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★ 大阪ヨーロッパ映画祭2009 上映作品紹介
隣 人
『隣 人』
〜家族の中から浮かんでくる人間の表と裏〜

(2007年 スペイン 1時間45分)
監督:ベントゥーラ・ポンス
出演:アナ・リサラン、ジュアン・ペラ
 スペインのカタルーニャ地方・マヨルカ島出身で1963年生まれの劇作家セルジ・ベルベルの戯曲に基づいた映画だ。日本でもこれまで「モバイル」と「いまわのきわ」という作品が上演されたことがあるようだ。ベントゥーラ・ポンス監督も舞台演出家としてスタートしたという。本作は,舞台と映像が融合し,両方のダイナミズムを味わえる作品となっている。また,一筋縄ではいかない家族の確執が世代を超えて描かれており,奥行きがある。

  同じアパートの一室という限定された空間の中で,過去と現在(1960年代末とその40年後)という2つの時代が行き交う。エマとアナという2人の女性を中心として,3代にわたる家族の愛憎を克明に浮かび上がらせる。エマには夫と義父,娘アナとその兄がいて,階上にはマヌエラという男の子がいた。一方,アナには兄と父,息子と兄の娘がいて,階上にはアフメッドという男がいる。しかも,エマと40年後のアナを同一の女優が演じている。

  人物の配置が相似しているだけではない。エマとアナは,同じ部屋の同じベッドの上で死を迎えることになる。エマに寄り添う父とアナに寄り添う兄とが連続するカットで映されるなど,映像やそこに描かれた内容もまた相似し,人間の営みが同じことの繰り返しであることが示される。だが,現在は過去より家族の結び付きが希薄になっているようだ。エマが息子に背中を流させながら諭すシーンはあったが,アナにそのようなシーンはない。

  アナが亡くなった後,同じ部屋に住む家族はいない。時代は確実に移り変わっている。それでもなお変わらないものがある。体は腐っているのに頭は壊れないというエマの台詞があった。家庭は崩壊しても家族の外見は保たれていると言っているようにも聞こえてきた。アナの父の再婚相手パトリシアは,夫の家族について,外はきれいでも中身は腐っていると言う。人間は,意識するかどうかはともかく,表と裏という二面を使い分けている。
(河田 充規)ページトップへ
美しく生きて〜アニエラと犬〜
『美しく生きて〜アニエラと犬〜』 Time to Die
〜余りに美しすぎるモノクロ映像に放心!〜

( 2007年 ポーランド 1時間44分)
監督:ドロタ・ケンジェルザヴスカ
撮影:アルツール・ラインハルト
出演:ダヌタ・シャフラルスカ

2010年公開予定(配給:パイオニア映画シネマデスク)
 ファーストシーンからアニエラの性格が端的に示される。彼女は,デリカシーに欠ける女医の言葉に怒っている。そして,何ともチャーミングだ。これがラストでの彼女の選択に説得力を与える。監督のセンスの良さと女優の確かな演技力が伝わってきて,大いに期待が膨らむ。何より映画に相応しいシンプルなプロットが嬉しい。彼女が人生で最後の大きな選択をするまでが端的に描かれる。しかも,全編モノクロのカメラが実に素晴らしい。

  アニエラがブランコに乗ったときのカメラの揺らめきは,往年の名画を偲ばせる。また,夜,雨が降って稲妻が光り雷鳴が響くシーンがある。恐怖の前触れを示すホラー映画の定番のようだが,全く別の意味が与えられる。生きる力を与えてくれる嵐だ。アニエラは,雨の中に出て行き,両腕をVサインのように突き上げ,神々しい光に包まれる。彼女が息子の幼い頃を追憶するシーンが3回ほど描かれるが,愛犬フィラが彼女を現実に引き戻す。

