topへ
記者会見(過去)
旧作映画紹介
シネルフレバックナンバー プレゼント
 
 ・ ユッスー・ンドゥール
 ・ 長江にいきる 乗愛の物語
 ・ 悲しいボーイフレンド
 ・ へばの
 ・ フロスト×ニクソン
 ・ フィッシュストーリー
 ・ 小梅姐さん
 ・ ヤッターマン
 ・ ワルキューレ
 ・ いのちの戦場
            つづく・・
新作映画
 ユッスー・ンドゥール 魂の帰郷
『ユッスー・ンドゥール 魂の帰郷』
〜音楽を通して黒人の精神的なルーツに触れる〜

(2006年 スイス 1時間52分)
監督:ピエール・イヴ・ボルジョー
出演:ユッスー・ンドゥール
モンセフ・ジュヌ

2009年3月28日(土)〜テアトル梅田レイトショー
公式ホームページ→

 ユッスー・ンドゥールは,セネガルの首都ダカール出身のシンガーだ。その西端に位置するゴレ島は,西アフリカの交通の要所であり,ここから多くの黒人が奴隷として連行されたそうだ。両親と子どもの家族3人で行き先が異なると,今生の別れとなる。奴隷貿易は1536年から1848年まで約300年も続き,600万人の奴隷が死んだという。そのため,アフリカの発展は遅れたが,魂の嘆きが込められた黒人の音楽が世界中に広がっていった。
 彼は,ラテンミュージックやジャズ,ブルースを聴いたとき,自分の音楽との共通性を感じたという。そして,黒人の苦難に満ちた過去と向き合おうと考え,ミュージシャンの友人たちと演奏しながら各地を回ることを決意した。ゴレ島から出発して,アトランタ,ニューオーリンズ,ニューヨーク,そしてルクセンブルクを回り,故郷ダカールを経て再びゴレ島へと戻る。それは,”根源への回帰”であり,”民族の記憶を巡る旅”であった。
 アトランタでは,心を高揚させ鼓舞する音楽・ゴスペルに触れる。曲の本来の意味,コンセプトを大切にしないといけないと語られる。ニューオーリンズでは,ドラム奏者アイドリス・ムハンマドと出会う。そもそも即興音楽であるジャズは,アフリカの音楽と似通っているという。単純なリズムでも,そこから生まれるものは計り知れない。ニューヨークのヴォーカリストであるビエン・スレットギルは,音楽のために初めてアフリカへ戻る。

  ニューヨークの詩人アミリ・バラカは,アフリカ人であることを誇りにしている。大西洋の底に人骨の線路が走っているという彼の話には,深い悲しみが宿っている。ルクセンブルクでも,ジャズの最大の魅力は自分の内面を全てさらけ出せることだと言われる。その後,ゴレ島へ戻ったとき,母や妹が涙し,父が眠る地と歌われる。その曲には万感胸に迫るものがある。そして,「辛抱強く生きるんだ」というフレーズで今回の旅は終わった。
(河田 充規)ページトップへ
 長江にいきる 乗愛(ビンアイ)の物語
『長江にいきる 秉愛(ビンアイ)の物語』
〜三峡ダム建設に抵抗する一人の女性、その名はビンアイ〜

(2007年 中国 1時間57分 配給:ドキュメンタリー・ドリーム センター)
監督:フォン・イェン
音響設計:菊池信之

・山形国際ドキュメンタリー映画祭 2007 アジア千波万波部門
  小川伸介賞 (グランプリ)&コミュニティシネマ賞 受賞
・ナント三大陸映画祭 2008 銀の気球賞 受賞
・ブント・デ・ヴィスタ 2008 最優秀作品賞(グランプリ) 受賞 
 他、世界中の映画祭にて多数受賞

3月28日(土)〜 第七藝術劇場、京都シネマ
5月予定      神戸アートビレッジセンター
にてロードショー

公式ホームページ→
 中国がいかに巨大な国家であるかは、現在進んでいる世界最大のダム工事が如実に物語っている。“母なる川”と呼ばれる中国大陸最長の大河・長江の中でも、最も風光明媚とされる3つの峡谷がある場所に築かれることから“三峡ダム”と名付けられたこのダムは、貯水量393億平方メートル、ダム湖直径600キロメートル、通常水位・海抜175メートル、発電能力1,820万キロワット、年間発電量846億8,000万キロワット、総工事費300億ドル…… と、このように数値を並べてみたところで、その桁の外れ振りに圧倒されるばかりで、正直なところ想像が及ばない。ことほどさように、途方もなくスケールの大きい国、それが中国なのだ。
 三峡ダム建設は、1993年に着工し、本年2009年に竣工予定。実に17年の歳月を要する大工事だが、その構想は1919年にまで遡る。中華人民共和国ではなく、まだ中華民国であった時代に孫文が提唱したという記録が残っているから、実に足掛け90年。この事業が、“中国百年の夢”と呼ばれるのもあながち大仰ではない。
 この大事業の背景には、電力供給と大型船による輸送範囲の拡大の他に、これまでに幾度も氾濫を繰り返してきた長江(注1)の治水という目的もある。しかし、工事による代償もまた大きい。土砂堆積や水質汚染、生態系の変化、地震の誘発が懸念される他、三国志時代の史跡の水没が嘆かれている。そしてなにより、140万人に及ぶ近隣住民の強制退去(注2)に伴う貧困層の拡大は大きな社会問題となっている。

