませているほか,弁護側の証人として,これまでにも”戦争もの”に出演したことのある蒼井優と田中好子の2人が登場する。女優陣にも注目!

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 フローズン・タイム

『フローズン・タイム』
〜心が洗われるロマンティックなラブコメ〜

(2006年 イギリス 1時間42分)
監督・脚本:ショーン・エリス
出演:ショーン・ビガースタッフ、 エミリア・フォックス
ショーン・エヴァンス、 ミシェル・ライアン、 スチュアート・グッドウィン
3月〜シネ・リーブル梅田、京都みなみ会館、シネ・リーブル神戸にて公開
公式ホームページ→

 早く過ぎ去って欲しいと思う時間は長く,永遠に続けばいいと願う時間は短い。ホント,人生とはままならないものだ。その中で,周囲の時間が静止して主人公のベンだけの時間が流れるシーンが何度か出てくる。時間が主観的なものだという象徴のような非日常的な空間で,ちょっと不思議な感覚が味わえる。

  既視感を覚えるのは,おそらくテオ・アンゲロプロス監督の映画を観た体験がフラッシュバックのように蘇るからだろう。同時に,ショーン・エリス監督の洗練された映像センスに新鮮な驚きを禁じ得ない。何と言っても,ラストの静止した雪の中にベンとシャロンの2人を映し出したショットは,心に染みる。
 ベンは,恋人スージーにフラれて不眠症になり,深夜のスーパーマーケットでアルバイトを始める。そこから物語が始まり,ベンの「美」に対する想像=創造力やその原点が紹介される。また,彼は,ユニークな店長や同僚たちと出会い,レジ係のシャロンに惹かれていくが,彼らのキャラクターが実に魅力的で,おバカさ加減も適度でほどよく楽しめる。
 シャロンのキスで不眠症から解放されたベンだが,店長の誕生パーティにスージーが来ていたことから…。ストーリーは,起承転結の基本に忠実に展開するが,ベンは美学生,ゆえに絵が重要な役割を果たす。絵は,被写体に肉薄してその本質を露わにすると同時に,それを描く人自身の心模様が反映されるものでもある。ベンが描いた絵も例外ではない。

  ベンは,同僚の悪戯がキッカケとなり,個展を開くことになる。その会場へやって来たシャロンがベンの絵を見るシーンがなかなか巧い。彼女の姿を捉えた映像が全てを語ってくれる。彼女が言うとおり,絵の中に真実があり,絵を見れば真実が分かる。映画もまた,それを観れば,監督の感性が見えてくる。この映画には,監督の実体験がかなり盛り込まれているそうだ。この茶目っ気のある監督がどんな次回作を見せてくれるか,楽しみだ。
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