浪花の春恒例の「おおさかシネマフェスティバル2012」が3月4日(日曜)、大阪・谷町四丁目の大阪歴史博物館4階講堂で行われ、主演女優賞・浅丘ルリ子、主演男優賞の豊川悦司ら受賞者が一堂に勢ぞろい。浪花の名物司会者・浜村淳の名調子とともに満員のファンを沸かせた。
日本映画 個人賞は以下のとおり。
※敬称略
監督賞:阪本順治(『大鹿村騒動記』)
主演女優賞:浅丘ルリ子(『デンデラ』)
主演男優賞:豊川悦司(『一枚のハガキ』)
助演女優賞:神楽坂恵(『冷たい熱帯魚』『恋の罪』)
助演男優賞:片岡愛之助(『小川の辺』)
新人女優賞:杉野希妃(『歓待』)
新人男優賞:まえだまえだ(『奇跡』)
脚本賞:新藤兼人(『一枚のハガキ』)
撮影賞:北信康(『一命』)
音楽賞:安川午朗(『八日目の蝉』『大鹿村騒動記』)
新人監督賞:三宅喜重(『阪急電車 片道15分の奇跡』)
特別賞:原田芳雄、森田芳光
<授賞式でのコメント>
●主演女優賞・浅丘ルリ子『デンデラ』
東映『デンデラ』(天願大介監督)で主役を務めた元日活の大女優・浅丘は晴舞台にも悠然、授賞式では大トリとして登壇し「(他の)受賞者の皆さんはもう1時間半も待ってらっしゃるから」と他を気遣う余裕を見せながら、浜村氏としばし思い出話。
松竹の看板『寅さん』シリーズにマドンナ「リリー」役で最多4度も出演したことについて「最初は北海道の酪農のおかみさん役だったんだけど(山田監督に)こんなに手足が細くては無理なのでは、伝えますと、監督も“そうですねえ”とおっしゃって」と裏話。結果、山田監督がとあるキャバレーの前を通りかかった時に「リリー」が出演していたことから「流れ者の踊り子リリー」が誕生した、という知られざるエピソードも披露。「寅さんが一番愛してくれたマドンナでしたね」としんみり。
受賞作『デンデラ』については「(雪山ロケは)とても寒かったんですが、カットの声がかかると、みんなで温めて下さった。寒いですけど温かかったですね」。
「私はこれまでに158本、映画に出演しましたが、女ばかり50人、一番下が70歳の私。こんな役ないですよね。出させてもらってよかった」。
●主演男優賞・豊川悦司「一枚のハガキ」
新藤兼人監督の前作「『石打尋常高等小学校 花は散れども』に出させてもらい、2度目に呼んでいただいてもう一度“新藤作品に出させてもらえる”ことが何よりうれしかった。戦友の未亡人役の大竹(しのぶ)さんとも前作から一緒でした。戦争体験はなく“戦争ってどういうものなんだろう”と考えながらだったんですが、監督がご自身の実体験を書かれたもので、監督がボクのモデルだったのがラッキーでした。だから、現場では恐ろしいほどの緊張感でした」。 「ビジュアル的には『~花は散れども』と正反対だったんですが見ていた頂いた方に“新藤さんに見える”と言われるならうれしいことです」。
●助演女優賞・神楽坂恵『冷たい熱帯魚』『恋の罪』
園子温監督作品で女優開眼した神楽坂は「大阪にはしょっちゅう来ていて大好きな街。自分の人生の大事な2本で受賞なんてこの上ない喜びです」と感無量の面持ち。「グラビアアイドルではインパクトない、と思っていて、自分で何がしたいのか、分からなかった。女優なら自分を発言できる場所がある、と思った。園監督に厳しくしごかれて追い詰められて、辛かったけど、全否定されてよかったと思う」。
前夜、郷里の岡山に帰り、この日は父親ら3人の親戚と車に同乗して会場入りした。父親は浜村氏からステージに上がるよう促され、テレながら壇上へ。「娘が女優になるなんて今でも信じられない。(娘の)映画は見てません」。
神楽坂は「父はシャイな人で、私の結婚式でもしゃべらなかったのに…。この席で親孝行も出来ました」とうれしそうだった。
●助演男優賞・片岡愛之助『小川の辺』
愛之助は現在、京都・南座公演に出演中。午前の部終了後、タクシー→新幹線→ハイヤー、車中で着替え、という強行スケジュールで会場へ文字通り駆け付けた。メイク10分で慌ただしくステージに上がった愛之助は「藤沢周平作品の大ファンで舞台で“蝉しぐれ”もやっている。(『小川の辺』には)喜んで出させてもらいました。(主演の)東山紀之さんは何でも出来る方なので、セリフなくても会話しているような感じでしたね。監督はカット割りを少なくしたいという要望だったんですが、私は(カットを)長くやっていただく方がいいのでありがたかった」と歌舞伎役者ならではの強みも披露した。
