マイマイ新子と千年の魔法 |
(C) 2009 高樹のぶ子・マガジンハウス /
「マイマイ新子」製作委員会 |
『マイマイ新子と千年の魔法』
〜息をのむほど美しい自然の中で、
瑞々しい少女の感性が輝く〜
(2009年 日本 1時間33分)
監督・脚本:片渕須直
原作:高樹のぶ子
出演:福田麻由子、水沢奈子、森迫永依、本上まなみ
11/21〜12/5なんばパークスシネマほか、〜12/18ワーナー・マイカル・シネマズ茨木、MOVIX堺
★ 1/30〜2/12 シネ・ヌーヴォ (連日20:20〜)
※2/11(祝)のみ、12:20から1回追加上映
公式サイト⇒ http://mai-mai.jp/
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昭和30年代の山口県防府市を舞台に、小学校3年生の新子と、東京からの転校生の貴伊子の出会いと友情を描く。麦畑が一面に広がり、その上を風が走り、青い麦がさわさわと揺れる。その美しさを、色彩豊かなアニメの映像で見事に描く。川の上をミズスマシが走り、水の中から見上げた子どもたちの映像など、細かな自然描写のすばらしさに息をのむ。小川の上につくったハンモックの気持ちよさそうなこと。 |
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田舎の子どもたちの日常を丁寧に描き、秀逸だ。想像力豊かで、心優しい新子のはきはきして、ものおじしない性格に、思わず見入ってしまうし、笑い声もいい。元気に学校に通い、山や田畑で遊ぶ子どもたちにとって、毎日が発見。小川をせき止めたり、子どもたちだけの隠れ家を大切にする。転校生もあっという間に友達になる。新子に自然や歴史の話を聞かせる、もの知りなおじいさん、子どもたちを大らかに育てる新子の母と、大人たちも魅力的だ。 |
港町に関わる大人世界での事件がやや唐突にも思えたが、それに対する新子の反応が頼もしい。戦後の混乱が未だ残る中、子どもたちもその影響を受けざるを得ない。しかし、突然の悲しい出来事にも、新子や子どもたちは、めげずに、明るくたちむかっていく。いつも笑顔で、楽しむことを忘れないことこそ、子どもたちの特権といわんばかりの、はじけようが画面からあふれ出る。 |
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原作は芥川賞作家の高樹のぶ子の自伝的小説「マイマイ新子」。マイマイとはつむじのこと。周防の国と呼ばれ、多くの人々が住み、都があったという千年前の古代と現代が交錯する。『時をかける少女』や『サマーウォーズ』などクオリティ高いアニメ作品を生み出すマッドハウスの制作で、自然描写の美しさ、遠近を使い分けた構図の見事さと、すばらしい映像世界が広がる。ウイスキーボンボンや色鉛筆、米の入った一升瓶も心に残る。山口弁のおっとりした方言の響きが心地よい。 |
きっと観客の誰もが、伸びやかな新子や、生き生きした子どもたちの姿から、子どもの頃のわくわくするような楽しい気持ちと、子どもならではのたくましく生き抜く力、今ここにかけるエネルギーのすごさみたいなものを思い起こすのではないだろうか。 |
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戦場でワルツを |
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『戦場でワルツを』
WALTS WITH BASHIR
〜封印した“戦場の記憶”を探し求めて〜
(2008年 イスラエル 1時間30分)
監督・脚本・製作:アリ・フォルマン
11月28日〜梅田ガーデンシネマ、
12月19日〜京都シネマ、 シネ・リーブル神戸
公式サイト⇒ http://www.waltz-wo.jp/ |
戦場に狩り出された若者が、戦地で見たり、感じたりした光景をアニメーションで描き、個人的な戦争体験を通して、戦争の実態を浮き彫りにしていく異色ドキュメンタリー。 |
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イスラエルでは、18歳で、男子は3年、女子は2年の兵役義務がある。男子は、徴兵時に戦争が行われていれば、すぐ最前線に送られることもある。アリ・フォルマン監督は、徴兵で、19歳の時レバノン戦争に従軍するが、中年になって、その当時の記憶が全くないことに気付く。あの時、一体何があったのか?戦友達を訪ね、取材を通じて、自身の記憶を掘り起こしていく。一人ひとりの戦場での記憶をたどる旅は、やがて1982年のパレスチナ難民キャンプでの大虐殺にたどり着く。 |
