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【シネルフル】
HP管理者:

河田 充規
河田 真喜子
原田 灯子
藤崎 栄伸
篠原 あゆみ

〒542-0081
大阪市中央区南船場4-4-3
御堂筋アーバンライフビル9F
(CBカレッジ心斎橋校内)
cine1789@yahoo.co.jp


新作映画
 黄色い涙

「黄色い涙」 

〜仲間たちと夢を追いかけた“あの日々”の重み〜

(2007年 日本 2時間8分)

監督:犬童一心 原作:永島慎二
出演:二宮和也 、相葉雅紀 、大野智 、櫻井翔 、松本潤 、香椎由宇

4月14日より梅田ガーデンシネマ、シネカノン神戸
4月28日よりなんばパークスシネマ、MOVIX京都他

公式ホームページ→

 誰もが大切にしている「青春時代への郷愁」。お金はないけど、夢はいっぱいあった。あの時、あの場所、あの仲間たちだったからこそありえた、宝物のような思い出の数々。そこに戻れば、確かに自分自身がいたと思える、手ごたえのある記憶。

 1963年、オリンピック前の東京。漫画家の卵の村岡(二宮和也)のアパートに、歌手や画家、小説家志望の青年たちがころがりこむ。米屋で働く勤労青年をあわせ、嵐の5人が主演。

 とりたてて劇的なことが起こるわけではない。洗面器でつくったカレー、小遣いをかき集めてのやりくり、ふがいない恋の打ち明け話と、さりげなく綴られる日常の数々。六畳一間で、それぞれがノートに、ギターに、カンバスに向かい、酒を呑み、夢を語り合う。二宮らが、グダグダと一緒にいる若者たちから生まれる、濃密な空気感を、みごとに再現。

 「僕は自分の世界を大事にしたいんだ」と語る村岡の姿に、勇気づけられる人は多いにちがいない。夢を信じ、友と過ごした日々のかけがえのなさが、観終わって、じんわりと胸にしみてくる。あなたにとって涙は何色だろう。ぜひ、この映画で黄色の意味を見つけてほしい。
(伊藤 久美子)ページトップへ
 大帝の剣

「大帝の剣」

〜ハチャメチャが押し寄せてくる!
    こんな時代劇もありかも?〜


(2007年 日本 1時間50分)
監督:堤幸彦 原作:夢枕獏
出演:阿部寛、長谷川京子、宮藤官九郎
   竹内力、黒木メイサ、津川雅彦、江守徹(語り手)

4月7日(土)公開
梅田ブルグ7、道頓堀東映。シネプレックス枚方、MOVIX京都、三宮シネフェニックス

公式ホームページ→
  〜遥か昔より三種の神器を集めた者は世界を支配する力を得るという〜

 スターウォーズのような宇宙映像と、怪しげなナレーションで始まるオープニング。どこかで聞き覚えのあるその声は・・・江守徹の渋いお声じゃありませんか!この始まり方を見ただけで、なんだかとんでもないことが起こりそうな予感・・・。
 
  謎の地球外物質オリハルコンが3つの破片となって、世界中に飛び出した。三種の神器の一つ“大帝の剣”を背負った大男、万源九郎(阿部寛)は残りの2つを求めて、旅を続けていた。それを狙う宇宙人や妖怪や徳川幕府の忍者軍団。この壮絶な戦いに勝つのは誰なのか?奇想天外なSF時代劇にあなたはついてこられるか!
 
  なんといっても必見すべきは、多彩なキャストが熱演する、ハチャメチャなキャラクターぶり。豊臣家の血を唯一受け継ぐ姫の可憐な姿と、宇宙人に寄生されてしまうと乱暴な人格になり、見事な豹変ぶりを見せる、長谷川京子。姫を守るため、ちょこまかと動きまわり、頼りなくて情けない表情をさせるとピカいちの宮藤官九郎。妖怪忍者軍団を率いる、恐い顔と凄みのある声で、悪役をやらせるにはこの人しかいない、竹内力。同じ忍者軍団で、妖艶で白く美しい体で人を虜にする杉本彩や、ドジな忍者に大倉孝二、体の中に蟲を飼い、凄い形相の六平直政。
皆さん!よくぞここまではじけてくれましたか、と驚くばかり。唯一まともな人といえば、天草四郎扮する、謎の美剣士に黒木メイサ。 そして一番の注目は、人並外れた巨体で大剣を振り回し、真面目に戦っていようが、何故だが笑いがもれる。この万源九郎は阿部寛にしか演じられないだろう。彼の口癖「おもしれぇ」は、そのままあなたにお返しします・・・と思わず突っ込んでしまうことでしょう。

  こんな破天荒な時代劇を見たことがあっただろうか。それもそのはず、原作:夢枕獏×監督:堤幸彦がタッグを組んだということで納得の作品。「TRICK」シリーズで、くすっと笑ってしまうあなた、お待たせいたしました。絶妙な笑いがちりばめられた、「ツツミワールド」をぜひ、堪能してください!
 約束の旅路
約束の旅路
「約束の旅路」

〜4人の母親たちの愛情に包まれて〜

(2005年 フランス 2時間20分)
監督:ラデュ・ミヘイレアニュ
出演:ヤエル・アベカシス, ロシュディ・ゼム,
モシェ・アガザイ, モシェ・アベベ, シラク・M・サバハ


3月10日(土)?岩波ホール
4月28日(土)?第七芸術劇場
6月下旬?神戸アートビレッジセンター、京都シネマで公開

公式ホームページ→
 1984年から翌年にかけて,エチオピア系ユダヤ人(ファラシャ)をイスラエルに移送するという「モーセ作戦」が実行された。その状況下で,イスラエルに送られ,シェロモと名付けられた9歳の少年がいた。彼が成長して息子を持つまでの半生が描かれていく。

  だが,彼とその母親は,エチオピア人とはいえ,実はキリスト教徒だった。彼女は,劣悪な環境にある難民キャンプから息子の命を助けるため,彼をエチオピア系ユダヤ人の女性の子供としてイスラエルに移民させた。その女性の庇護の下でイスラエルに入国したシェロモは,今度は養父母に引き取られる。
 映画は,全体を大きく,前半の少年期と後半の成人以後に分けることができる。特に前半は泣かされる。彼は,実母を想う孤独に打ちひしがれ,学校でのいじめや差別に苦しむ。その様子が哀愁を帯びた音楽に包まれて丁寧に描かれていく。彼の心が透けて見えるような感じで迫ってきて,胸が締め付けられる。
 ただ残念ながら,後半は,話を広げすぎて,やや焦点がぼやけてしまったように思う。ユダヤ人であるというウソを貫き通さないといけないシェロモの苦しみ,湾岸戦争下でイスラエルに留まるかどうかに関する養父母の意見の違いなど,いろいろ盛り込まれている。

  だが,本作のテーマは,特に養母の行動に端的に集約されている。彼女は,養父の意見に押し切られてシェロモを養子にしたようだ。が,そのシェロモに注ぐ愛情は,先の2人の母親に決して負けてはいない。たとえば,彼の顔の吹き出物がアフリカの伝染病だと中傷されることに憤り,思わず彼の顔を舐める。

 さらに,もう1人の母親も重要な役割を果たす。シェロモの息子の母親だ。彼女は,結婚後にシェロモからユダヤ人ではないと打ち明けられて思い悩むが,結局は彼の下に戻る。そして,彼女は,シェロモを深い愛情で包み,実母の下に送り出す。このラストで母と子の絆がくっきりと浮かび上がってくる。
(河田 充規)ページトップへ
 パリ,ジュテーム
パリ、ジュテーム

