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 『トルソ』山崎裕監督
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★『トルソ』山崎裕監督インタビュー
『トルソ』山崎裕監督インタビュー
〜若い女性たちの迷い、とまどい、揺れる心理に迫る〜

(2009年 日本 1時間44分)
監督・撮影・脚本:山崎裕
出演:渡辺真起子、安藤サクラ、ARATA、蒼井そら、石橋蓮司、山口美也子

2010年9月4日(土)〜シネ・リーブル梅田、 10/16〜京都みなみ会館
・作品紹介⇒こちら
・公式サイト⇒ http://www.torso-movie.com/
人づきあいを避け、自分の世界にこもりがちなOLのヒロコ。恋人と喧嘩した妹のミナが荷物をまとめて突然押しかけてきたことで、共同生活が始まる。ヒロコとは対照的に、社交的で自由奔放、寂しがりなミナとの同居は、今まで平穏で単調だったヒロコの日常のリズムを徐々に崩し始める…。“トルソ”というのは、顔も手も足もない、男性の体を模した人形のことで、ヒロコにとっては友達のような恋人のような、自分だけの秘密な存在。

『誰も知らない』『歩いても 歩いても』など是枝裕和監督の数多くの作品の撮影を手がけてきた名カメラマン山崎裕氏の初監督作品。今年3月に開催された大阪アジアン映画祭で、日本初上映された折、山崎監督にお話をうかがうことができたので、大阪での公開を機にご紹介したい。
 <アイデアのきっかけ>
1970年代にテレビのドキュメンタリー番組の取材で、よくヨーロッパに行かれたという山崎監督。そのときデンマークで男性型のトルソを見かけて以来、ずっと頭の中にひっかかっていて、これをモチーフにいつか映画をつくりたいと思っていたそうだ。「主人公を普通の女性にして、少しひきこもりがちな状況に置き、それが壊されてしまうことでどうなるかと考えていきました」、「トルソを愛する35歳前後の女性と、十歳くらい年の離れた父親違いの妹と、姉妹を主人公に設定することで、二十歳代から三十歳代の女性たちの生態観察をする、というか生活を切り取っていきたいと思いました」
<キャスティングについて>
姉ヒロコに『M/OTHER』『殯の森』の渡辺真起子、妹に『愛のむきだし』『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』の安藤サクラを起用したキャスティングについては、「以前、女優とカメラマンだけ、監督のいない映画づくりで何が撮れるかというコンセプトの短編映画『TAMPEN短篇』をつくり、そのときご一緒したことから姉役には渡辺さんを、『俺たちに明日はないッス』で安藤さんと初めて会い、そのオーディションの時から、いろいろな表情をつくれる子で、芝居に対する感性が抜群と感じていたので、妹役には安藤さんと最初に思いました」

<演出について>
諏訪敦彦監督や是枝監督のような、素人に演じさせる映画監督にカメラマンとしてつき、その影響も受けたという山崎監督。役者たちには、芝居で説明しようとしないで、自分の感情が入るようにと希望したそうだ。「細かい演技指導をする気はありませんでした。役のバックグラウンドだけ頭の片隅に入れてもらって、あとは現場で、目の前に起こっていることに対してどう反応すればよいかだけを考えてもらいました。あまり役をつくりすぎず、本人のままでいいからと言い、相手に反応してわいてくる役者の感情をこちらがカメラですくいあげていきました」ちなみにベランダでの花火のシーンの撮影は本番一回でOKだったとのこと。姉妹が喧嘩するシーンは、台本では殴り合いだったそうだが、実際にやってみて、ぬいぐるみとかを投げ合う形に変わったそうだ。

<カメラマン出身の監督として>
本作の撮影は16ミリフィルム(上映は35ミリにブローアップ)で、撮影中は、モニターを使わず、自分でカメラをのぞいていたと語る山崎監督。姉妹の実家の田舎の風景以外は、すべて三脚をつけず、手持ちで撮影したそうだ。「カメラマンにとっては自分自身の肉体や生理感覚もいわば表現の道具。カメラマンが映像をどうつくるかではなくて、カメラマンが持っている生理感覚、肉体感が匂うような映画にしたいと思いました」、「登場人物の内面とかいっても、結局、映画では見えるものしか映らないわけで、だからこそおもしろい。人の人生って氷山みたいなもので、海の上に見えている部分はほんの一角。実はその下に何十倍もの大きいものを皆が持っている。上の方の一部分を見せるだけで、下の見えない部分を感じさせるようなことができればいいと思いました」
<映画づくりで心がけたこと>
ヒロコの日常を丁寧にすくいとった細やかな描写が印象的な本作。「掃除をしたり、料理をつくるといった日常の些細な出来事を積み重ねて描くことで、主人公の喜びや悲しみを感じてもらえたらと思います。できるだけ説明もせず、過度に劇的な状況もつくらず、ミニマムな表現にしたい、そういう意味では不親切かもしれませんね(笑)」

<女性を描くことについて>
本作には、姉妹のほかにも、個性的で魅力的な女性たちが脇役として登場する。蒼井そら演じる、ミナの恋敵は、まだ若く幼げで、図太いほどにたくましい神経の持ち主。姉とも妹とも違うキャラは強烈な印象を残す。「日本社会が戦前から戦後へと変わっていく中で、女性の生き方もどんどん変わっており、そんな女性たちを見るのが好きです。成瀬巳喜男監督の女性を主人公にした映画を観て感動し、「女性を描きたい」と思いました。今回、予算面の制約もあったのですが、男性をできるだけ登場させず、女性たちからみた男性として描きたいと思いました」

上映後の観客との質疑で、監督は、手持ちカメラにこだわった理由について「ドキュメンタリーをやっていた頃から手持ちが多く、対象と自分との関係性はその場その場で変化していくもので、撮影中に何が起こるかわからない中、対象との関係性をつくりながら写していこうすると手持ち撮影が多くなります」と答えた。
「『マッチを擦ると、顔がパッと赤くみえる。マッチが消えて真っ暗になっても、観客はその顔を覚えている』と、ある著名なヨーロッパの監督が言っておられたように、映画というのは、画面ではなく、観客がそれをみて想像し、つくりだし、観客のものになっていくものだと思います。そういうことをやっていきたい」とすてきなお話を紹介してくれた。


『大阪アジアン映画祭2010』にて他の国の監督や出演者らと
観終わった後、ヒロコの過去の心の傷について、ほとんど説明せず、会話の間や、微妙な表情の揺れから感じさせる演出の巧さ、役者たちの演技の凄さに驚き、友人と熱く語り合ったことを、半年経った今も鮮明に記憶している。監督の話をうかがって、映画にかける思いや意図するところがよくわかり、『トルソ』の魅力あふれる不思議な世界があらためて心に迫ってきた。演技力にかけては日本映画界屈指の二人の女優が演じる姉妹の姿は、きっと多くの観客の心を揺さぶり、共感を得るにちがいない。
(伊藤 久美子)ページトップへ
   
             
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