敵地から逃げるため夜の海を一人泳ぎ続ける兵士や、踊り狂うように機関銃を発砲し続ける兵士、ロケット砲で戦車を爆撃する敵の少年、と戦場での様々な光景が、美しいアニメ−ションの映像となって、音楽とともに鮮烈なイメージを残す。実写でなくアニメであることにより、幻想も入り交ざった記憶と実際の現実との間を自由に行き来しながら描き、兵士たちの不安や恐怖といった心理状態がリアルに伝わってくる。本作を通じて浮かび上がるのは、戦場でおびえ、戸惑い、さ迷う兵士達の孤独。 |
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映画の冒頭の、26匹の犬が猛烈な勢いで通りを駈け抜けていき、追いかけられるという悪夢のシーンが怖い。目前の獲物だけに向かって何もかもなぎ倒し、突進し、吠えかかる、これは戦争の象徴的な姿にも思える。人間から理性を奪い、恐怖で狂わせて、敵も同じ人間であることを忘れさせ、突進する猛犬の群れのように殺戮へと駆り立てる、そんな戦争が残した深い傷痕を見つめる監督の眼差しからは、決して戦争を許してはならないというメッセージが力強く伝わってくる。 |
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RISE UP |
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『RISE
UP』
〜繊細なタッチで描かれる“希望と再生”の物語〜
監督:中島良 (2009年 日本 1時間25分)
出演:林遣都、山下リオ、太賀、青木崇高
2009年8月22日より石川先行公開、11月21日よりユーロスペースほか全国にて順次公開
関西では、11/28〜第七藝術劇場 、12/5〜京都シネマ、神戸アートビレッジセンターにて公開
公式サイト⇒ http://www.riseup-movie.jp/ |
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パラグライダーで大空を舞うことに熱中する高校生の航。“飛ぶ”ことで心に渦巻く後悔や不安の嵐から逃れようとする彼は、たまにしか発生しない“ライオン”と呼ばれる強力な上昇気流に乗ることに成功すれば、自分の中できっとなにかが変わるはずだと信じていた。そんなある日航が出会ったのは、事故で光を失ってしまった少女・ルイ。失明のショックから立ち直れずにいるルイを元気づけ、次第に心を通わせていく航だったが、やがて彼らにとって残酷な「事実」が明らかになり…。
他人と向き合うことは、自分自身と向き合うことでもある。突然光を奪われ、夢も希望も持てなくなってしまったルイは、リハビリにも消極的で投げやりな言動を繰り返し、周囲を困らせてばかり。航もまた、1年前のある出来事が心に暗い影を落としたままだ。そんな2人が互いに傷つきながらも正面からぶつかりあうことで「痛み」を乗り越えようと必死にもがく姿は、「現実」を受け入れるということの難しさや苦しさと同時に、諦めなければいつだって「可能性」は生まれ、新たな「道」を歩んでいけるのだと気付かせてくれる。
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また、若手キャストたちの好演も光る。主人公・航役の林遣都はナイーブな存在感で観る者の胸を揺さぶり、ヒロイン・ルイ役の山下リオも等身大の魅力で難役を見事に演じ切っている。中でも印象的なのが、ルイが自分のカメラで航を撮るクライマックスのシーンだ。失明してから大好きだったカメラを遠ざけていたルイに、再び“きっかけ”をくれたのは航だった。見ることはできなくても、感じることはできる。航の顔に優しく触れながら、「ありがとう」と微笑むルイと、彼女の心に光が戻ったのだと知り、涙を浮かべる航の表情が忘れがたい。 |