 三峡住民の強制退去に関心を持ったフォン・イェン監督は、現地でビンアイという女性と出会った。若い頃、父親の命じるまま嫁いで来た彼女だが、やがて病弱な夫との間にも愛を育むようになり、2人の子どもも授かった。しかし、その慎ましい幸せを、ダム建設が壊そうとしている。周囲が、役人に言われるがまま立ち退いていく中、ビンアイは決して動こうとしない。本作は、そんなビンアイに寄り添った7年間の記録である。
 立ち退きを拒み続けるビンアイは頑固だ。しかしその背景には、人生において選択の自由を与えられなかったことに対する苦渋がある。“ひとりっ子政策”によって幾度も堕胎を経験したビンアイが抱える国家への不信が、土地への執着となって彼女を頑なにさせるのだ。そして、そこにはビンアイの強硬な反骨精神と対をなす愛らしさがある。それは妻として、母として、そして女性としての愛らしさだ。本作は、ダム建設を背景とした一女性の物語。傑作である。
(注1)1954年の長江大洪水による被害は、死者3万人・家屋流出100万人。1998年にも死者1,320人を出している。
(注2)2020年までに更に230万人が退去予定である。


【喜多匡希の映画豆知識:『長江にいきる 秉愛(ビンアイ)の物語』】

・三峡ダム建設に伴う住民退去問題を描いた映画では、2006年 第63回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞(グランプリ)に輝いたジャ・ジャンクー監督の『長江哀歌(エレジー)』(2006)も素晴らしい。また、写真家エドワード・バーティンスキーに随行したカナダ産ドキュメンタリー映画『いま、ここにある風景』(2006)では、三峡ダム建設現場のみならず、巨大工場や採石場などを通して、変革しつつある中国の巨大さが捉えられている。

・フォン・イェン監督は、長く京都で留学生活を送り、流暢な日本語を話す。1993年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で初めてドキュメンタリー映画と出会った彼女は大いに感動し、そのことが映画製作を志すきっかけとなった。特に小川紳介(故人)の作品に魅せられたという。その縁もあって、本作には小川紳介作品の音響を多く手がけた菊池信之も協力することとなった。映画は国境を越えるのだ! 

(喜多 匡希)ページトップへ

 悲しいボーイフレンド
『悲しいボーイフレンド』
〜映像と音楽の相互表現を目指す
       “cinemusica(シネムジカ)”最新作〜


(2008年 日本 1時間27分 配給:ジョリー・ロジャー)
監督・脚本:草野陽花
主題歌:松下優也 『Mr. “Broken Heart”』(Epic Records Japan)
挿入歌:渡辺美里 『悲しいボーイフレンド』(Epic Records Japan)
出演:寺脇康文、寺島咲、松下優也、上田結、清水くるみ ほか

3月14日(土)〜  シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸
3月下旬公開  京都みなみ会館 にてロードショー

公式ホームページ→

 映像と音楽のコラボレーション・ムービー“cinemusica(シネムジカ)”シリーズの第6弾は、渡辺美里の同名曲をモチーフとした、郷愁漂う大人の初恋回想譚。テレビドラマ『相棒』シリーズで大ブレイクを果たした寺脇康文の初単独主演作品となる。

  東京の製薬会社で課長を務める岩津中(あたる)は37歳、独身。別段変わったところのない、ごく普通の男だ。人生を満喫しているとは言えないが、かといって不満があるわけでもない。しかし、ある少女との出会いが、岩津の人生に大きな影響を与えることになる…… ある日突然、会社に香奈という少女が岩津を訪ねて来る。見れば、岩津がかつて通っていた中学校の制服を着ている。聞けば、香奈は岩津の後輩にあたり、卒業アルバムに写った岩津がタイプだったから来たと言う。適当にあしらう岩津だが、香奈にまんまと騙されてしまい、気付けば生まれ故郷の兵庫県西宮市にいた。そこで、長らく忘れていた記憶がふいに蘇る。それは22年前。中学3年生だった岩津と同級生・昌子(しょうこ)との苦く切ない初恋の思い出だった……

  “初恋”という言葉には、どこか初々しく可愛らしい響きがある。しかし、思い出すだけでつらくなってしまう初恋というのも、案外多いのではないだろうか。少なくとも岩津にとってはそうだ。岩津の初恋は、これ以上ないほどの熱情に満ちていた。身も心も昌子を欲した。ただ、青かった。それゆえに意地を張ってしまった。予定を変更し、東京の高校に進学したのもそのためだ。これは“逃げ”だ。その結果、岩津は昌子を傷付け、自分自身も傷付けた。東京にやって来てから、果てしない後悔に襲われたことだろう。しかし、その時、岩津はまたしても逃げたのだ。“忘れてしまう”という手段を以って……