「パリ,ジュテーム」

〜パリが愛しくなる至福の映画〜

(2006年 フランス,ドイツ 2時間)
監督:本文中で紹介したほか,
ガス・ヴァン・サント
ジョエル&イーサン・コーエン
イサベル・コイシェ
オリヴィエ・アサヤス
アレクサンダー・ペインら
出演:本文中で紹介

3月下旬〜梅田ガーデンシネマ,京都シネマほかロードショー

公式ホームページ→

 幕が開くと,そこはパリ。魅惑的な街パリそのものが主人公のような映画だ。18人の監督による粒揃いの短編集で,それぞれが個性的でインパクトが強い。
 
  しかも,エピローグでは,18の風景が集まって一枚の大きなタペストリーが完成されたような壮観さが感じられる。実に個性豊かな18もの短編を一本の映画としてまとめ上げた手腕は大したものだ。 短編は興味がないとか苦手だとかいう人でも全く大丈夫。至福のラストが待っている。
 カメラは,いろいろなパリの表情を捉えていく。エッフェル塔を始め,モンマルトルの坂道,地下鉄チュイルリー駅のホーム,ヴィクトワール広場,ペール・ラシェーズ墓地,カルチェラタンなど,日本人に馴染みのある場所からそうでない場所まで。単に観光で見て回るだけのパリではなく,そこに息づく人たちの日常が小気味良く切り取られている。

  パリで生まれ育った人だけではなく,観光や仕事でパリに滞在している人,また異次元からやって来た人(?)など,登場人物は多様で,その人生もバラエティに富んでいる。だが,全ての人がパリの日常に溶け込んでいるような感じがして違和感がない。これがパリという街の懐の深さであり,多くの人々がパリにあこがれる理由の一つだろうか。
 錚々たる俳優陣からは,人生の一部を分けてもらったような充実感に包まれる。冴えない観光客スティーヴ・ブシェミ,幻想的なカウボーイのウィレム・デフォー,訳ありげな会話を交わすニック・ノルティとリュディヴィーヌ・サニエ,同じくファニー・アルダンとボブ・ホスキンス,魅力的なナタリー・ポートマン,貫禄のジーナ・ローランズ,渋さが光るジェラール・ドパルデュー……。
  また,監督・脚本がそれぞれ巧みに観客の興味を引き,彩り豊かな世界を作り出してくれた。移民らしいベビーシッターの女性の懸命に生きる姿に心を打たれ,赤いトレンチの女性にしんみり,如何にもパリを思わせるパントマイムにほっこり,そして遅れて届いた2つのコーヒーカップに涙する。結婚前や離婚前の男女の機微もまた避けて通れない。
映像に注目すると,エッフェル塔と花火が映し出された冒頭のシーンが美しい。また,トム・ティクヴァが飛ぶように流れる時間を映像化した短いモンタージュの積み重ねに目を奪われる。クリストファー・ドイルの独特のカットや諏訪敦彦の幻想的な映像美も見応えがある。アルフォンソ・キュアロンの長回しのカットが男女の会話の緊迫感を高める。
  最後に,見逃してはならないのは,全体の構成だ。モンマルトルから始まり,自分の視点でフランスを語りたいというジャーナリスト志望のアラブ人女性のエピソードを経て,パリを一人旅するアメリカ人女性が神秘的な心の体験をする最後のエピソードに至る。その各短編の配列はもちろん,プロローグとエピローグ,それに音楽が加わり,秀逸な群像劇を観たような満足感をもたらしてくれた。
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 フランシスコの2人の息子
『フランシスコの2人の息子』

〜夢をあきらめないことの大切さと家族の温かさが胸を打つ真 実の物語〜

監督:ブレノ・シウヴェイラ (2005年 ブラジル 2時間4分)
脚本:パトリシア・アンドラデ&カロリナ・コチョ
出演:アンジェロ・アントニオ、ジラ・パエス、マルシオ・キエリンギ、チアゴ・メンドンサ

3月31日 公開 上映劇場:ナビオTOHOプレックス、TOHOシネマズ二条

公式ホームページ→
 音楽を愛してやまない農民のフランシスコは、11人家族の貧しい生活の中苦労して長男ミロズマルと次男エミヴァルに、それぞれアコーディオンとギターを買い与える。父の期待に応えようと必死に練習を重ね、実力をつけていった2人は家計を助けるためにバスターミナルで歌うようになる。そして、2人をスカウトしたエージェントと共に“演奏ツアー”を行ううちに、いつしか心から音楽を楽しむようになっていた。そんな時、思いもよらぬ悲劇が起こる…。
 
  ブラジルで絶大な人気を誇る兄弟デュオ、ゼゼ・ヂ・カマルゴ&ルシアーノ。アルバムの総売り上げは驚異的な数字を記録し、現在もその人気は衰えていない。彼らがここまで愛され続ける理由…それは、貧困、死別、挫折など苦難の道を歩んできた人生を常に支え、見守り続けてくれた「家族」への想いが歌から溢れているからではないだろうか。それが心地よく伝わり、どんな固定観念も言葉の壁も越えるほどの引力で聴く者の心を捉えて離さない。
 
  また、少年時代のミロズマルとエミヴァルを演じた子役2人のエネルギッシュでいて透き通るような歌声は子供とは思えないほどの力強さで観る者に訴えかけ、サクセスストーリーにリアリティを与えることに成功している。
 
  そして、どんな知識やコネにも勝る情熱とブラジルの大地のように大きな愛で彼らに音楽の喜びを伝えた父フランシスコ。息子の成功を信じ続けたフランシスコが彼らの歌を何とかラジオで流してもらおうとしてとった“ある行動”には「父親」という存在がもつ偉大さと深い優しさが感じられ、揺るぎのないものとして心に染み渡ってくる。
 
  のどかでどこか懐かしいブラジルの風景は、土埃や温かな風、木々の匂いまでが人々の熱気と共に画面を越えて伝わってきて、人工的なものが一切排除された本来あるべき人の暮らしや生き方を思い起こさせてくれる。それは同時にこの家族の物語が、絆や思いやりにかける現代人に最も必要とされているものであることを物語っている。

 パパにさよならできるまで
「パパにさよならできるまで」

〜失くしてしまった大切なものは心の中にあり続ける〜

(2002年 ギリシャ、ドイツ 1時間54分)

監督・脚本:ペニー・パナヨトプル 
出演:ヨルゴス・カラヤニス、ステリオス・マイナス、イオアンナ・ツィリグーリ、
    デスポ・ディアマンティドゥ、クリストス・ステルギオグル


4月14日(土)より、第七藝術劇場、シネカノン神戸にて公開!
6月下旬より、京都シネマにて公開!


公式ホームページ→
 大好きだったパパが交通事故で“永遠”に旅立ってしまった。その事実を受け入れることができない10歳のイリアスは、パパとのある「約束」を胸に、帰りを待ち続ける…。
 
  生きている限り、誰もが直面する愛する者の「死」。その逃れることのできない深い哀しみを想像の世界の中で乗り越えていく少年の姿を描いた本作は、「目に見えないもの」が与えてくれる「再生」の力を繊細に描いた珠玉の物語。
 
  顔を合わせればケンカばかりの父と母、片時もお酒を離さないおじさん、大人ぶっている兄、アルツハイマーのおばあちゃん…いつもぎこちなかった家族が父の死をきっかけに、少しずつ互いに歩み寄っていく姿に、「死」がもたらす新たな「生」への希望を垣間見ることができる。それとは対照的に、父のブカブカの背広を着て、父からもらった大切なおみやげや本を広げるイリアスの姿は、「生」からの逃避とも感じられ、胸が締め付けられる。

  10歳の少年にしては少々言動が大人びすぎているようにも感じるが、大人になりきれていない心の部分もきちんと描いていることで、子供ならではの喜怒哀楽や素直さがストレートに伝わってきて切なくさせる。