 ポーランドでは,共産主義時代,同志を同居させる義務があったそうだ。時代は変わり,アニエラの住む邸宅から同居人が出て行った。息子ヴィトゥシュは,アニエラが愛着を示している邸宅を売り払おうとする。今では妻子のある息子と,アニエラが記憶する幼い息子とのギャップが大きい。彼女は,息子が隣家を訪ねている姿を見て,その裏切りに気付く。そのとき彼女が息子の幼い頃の写真を踏み付けて階段を下りていくシーンは,かなり怖い。

  息子と妻マジェンカとの間には娘がいる。このアニエラの孫は,邸宅を修理するより燃やせばいいと言い放つ。世代間の意識の違い,埋めようのない落差が浮き彫りになる。アニエラは,邸宅を維持しながら,そこに永住できる方法を選択する。孫が欲しがっていた指輪は,マジェンカに与えることにする。彼女の毅然とした態度が爽快だ。その後,カメラは,邸宅を離れて周囲の木々,そして空を映す。最後までアニエラの視線に徹して美しい。
(河田 充規)ページトップへ
ロフト.大阪ヨーロッパ映画祭オープニング上映
『ロフト.』 Loft
〜観客を酔わせる大人のサスペンス〜

(2008年 ベルギー・オランダ 1時間58分)
監督:エリク・ヴァン・ローイ
出演:ケン・デ・ボーウ、フィリップ・ペーテルス
 家庭も社会的地位もある5人の男が、秘密の情事のために共有していたロフトルーム。そこで、ある朝、若い女性が手錠を嵌められ全裸で殺された。犯人は5人のうちの誰かの可能性が高い。いや、ひょっとすると、秘密に気づいた妻の仕業かも。5人は集まり、ただいに疑いながらも事態に対処しようとするが、やがてそれぞれの秘密が明らかになっていく…。

  映画祭のオープニングを飾るこの作品は、ベルギー発の大人のサスペンス。成熟した男女の欲望が絡み合い、それによって普段は本人たちも気づいてない、あるいは気づいてないふりをしている、夫婦生活や仕事、日常のなかで生じる様々な心のしこりや屈折が露呈してくる様子がスリリングだ。

  ただ、性格づけの必要は解るが、秘密を共有するには心許ない登場人物が多いし、展開にも多少無理が感じられるが、それでも全体を貫く緊張感とエロティックな空気はヨーロッパ映画の香気と相俟って観客を酔わせるには充分だ。
(春岡 勇二)ページトップへ
カメレオン
『カメレオン』(Chameleon)

(2008年 ハンガリー 1時間46分)
監督・脚本:クリスティナ・ゴダ
出演:アーヴィン・ナジ、ガブリエッラ・ハーモリ

 ガーボルとティピはいいコンビだ。孤児院で育った彼らには夢があった。大きな町に住むこと。家を手に入れること。そして、彼らには才能があった。それは巧みな話術で女を騙すこと。彼らは清掃員として働き、捨てられたゴミからその女性のことをリサーチし、分析する。ガーボルはあくまで自然な出会いを演出し、あるときは医者、あるときは弁護士を語り、仕立てのいいスーツをスマートに着こなし、女性の心を鷲づかみにしていく。そして、信頼を十分に勝ち得てから女からお金を引き出す。 鮮やかな手口がテンポよく繰り広げられる冒頭のシーンは軽妙で楽しい。彼らは詐欺師。お金を騙し取る。ガーボルは騙し役、ティビはサポート役でふたりの息はぴったり。

  しかし、そんな名コンビのふたりの関係がきしみだす。テレビで精神科医を観て、そのデータを盗むことを思いつき、そこで次のターゲットの女を決めた。彼女はハンナ。バレエダンサーで父親が金持ち。ガーボルはいつものように自然に彼女と出会えるように手を尽くすが、なかなか彼女が乗ってこない。他の女ならすぐに食いつく手口にハンナはそっけない。うまくいかないことから余計に熱がはいる。

  そんなある日、ハンナが車の事故で足を痛め、二度と踊れなくなってしまったことを知る。ガーボルは彼女の話を聞き、力になろうとする。それが困難であればあるほど、彼は彼女のためにのめり込んでいく。運命の歯車が大きく狂いだしたことにも気づかないまま、美しいハンナのために尽くしていく。ひとつの嘘がもうひとつの嘘を生む。嘘で塗り固められたガーボルは人生にただひとつの愛を信じた。