  それほど意外性のある筋運びではない。しかし、草野陽花監督の丹念な演出が郷愁を誘い、寺脇康文の真摯な熱演が心に迫ってくる。しかし、なにより素晴らしいのは、15歳の岩津を演じてスクリーン・デビューを果たした歌手・松下優也による主題歌『Mr. “Broken Heart”』だ。台詞ではなく、音楽・歌によって主題が鮮明に浮き上がる。これこそ、“cinemusica”の目指す表現であろう。歌曲の使用が見事に演出として機能していることに、思わず唸った。劇中で、現代の岩津が言う“逃げない、優しい、ちゃんとした大人”になることは容易なことではない。しかし、常にそうなりたいと願い、そのために頑張ることが何よりも大切であることを、本作はサラリと教えてくれる。そう、心が壊れる(“Broken Heart”)ことのないように。

 
【喜多匡希の映画豆知識『悲しいボーイフレンド』】
“cinemusica(シネムジカ)”は、エピックレコードジャパンの映像業界参入に際して立ち上げられた新機軸のプロジェクトで、提唱者は映画監督の井上春生。1作目から5作目までのタイトルと監督、モチーフとなった楽曲とそれを歌ったアーティストを御紹介しておこう。


♯1.『cherry pie チェリーパイ』(2006)      監督:井上春生  モチーフ楽曲:『二輪草』(いきものがかり)
♯2.『東京の嘘』(2006)                 監督:井上春生  モチーフ楽曲:『jinx』(nangi)
♯3.『WHITE MEXICO ホワイト・メキシコ』(2007) 監督:井上春生  モチーフ楽曲:『Along the Line』(Akeboshi)
♯4、『音符と昆布』(2007)              監督:井上春生  モチーフ楽曲:『Soul Mate』(CHIX CHICKS)
♯5.『コラソン de メロン』(2008)            監督:田中誠   モチーフ楽曲:『恋模様』(SCANDAL)

(喜多 匡希)ページトップへ

 へばの
『へばの』
〜映画らしさが充満する中、疾走する愛の哀しみ〜
(2008年 日本 1時間21分 配給:team JUDAS)
監督・脚本:木村文洋(ぶんよう)
出演:西山真来、長谷川等、工藤佳子、吉岡睦雄 ほか
【シネ・ドライブ2009 関連企画】
3月7日(土)〜20日(金) PLANET+1にてレイトショー(第1週→21:00〜 第2週→19:00〜)
・第39回 カイロ国際映画祭International competition for Digital Feature Films 部門 シルバー・アワード受賞!
・第38回 ロッテルダム国際映画祭 Bright Future部門正式出品 ほか、映画祭上映多数

公式ホームページ→
 青白い北国の夜の風景が延々と映し出されるファーストシーンに息を呑んだ。嵐と言って良いほどの猛風が、轟音を伴って心に吹き荒ぶ。この寒々しいまでに荒涼とした光景は一体何事であろう。命あるものなど何一つ映っていないというのに、鬱屈した“感情”が画面一杯に漲り、やがてドロドロと溢れ出して来る。重苦しさに拍車をかける黒灰色のどんよりとした雲が意識の中にまで垂れ込めるのを感じながらも、その不穏さに潜む甘美な誘惑に抗えず、目が離せない。なぜか? 決まっている。本作が紛れも無い“映画”であるからだ。そうだ、これが“映画”だ! そう気付いた次の瞬間、こちらの意識を察したかのように物語が動き始める。風景を溶かすようにオーバーラップして来る女性の裸体。ここで『へばの』は呼吸を始める――。
 木村文洋(ぶんよう)の初長編作品である本作は、とびきりの将来性を感じさせる輝かしい原石だ。