  失ってしまったものはもう帰ってこないけれど、存在していたものへの想いは失われることはない。だからこそ、人はまた歩き出せるのだということをしみじみと感じさせてくれる作品。
(篠原 あゆみ)ページトップへ
 愛されるために、ここにいる
愛されるために、ここにいる
「愛されるために,ここにいる」

〜フランス映画の王道・芳潤で深い人間ドラマ〜

(2005年 フランス 1時間34分)
監督:ステファヌ・ブリゼ
出演:パトリック・シェネ, アンヌ・コンシニ
    ジョルジュ・ウィルソン

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 フランス映画祭2006で「愛されるためにここにいる訳じゃない」という題名で上映された作品。主演女優アンヌ・コンシニの舞台挨拶も行われた。彼女は,本作の主役に選ばれた理由を監督に尋ねると,相手役のパトリック・シェネとタンゴを踊るときに一番幸せそうな顔をしていたからと言われたそうだ。確かに素敵な表情をしている。

  一口にフランス映画と言っても色々なものがある。中でも,ジャンルを問わず,男女の心の襞(ひだ)を描き出した”人生の断章”のような渋い映画が多い。日常生活を切り取り,登場人物の表情や台詞から各自の性格や心情をあぶり出す。それらが絡み合い,一筋縄ではいかない人生の哀切を感じさせてくれる。本作は,そのような渋い映画の1本だ。
 ジャン=クロード(パトリック・シェネ)は,バツイチのようで,父や息子との間にもちょっと距離があり,執行官の仕事をこなしながら,50歳になって運動のためタンゴ教室に通い始める。一方,フランソワーズ(アンヌ・コンシニ)は,結婚式で婚約者とタンゴを踊るためタンゴ教室に通っているが,小説の執筆に余念がない婚約者の態度や言葉に何かが違うという思いを捨て切れない。
 このような2人が出会ってすぐ恋に落ちるという,そんな単純明快さは,この映画にはない。ダンス教室の生徒の中にフランソワーズに横恋慕する男がいて,ジャン=クロードの心をかき乱すなど,起承転結の形式に従ってはいるものの,奥が深い。彼の事務所の女性秘書やワンちゃんまで,2人の心情を見通してサポートする存在として登場する。

  何はともあれ,2人がタンゴを踊るシーンが実にいいタイミングで映し出される。その2人の姿から浮かび上がってくる想いをじっくりと味わいたいものだ。心の揺れや迷い,変化は,人生に付き物。ラストでは,彼女がどのような選択をしたのかが,明快には示されないものの,しっかりと伝わってくる。
(河田 充規)ページトップへ
 アルゼンチンババア
アルゼンチンババア

「アルゼンチンババア」

〜 アルゼンチンババアとは一体何者なのだろうか〜

(2006年 日本 1時間52分)
監督・脚本:長尾直樹 原作:よしもとばなな
出演:役所広治、鈴木京香、掘北真希
   森下愛子、手塚理美、岸部一徳、きたろう、田中直樹、他

3月24日(土)公開 

梅田ピカデリー、ワーナーマイカルシネマズ大日、MOVIX京都、109シネマズHAT神戸 他、松竹系全国ロードショー


公式ホームページ→

 広大な草原の中にぽつんと佇む屋敷。おとぎ話から飛び出てきたかのような異国の地。猫や鶏がそこら中におり、花が咲き乱れ、蜂の巣もあったりして・・・雑然としいて、まるでゴミ屋敷。そんな中、どこからともなく、優しいアルゼンチンタンゴのメロディが聞こえてくる。それに誘われるように、私たちは不思議な世界へと導かれていく・・・。
 大好きな母が死に、その日に、仕事一筋だった墓石彫りの父(役所広治)が失踪する。ダブルの悲しみを小さな胸に抱えるみつこ(掘北真希)。半年後、町中の人が頭がおかしいと噂する謎のアルゼンチンババア(鈴木京香)の屋敷で父を発見する。勇気を奮い起こし父親奪還に向かった先には、厚化粧でぼさぼさの白髪頭の女性が迎えてくれた。母の供養もほったらかし、奇妙なものを彫っている父を理解できない。父を奪ったアルゼンチンババアに敵対心を向けるみつこ。だが次第に、しあわせな魔法にかけられたように、さみしかった心が癒されていく・・・そして父の本心を知った時、新たな一歩を踏み出そうとするのだった・・・。
 不思議な世界観で人々を惹きつける、よしもとばななの原作が、そのまま美しい風景とじんわりとした優しさとなって、スクリーンに映し出された。日本を代表する女優、鈴木京香がぼさぼさ白髪頭の風変わりのアルゼンチンババアを演じ、女優魂を見せ付ける。
 ほとんど出生が描かれず、リアルとファンタジーの狭間で存在する、アルゼンチンババアとは、何の象徴なのだろうか。彼女の残していったものは何なんだろうか。誰もが大切な人を失った時に感じる喪失感、そこから抜け出すには相当な時間と労力がいることだろう。大きな愛で人々を包みこむ彼女の存在は、そんな私たちの願いなのかもしれない。
 
  何も考えなくていい・・・じんわりと体中にしみわたる幸せ、大人のおとぎ話を堪能してみてはいかかでしょうか。
(田中 はる)ページトップへ
 みえない雲
みえない雲
「みえない雲」

(2006年 ドイツ 1時間43分)
監督:グレゴール・シュニッツラー
出演:パウラ・カレンベルク
フランツ・ディンダ
リッチー・ミュラー

3月17日(土)?第七芸術劇場、シネカノン神戸、近日公開京都シネマ

公式ホームページ→

 ドイツでは17基の原発が稼働中で,2004年だけでも114件の故障や事故が報告されているという。本作では,エバースベルグ原発事故が発生した状況下での人々が,高校3年生のハンナとエルマーを中心に描かれる。と言っても,パニック映画ではないし,脱出のサスペンスでもない。人間として生きることの素晴らしさや美しさが描かれている。
 また,これは”風”の映画でもある。全編にわたって”風”が印象的に映し出される。平穏な日常生活を表すように木々を揺らす穏やかな風。日常生活を脅かすように黒い雲を運ぶ不気味な風。そしてラストでは人生を謳歌する爽やかな風が心地良く流れる。”風”は,まるで時間の流れを象徴するように,地上に住む人々に幸せや不幸を運んでくる。
 高校生にとって時間は速いのか遅いのか。少なくとも将来の時間は長い。ハンナは,原発事故前は時間が早く過ぎて欲しかったが,事故後は時間が止まるのを願っている。事故がハンナの時間に対する意識を変えた。残された時間が短いと感じたとき,人は時間がゆっくり進むように願う。そんな意識の変化が柔らかいタッチで美しく描き出されている。
 
  同時にこれはまた信頼=愛の映画でもある。事故が起こった原発の近郊の町で,ハンナが転校生のエルマーに呼び出されてキスをしていると,突然サイレンが鳴り響く。放射能を帯びた雲が迫ってくる中,ハンナはエルマーと離ればなれになる。ハンナは,弟のウリーを連れて自転車で町から出ようとするが…。ハンナはエルマーと再会できるのだろうか。

  映像の美しさがかえって不安な気分を掻き立てる。降り出した雨に打たれ,地面に横たわるハンナの姿には,哀切が漂う。ハンナは,被爆してハンブルク近郊の臨時診療所に運ばれる。ここからが見どころ。エルマーを想うハンナの心は揺れる。エルマーのハンナに対する想いもまた哀しい。2人に残された時間を思うと,時よ止まれと願わずにいられない。
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 ルワンダの涙
ルワンダの涙
「ルワンダの涙」

〜絶望的な涙の向こう側に見えてくるともしび〜

(2006年 イギリス,ドイツ 1時間55分)
監督:マイケル・ケイトン=ショーンズ
出演:ジョン・ハート, ヒュー・ダンシー
クレア=ホープ・アシティ, ドミニク・ホロウィッツ