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パラグライダーを題材にしてはいるが、決して青春スポーツ系の映画ではないところが本作の魅力だ。夢中になれることやモノ、そして「出会い」を通して成長する少年と少女の心をつぶさにとらえた“希望と再生”のドラマとして、観る者に爽やかな感動と勇気を与えてくれる。そんな作品だ。 |
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副王家の一族 |
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『副王家の一族』 I
vicere 〜激動の時代を生き抜くしたたかな人間像〜
(2007年 イタリア・スペイン 2時間2分)
監督・脚本:ロベルト・ファエンツァ
原作:フェデリコ・デ・ロベルト
出演:アレッサンドロ・プレツィオージ、ランド・ブッツァンカ、クリスティーナ・カポトンディ、グイド・カプリーノ
11月14日〜テアトル梅田、12月5日〜京都シネマ、
神戸アートビレッジセンター 来春 公式サイト⇒ http://www.alcine-terran.com/ichizoku/ |
19世紀半ばのシチリアを舞台に、副王家の末裔、名門貴族ウゼダ家の家長ジャコモと嫡男コンサルヴォとの対立の歴史を描く。当時、シチリアはスペイン・ブルボン朝の支配下にあり、副王とは国王代理を務める行政官のこと。王政が終焉し、貴族社会が崩壊していく激動の時代の中でいかに生き残るか、父子の対立を軸に描いた一大叙事詩。
同じ時代のシチリアを舞台に公爵家を描いたルキノ・ヴィスコンティ監督の名作『山猫』では、没落する貴族文化への愛惜が込められていた。本作は、歴史的な検証に基づいて書かれた小説「副王たち」を原作に、より冷徹な視線で描かれる。 |
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コンサルヴォは、自由を許さない父ジャコモに絶えず反発し、離反を繰り返す。妹のテレーザと親友との恋を、ジャコモが許さず、テレーザに政略結婚を無理強いしようとすることに、強い怒りをぶつけ、対立は決定的なものとなる。 |
家の繁栄を望み、権力と金銭に貪欲で、家族も親族も意のままにしようとするジャコモ。そのことに微塵の疑いも後ろめたさも感じず、娘の涙にもまるで動じない。むしろ「我々を鍛えるのは憎悪だ。愛ではない」と憎しみを賛美する。医術よりも呪術を信じ、自分の身体に腫れ物ができても、医者より妖術師を呼ぶ徹底ぶり。すべてに対して盲信的な姿は好感を持てるものではないが、そのしたたかさに圧倒される。演じるのがイタリアで名高い喜劇俳優で、ユーモアも添えられる。映画の冒頭では、彼もまた母親に愛されなかった息子であることが暗示される。封建社会の当主として生きるしかなかった、時代の犠牲者という一面も感じさせ、威厳を持ちながらも、どこか狂信的で悲劇劇な人物として強烈な印象を残す。
そんな父親を反面教師とし、新しい生き方を模索しようとするコンサルヴォだが、時代のうねりの中で、成人し、家の主となった時、生き残るための道を選択する……。
このウゼダ家の中に好意を持てる人物はあまりいないかもしれない。恋人とオペラを観ながらささやきあう姿があまりに美しかったテレーザも、尽きせぬ涙が乾ききった後、己の運命を受け入れ、生き続けていくのだろう。激しく変わる時代の中で、悲しみを抱えながらも、したたかに強く生き抜こうとする人間の姿に、希望の光も感じる。みごたえある群像劇だ。 |
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2012 |
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『2012』
〜怒濤の2時間38分,人類は生き残れるのか!?〜
(2009年 アメリカ 2時間38分)
監督:ローランド・エメリッヒ
出演:ジョン・キューザック,キウェテル・イジョフォー,アマンダ・ピート,オリヴァー・プラット,タンディ・ニュートン,ダニー・クローヴァー,ウディ・ハレルソン |
2009年11月21日(土)〜梅田ブルク7,梅田ピカデリー、TOHOシネマズ梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹、OSシネマズミント神戸 他全国ロードショー
公式サイト⇒ http://www.sonypictures.jp/movies/2012/ |