  核燃料再処理工場を擁することで有名な青森県六ヶ所村を舞台に、工場で働く治と、その恋人・紀美(きみ)の悲痛な愛の彷徨が描かれる。作業中にプルトニウムの内部被曝に見舞われた治は、子どもへの二次被曝の可能性を否定できず結婚を躊躇するが、紀美はそれでも結婚したいと願う。愛ゆえの苦悩に心が乱れ、やがて治は突然姿を消してしまう。そして3年後、思いがけない再会をした2人は…… クライマックスで示される“ある決断”に、観る者の心は是非を超越した衝撃に打ち震えることになる。
 2007年に発生した内部被曝事故をモチーフとしているが、決していたずらな作品ではない。ここで表現されているのは、普遍的な“愛ゆえの哀しみ”だ。完璧な作品ではない。ほころびは幾つもあるし、恐ろしくひとりよがりな失敗もしている。しかし、それを補って余りある映画らしさが全編を貫いているのだ。
 青森県生まれの木村は、映画という母体にこの風景を抱かせたかったのだろう。その中で、“男と女”“肉体と風景”“気温と体温”“都会と田舎”という対比が際立って意味を持ってくる。タイトルになっている「へばの」とは、青森弁で「さようなら」という意味だそうだが、紀美の「へばの」、治の「へば」という言葉が交錯した直後、“愛”という枷にはめられてもがく男女の肉体が無音の叫び声を発しながら疾走を始める。その瞬間に感じたゾクゾクとした感触は、映画ならではの快感であった。
 音楽北村早樹子のピアノ伴奏と歌声、安全地帯の『恋の予感』が素晴らしい効果を上げている。主演の西山真来と吉岡睦雄の熱演や高橋和博の撮影も同様だ。しかし、なによりも木村文洋の出現が喜ばしい。これは最早事件と言える。
【喜多匡希の映画豆知識:『へばの』】
木村文洋監督は、1979年青森県弘前市生まれの29歳。2000年に始まった京都国際学生映画祭創設時のメンバーで、2003年には運営委員長を務めた。その後、PLANET+1主催の映画ワークショップに参加し、自主映画の道へ。井土紀州監督らに師事し、2007年には同監督の『ラザロ -LAZARUS-』三部作(『蒼ざめたる馬』、『朝日のあたる家』、『複製の廃墟』)の宣伝にも携わった。2007年に自主映画中篇『小谷可南子の手馴れた砂』(40分)を監督。この作品は、唐津正樹監督の『喧騒のあと』(12分)、神農了愛監督の『ユキとカナコの昼下がり』(12分)と併せて【シネ・ドライブ2009】で上映される。新世代監督の登場を目撃して欲しい。上映スケジュールは以下の通り。
3/18[水] 17:30〜 中崎町・PLANET+1
3/23[月] 15:00〜 九 条・シネヌーヴォX
4/30[月] 17:00〜 中崎町・PLANET+1
※18日は3監督によるトークイベントあり

(喜多 匡希)ページトップへ

 フロスト×ニクソン
『フロスト×ニクソン』
〜TVインタビュー版「ロッキー」の痛快さ!〜


(2008年 アメリカ 2時間02分)
監督:ロン・ハワード
出演:フランク・ランジェラ、 マイケル・シーン、 ケビン・ベーコン、
レベッカ・ホール、 トビー・ジョーンズ、 マシュー・マクファディン、
オリバー・プラット、 サム・ロックウェル
2009年3月28日(土)〜TOHOシネマズシャンテ 他全国ロードショー
公式ホームページ→ 
 ニクソンは,弁護士出身の第37代アメリカ合衆国大統領で,ウォーターゲート事件に端を発した政治スキャンダルのため,1974年に辞任に追い込まれた。一方,フロストは,イギリス出身のバラエティ番組の司会者で,オーストラリアでトークショーを続けながら,アメリカのTVネットワークへの進出のため,ニクソンに単独インタビューを申し入れる。過去の業績への再評価と政界復帰を企図するニクソンは,フロストを利用しようと考えた。
 ニクソンがインタビュアーとしてフロストを選んだ理由や,フロストがインタビュー番組を企画し製作する舞台裏など,番組の実現に至る経緯が要領よく,時にはコミカルに描かれる。そして,双方の関係者が後日インタビューに答える形で当時の心情等を説明するシーンが繰り返し挿入される。ドキュメンタリーでよく用いられる手法だが,これを巧みに利用して絶妙なナレーションとなっている上,コーヒーブレークのような味わいがある。
 この手法は監督のロン・ハワードの発案だという。天才数学者の半生を見事に映像化した「ビューティフル・マインド」(2001年)など,印象に残る作品が多い。また,本作は2006年に上演された戯曲の映画化だ。その作者であるピーター・モーガンが本作の脚本も執筆している。非常に演劇的なドラマをスリリングな映画に仕上げている。その腕前の確かさは,「クイーン」や「ラストキング・オブ・スコットランド」で既に証明されている。
 社交的で多くの人に好かれるフロストと,彼とは対照的に孤独を抱えているニクソン。2人の長時間に及ぶタイトルマッチが始まる。マイケル・シーンとフランク・ランジェラは,共に舞台でも同じ役を演じている。スポットライトを浴びるのはどちらか。たとえ結論が分かっていても,その瞬間を見逃すまいと目と耳をこらす。そして,あのニクソンの表情をカメラが捉えたときの,思わず息を飲む静寂の瞬間はなかなか体験できるものではない。
(河田 充規)ページトップへ
 フィッシュストーリー
『フィッシュストーリー』
〜予想不可能な語りの妙! 予備知識不要の面白さ!!〜

(2009年 日本 1時間52分 配給:ショウゲート)
監督:中村義洋
原作:伊坂幸太郎 『フィッシュストーリー』(新潮社・所収)
音楽プロデュース:斉藤和義
出演:伊藤敦史、高良健吾、多部未華子、濱田岳、森山未來、大森南朋 ほか
3月20日(金・祝)〜 シネ・リーブル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸にて公開

