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 『旅立ち』 カトリーヌ・コルシニ監督 単独インタビュー
            
( 2010年3月19日(金) ホテルグランドハイアット東京にて

『旅立ち』 (PARTIR

(2008年 フランス 1時間25分) 

監督:カトリーヌ・コルシニ
出演:クリスティン・スコット・トーマス、セルジ・ロペス、
    アヴァン・アタル

〜現代版ボヴァリー夫人。恋を全うする強さと勇気と〜

40代の医師の妻がまるで熱病にでも罹ったかのように他の男性にのめり込んでいく。丁度、恋愛の抵抗力がない少女が身を焦がすように、一途に……。南仏の陽光ふりそそぐ緑の中で繰り広げられる大人の恋の行方はサスペンスフルなほど艶めかしい。そんな主人公の姿は羨ましくもありとても新鮮に感じられた。人の変化を的確に捉えた映像は、監督の鋭い洞察力に依るものと想像できる。マニッシュでクールな雰囲気の監督。女性ならではの繊細さを持ちながら、決して甘くない人生を映像で語ってみせる辛辣さもあるようだ。

【STORY】
医者の夫と2人の子供と南仏に暮らすスザンヌ。何不自由ない専業主婦の生活も、窮屈に思えて仕方ない40代の彼女は、子育てのためにあきらめた運動療養士の仕事を再開することに。カウンセリング室の増築工事が始まり、彼女は現場で働くイヴァンと知り合う。前科のある男と激しく惹かれ合うようになったスザンヌは、家族も安定した暮らしも捨てて、彼と生きる決意をするが・・・。

【プロフィール】
1956年、フランス・ドルー生まれ。パリのコンセルヴァトワールで演技を学びながら、映画と演劇の脚本を書き始める。1987年『魅了されたミニマリストの破綻』(未・ビデオ発売)で監督デビュー。カリン・ヴィアールをスター女優に導いた『ヌーヴェル・イヴ』(‘99・未)に続き、エマニエル・ベアール主演『彼女たちの時間』(‘01)で、女性の内面に肉薄する確かな演出力を証明。

――― 主人公の気持ちがクリスティンを通して細やかに表現されていますね。また、それを捉えた映像も綺麗でした。彼女の表情だけで全てを物語っているようで、とても映画的だと思いましたが。
クリスティンと一緒にこの映画を撮りたかったので、彼女のためにシナリオを書き、ロケ地にもこだわって、彼女の表情を活かせるよう努力しました。

――― ロケ地は?
ニームという南仏のスペイン国境近くの町です。とても厳格な土地柄で、富裕層とそうでない人々との住み分けがはっきりしていて、行き来もあまりない。そんな町でこのような出会いがあると面白いと思いました。

――― 演出は細かに指示されたのですか?
クリスティンがいつも慣れている撮影法とわたしのやり方とは違います。彼女はアメリカ式に数台のカメラの前で演技をすれば後でいいものだけを使ってくれることに慣れていますが、私の場合は俳優を放り出してカメラを回し続けます。いつカットになるかさえ分からない状態にすると、その内イライラしてきていつも以上のエネルギーを発揮させいい演技を引き出せるのです。いつも針でつついているような感じです(笑)

――― なるほど、彼女の緊張した表情は、そうした演出法に起因しているのですね?
最初の頃は、「監督は何をしたいの?何を求めているの?」とかなり苛立っていたのですが、その状態こそ決断を迫られた主人公の心理と一致したのです。

――― 監督は結構意地悪かも?
そうかも(笑)そうしないと、俳優が勝手に自分の演技をしてしまって、映画が俳優のものになってしまうんです。


――― 蜂が服に入り込んで慌てるシーンはシナリオ通り?

妹とコルシカ島へ遊びに行った時、虫が妹の服に入ったらしく、キャ〜と言って服を一枚ずつ脱ぎ出したんです。それをシナリオに入れると面白いかなと思って。はじめは閉じこもっていた主人公が開放的になっていく大事なシーンです。

――― クリスティンは、『ずっとあなたが好きだった』(‘09)でもそうでしたが、フランス映画に出ている時の方がいいですよね?
彼女の作品はよく見ていますが、アメリカ映画では夫の忠実な妻というようなワンパターンのイメージが多く、彼女自身を描いている作品が少ないように思います。本作では、今までにないクリスティンを引き出せて私も嬉しいです。

――― タイトルに込めた意味は?
「出ていく」、自分自身が前進するとか発散するという意味もあるのですが、セックスでイってしまうというのも同じ言い方をするのです。


――― 今回のストーリーは、「ボバリー夫人」や「アンナ・カレリーナ」などを連想してしまい、女性の生き方を問うているようにも思われますが、監督の意図は?

現代のフランスでは女性は自由だと思われていますが、100年前と同じように夫や社会に縛られている不幸な女性もいることを示したかったのです。自由を手に入れたと思い込んでいるだけ。愛というものは非常に危険なものであるという例でもある。夫婦の間でも求めているものが違ってくると破壊へと向かっていく。ある時、それに気付いたら全く違う方向を向いていてズレが生じる。そこから夫婦は傷付け合うのです。

――― 主人公の夫の描き方が面白いですね。浮気を打ち明けられて、開口一番に「何回セックスしたのか?」と聞くなど、人物像の表現がとても的確でしたね?
この夫はなんでも計算します。妻の愛情を得るのもお金の額によると考えるような男です。妻が貧しく前科のある移民と駆け落ちしてしまう理由なんて、全く理解できないのです。
――― 夫としてはプライドを傷付けられたのでしょうね?
はい、自分と同業の医者や弁護士とかだったら、あれ程怒らなかったかもしれません。


――― 的確なエピソードの重ね方により主人公の真意が素直に伝わってきました。作品をコンパクトにまとめていく上で工夫された事は?

製作費が無かったので、シナリオの段階でかなり絞りました。最初に悲劇のシーンを見せ、次に彼女や家族の幸せな生活を見せて、次第に悲劇へと向かうエピソードを重ねていきました。夫が段々と嫌らしい人間になっていくように感じてもらうためにね。

――― とても効果的でしたね。

編集スタッフと、それぞれのシーンで語りたいことがちゃんと表現できているか確認しながら、最後まで気を抜かずにやりました。

――― 撮影期間は?
7週間です。

――― 『彼女たちの時間』(‘01)では、人物に添うようなカメラワークと厳選されたセリフがとても印象的でしたが、日頃から周囲を観察しているのですか?
2人の女性の愛情関係を描いていますが、日常的観察によるものや想像したものなどからヒントを得ています。周囲の人を観察するのは好きです。
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