この日はちょうど40歳の誕生日。スタッフが用意したケーキにナイフを入れるポーズで「2度目の成人式」の喜びを表した。「芸歴30年で40歳の節目の日に映画で初めての賞をいただくなんて、忘れられない門出になりました。歌舞伎大好きで歌舞伎あっての私だと思っていますが、歌舞伎以外の仕事もやっていきたい」と新たな門出を誓っていた。
●新人女優賞・杉野希妃『歓待』
アジアン・インディーズのミューズ的存在の杉野希妃は「“歓待”で何回か大阪で舞台あいさつさせてもらった。人生で一度しかもらえない新人賞を第二の故郷の大阪でいただけたことがうれしい。この映画は企画から公開まで立ち会ったので感激もひとしお。個人賞ですが、作品にいただいた作品賞だと思っている」。
杉野は慶応大在学中に韓国・ソウルに留学、06年に韓国映画『まぶし一日』で映画デビュー。女優だけでなく、プロデューサー業も兼ね、昨年公開の『マジック&ロス』で(リム・カーワイ監督)では、韓国映画『息もできない』のヤン・イクチュンとキム・コッビとの共演を実現させた。昨年の東京国際映画祭では「アジアの風」部門で特集上映されるなど“新人”離れした活躍ぶり。広島市出身だが、すっかり気に入った大阪で「いつかこの場所で映画を撮りたい」と語っていた。
●監督賞・阪本順治監督『大鹿村騒動記』
作品賞に加え監督賞にも輝いた大阪・堺市出身の阪本順治監督は晴れの凱旋受賞。特別賞(故原田芳雄氏)、音楽賞(安川午朗氏)と合わせ4冠獲得の快挙に「原田(芳雄)さんの思いの強さがこの作品に結晶した」とまずは偉大な主演俳優に感謝の気持ちを表した。
「原田さんに“あなたとは初めてだなあ”とまず言われた。それまでに6本やってるんですけどね。主演と監督としては確かに初めてだった。私のデビュー作“どついたるねん”に出ていただいてから23年、最後にご一緒できたことに強い縁を感じます。作品を皆さんに愛していただいてありがとうの気持ちでいっぱいです」。
阪本監督は現在、吉永小百合主演の新作『北のカナリアたち』の撮影中で、2月に北海道ロケを終えたばかり。今後、春、夏にも撮影の予定。これ以外にもロシアなどでロケを行う国際的な新作にも着手する。おおさかシネマフェスティバル“2連覇”も有望とあって自信と余裕を感じさせた。
●特別賞・故原田芳雄 『大鹿村騒動記』(代理・長女原田麻由)
“原田一家”の一員だった阪本順治監督と東京から同行して会場入りした原田麻由は、2日の日本アカデミー賞授賞式で原田芳雄「主演男優賞」の代理受賞してきたばかり。
大阪では「芳雄に代わりまして参りました。(芳雄も)この場で皆さんにお会いしたかったと思います。先日、芳雄の遺品を整理してまして大阪で賞を頂いた時の写真が出て来ました。その時のうれしそうな様子を見て私もうれしかった。素敵な賞をありがとうございました」。
●撮影賞・北信康『一命』
3Dで初時代劇での受賞に「3Dはキャメラが大きいんですが、2Dで上映する劇場もあるので、両方出来るように考えた。(市川)海老蔵さん、役所広司さんら芸達者な人ばかりなので、芝居の邪魔にならないように、と」。 『一命』は小林正樹監督の世界的名作『切腹』のリメイクで比較対照されることについて「意識してもかなわないことなので。3Dは映画表現の幅を広げる意味があると思う」と話していた。
●脚本賞・新藤兼人(代理:新藤次郎)
『一枚のハガキ』代理・新藤次郎近代映画協会社長(兼人氏長男)
次郎氏「(兼人監督は)がんこじじいで、今は映画のこと以外は何もしたくない、という生活ですね。“一枚のハガキ”を撮る前から車椅子になりまして“これが最後になるね”と言ってました。“何が良いかね”とあれこれ探して“これだったら最後にふさわしい”と選んだ。監督は家族全部を映画にしてますからね」。懸念される監督の状態については「体力は落ちているが、先生は元気です」。とは言うものの、期待の声が大きい「もう一本」については「インディーズでやってると、撮影中にひとり倒れたりすると会社がつぶれたり大変なことになるので…」と否定的だった。
●音楽賞・安川午朗『大鹿村騒動記』『八日目の蝉』
「去年1月、同時期に依頼された。2人の監督(阪本順治、成島出)から“大丈夫か”と心配されたが、2本の内容が極端に違うのでやりやすかった。代表作を聞かれて「うーん“君に届け”“どろろ”“感染列島”」と自作を並べていた。
(安永 五郎)