【初日舞台挨拶情報】
・シネ・リーブル梅田(12:10の回上映開始前)全席指定・1800円
・シネ・リーブル神戸(14:05の会上映開始前)全席自由・1800円(整理番号付)
 
登壇者(予定):伊藤淳史、中村義洋監督
※チケットぴあにて販売中! 前売券との引き換え不可。

公式ホームページ→ 

【発売当時だれにも聞かれなかった曲『フィッシュストーリー』が、時空を超えて世界を救う!】
   うーん、上手いなあ! 面白いなあ!! と、最初から最後まで感心させられっ放し&楽しみっ放しの2時間弱。随所でクスクスとした笑いを誘う、ゆるくてとぼけたテイストを心地良く感じていたら、フイに胸倉を掴まれてブンブン振り回されるような急展開が待ち受けている。ウキウキワクワク! ハラハラドキドキ! どこに連れて行かれるのか、まったく予想できない語りの妙に酔いしれた。

  原作は伊坂幸太郎の短編集『フィッシュストーリー』所収の同名小説。監督は、『アヒルと鴨のコインロッカー』(2006)で、既に伊坂ワールドの映像化に成功している中村義洋。

 1975年・1982年・2009年・2012年+αと、複数の時制が交錯しつつ、数々のエピソードが綴られる。そうやって、大風呂敷を広げるだけ広げておいて、ラストできちんと畳むその鮮やかさ! その見事さ!! 90年代以降、俄かに日本映画界で流行している“癒し系脱力コメディ”かと思いきや、後半に用意されている青春ドラマに泣かされ、全ての謎が一直線上に繋がるラストでは深く温かい感動に心が満たされた。
 冒頭。不気味に静まり返った商店街のアーケードを、点滴袋をぶら下げた電動車椅子に乗る中年男性(石丸謙二郎。得体の知れないヤな中年男性を演じれば天下一品! でも、私生活ではスポーツ大好きのアウトドア派筋肉オジサン)が「ウィーーーーン…… ウィーーーン……」と進んで行く。その、いかにも不自由さを感じさせるノロノロとした動きを、こちらがハラハラと、そしてジッと見守っていると、突然、その男が、手に持った杖で傍らに止めてある自転車を「ゴン!」と突く。ドミノ倒しになる自転車。直後、男は「フン!」と吐き捨てる。「なんか、ヤなオッサンだな……」と、観客の心の中で「男」は「オッサン」に変わる。しかし、嫌悪感と警戒心が招く居心地の悪さに滅入りながらも、スクリーンから目を離すことが出来ない。すると、オッサンは商店街の外れにあるレコード店の前で車椅子を止める。立ち上がるオッサン。「歩けるんやん!!」 呆気に取られる観客は、その直後、更に呆然とさせられることになる。
【今日は2012年。そして地球滅亡まで、あと5時間……】

 「なるほど、だから白昼にも関わらず商店街に人影がなかったのか!」とここでようやく合点がいく。しかし、そこで解けたのは、ほんのちっぽけな謎に過ぎない。今や、頭の中には更に大きな謎が幾つも出現している。「この謎を解きたい! 教えて!!」 観客は一人残らずそう願うはずだ。
 この先には、更に想いも付かないセンス・オブ・ワンダーな展開が待ち受けている。隕石襲来による地球滅亡、ノストラダムスの大予言、合コン、パンクバンド“逆鱗”、焼そばと焼うどん、ゴレンジャー、アップルパイとシージャック、パティシエとカンフー・アクション、そして2つの『フィッシュストーリー』…… これら、一見バラバラとしか思えないキーワードが徐々に繋がりあい、遂には地球を救うのだ!

  今、この文章をお読みになっている読者には、何が何やらさっぱり理解できていないことだろう。しかし、地球が救われる過程を見届けたくなったはずだ。ならばそれで良い。後は、劇場へ足を運び、全ての謎が解けるのを見届けるだけだ。満足度は保証しよう。

※出来るなら、原作を未読の方は、そのまま劇場に足を運んで欲しい。予備知識を出来るだけ仕入れずに鑑賞した方が、より楽しめること間違いなしだ!

【喜多匡希の映画豆知識:『フィッシュストーリー』】
・本作の音楽を提供したのは、1990年代から活躍する人気シンガーソングライターの斉藤和義。劇中に登場するパンクバンド“逆鱗”が歌う『フィッシュストーリー』は、伊坂幸太郎の原作にある一節「僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない」を元に彼が作詞・作曲したもの。この度、“逆鱗”がスクリーンを飛び出してCDデビューを果たした! メンバーは、リーダー兼ベース(繁樹役)に伊藤淳史、ボーカル(五郎役)に高良健吾、ドラム(鉄也役)に渋川清彦、ギター(亮二役)に大川内利充という、映画そのままの布陣だ。高良健吾の、尖った高音が印象的な歌声は、1990年代を走り抜けたカリスマバンド“BLANKEY JET CITY”の浅井健一を彷彿とさせる。『M』(2006)や『蛇にピアス』(2008)でも際立った魅力を放っていた彼は、いかにもイマドキな風貌で、ファッション・リーダーとしても人気だが、書道4段という意外な一面も持っている。