 彼らは詐欺師。しかし、なぜか初めから彼らのことが憎めない。どこかに純粋な心を秘めているように思えてしまう。それは、大きな目に長い舌を持ち、ユーモラスな動きをする茶色のカメレオンのようでどこか素朴で、哀しい。
(浅倉 志歩)ページトップへ
タンドリーラブ 〜コックの恋〜
『タンドリーラブ 〜コックの恋〜』
〜スイス発ハリウッド級ミュージカルの快作〜

(2008年 スイス 1時間32分)
監督:オリヴァー・ポーラス
出演:ラヴィニア・ウィルソン、ヴィジェー・ラーズ、マーチン・シック、シュウェタ・アガワル、タマール・ライコデュリ
 インドを舞台にした、今年のアカデミー賞作品賞受賞作『スラムドッグ$ミリオネア』(‘08年)に、魅了された方々は必見の1本。しかも、スイス映画とボリウッド (インドのボンベイとハリウッドを組み合わせた造語)映画ことマサラ・ムービーが、心地よく合体した作品だ。

  インドのミュージカル映画の撮影クルーがスイス・ロケに来た。クルーのために料理を作る調理師が、現地の美女と出会いひと目ボレ。でも、彼女には婚約者がいた。という風に簡単にあらすじを書いたけど、この数行だけで、多彩な映画の要素が詰め込まれていることが、お分かりいただけるだろうか。映画撮影隊が作る映画のメイキング映画のタッチ、そのリズミカルでタイトなシーンを含むダンス・ミュージカル映画のテイスト、調理師が作る料理を見せていく極上グルメ映画のスパイス、往年のハリウッド映画によく観られた、三角関係による王道のラブ・ストーリー・フレイバーほか。中でも、ボリウッド映画の代名詞になっているミュージカルが、美しい自然に囲まれたスイスをバックにしたり、意外な場所で展開したりするところが、本作の大きな見どころとなっている。
 
  女性が歌うバラードが流れる中、湖面をゆく船に乗って、そのへさきで男女が抱き合う『タイタニック』(‘97年)を思い出させるカット。スーパーマーケットでヒロインに恋した主人公が、マサラ・ダンス・ポップに乗って、歌って踊る快調テンポなシーン。雪山をバックに、インド流ポップロックに乗って踊るシーン。CGを使っているのだろうが、キッチンで食材が踊り出すのを前触れに、キャベツ刻みシーンも入れて、料理人たちが踊る幻想シーンに加え、レストランのセピア照明が照らされる中で、ヨーデルとマサラ・ポップを融合させて、ヒロインと男たちがダンス・ダンス・ダンスするシーンは圧巻の仕上がり。また、インド・ロケではロマンチックなバラードに乗る、ヒロインの姿と再会シーンが感動的。タブラやチェロも入った8ビートの陽気な男女デュエットなど、歌サントラも聴きごたえ充分だ。
(宮城 正樹)ページトップへ
リトル・ソルジャー
『リトル・ソルジャー』 (Little Soldier)
〜大切な人を守るための女の強さと優しさと・・・ 〜

(2008年 デンマーク 1時間40分)
監督・脚本:アネット・K・オルセン
出演:トリーネ・ディアホルム、ローナ・ブラウン

 「リトル・ソルジャー」その響きが切なく胸に突き刺さる。孤独で哀しい行き場のない女の戦い。女は傷つきながらも、必死で何を守ろうとするのか。

 ロッテは元女兵士。軍隊を脱隊し、祖国に戻った。ロッテは雑然とした自分の部屋を片付けようとしない。飾り気のない、生気のない部屋は孤独な彼女の心のよう。そんな彼女に手を差出したのは、幼いころに疎遠になった父親だった。生活費を得るため、父親の仕事を手伝うことにする。それは売春婦を男の家に車で運ぶ仕事だった。ロッテは父親の愛人でもあるリリーという若い黒人の売春婦の運転手になる。リリーは初めロッテに心を開こうとしないが、身を挺して守ろうとするロッテに信頼をおくようになる。ロッテもまた、リリーが我が子のために命を危険にさらしながらも、体を売っていることを知る。ふたりの女の魂は心の深いところで触れ合っていく。リリーはもう一人のリトル・ソルジャー。祖国に残してきた子どものことを話す彼女は、たくましく、そして優しい。