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もちろん,生き残れるに決まっている。そうでなければ余りにも悲惨だ。そんな結末を用意することは,正統派ハリウッド映画なら,まずあり得ない。観客の期待を裏切り,人々を不幸に陥れるようなことはしない。本作も例外ではない。我らがヒーロー,ジャクソン(ジョン・キューザック)は,見たところ平凡な父親だが,超人的な活躍をする。何と,最後には人類を危機から救うのだ。もっとも,危機を招いた一因は彼自身にもあるのだが。 |
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最初の山場は,ジャクソンとその家族のロスからの大脱出劇だ。たまたま他の人々より早く世界終末の情報をキャッチしたジャクソンは,別居中の妻子と妻の恋人を間一髪で家の中から救い出す。そして,車を走らせるのだが,その後方では道路が車を追い掛けるように陥没し,前方では車の進路を妨害するように高層ビルが倒壊する。その後は小型飛行機に乗り換えるが,無事に飛び立てるのかと思わず肩に力が入って,十分すぎる見応えだ。 |
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超一級の視覚効果に圧倒される。「インデペンデンス・デイ」や「デイ・アフター・トモロー」を凌ぐ壮大なスケールの映像世界が展開する。舞台は2012年だが,そこで描かれた物語はノアの方舟そのものだ。旧約聖書の創世記では,神が人間の悪行に怒って大洪水を起こし,ノアの家族以外の人類を滅亡させたという。今,人間が生み出した温室効果ガスのため,地球が温暖化して海水面が上昇している。映画はまさしく時代を映す鏡だ。 |
如何にスリル満点でも,ジェットコースターに乗り続けていると疲れる。ホッと一息の時間には,人間ドラマがしっかりと組み込まれている。ジャクソンは,危機的な状況の中で一度は失った妻子を取り戻していく。目的遂行を最優先する大統領補佐官カール(オリヴァー・プラット)と人情味に厚い地質学者エイドリアン(キウェテル・イジョフォー)との対比も面白い。彼らを乗せた現代の方舟は,“希望の岬”にたどり着けるのだろうか。 |
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ゼロの焦点 |
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『ゼロの焦点』
〜変わりゆく時代、人々のベクトルが交錯する〜
(2009年 日本 2時間11分)
監督:犬童一心
出演:広末涼子,中谷美紀,木村多江,西島秀俊,鹿賀丈史 2009年11月14日(土)全国東宝系ロードショー
公式サイト⇒ http://zero-focus.jp/ |
禎子(広末涼子)の夫憲一(西島秀俊)は,結婚して間もない昭和32年12月1日仕事の引継で以前の勤務地金沢に赴く。8日に戻る予定だったのに戻らない。彼女も金沢へ向かう。それは10歳年上の寡黙な夫の過去を知り,その心を訪ねていく旅だった。もはや戦後ではないと言われたのが昭和31年だ。日本初の女性市長誕生のサブストーリーに象徴される新しい時代が手の届く所まで来ていた。禎子はその時代に向かって生まれてきた女性だった。 |
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一方,佐知子(中谷美紀)は,夢に見た新しい時代に生きるため,過去を断ち切ろうとしていた。久子(木村多江)の内縁の夫益三郎も同じ思いを抱いていた。途中まで殺人シーン以外は禎子の一人称で展開し,少しずつ状況が明らかにされていく。だが,突然カメラは彼女の主観を離れ,同じフレームの中に佐知子と久子の姿を映し出す。2人が対峙するシーンでは非日常の光と影が不安を増大させる。この鮮やかな転調で佳境へと突き進む。 |
佐知子の表情,特に目が怖い。何かが取り憑いたような恐ろしさを見せる。過去を葬ろうとする強固な決意が彼女の内側から奔出しているようだ。もう一つ,彼女が差し出した右手を捉えたシーンが印象に残る。掴もうとしても掴めない,届きそうで届かない。そんな彼女の状況が見えてくる。突っ張らなければ生きられなかった時代から抜け出そうとした正にそのとき,移り変わる時代の狭間に呑み込まれる。後には彼女の思いだけが残った。 |