(喜多 匡希)ページトップへ
 小梅姐さん
『小梅姐さん』
〜「好きで好きでしょうがない。唄が好きでねえ」の情熱〜

(2007年 日本 1時間18分 配給:グループ現代)
監督:山本眸古(やまもと ひこ)
出演:赤坂小梅(故人)
証言者:島倉千代子、菅原都々子、畠山みどり、舟木一夫、安井昌二 ほか
ナレーター:水谷八重子
・あいち国際女性映画祭2008公式招待 愛知県興行協会賞(準グランプリ)受賞
・アジアフォーカス福岡国際映画祭2007正式招待作品

3月14日(土)〜 第七藝術劇場にて公開

公式ホームページ→ 
 往年の国民的人気歌手・赤坂小梅の生涯に迫るドキュメンタリー映画だ。と言っても、ここですぐにピンと来るのは60代以上の高齢者か民謡ファン、あるいは筆者のような昭和歌謡マニアくらいのものであろう。ともすれば「芸者? 小梅? ああ、『小梅日記』の人ね!」と、お笑い女形芸人の小梅太夫と勘違いされてしまう。となれば、まずは「芸者歌手とはなんぞや?」というところから始めなくてはならない。
 昭和年鑑前半と言えば、丁度、戦前・戦中・戦後にまたがる日本の激動期。この頃、一世を風靡したのが芸者歌手である。中には格好だけを真似た者もいたが、本来は歌手に転じた鶯(うぐいす)芸者を指す。鶯芸者とは、唄や三味線を専門とする芸者=地方(じかた)の中でも、とりわけ美しい声の持ち主のこと。その存在に、レコード会社各社が目を付けて大々的に売り出したのが芸者歌手隆盛のきっかけである。特に大人気を博したのが、“鶯芸者の三羽烏”と呼ばれた3人、『天竜下れば』の市丸、『島の娘』の小唄勝太郎、『黒田節』の赤坂小梅である。

  その中でも、赤坂小梅はひときわ異彩を放つ存在だった。他の2人が、互いにライバル心をむき出しにして激しく競い合う中、ただ一人、自然体であったのだ。なぜか? 小梅にとって、世間の評価や人気は二の次三の次。唄うことそのものが生きがいだったからである。
 福岡県は三井炭鉱の裾野に生まれた小梅は、親族の猛反対を押し切り、16歳で自ら進んで芸者の道へ。「好きで好きでしょうがない。唄が好きでねえ」の情熱は生涯衰えることがなかった。欲やプライドを持たなかったことが、面倒見が良く、豪放で裏表のない人柄を作り上げ、周囲から“姐さん”と慕われることに繋がったのだ。どっしりとした巨体から、“小梅ならぬ大梅”と言われたが、そこには人としての器の大きさに対する親愛の情も込められている。
 小梅の稀有な生涯は、よくあるスター誕生秘話に留まらず、大変興味深いものである。そこに、昭和の世相や芸能史が立ち上ってくるからだ。それだけに、事実の羅列に終始した単調な演出に不満が残る。小梅の真摯な心と現代とを結ぶ架け橋となるテーマが欲しかった。とはいえ、語られる赤坂小梅の人物像は人間的な魅力に溢れており、温かい。
【喜多匡希の映画豆知識:『小梅姐さん』】
・赤坂小梅は、歌手としてだけではなく、映画出演も多数こなした。盆踊りでも有名な民謡『炭鉱節』が流れる『月が出た出た』(1951)や、“黒田節の小梅か、小梅の黒田節か”とまで言われる代名詞的ヒット曲『黒田節』をフィーチャーした『妻恋黒田節』(1954)など、その出自を生かした芸者役が多いが、『満月狸ばやし』『阿波おどり狸合戦』(共に1954)や『花くらべ狸道中』(1961)といった、いわゆる“狸もの”にも多く出演している。また、『又四郎喧嘩旅』(1956)では巨体を活かして女力士役で出演。小梅の父・向山権平は“武蔵山権平”の四股名を持った人物で、小梅もまた相撲好きであった。これら、映画出演作の一部映像を本作でも目にすることが出来るのは、日本映画ファンにとっても大変貴重と言えよう。
(喜多 匡希)ページトップへ
 ヤッターマン
『ヤッターマン』
〜アニメ実写化の壁を打ち破った制作費20億円の超大作、ついに登場!〜


(2009年 日本 1時間51分 配給:松竹/日活)
監督:三池崇史
原作:竜の子プロダクション 『タイムボカンシリーズ ヤッターマン』
(1977年1月〜1979年1月放映)
出演:櫻井翔、福田沙紀、生瀬勝久、ケンドーコバヤシ、岡本杏理、阿部サダヲ、深田恭子 ほか
声の出演:滝口順平、山寺宏一、たかはし智秋
2009年3月7日(土)〜 梅田ピカデリー、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、アポロシネマ8、MOVIX京都、
神戸国際松竹、MOVIX六甲、109シネマズHAT神戸 ほかにてロードショー