2/24〜テアトル梅田,3/3〜三宮シネフェニックス,近日公開・京都シネマ

公式ホームページ→
 ルワンダでは,根深いフツ族とツチ族の対立のため政情が不安定で,平和監視のため国連軍が駐留していた。1994年には,フツ族によるツチ族の集団虐殺事件が発生した。
 
  本作は,ルワンダの首都キガリを舞台として,英国から来た青年ジョー,ツチ族の少女マリーらの姿を通して,人間社会の限界や極限的な状況下に置かれた人々の心理を鋭く描き出し,内容の濃い人間ドラマとなった。
 絶望的な状況にあるルワンダでは,自らの命を守ろうとしたジョーを誰も非難することはできない。だが,ジョーに恋心を抱くマリーの存在が本作の奥行きを広げている。

  冒頭で走るマリーの足が映し出される。彼女は映画の終盤でも走る。その希望に向かって走る姿が印象的だ。更に,ジョーが走るマリーを見ながら陸上の実況中継を真似るシーンがある。マリーがルワンダを,ジョーが西欧諸国を象徴しているような感じがした。

  また,自衛以外の武器の使用が禁止された国連軍に歯がゆい思いがしてくる。だが,翻って考えると,武力介入で問題を解決できると考えることの驕りの方が恐ろしい。前途は多難であっても,ルワンダ人が自らの手で解決しなければ,真の平和は訪れないだろう。

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 ドリーム・ガールズ
ドリーム・ガールズ
「ドリームガールズ」

〜夢を見続けよう……心の声を信じて


監督:ビル・コンドン (2006年 アメリカ 2時間10分)
出演:ジェイミー・フォックス,エディー・マーフィー,ビヨンセ・ノウルズ,ジェニファー・ハドソン

2/17〜三番街シネマ,梅田ブルク7,TOHOシネマズなんば,TOHOシネマズ二条,OSシネマズミント神戸,他

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 「シカゴ」の脚本家、ビル・コンドンが1981年、NY・ブロードウェイでのオープニングナイトを観て「いつか映画化したい!」と夢見た傑作ミュージカル。満を持して彼の手により映画化された本作は、音楽・衣装、全てが輝き、目だけでなく体全体で酔いしれる作品だ。「歌」だからこそ伝わる想い、感情、叫び……心の奥まで届く「歌声」を聞いて欲しい!
【ストーリー】
60〜70年代、大きく変わり行く音楽業界を背景に、3人の友人同士で結成した女性ボーカルグループ「ドリームメッツ」が、スーパースター「ザ・ドリームズ」になるまでを描く。成功の裏に隠された裏切り、挫折、そして再生……大ヒットナンバーを織り交ぜながら描かれる最高のエンターテインメント作品。
【音 楽】
 オリジナルのヒット曲はもちろん、舞台の音楽を担当するH・クリーガーが新たに4曲を提供。J・フォックス、E・マーフィーといった芸達者男優が低音を響かせ、これぞ「ブラック・ミュージックの真髄」というパフォーマンスで迫る。しかし何といっても二人のミューズ(女神)の歌声に圧倒される。3人の中でルックスの良さから「女王」へと登りつめるディーナを演じるビヨンセは、「ビヨンセ」を殺しカリスマ性だけを残した演技で、原石から輝くダイヤモンドへと見事な変身を遂げる。

  また圧倒的な歌唱力を持ちながら「ドリームズ」を去ることとなるエフィを演じたJ・ハドソンの歌声は鳥肌もの。ビヨンセが、「これから自分の心の声を探しに行くの」と歌う「Listen」、そして強がりな女性が心の中の愛を叫ぶハドソンの「And I Am Telling You I`m Not Going」、特にこの二曲の力強いメッセージは胸を震わせる。音楽という世界共通の言葉によって自然と涙が溢れる感覚をぜひ体感して欲しい。
【見  所】
 世界のファッションリーダーであるビヨンセをはじめ、100点にも及ぶ「ザ・ドリームズ」のゴージャスな衣装に注目。しかし、一番女性を輝かせるのは衣装ではなく「自信」。それは「自分を信じる事」。葛藤しながらもどんどん美しくなる彼女達から目が離せない。

  夢と引き換えに支払う犠牲と代償……スポットライトの「影」も描くことでさらに「光」を際立たせる。だが夢を掴み損ね、どん底まで落ちても、もう一度歩き出す勇気も教えてくれる。人は傷ついた分だけ強くなれる……とにかく観て聴いて欲しい。言葉では言い表せないこの世界を。
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 子宮の記憶 ここにあなたがいる
子宮の記憶

「子宮の記憶―ここにあなたがいる―」

〜“ほんとうの母の愛”を見つけた少年〜

監督:若松節朗(2006年 日本 1時間45分)
出演:松雪泰子、柄本佑、野村佑香、
中村映里子、寺島進、余貴美子

テアトル梅田にて3月9日(金)まで公開、
3月3日(土)よりシネカノン神戸、
3月31日(土)より京都シネマにてロードショー!

公式ホームページ→

 裕福な家庭に育ちながらも、家族に愛されない孤独な17歳の少年、真人。生後すぐに誘拐されたことのある彼は、今は沖縄で小さな食堂を営む犯人の愛子(松雪泰子)を訪ね、住み込みでバイトを始める。二人の間に、男女の愛とも親子の愛ともいえぬ、不思議な愛情が生まれてゆく。

  「フラガール」の松雪泰子の繊細ではかなげな演技は、絶品。過去に傷を持ち、固く心を閉ざした愛子が、真人との17年ぶりの再会をつうじて、少しずつ明るさを取り戻していく。最後には、彼を優しく包み込み、暖かく送り出すまでに変ってゆく姿は自然で、限りなく美しい。柄本も、温和な表情の奥底に、荒々しさともろさを抱えた少年を好演。

  愛する人に「自分という存在」をきちんと受け止めてもらえた時、初めて人は新しい一歩を踏み出せる。愛子と真人が、互いに癒し、癒され、かけがえのない存在として確かめ合えた、その瞬間の,感極まった喜びの表情は、力強い希望に溢れている。

  母の愛とは? その答は、静かな波の音とともに、あなたの心に優しく流れ込んでくることだろう。 
(伊藤 久美子)ページトップへ
 世界最速のインディアン
世界最速のインディアン
「世界最速のインディアン 」

〜オートバイと共に人生を駆け抜けた、ある男の物語〜

(2005年 ニュージーランド、アメリカ 2時間7分)
監督・脚本・製作:ロジャー・ドナルドソン
出演:アンソニー・ホプキンス、ダイアン・ラッド、ポール・ロドリゲス

2月3日〜 テアトル梅田、MOVIC京都、OSシネマズミント神戸、MOVIX六甲、他公開

公式ホームページ→
 誰にも平等に与えられている〈一度きりの人生〉。それ故、迷い悩むことも。しかし、限られた時間をどう生きるかは自分次第。人は、こんなにも真っ直ぐに生きられるのか! 孫のジョン・マンロー氏が「実に忠実に描かれている」と語る、実在のこの男の生き方は周りの人にも夢を見させてくれる。

 バート・マンロー(アンソニー・ホプキンス)、63歳。40年以上もバイク〈インディアン〉に魅了され、早く走ることに人生を懸けてきた。お金はない、身体に自信もない。あるのは、独自の改良を重ねた愛車だけ! ついに、ニュージーランドから世界最速を目指すライダーの聖地・アメリカのボンヌヴィルへ向かう。初めての異国で右往左往するが、苦難と思わない。夢への情熱とユーモアに溢れた人柄で人々を魅了し、夢への階段を上ってゆく。そんな彼にスピードの女神は微笑むか!?