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その思いは時代を超えて生き続けてきた。エンディングでは,弟が描いた佐知子の肖像画が画廊に飾られている。経済的な閉塞感の漂う現在の状況に彼女の思いが重なる。戦後を舞台とした物語が現代に結び付けられる。そのため,本作は,犯人は「誰か」には興味を示さず,焦点を「なぜ」に絞っていく。冬の荒れる海や降り積もる雪に当時の人々の心情が反映される。その中で禎子だけは憲一の真情に触れることで輝きを取り戻すのだった。 |
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なくもんか |
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『なくもんか』
〜不幸を笑いで吹き飛ばすクドカン流ホームドラマ〜
配給 東宝(2009・日本/134分)
監督 水田伸生
脚本 宮藤官九郎
出演 阿部サダヲ 瑛太 竹内結子 塚本高史
11月14日(土)全国東宝系ロードショー
公式サイト⇒ http://nakumonka.jp/index.html
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『舞妓Haaaan!!!』の水田伸生監督が、脚本に宮藤官九郎、主演に阿部サダヲを迎えて放つ泣き笑いのホームドラマ。下町の商店街でハムカツ屋を切り盛りする祐太と、売れっ子お笑い芸人として活躍する祐介。幼くして生き別れた兄弟が偶然再会し、家族の絆を取り戻すまでを描く。 |
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クドカン脚本には珍しく全体のテンションが抑え気味なところがいい。執筆した本人も「僕の作品とは思えないほど面白い」と太鼓判を押すように、ユーモアとシリアスのバランスが絶妙で、幅広い年齢層に好まれる作品となっている。その一方で、“エコ”や“イケメン芸人”ブームを全力で茶化すなど、クドカンらしいテイストも健在だ。 |
中でも一番の注目は、阿部サダヲが演じる祐太のキャラ設定にある。親に捨てられた過去をもつ祐太は、孤独と悲しみから自分を守るために“究極のお人好し術”を身に付けた。ずっと「なくもんか」と歯を食いしばってきたため、今じゃ素顔と笑顔の区別がない。一見誰からも好かれて明るい彼の屈折した部分に気付くと、いかに家族の愛情が人間の成長に必要不可欠であるかが見えてくる。そんな祐太が、弟という肉親を得ることで心を満たし、本当の自分を開放し始めるラストシーンに温かい感動を覚えた。 |
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大洗にも星はふるなり |
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『大洗にも星はふるなり』
〜マドンナは俺のもの!?「大洗」の勘違い合戦!〜
監督・脚本:福田雄一 (2009年 日本 1時間43分)
出演:山田孝之 山本裕典、ムロツヨシ、佐藤二朗、戸田恵梨香 2009年11月7日(土)〜シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、京都シネマ、シネ・リーブル神戸にて公開
公式サイト⇒ http://www.ooarai-movie.com/ |
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映画製作の決め手を聞かれてスピルバーグは「グッド・ストーリー」とズバリ言う。スピルバーグならド派手で波乱万丈のストーリーを工夫を凝らして映像化、世界中の映画ファンにアピールするわけだが、グッド・ストーリーとは“良い脚本”のことでもあって、日本の片隅(大洗)での一晩の出来事でも十分充分面白いストーリーが出来上がるる、それを証明したのがこの映画だ。 |