 強さと脆さを合わせ持つリトル・ソルジャー。強さとは肉体的なことだけでなく、脆さとは精神的なことだけではない。守りたい何かを見出したとき、人は本当の強さと優しさを知るのだろう。純粋に誰かのためにしてあげたいと思う気持ちが動いたとき、人は思いがけない行動をしてしまう。ロッテが本当に救いたかったのは、自分自身だったのかもしれない。

 リトル・ソルジャーの戦いは、戦場での戦いではなく、日常での戦い。大切な何かを必死で守ろうとする戦い。それは正義や名誉を守るための戦いではない。 ロッテは「リトル・ソルジャー」といろいろな場面で言われる。あるときは愛情をこめて、あるときは蔑視の意味で。特に、父親が彼女をそう呼ぶのが、哀しい。町にいても、孤独な荒野にいるように響く。
 ラスト・シーンのどこまでも続く果てしない、まっすぐな道にあなたは何を思うだろう。
(浅倉 志歩)ページトップへ
HOME 〜空から見た地球〜
『HOME 〜空から見た地球〜』 (HOME)
〜点描の世界でうごめく生き物たちと、人類の功罪〜

(2009年 フランス 1時間34分 日本語吹替)
監督:ヤン・アルテュス=ベルトラン 製作:リュック・ベッソン
 茶、緑、赤、黄、青、グレー・・・俯瞰した世界は点描のようでありながら、意外なほどねっとりと濃いマーブル模様を描いている。それは美しいものも、汚いものも、一様に無機質にして、標本のように、そこに息づいているはずの人々の営みも何もかもを封じ込め、生気を吸い取ってしまったかのようだ。
 環境破壊、温暖化、資源の枯渇、未曾有の危機が私達の棲む地球に襲いかかっている。しかし、それをどこまで具体的に思い描けるだろう?この作品はそれをつぶさに見せてくれる。
 リュック・ベッソン率いる製作陣は空撮を駆使し、色彩豊かで絵画的な画面作りで、ある意味私たちを異次元へと誘う。しかし、決然としたナレーションが幻想的な映像に酔うことを許さない。そのメッセージは痛みに満ちている。砂漠に打ち捨てられた緑化設備の残骸、地肌の見えているエベレスト、天空にそびえる人工都市、世界各地で起こっている悲劇、あるいは今後起こり得る悲劇が、重厚な音楽に乗って容赦なく見せ付けられる。それは息苦しいほどだ。しかし、つらく重いテーマをあくまでスタイリッシュに撮っている。
 80分打たれ続けたあと、ふいにかすかな希望が示される。しかし、それは信じるに足るものなのか? 地球規模の問題に個人がどう立ち向かえばいいのか、この作品は途方のない問いかけをしてくる。だが、手をこまねいてばかりいるわけにはいかない。この15年の平均気温は観測史上最高に達した。わずか15年でこの広い世界が変わり果ててしまうなら、この先は加速度的に変わってゆくだろう。私たちが少し年を取る間に地球は浦島太郎のように突如老人になってしまったのか。答えは映像のなかにある。
 エールフランスの就航40周年記念作品だという本作はあなたに困惑をもたらすかもしれない。クレジットに流れる一流ブランドのオシャレなロゴが、先進国の功罪を思い出ださせ混乱はますます深まる。しかし、一見の価値はある。そして一考、ではなく繰り返し考え、何かひとつでも行動を起こすことが人類にできるせめてもの償いではないだろうか。
(山口 順子)ページトップへ
 
 
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