  止まることを端から考えず、ひたすら飛ばす。風を感じる。バートが愛した〈オートバイに乗ることの自由さ〉は、人に与えられている「自由」の素晴らしさそのもののはず。胸をすくような爽快感と今日を楽しもうという勇気が湧いてくる。

バートを象徴する茶目っ気たっぷりの笑みは、アンソニー・ホプキンスならでは。
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 さくらん
さくらん
「さくらん」

〜咲かぬ桜などありはしない。いつだって真剣勝負! それが女〜

原作:安野モヨ子 (1時間51分 日本)
監督:蜷川実花
出演:土屋アンナ、安藤政信、椎名桔平、木村佳乃

3月3日よりロードショー 
梅田ガーデンシネマ、動物園前シネフェスタ4、シネリーブル神戸、京都シネマ


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 「さくらん、かも」。原作を選ぶその直感は正しかっただろう。フォトグラファー・蜷川実花、初の監督作でカリスマ漫画家・安野モヨ子の世界に、艶のある色彩美と独自の感性という魔法をかけた。

  8歳で吉原遊郭の門をくぐった少女が吉原一の花魁、日暮(ひぐらし)へ。物語は、その潔い生き様と彼女をとりまく人間模様を鮮烈に描く。

  「時や国を越えた、女性の持つ普遍的な感情をきちんと描きたかった」と言う蜷川監督がタッグを組んだのは、「彼女しかいなかった」土屋アンナ(主演)、「大ファンである」椎名林檎(音楽)、「価値基準が一緒だった」タナダユキ(脚本)。豪華な顔ぶれは、総合芸術である映画の可能性を見せてくれる。

  蜷川監督が特にこだわった「感情と感情のぶつかりあい」だと言うラブシーン。キメ細やかな演出は女心を溶かし、くすぐる。また、原作の続きとなる後半の展開が見事で、それぞれの人物像を掘り下げ、物語の奥行きを広げることに成功。土屋アンナの「母性」を感じさせる演技は圧倒的な迫力がある。

  真の格好良さとは、弱さを知った上で「なりたい」自分に進んでゆく事。監督自身の成長物語とも言える本作にはきれいごとではない、確固たる説得力がある。
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 モーツァルトとクジラ
モーツァルトとクジラ
「モーツァルトとクジラ」

(2004年 アメリカ 1時間34分)
監督:ピーター・ネス
出演:ジョシュ・ハートネット
ラダ・ミッチェル

3/10(土)よりテアトル梅田,他にてロードショー
 恋愛映画だけど,主人公の男女は2人ともアスペルガー症候群。これは,知的障害のない自閉症だそうで,障害があるというより個性が強いという方が当たっているかも知れない。以前,ダスティン・ホフマンが自閉症の青年に扮した「レインマン」という映画があった。その脚本を書いたロナルド・バスが本作でも脚本を担当している。

  ドナルドは,同じような障害を持つ仲間と集会を開き,社会に溶け込もうとしている。イザベルは,社会の中でもあるがままの自分でいたいと思っている。いずれにせよ,2人ともコミュニケーションは苦手だ。そんな2人が果たして上手くやっていけるのか。もっとも,”普通の”人でもコミュニケーションは難しい。上手く意思を伝えられなかったり知らないうちに相手を傷つけたりする。ドナルドとイザベルも,その点では変わらない。その意味では,感情移入しやすい映画だ。

  題名はハロウィンの仮装を意味しており,イザベルがモーツァルトで,ドナルドがクジラ。イザベルは,絵と音楽の才能が豊かだが,後先のことを考えず本音を出してしまう。ドナルドは,数字にはすこぶる強いが,イザベルに対する想いを上手く表現できない。2人はすれ違う。イザベルはドナルドを喜ばせたくて彼の部屋をきれいに掃除し整理するが,彼はボクの人生を奪うなと怒鳴ってしまう。

  特に前半,イザベルがドナルドと同居する家を見付け彼を就職させるまでの展開は,テンポが良いうえに,アスペルガー症候群を特に意識させることなく,それをしっかりと描き込んでいる。セリフもなかなか味わい深い。ただ,その後,互いに相手の心を傷つけたり,結婚と友情との間で揺れ動いたりという展開がやや平板になってしまい,普通の恋愛映画のような印象になったのが残念でならない。
 
  しかし,主役の2人の好演が光っている。そのため,時間が経つほど,不器用な2人に対する愛おしさがどんどん膨らんでいく。
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 今宵、フィッツジェラルド劇場で
今宵,フィッツジェラルド劇場で

「今宵,フィッツジェラルド劇場で」

〜ハッピーエンドに乾杯〜

(2006年 アメリカ 1時間45分)
監督:ロバート・アルトマン
出演:メリル・ストリープ, リリー・トムリン
リンジー・ローハン, ギャリソン・キーラー
ケヴィン・クライン


3/17〜テアトル梅田,
京都シネマ,シネリーブル神戸,順次公開

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 ブラックコメディ「M★A★S★H」の痛快さに度肝を抜かれ,1990年代には「プレタポルテ」の反骨精神に唸らされ,「クッキー・フォーチュン」の妙味のある編集に舌を巻いた。その他「ビッグ・アメリカン」「ショート・カッツ」などで有名なロバート・アルトマン監督が2006年11月20日に亡くなった。本作は,彼の最後の作品となってしまった。

  いきなり私立探偵を気取る守衛のガイ・ノワール(ケヴィン・クライン)が登場し,フィルム・ノワールのような懐かしい感覚に襲われた。さらに実在しないはずの女性が天使(ヴァージニア・マドセン)として登場し,老人の死は悲劇ではないと言うシーンが描かれる。悲しくはない喪失感の浮かぶ映画だ。
 
  ミネソタ州セントポールの土曜の夜,大企業に買収されたフィッツジェラルド劇場では,長年続いてきたラジオのライブ番組「プレイリー・ホーム・コンパニオン」が最終回を迎えている。そのステージと楽屋を中心にストーリーが展開するが,来週もその先もずっと番組が続くようなノリで,観客や視聴者に サヨナラを言わず番組を終えようとしていた。
 劇場に集まってきたミュージシャンの中には姉ロンダ(リリー・トムリン)と妹ヨランダ(メリル・ストリープ)のデュオもいた。その妹の娘ローラ(リンジー・ローハン)が番組の最後に初めての舞台に立つ。その後,取り壊しの始まった劇場近くのダイナーには,いつものメンバーが集まっていた。…終わりは始まりでもある。ハッピーエンドに乾杯。
 映画が終わって振り返ってみると,ロバート・アルトマン監督が遺作として別れのための映画を撮り上げたような感じがする。しかも,自然なリズムで俳優たちの演技(というより立ち居振る舞い)をカメラに収めていく,彼独特の映像世界は今なお健在だ。
 
  悲しい別れは似合わない。だから,決して泣いてはならない。彼は,この映画を通じて,笑顔で見送って欲しいと言っているような気がする。
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 どろろ
どろろ

「どろろ」

(2007年 日本 2時間18分)
監督:塩田明彦
アクション監督:チン・シウトン
出演:妻夫木聡, 柴咲コウ, 中井貴一, 原田美枝子
原田芳雄

                        公式ホームページ→

  手塚治虫の「どろろ」の映画化だが,舞台を日本の戦国時代ではなく,いつかどこかの戦乱の世に置き換えて成功している。舞台セットや衣裳に音楽が加わって超時空の世界が作り出された。魔物との戦いのシーンではアクションとCGが見事に融合し,視覚的に大いに楽ませてくれる。

  ストーリーは,親子や兄弟の確執や絆に焦点を合わせ,百鬼丸とどろろの人間的な心の広がりを見せてくれる。また,どろろによって百鬼丸が生命を吹き込まれていく過程も鮮明に示される。ラストシーンは,人間らしい生命力に溢れていた。