公式ホームページ→
 アニメファン&映画ファンに朗報だ。『ヤッターマン』はアニメの実写化に成功した稀にみる快作だ。
 「原作のイメージを壊さないで欲しい!!」 アニメ作品の実写映画化に対するファンの願いはこの一点に尽きるが、これまでに発表された作品のほとんどは失敗作だった。大幅なアレンジにより原作を破壊してしまったり、作り手の偏愛が空回りしてマニアックになり過ぎたり…… しかし、遂にファンの願いが叶えられる日がやって来たのだ。
 冒頭、“渋谷のハチ公”ならぬ“渋山のハッチ公”として、みなしごハッチの彫像が大写しとなるが、更に目を凝らせば、渋谷の街をパロディにした小ネタに混じって、『ハクション大魔王』や『おらぁグズラだど』『マッハGoGoGo』といった竜の子プロダクションが誇る人気アニメのキャラクターの存在を確認できる。オープニングのお遊びは三池作品恒例のお楽しみだが、本作ではそれらがただのおふざけに終始していない。数々のオマージュは、原作に対する愛着の表れである。原作を大切にすることは、即ち、ファンを大切にすることと同義だ。そして、これこそがこれまでに発表されたアニメの実写化作品にとって決定的に欠けていた要素である。僅か数十秒の導入部で、三池崇史は「日本で映画監督をやっている以上、『ヤッターマン』を映画化するまでは死ねない!」という製作発表会見での一言が伊達ではなかったことを証明しているのだ。これまでに数々の辛酸を舐めてきたため、硬化していたファンの心はここでスッと和らぐ。ツカミとして最上の見事な導入部である。そして、ここで示された原作尊重の姿勢が全編を貫いているのだから素晴らしい。アニメ版おなじみのネタを漏らさず採り入れたサービス精神は感涙ものだ。
 もちろん、原作ファンだけが満足すれば良いというわけではない。原作を知らない層も楽しむことが出来て、初めて成功と言えるのだ。そして、本作はその点も見事にクリアーしている。成功の鍵は、やはり監督の人選にある。過激な作風から“鬼才”として知られるため、意外に感じるだろうが、三池崇史は実に手堅く作品をまとめ上げる監督だ。日本映画学校卒業後、今村昌平や恩地日出夫といった実力派の名匠に師事した彼は、映画作りの基本をみっちり体得している。その証拠に、一見暴走しているように見えてもヤリ過ぎることはない。作品が壊れるギリギリのところでスっと引く。その絶妙の匙加減はバランス感覚に長けた職人ならではの味。本作では、そんな職人ぶりが存分に発揮されていて素晴らしい。
 唯一、ドロンジョ役に深田恭子を起用したことが賛否を呼びそうだが、ここは『ヤッターマン』を知らない層へのアピールとして効果ありだと好意的に解釈したい。事実、フカキョンの頑張りは、新しいドロンジョ像を生み出している。そんな新生ドロンジョを支えるボヤッキーとトンズラーは非の打ち所のない素晴らしさ。特にボヤッキーを演じた生瀬勝久は助演男優賞ものの名演技だ!
 かくして、『ヤッターマン』は、原作ファン・映画ファンの双方が楽しめる一大エンターテインメントに仕上がった。これを快挙と言わずして何と言おう!
【喜多匡希の映画豆知識:『ヤッターマン』
●憎めない悪役キャラとして人気のドロンボー一味=ドロンジョ、ボヤッキー、トンズラーだが、その名は、それぞれ「ドロンする」「ぼやく」「とんずら」に由来する。ただし、ドロンジョにはネーミングのモデルとなった人物が存在する。『サレムの魔女』(1956)や『お嬢さん、お手やわらかに!』(1958年)で知られるフランスの美人女優ミレーヌ・ドモンジョだ。ドロンジョの声を担当した小原乃梨子は、洋画の吹き替えも多くこなしており、ブリジット・バルドー、クラウディア・カルディナーレ、ジェーン・フォンダ、シャーリー・マクレーン、シルビア・クリステルと並んで、ミレーヌ・ドモンジョも彼女の持ち役とされている。
(喜多 匡希)ページトップへ
 ワルキューレ
『ワルキューレ』
〜ドイツを愛すればこそ,ヒトラー暗殺!〜


(2009年 アメリカ 2時間)
監督:ブライアン・シンガー
出演:トム・クルーズ、ケネス・ブラナー、ビル・ナイ、テレンス・スタンプ、 トム・ウィルキンソン、エディ・イザード、クリスチャン・ベルケル、カリス・ファン・ハウテン、トーマス・クレッチマン、ジェイミー・パーカー
3月20日(祝・金)〜TOHOシネマズ(梅田・なんば・二条)、OSシネマズミント神戸 他全国ロードショー