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場所は大洗(茨城県)の海岸、それも人のいない冬の海の家。そこに5人の男が1通の手紙で集められる。勘違いナルシスト男(山田孝之)をはじめとする5人はその夏、海の家でアルバイトした仲間で、手紙の差出人にはその時の憧れのマドンナ江里子(戸田恵里香)の名が…。「クリスマス・イヴの夜、海の家で会いたい」という言葉に海の家のマスターや通り掛かりの弁護士まで「我こそは江里子の本命」と思い込んだ面々の馬鹿馬鹿しくもアホらしい勘違い合戦が始まる…。
マドンナのハートを射止めたのは果たして誰か? |
“密室”劇として次々に明らかになる物語展開、各自の妄想から物証、状況証拠を積み重ねて真実を洗い出していく手法は一昨年の傑作「キサラギ」(佐藤祐市監督、古沢良太脚本)をほうふつさせる。もちろん、意外な結末も用意されている。人間をつぶさに描くことはやはり面白い物語になりうるのである。 |
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ファッションが教えてくれること |
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『ファッションが教えてくれること』 The
September Issue 〜“プラダを着た悪魔”、
その仕事っぷりと知られざる素顔に迫る!〜 監督・製作:R.J.カトラー (2009年 アメリカ 1時30分)
出演:アナ・ウィンター、グレイス・コディントン、アンドレ・L・タリー 11月7日〜梅田ブルク7にて独占公開
公式サイト⇒
http://www.fashion-movie.jp/ |
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映画『プラダを着た悪魔』のモデルと言われている米版ヴォーグの編集長、アナ・ウィンター。彼女の活躍は今や一編集長に留まらず、高い貢献度によりファッション業界の最重要人物としてその名を轟かせている。
映し出されるのは、秋のファッション特大号(9月号)の製作過程をとらえたドキュメンタリー。ニューヨークの編集部を中心に、パリでの秋冬コレクションのチェックやローマでの表紙撮影の様子など、好奇心をかきたてられる刺激的なシーンの連続だ。
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ご存知のアナの妥協なき決断、容赦ないダメ出しは「生き方の一部」というファッションへの比類なき真摯な思いがあるからこそ。だから、たとえ納得がいかなくても編集部員達は常に前を見る。20年来の仲間、グレイス・コディントンにも焦点を当てアナ像に肉薄。自らの立場や役割に徹し互いに認め合う二人の姿は、これぞ仕事人!
筋金入りのファッション一家かと思いきや家族の中では異色のアナ。そんな事実も楽しい。 |
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ジェイン・オースティン
秘められた恋 |
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『ジェイン・オースティン 秘められた恋』
BECOMING JANE 〜イギリス女流作家の恋と苦悩〜
(2007年 イギリス 2時間)
監督:ジュリアン・ジャロルド
出演:アン・ハサウェイ、ジェームズ・マカヴォイ、
ジュリー・ウォルターズ 11/7〜テアトル梅田、12月中旬〜シネ・リーブル神戸、
順次〜京都シネマ 公式サイト⇒ http://www.jane-austen-movie.jp/ |
『プライドと偏見』『エマ』『いつか晴れた日に』など映画化されている作品も多く、生涯独身を貫き42歳で急逝したジェイン・オースティンの知られざる一面が描かれる。伝記作家のジョン・スペンスが調査を続け、浮かびあがってきた事柄から、この作品は生まれた。 |
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ある日ジェイン(アン・ハサウェイ)に運命の出会いが訪れる。兄ヘンリーと共にやってきたアイルランド人のトム・ルフロイ(ジェームズ・マカヴォイ)はロンドンで法律を学ぶ学生だ。遊び人だという噂も聞き、第一印象は最悪なものだったが、狭い村の中でよく顔を合わせるようになり、会話をかわす二人が、どんどん親密になるのは自然の成り行きだった。そんな時ジェインは、地元の名士の甥ウィスリーに求婚される。愛のある結婚を望むジェインはいったいどうするのか? |