  まず,冒頭の酒場のシーンは,中世の日本を骨格として中国やアラブの雰囲気で肉付けされ,ウエスタン風のコーティングが施されていた。さらに,香港風味の豊かなアクションが展開され,メキシコやスペインを思わせる音楽が被さる。全編を通じてアジアン・テイスト満載の中に,欧米の風味が漂っている。コスチュームも,平安朝のものから近未来を舞台とするSF映画を連想させるものまで,多様だ。過去とも未来とも付かない無国籍な独特の世界が生み出され,映画は原作よりもスケールが大きくなった感じがする。

  そして何より,キャスティングが良い。どろろに扮した柴咲コウの弾け方や七変化のような表情の変化が絶品で,少しのズレで非現実になってしまいそうな映像世界にイキイキとした躍動感をもらたしている。超現実の世界が肌触りの良い実感のこもったものとなった。彼女がどろろを演じない限り,この映画は成り立たなかっただろう。一方,百鬼丸に扮した妻夫木聡は,育ての父だけが自分の親だと言いながらも,心の奥底で実父母との関係を断ち切れず,異形の悲しみや恨みを全て呑み込んで成長する青年を好演している。

  また,原田芳雄は,戦乱に明け暮れる人間に背を向けたような諦念を感じさせながらも,なお百鬼丸に一条の光を見出そうとする姿を見せてくれる。中井貴一は,百鬼丸の実父醍醐景光に扮し,生まれたばかりの百鬼丸を斬るよう命じて原作より非情な姿勢を示す反面,戦乱の続く大きな時代の流れに逆らえない無力感を誰よりも強く感じている様子をにじませ,人間らしい弱さをも示している。百鬼丸の実母に扮した原田美枝子も,長年にわたり百鬼丸を気に掛けながらも,何も言えず何もできなかった哀しさを体現していた。

  さらに,原作では,どろろが百鬼丸の左腕の刀を手に入れようとする目的がはっきりしないが,映画では父親の敵を討つためであることが明確に示される。しかも,その敵が醍醐景光である。百鬼丸は,実父が醍醐景光であること,しかも彼が魔物と取引して百鬼丸の身体48か所を奪った張本人であることを知ることになる。百鬼丸は親を殺してしまうのか。そのとき,どろろはどうするのか。映画は,原作では曖昧なままに終わった百鬼丸と実父の対決に決着を付けてくれる。一体どんな決着なのか,見届けずにはいられない。
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 パヒューム
パヒューム
「パフューム  ある人殺しの物語」

〜その香りに全ての者がひれ伏す〜

(2006年 ドイツ 2時間27分)


監督・脚本:ベルント・アイヒンガー
出演:ベン・ウィショー,レイチェル・ハード=ウッド,アラン・リックマン,ダスティン・ホフマン

3月3日公開 梅田ブルク7,TOHOシネマズなんば,MOVIX京都,OSシネマズミント神戸,他

 類稀な嗅覚をもつ天才調香師が創ろうとした「至高の香水(パフューム)」。決して創ってはならないその香水の原材料は……「人」。

  18世紀・フランス。超人的な嗅覚をもつグルヌイユは、社会の最下層から這い上がり、香水調合師となる。香りの街グラースで、彼は世界にたった一つだけの香水創りに着手する。その日からグラースでは若く美しい娘が次々と殺されるという恐怖に包まれていった!
 
  原作は「香り」という至福の読書体験が話題となり全世界で1500万部の売上を誇る ドイツの小説。「映画で香りを見ることはできないが、グルヌイユの嗅覚を体感させる」という監督の言葉どおり、映像や音楽から想像力が駆り立てられ、次第に「香り」が体にまとわりつくような感覚さえ覚えてくる。

  主人公に舞台俳優ベン・ウィショーを抜擢した事が功を奏し、愛を知らず、ただ一人体臭のない
(=この世で無に等しい)主人公が「香り」に狂気なまでに執着する様を見事に演じきる。観客はいつのまにか彼の欲望に惹き込まれ、いけないと知りながらその香水の完成を待ちわびていく。

 エキストラ750名を動員した、観たことがない衝撃のクライマックス、そしてそれぞれが想像するパフュームの香りと共に訪れる驚愕のラスト……五感で感じる斬新な「愛」の物語がここに誕生した。
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 ニキフォル
ニキフォル
「ニキフォル 知られざる天才画家の肖像」

(2004年 ポーランド 1時間40分)
監督:クシシュトフ・クラウゼ
出演:クリスティーナ・フェルドマン
ロマン・ガナルチック
ルチアナ・マレク

 3月上旬〜梅田ガーデンシネマ

 
 ポーランドのクリニツァで生まれ育った画家「ニキフォル」の晩年を描いた映画だ。彼は,言語障害を持ち,出自さえ判然としない。しかし,卑屈にならず,むしろ世俗を超越したような泰然とした雰囲気を漂わせていた。

  東京都写真美術館ホールで公開されたときには,劇場ロビーで彼の原画14点が展示されていた。その内訳は,人物画6点(いずれも1960年代の自画像2点と聖人画4点),風景画8点(1935〜40年代の水彩画5点と年代不詳の鉛筆画3点)というものだった。
ニキフォル
 一見すると何の変哲もなさそうな絵ばかりだが,特に水彩で描かれた風景画をよく見ると,実に細やかな色使いで,絵全体の中で豊富な色が微妙なバランスを保っているようだ。彼の絵をじっと見ていると,何だか心の奥底から穏やかで幸せな気分が湧いてくる。

  ニキフォルの晩年には,マントンという,自らも画家で,ニキフォルの才能を見抜いて彼の世話をした人物がいた。映画は,彼とその妻ハンカをニキフォルと併行して描くことにより,彼の人物像に深みを与えている。
 そして,映画が終わったときには,彼の絵の中にある力の源泉を見た思いがした。
たとえば,ニキフォルは,マントンのアトリエに居座るようになった後,1枚の絵を描く。その絵の中には,正面を向いたマントンと背を向けたハンカが左右に並んでいた。当時の2人の心を見透かしたような構図で,ニキフォルの洞察力の鋭さが端的に示される。

 また,映画の前半,画面を3分割するように2本の木の幹が映し出され,その左下部に降り積もった雪の中を歩くニキフォルの姿が小さく映し出されるシーンがあった。これに音楽が見事に調和し,孤高の画家のイメージが浮かぶ象徴的なシーンとなっている。

  ニキフォルは,束縛を嫌って質朴な生活を送りながら,その中で豊かな経験を積んで洞察力を身に付けたに違いない。美しい映像と音楽に包まれて,そんな彼の姿を見ていると,心が洗われる思いがする。優しい映画だ。
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 あかね空
あかね空
「あかね空」
〜喜びも悲しみも真っ赤なあかね空が包んでくれる〜

(2006年、日本、120分)
監督:浜本正機  原作:山本一力
出演:内野聖陽、中谷美紀、石橋蓮司、岩下志麻
   中村梅雀、勝村政信、泉谷しげる 他

3月31日(土)公開
梅田ガーデンシネマ、シネプレックス枚方、京都シネマ、三宮シネフェニックス

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 今から200年前・・・巨大な永代橋からは深川の町や遥か遠くの富士山も見渡せる。そして、真っ赤な朝日が広大な大江戸の町をあかね色に染める。このオープニングシーンを見た途端、私たちはタイムスリップしたかのように、江戸の町に吸い込まれていく・・・。