公式ホームページ→
 実在の人物の暗殺に関する映画はいろいろだ。「暗殺者のメロディ」(1972米英伊)は,トロツキー暗殺事件を題材とした心理ドラマで,アラン・ドロン扮する暗殺者の内面に焦点が当てられていた。「ジャッカルの日」(1973米)では,ド・ゴール大統領の暗殺未遂が暗殺者の視点からサスペンスタッチで描かれている。「鷲は舞い降りた」(1977英米)は,ナチス・ドイツによるチャーチル暗殺が成功(!?)するまでのアクションが痛快だった。
 本作は,アドルフ・ヒトラー暗殺未遂事件を取り上げている。2008年には「ヒトラーの贋札」や「わが教え子,ヒトラー」が公開された。いすれもユダヤ人との関わりでナチス・ドイツを描いた作品だが,視点のユニークさが印象に残っている。これらとは異なり,本作は,大きなスケールで,ドイツ軍の内部にいてヒトラー暗殺を企てた男たちの物語が展開する。貴族出身のドイツ軍将校シュタウフェンブルク(トム・クルーズ)が主人公だ。
 暗殺の実行前後で少々違った趣がある。前半は,ヒトラー暗殺だけでなく,ナチス政権に代わる政府の樹立をも視野に入れた壮大な計画であることが,丁寧に描かれていく。主人公は,ドイツひいてはヨーロッパを救うためには,自分だけでなく妻子に犠牲を強いても,なおヒトラーを倒さなければならないという決意を固めている。ただ,ヒトラーの残虐行為が既知の事実となっているためであろうか,主人公のジレンマが今一つ伝わらない。
 だが,ブライアン・シンガー監督の繊細で,かつダイナミックな映像は,そんなささやかな欠点を補って余りある。例えば,前半で主人公がヒトラーの署名をもらいに行くシーンは,緊張感が漂っている。また,1944年7月20日に実行されたこの暗殺計画が成功しなかったことは周知の事実だ。そのため,後半は,暗殺の成否ではなく,計画が失敗に終わった過程を大きなうねりのようにスリリングに描くことにより,観客の興味を惹き付けている。
(河田 充規)ページトップへ
 いのちの戦場

(C) 2007 LES FILMS DU KIOSQUE - SND - FRANCE 2 CINEMA
『いのちの戦場−アルジェリア1959−』
〜誰も知らなかったアルジェリア独立戦争〜

(2007年 フランス 1時間52分)
監督:フローラン=エミリオ・シリ
出演:ブノワ・マジメル、アルベール・デュポンテル、オーレリアン・ルコワン、マルク・マルベ、エリック・サヴァン、
モハメッド・フラッグ
2009年3/14(土)〜テアトル梅田、3/28(土)〜 京都シネマ、
4月〜三宮シネフェニックス  にて公開

配給:ツイン
公式ホームページ→
 
 1959年,アルジェリア北西部のカビリア地方の山岳地帯。開巻早々,その風景が映し出される。幾何学模様のような冷たい静けさに包まれている。不穏な空気を漂わせる光景が視野いっぱいに広がり,そこには体温が全く感じられない。だが,突然何かが動く。それが何人もの人間の姿であることが明らかになっていく。彼らはフランス軍の兵士だ。そこでは,見えない敵・アルジェリア民族解放戦線(FLN)とのゲリラ戦が展開されていた。

(C) 2007 LES FILMS DU KIOSQUE - SND - FRANCE 2 CINEMA
 この導入部では,アルジェリア独立戦争の特徴が端的に視覚化されている。中尉が”運が悪くて”戦死する。その後任が主人公テリアン中尉だ。敵の姿が見えないことの恐怖や不安に覆われたゲリラ戦では情報の入手が死活問題となる。拷問も情報を入手するための重要な手段だ。テリアンは,戦場での体験に当惑したり怒りを覚えたりしながら,生き残るための”学習”をする。ここでは平和な社会で培われた価値観が簡単に崩れ去っていく。
 独立戦争は1954年から1962年まで続いた。モロッコやチュニジアとの違いは何か。アルジェリアの西隣と東隣の両国は1956年に独立した。アルジェリアは,1830年にフランスの植民地とされ,1881年から直轄領としてフランスに編入される。モロッコの44年,チュニジアの75年の植民地支配と量的にも質的にも異なるものがあったようだ。本作では,第二次大戦にフランス軍として戦ったアルジェリア兵の複雑で微妙な立場も描き込まれている。

(C) 2007 LES FILMS DU KIOSQUE - SND - FRANCE 2 CINEMA
 ベテラン兵ドニャック軍曹が本作に厚みを与えている。彼は,自らの戦場での体験をテリアンに教えることでその苛酷さを際立たせると共に,冷徹にテリアンの心理状態を観察している。一方,観客は,テリアンと同じ視点からその心情を体験すると共に,ドニャックの目を通してテリアンを客観視する立場に置かれる。その結果,ドニャックが最後に選択した行動とテリアンが最後に見た人物が衝撃的であると同時に納得できるものとなった。
(河田 充規)ページトップへ
 
 
HOME /ご利用に当たって