制作年・国 | 2012年 日本 |
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上映時間 | 2時間9分 |
監督 | 堀切園健太郎 |
出演 | 渡部篤郎、キム・ガンウ、真木よう子、尾野真千子、田中泯、遠藤憲一、余貴美子、石橋凌、イ・ギョンヨン |
公開日、上映劇場 | 2012年6月2日(土)~全国ロードショー |
(C) 2012「外事警察」製作委員会
~ホンマにあったら怖い、日本の“裏の警察”~
これホンマかいな、と眉につばつけながらもよく出来たポリティカル・サスペンスに引き込まれる。日本版のCIA(警視庁公安部外事課)をリアルに描いた“裏の警察”映画。日本では不毛の分野だったが麻生幾原作はホンマらしさ満点、渡部篤郎の終始無表情の演技も真に迫って珍しいほどの佳編になった。朝鮮半島の緊張に嘘っぽさがない。
南北朝鮮の諜報組織と日本の公安が核爆弾絡みで暗闘を繰り広げる出色のサスペンスドラマ。本当にありそうなところにまで作り込むのは日本では難しいのだが、架空の第三国も登場せず、本物の国や組織による“事実の劇化”に成功している。
アメリカでは、昨年の「フェアゲーム」や「4デイズ」がリアルな緊迫感に溢れていた(実話らしい)し、遡れば、実際に大統領の犯罪を暴いた「大統領の陰謀」という“本物”もあった。“ケネディ大統領暗殺”事件からは「JFK」や「ダラスの熱い日」など秀作が何本も生まれている。アメリカにポリティカル・サスペンスの種は尽きず、近く公開の「スーパー・チューズデー」などもその好例。 日本では政治家はパロディにしかならず、スパイの存在など荒唐無稽でしかなった。阪本順治監督の金大中事件映画「KT」も意欲が空回り。李相日の「半島出よ」に期待したが、企画は行方不明に。
警視庁公安部外事課は国際テロ捜査専門の諜報部隊。どこまで本当の話なのかは「?」だが盗撮、盗聴、潜入、違法寸前何でもありの組織。そこの札付のやり過ぎ男・住本(渡部篤郎)が、北朝鮮に拉致された日本人で北の核開発に尽力したエキスパート(田中泯)救出に成功、最近頻発する北絡みの犯罪疑惑解明に乗り出す。
北は核爆弾の製造に成功しており、日本製の起爆装置があれば爆発可能で「国内にあったら大変」と内閣官房長官(余貴美子)が乗り出す。住友が目をつけたのは脱北者や韓国人で輸入会社を経営する在日朝鮮人一家。この主が黒幕と見た 住本は、自ら引き抜いた女性諜報員・松沢(尾野真千子)を輸入会社社長の日本人妻・香織(真木よう子)に近付け、内偵させる。手間取ると見れば香織を脅し、夫の正体(北のスパイ)を暴露、金と脅しで協力者に仕立てる非情なやり口がテレビドラマ(NHK)離れしている。 香織の協力で起爆装置の写真を入手するが、経営者の部下、安(キム・ガンウ)こそが北の黒幕と判明、住本が“警告”として一度刺されたこともある。公安と会っていた香織をつける安を住友たちが先回りして捕らえるあたり、日本の公安もやるやないか、の展開。
ところが、事態はもっと複雑で、韓国の諜報組織NISも出てきて、住友ひとりの手には負えなくなってしまう。核爆弾はどこにあるのか「日本になければ関知しない」という官房長官のひと言で住友が任務から外されるあたり「ミッション・インポッシブル」のイーサン・ハントと同じ。国家を救えるのは組織じゃなく個人の正義感?ということか。住友にはひとり、上司のささやかな援護はあったが…。今の世界情勢をも随所に織り込んで緊迫の結末へなだれ込む…。
と、単純に楽しめる娯楽映画とみることが出来たら幸せだが、米映画ならともかく、単純に手放しで楽しめないところが日本映画の政治的倫理的限界か。「外事警察」=公安など実際は悪役にふさわしい組織で、国家や警察は本質的に権力を守るのが役目。国内では民衆(民主)運動の敵対勢力にほかならず、映画では無条件にヒーローにはなれない。ここが“在住戦場”のアメリカや韓国との違い。日本に限らず“裏の警察”=非人間的、非合法な仕事によってヒーローが生まれる国や時代は不幸ということが出来る。
(安永 五郎)
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