ウィスリーの立派な邸宅で行われた舞踏会のシーンが印象に残る。トムの姿が見えず冴えない表情をしていたジェインが、スッと現れたトムを見るや否や、パァ〜っと頬を紅潮させ明るい表情になった。そんな彼女を見つめるウィスリーが気の毒でならなかったが、お互いに好きでも、決して認められない仲なのが、また悲しい。踊りながら目と目で通じあっている二人が、背中越しに密かに会話する様子にドキドキしてしまった。 |
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女性が、条件の良い相手と結婚することでしか人生を確立できなかった18世紀から19世紀にかけてのイギリス。ジェインの母が言うように、
「愛はあったほうがいい。だけどお金がなければ生きていけないのよ」というのは真実だろう。だが、家柄・資産にはなびかず、愛のない結婚をするより自立を志すジェインは潔い。だからといって、周囲の反対を押し切って情熱のままに行動したらどうなるのか・・・誰よりトムを不幸にしてしまうことを恐れたジェインの決断が、あまりにも切ない。 |
『プラダを着た悪魔』や『レイチェルの結婚』などの演技で評価の高いアン・ハサウェイが、情熱を内に秘めた慎み深い作家を好演している。相手役のジェームズ・マカヴォイも『つぐない』や『ペネロピ』などで深い情愛の表情を見せたかと思うと、『ウォンテッド』では華麗なアクションで魅了させたり、その多彩な演技の実力は、本作でもいかんなく発揮されている。 |
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イングロリアス・バスターズ |
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『イングロリアス・バスターズ』
〜映画的な記憶と興奮に満ち溢れた痛快作〜
(2009年 アメリカ 2時間32分)
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:ブラッド・ピット,メラニー・ロラン,クリストフ・ヴァルツ,イーライ・ロス,ミヒャエル・ファスベンダー,ダイアン・クルーガー,ダニエル・ブリュール,ティル・シュヴァイガー
2009年11月20日(金)よりTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
公式サイト⇒ http://i-basterds.com/ |
クエンティン・タランティーノ監督には,独自の映画文法があるようだ。他の人が真似ると失敗作だと思われかねない構成であっても,均整のとれたスタイルを保っている。彼の身体は,きっと末端に至るまで映画のエッセンスで満たされているに違いない。映画にどっぷりと漬かって,その真髄が完全に身に付いているのだろう。映像のテクニシャンであるだけでなく,面白い芝居作りをよく心得ている。だからこそ壮快さに満ちているのだ。 |
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本作は5部構成になっている。各パートが有機的に影響し合い,単なる総和を超えた世界が生み出される。第1章が伏線となって第3章の緊迫感が生まれる。ショシャナが第3章でランダ大佐と1対1で向き合う場面がある。彼こそ第1章で彼女の家族を殺害した人物だった。だが,彼は彼女の正体を知らない。監督は,観客をスクリーンに引き込んでショシャナと同じ立場に置く。いつ正体を暴かれるかという緊迫した状況に追い込まれるのだ。 |
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何しろ,ランダ大佐は,第1章ではショシャナの家族を匿っていた男を言葉巧みに陥れた人物である。彼に扮してクリストフ・ヴァルツは第62回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞している。納得の演技で観客を酔わせてくれる。“眼光人を射る“を体現したような男で,獲物に対してまるで蛇のように絡みつく。しかも,決して敵に回してはならず,味方に付けるべきだと思わせるような不思議な魅力をも放っている。それがラストで生きてくる。 |