 京の町からたった一人で豆腐屋を営むためにやってきた永吉(内野聖陽)と同じ長屋に住む娘おふみ(中谷美紀)は次第に惹かれあう。京の柔らかい豆腐をなかなか深川の人々に受け入れてもらえず苦悩する永吉を、気丈に支えるおふみ。いろんな人の助けもあり、自分の味を守り抜く永吉の豆腐は、次第に人々に認められ、愛されていく。
 そして18年後、3人の子供に恵まれ幸せに暮らしていたが、浅間山の大噴火による大飢饉が商売にも影を落とす。長男栄太郎をめぐっての夫婦の諍いが絶えない。そんな時、昔から永吉の店を狙っている同業者の平田屋の魔の手が栄太郎に伸びようとしていた・・・。

  見所はなんといっても、日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞した、中谷美紀の演技に尽きる。可憐な少女時代・・・永吉に恋をし、恥ずかしそうに頬を赤らめて、お嫁に行く姿。人を好きになった時の、胸がキュンとなる感じを思い出させる。だが、3人の子供を持つ母になってからは一変する。鬼のような形相で夫と喧嘩する姿やたくましいおかみさんぶりには,少女時代の面影はない。時間とともに、ここまで女性は変わるものかと驚かされる。
 また、頑固な職人としての永吉、賭場の大親分の二役を演じるという難しい役どころを内野聖陽が熱演している。そして、二人を親のように見守る石橋蓮司と岩下志麻のベテランの演技は、協力しながら生きる市井の人々の温かさを感じさせて味わい深い。

 豆腐一筋の夫婦は幾多の困難にもお互いに向き合い、許しあい、助け合っていく。どんな時代でも夫婦の在り方、家族の在り方に悩むことがあるだろう。身近な家族ゆえの愛憎もあるが、時間とともに少しずつ紡がれていく絆。その底流にある愛情こそが、家族の大切さを物語っている。
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 善き人のためのソナタ
善き人のためのソナタ
「善き人のためのソナタ」

〜旧東ドイツの社会・跳べない者たちの生と死〜

(2006年 ドイツ 2時間18分)
監督・脚本:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演:ウルリッヒ・ミューエ, マルティナ・ゲデック
セバスチャン・コッホ, ウルリッヒ・トゥクール


シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸にて絶賛公開中、
3月3日(土)より京都シネマにてロードショー!
 


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 ドイツでは,1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊した。本作は,旧東ドイツを舞台として,1984年11月ころから翌年3月11日までに起こった出来事の顛末を描いている。国家によって自由を抑圧された状況での人間の弱さと強さを丁寧に描いた佳作だ。しかも,ベルリンの壁が崩壊した後の主人公2人の様子が描かれたことで,忘れ難い名作となった。
 ヴィースラーは,旧東ドイツの国家保安省に勤務し,優秀な尋問者と言われていた。一方,ドライマンは,旧東ドイツの劇作家で,個人の自由を抑圧する国家に対する反骨の精神を秘めていた。ヴィースラーは,ドライマンを監視するため,その自宅に盗聴器を仕掛ける。この2人を主軸に物語が展開する。
  繊細さが生きることの妨げとなる時代。自由を奪われた演出家イェルスカは自殺し,ドライマンの恋人クリスタは薬物等に依存せずにはいられない。ヴィースラーもまた,心の空洞を埋めるように,ピアノの旋律に耳を傾け,ドライマン宅から持ち出したブレヒトを読まずにいられない。彼の心が揺れ動く。

  一方,ドライマンの精神は強靱で,一筋縄ではいかない。彼が旧東ドイツの自殺者に関する記事を旧西ドイツのシュピーゲル誌に掲載しようとするところから,佳境に入る。ヴィースラーの揺れる心情が,その行動の予測を困難にするため,緊迫感が増す。記事の執筆者がドライマンであることの証拠となるタイプライターが国家保安省に発見されないかと,不安が高まる。その隠し場所を知るクリスタの究極の選択に胸が締め付けられる。

  ベルリンの壁の崩壊後も物語は続く。ドライマンの哀しみを帯びた複雑な心境を通して,言動が監視され抑圧された社会では,信頼と裏切り,割り切った表現をすれば味方と敵は,紙一重の差であることを思い知らされる。同時に,過去のしがらみを断ち切る必要を静かに訴えているようだ。ラストのヴィースラーの穏やかな表情がいい。鮮やかな幕切れだ。
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 華麗なる恋の舞台で
華麗なる恋の舞台で

「華麗なる恋の舞台で」

〜人生の虚実が交錯する華麗な舞台〜

(2004年 カナダ・アメリカ・ハンガリー・イギリス  1時間44分)
監督:イシュトヴァン・サボー
出演:アネット・ベニング, ジェレミー・アイアンズ
ブルース・グリーンウッド, ミリアム・マーゴリーズ
ショーン・エヴァンス, ジュリエット・スティーヴンソン
ルーシー・パンチ


3月10日〜OS名画座,3月下旬〜OSシネマズミント神戸,
近日公開〜京都みなみ会館,神戸アートビレッジセンター


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アネット・ベニングが40代半ばの舞台女優ジュリア・ランバートに成り切り,チャーミングでゴージャスな存在感を示している。
 
  彼女は,息子と同年代の青年トム(ショーン・エヴァンス)との情事に走り,やがて若い女優エイヴィス(ルーシー・パンチ)にトムを奪われ,さらに女優の地位まで脅かされる。この単純なプロットの中に,虚実の入り交じる人生の機微が気持ちよく描かれている。
 人生という大きな舞台では,人は意識的かどうかはともかく,常に駆け引きを演じている。ジュリアは,友人のチャールズ(ブルース・グリーンウッド)やトムを引き留めるため同じ言葉を言う,「自分をさらけ出せるのあなただけ」と。彼女は,ウソを付いていないし,意識して芝居を打っているのでもないだろう。ただ舞台に登場して他者と接するとき,ベルソナ(仮面)を欠かせないだけだ。

  日本題名は,ストーリーの中核となるジュリアの恋模様に焦点を当て,”恋”の舞台と限定してしまったが,実際はもっと広く”人生”の舞台に関する映画だと言ってよい。その中で正に”舞台女優”アネット・ベニング自身が圧倒的な存在感で迫ってくる。原題の「Being Julia」の本当の意味は「Being Annette」だと思わせるほどの迫力がある。
 特にクライマックスの舞台でエイヴィスと共演するジュリアは,大女優の風格を示して圧巻としか言いようがない。映画の中の舞台では,ジュリアは観客から拍手喝采を浴びる。映画の観客もまた,華麗に登場するジュリアに息をのみ,胸のすくような爽快さを味わう。それと同時に,ジュリアを演じたアネット・ベニングの貫禄に驚かされる。舞台と映画のそれぞれの観客が呼応して「劇場こそ唯一の現実だ」という言葉が実践されるようだ。

  また,ジュリアを取り巻く人物たちも,なかなか魅力的に描かれている。付き人のエヴィ(ジュリエット・スティーヴンソン)は,ジュリアとの会話の中にコミカルな味を添え,また役柄の中でもジュリアをしっかりサポートする立場を好演している。そして,ジュリアの息子は,舞台と現実の入り交じった母親に戸惑いながらも,母親にエールを送る。

 何よりジュリアの夫マイケル(ジェレミー・アイアンズ)が良い。夫というより人生のパートナーという方が相応しい。彼は,劇場経営者で演出家でもあり,ジュリアとは付かず離れずのポジションを保ちながら,実はジュリアを一番深く理解している。彼女が休みたいと言えば何とか都合を付けたり,エイヴィスに優しすぎるジュリアを訝ったりする。

  クライマックスの後も洒落ている。マイケルは,興行主として抜け目なくエイヴィスに1年間の契約があると言って釘を刺す。その様子がエレガントで憎めない。一方,ジュリアは,大勢の前で勝ち誇るのではなく,一人で静かに祝杯を上げる。これが”彼女”のチャーミングさであり,夫や息子はもちろん,大勢のファンから支持される理由だろう。