シチュエーションの設定も手際がよい。第1章では,最初からナチスがありがたくない訪問者だということが示される。迎える男は何かを隠している。ランダ大佐が登場して間もなく,彼が一体どうやって男から秘密を聞き出すのかに焦点が絞られる。ミルクを飲んだりタバコを吸ったり,絶妙の間合いに焦らされる。第4章の居酒屋のシーンも同様だ。ドイツ兵に変装した英国人の正体がバレないかと,全神経をスクリーンに集中させられる。 |
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第5章で全てが収れんされていく様は圧巻だ。映画館が舞台で,映写されているスクリーンをその裏側から映し出すシーンがある。倒錯した不可思議な世界が広がっていく。また,これに続くシーンが壮絶で,永遠に忘れられないものとなった。劇中のスクリーンに大きく映し出されたショシャナの顔は,正に復讐の鬼と化している。炎に包まれていく中で,妖しく神懸かり的なイメージさえ漂わせている。これこそ映画の醍醐味というものだ。 |
【おまけ】
劇中の映画館の看板には『死の銀嶺』という実在の映画が登場する。ジョージ・ウィルヘルム・パブストとアーノルド・ファンクが共同監督した1929年の作品だ。これには女優としてレニ・リーフェンシュタールが出演している。彼女が監督した1942年作品『意志の勝利』が2009年東京で公開された。ナチ党大会のドキュメンタリーだ。そこには本物のヒトラーの勇姿が映されている。本作のいかにもまがい物のヒトラーとのギャップが面白い。 |
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僕らのワンダフルデイズ |
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『僕らのワンダフルデイズ』
〜オヤジバンドだからと軽くみてはいけない!〜
(2009年 日本 1時間52分)
監督:星田良子
出演:竹中直人、宅麻伸、斉藤暁、稲垣潤一、段田安則、浅田美代子、紺野美沙子、貫地谷しほり 2009年11月7日(土)〜
角川シネマ新宿ほか全国ロードショー!
関西では、梅田ピカデリー、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹、他にて公開 公式サイト⇒ http://www.w-days.jp/ |
50歳を少し超えたオヤジ5人が高校時代にやっていたバンド「シーラカンズ」を再結成する。竹中直人がヴォーカル、宅麻伸がギター、斉藤暁がキーボード、段田安則がベースで,稲垣潤一がドラムだ。お寺の本堂を借りて練習し,実在の「全国ナイスミドル音楽祭」への出場を目指す。出演時間が迫る中でのハプニングがサスペンスを生み,これに痛快な演奏シーンが続き,その後もう一つオマケがあるのが心憎い。そう,これは家族の物語だ。
竹中のアクの強さが目立たず,5人のバランスが取れている。これに家庭や仕事の情景を絡めて,なかなか面白い。それにしても,徹ちゃん(竹中)はそそっかしい。女の子をめぐる山本(宅間)との高校時代のエピソードにも,それが表れている。徹ちゃんは,入院中に医者の話を立ち聞きし,自分が癌で余命半年だが,妻がそれを隠していると思い込んで意気消沈する。その姿が妻子(浅田美代子,貫地谷しほり)との間で笑いを生み出す。
例えば,妻が電話で「こんなに早く行ってしまうとは…」と話すのを聞いた徹ちゃんは,打ちひしがれる。彼にとって妻の言葉は自分が逝ってしまうという意味に聞こえるのだ。観客は,妻は娘が嫁いでいくことを話しているのだと分かっているので,この2人の意識のズレが可笑しく感じられる。古今東西,喜劇ではよく使われるスレ違いの手法だが,そんな物語の基本をきっちりと押さえた本作は,最近の日本映画の中でキラリと光っている。
ストーリーは,徹ちゃんと山本の2人を中心に展開する。彼らの妻子はもちろん,認知症の母を抱える栗田(段田)や自営業が苦しい渡辺(斉藤)が本作に厚みを加えてくれた。他の4人と高校時代を共有していない日暮(稲垣)は,やや物足りなさが感じられるとはいえ,少し離れた位置から独特の味を出している。山本の部下との関係など細部にも目が行き届いている。日常の中の生きる輝きが見えてきて,前向きでハッピーな印象が残った。 |
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