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 フライ・ダディ
『フライ・ダディ』

〜全国のダディ(お父さん)たちに贈る家族の“絆”の物語〜
 
(2006年 韓国 1時間57分)
監督・脚本:チェ・ジョンテ 原作:金城一紀
出演:イ・ジュンギ、イ・ムンシク、ナム・ヒョンジュン、キム・ジフン

上映劇場:4月21日〜OS名画座、シネマート心斎橋
     近日公開・京都シネマ、三宮シネフェニックス


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 昇進を控え、マンションのローンもまだ残っている平凡なサラリーマンのガピル。現代の典型的な「お父さん」といえる彼が“長期休暇”を取り、大好きなタバコもお酒もやめて「ケンカの達人」に弟子入りし、地獄のような特訓を始める。それはすべて、愛する娘・ダミにひどい暴力を振るった男に復讐するために、そして、娘に何もしてやれなかった臆病な自分から生まれ変わるために…。
 
  世界中のスーパーヒーローではなく、ただひとり、娘にとってのヒーローになろうと奮闘する姿が可笑しくも、愛しくて泣けてくる「父と子」の物語。主人公・ガピルを人間臭く、愛嬌たっぷりに演じたのは『公共の敵』などの名バイプレーヤー、イ・ムンシク。“メタボリック”な中年男性の体から、過酷なトレーニングを経て引き締まっていく肉体をリアルに見せるため、15kg体重を増やしてから撮影に挑み、撮影中に元の体重まで戻したという。彼の壮絶な役作りからは、もはや演技を超えた“魂”を感じる。
 
  そして、ガピルに“ブっ飛んだ”特訓を実行する「師匠」スンソクには、『王の男』でため息が出るほど美しい妖艶な姿を披露し、世の女性を虜にしたイ・ジュンギ。本作ではケンカに強い一方で、家族の愛を知らない孤独な一面をのぞかせる影のある高校生を演じ、新境地を開いた。そんなスンソクが、情けなくも家族に対してひたむきなガピルに徐々に心を開き、やがて「父親」の姿を見い出していく様も見所のひとつだ。
 
 普段はなかなか口に出したり、行動に表せない家族への想い。この映画のガピルのように、ささいなことから娘の心を傷つけてしまうこともあるだろう。けれど、家族だからこそ支えあうことができ、立ち直ることができる。そんな、“何よりも強い絆”を改めて感じさせてくれるこの作品。観終わった後、家族へのいつもは言えない一言が言えるかもしれない。
   師
『蟲 師』

〜精霊でも、幽霊でもない、
    生命そのものである“蟲”の世界を描くファンタジー〜

(2006 日本 2時間11分)
監督・脚本 大友克洋
出演 オダギリジョー 江角マキコ 大森南朋 蒼井優

3月24日(土)より梅田ブルク7ほか、ロードショー

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【STORY】
舞台は、まだ“蟲”という妖しき生物がいた100年前の日本。ヒトと蟲が接触した時に起こる不思議な現象を紐解く存在の蟲師・ギンコ(オダギリジョー)は、長い旅を続けていた。ある日の旅先で、蟲の仕業で角が生えてきた娘を助けたギンコ。だが、文字で蟲を封じる娘・淡幽(蒼井優)の屋敷を訪れたとき、なんとギンコ自身が蟲に体を冒されてしまう…。

  290万部を売り上げ、06年度の講談社漫画賞も受賞した漆原友紀の人気コミック『蟲師』を、『AKIRA』で世界的に有名な大友克洋監督が実写で映画化!大友監督の実写作品はなんと15年ぶり。久しぶりの実写がなぜ『蟲師』だったのか?大友監督にその魅力について訊いてみた。

  「『蟲師』を選んだのは、この作品にすごく新しさを感じたから。そこはかとない寂しさや哀しさを表現しているところに惹かれましたね。あと、“蟲”を最新のCGを使って表現してみたかった。でも、やっぱり見たことがないモノを描くのは難しい…。かなり妥協もしています」と、謙遜する監督。しかし、実際にスクリーンで見る最新のVFXで生み出された“蟲”は、妥協など一切感じられない完成度である。

  さらに、キャスティングについては、「オダギリ君ならギンコが背負っている“陰”の感じが出せると思って。彼は、佇まいだけで何か醸し出せる魅力がある」と絶賛。その他にも「100年前の日本というリアリティを出すためにロケハンには5ヶ月かけた。道なき道を行き、途中でスタッフが底なし沼にはまったり、富士の樹海では自殺者を発見してしまったり…」と映画に匹敵するかなりの珍道中ぶりを話してくれた。

  その苦労が報われてか、『蟲師』は世界配給が決定している。「(海外の観客は)本当に分かってるのかな」と笑う監督だが、その幻想的な世界観は何度も見るたびに味わいが増してくる。ぜひ、2度3度と劇場に足を運んで欲しい作品だ。

(中西 奈津子) ページトップへ
 サンシャイン2057

「サンシャイン2057」

〜人は太陽を捉えることができるのか
    ・・・・ SFとサスペンスが見事に融合〜


(2007年 アメリカ 1時間48分)
監督:ダニー・ボイル
出演:キリアン・マーフィ,クリス・エヴァンス,ローズ・バーン
    真田広之,ミシェル・ヨー

4月14日(土)〜ナビオTOHOプレックス,敷島シネポップ,
TOHOシネマズ二条,MOVIX京都,OS阪急会館,シネモザイク,他


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 「太陽をじっと見つめてはいけません」。
「サンシャイン2057」が始まった瞬間、小学校の頃に先生からそんな注意を受けた記憶がよみがえった。そう、空を見上げた時、太陽の光はあまりにまぶしい。地上に立つ自分とは、想像もつかないくらいに遥か遠くにあるというのに・・・。

では、もしもその燃え盛る太陽を目の前で見たとしたら。感じたとしたら。 人はいったいどうなってしまう?


  西暦2057年。太陽の活動は衰え、死滅しようとしている。地球上ではあらゆるものが凍てつき、人類は滅亡の危機にあった。太陽を再び活性化させるため、核装置を積み地球を飛び立った宇宙船イカロス2号。爆弾を投下し、太陽を蘇らせる。それが8人のクルーに与えられたミッションだった。

  「よくある地球滅亡SFモノやろ?」などとたかをくくる事なかれ。何といっても監督はあの「トレインスポッティング」「ザ・ビーチ」「28日後・・・」の ダニ−・ボイル氏なのだから、単なるお涙頂戴の大げさムービーで終わるワケがない。太陽という生命の象徴に近づいていく―それは人をどんな状態にさせるのか。壮大なSFアドベンチャーという形式に乗っ取りながらも、極限状態にある人間の心理をじわりじわりと描いてくるのである。そしてある瞬間から内容は一転、サスペンスの要素までも含み始める!
 
  地球を救う宇宙船のクルーたちにふさわしくキャストも国際色豊か。物理学者キャパに「麦の穂をゆらす風」で注目されたアイルランドの実力派キリアン・マーフィ。生物学者コラゾンに「SAYURI」での粋な芸者ぶりが記憶に新しい香港のトップ女優ミシェル・ヨー(見れば見るほど賠償美津子さんの若かりし頃にそっくり。ちなみに声までも似ている)。そして我が日本からは冷静沈着な船長カネダ役として真田広之氏が出演。出番としては若干物足りないものの、非常に印象に残る役柄であり、今後の彼の海外での活躍ぶりを予感させる。

  これまで見たこともないような宇宙スーツのデザイン、宇宙船の内装、そして太陽と宇宙をイメージさせるような雄大な音楽。観る者の目と耳をフル活動させてスクリーンに引きこみ、確実に太陽へと近づけていく。そしてその光を間近に見た時、新しいSFの幕が上がったことを感じられるかもしれない。
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