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★『恐怖』高橋洋監督インタビュー
『恐怖』高橋洋監督インタビュー
〜Jホラー〜
(2009年 日本 1時間34分)
監督・脚本:高橋洋
プロデューサー:一瀬隆重
出演:藤井美菜、中村ゆり、片平なぎさ

2010年7月10日よりテアトル新宿ほか全国順次公開
テアトル梅田にて8/6まで上映中、
8/24〜Tジョイ・京都、シネ・リーブル神戸にて公開

公式サイト⇒ http://www.kyofu-movie.jp/
『恐怖』ストーリー
姉(中村ゆり)と妹(藤井美菜)は、幼い頃、両親とともに得体の知れない白い光を目撃する。17年後、死への誘惑にとりつかれ、失踪した姉の行方を探す妹は、人工的に脳を操作する人体実験を繰り返す母(片平なぎさ)に再会。決して人間が見てはいけない禁断の世界を描く。

映画『女優霊』(’95)に始まり、『リング』(’98)、『リング2』(’99)などの脚本を手がけ、黒沢清、中田秀夫、鶴田法男といった名だたる監督と組んで、Jホラーを前進させ続けてきた高橋洋氏。Jホラーシアターの最終章を飾る『恐怖』を脚本・監督し、かつて誰も取り組んだことのない新しい恐怖の領域に踏み込んだ野心作を完成させた。トークイベントのために来阪された高橋監督にお話をうかがった。

 1.光のコワさ
―「科学や理論を超越した“光”を劇中人物が浴びることになりますが、例えば『未知との遭遇』でこういう場面があったかなと思いましたが?
「黒沢清さんからも言われましたね。“なんで高橋君がスピルバーグに行きつくの?”って。でも自分ではスピルバーグの光とは全然思ってなかったです。スピルバーグの光って、何か素晴らしいことが起きるというイメージがありますが、『恐怖』では、それとは全く逆の、嫌な冷たい光、邪悪な光が来ているというイメージです。映画の最後に太陽を出したのも、太陽もそういうものとして人間の眼に見えてほしいからです。
基本的に、作劇を考えるとき鬱病的な発想の仕方をしていて、物事をネガティブな方に針を振って観るという感じ方が多いんです。そういう物の見方で全部世の中を観ていくと、あのような風景が見える、あの映画の中で展開しているような世界観が見える、ということをやりたかったんです。

鬱病の人達って、変に励まされるよりも、ネガティブな物を見ちゃった方が、ちょっと気持がスッとするんじゃないかと思うんです。中途半端に“好意”を見せられると、かえって反発するというか、嘘だって言われる。だから“もう何の救いもないですよね”というところで、ピンと来てくれないかと考えました」

―あの白い光も、自分が食われてしまうというイメージですか?
「はい、そういう意味では放射能や被爆とかは、それこそ人間を滅ぼしてしまう光ですから、そういうものとつながるかなと。今回は、全体的にあまり理屈じゃなく、イメージだけでつないでいる映画になりましたね。 メディカルホラーという面でもかなり無理なことをやり続けていますが、そうしたかったんですね。多分、自分が脚本を書くと、そんなに緻密に作り込もうとしなくなるんです」


2.姉はどんな光景を観ていたのか?
―この映画でエポックメイキングを起こせるとしたら、姉が見ている光景が一体どのようなものかを映像で具体的に示すことだと思うのです。彼女のみていたものを、直接、凄い映像として示すことができていれば、『恐怖』はさらに恐ろしい映画になり、観終わって映画館の外に出た時、全く別の世界が広がるようなインパクトを観客に与えることができたかもしれないと思うのですが?
「最後に妹が見るものが、一番それに近いかもしれないですね」

―“あなたはもう死んでいるのよ”と妹に言われた姉が、顔を歪ませて“キャー”と叫ぶ場面ですね。あのカットは良かったですね。

「まぁ、あそこがもう限界ですよね」

―でも結局、人間を撮っていますね。人間以外のもので、何かアイディアは出なかったのですか?

「スタッフの間では、邪悪な小人がいっぱい出てくるとか、いろいろあったんですが、結局、人間が作ったクリーチャーというのは人間の想像力の産物に過ぎず、それでは違うんだと立ち返っちゃうんですよね。じゃあ、人間が作ったクリーチャーじゃない物って一体何か、ずっと考えていくと、姉が、自分が死んでいると気付いた時の、あの感じなんだと…、あえて具象の人間でいいんだということになりました」
3.吸血鬼メイク
―メイクとかで工夫された点は?
「獣が出していそうな血の匂いとか、そういうものが映画の中に漂っていてほしいと思いました。だから人物にも段々メーキャップを加えていって、最後の方では、母や姉も皆、完全に肌が真っ白で唇だけが赤いという、吸血鬼のメイクにしていきました。きっと吸血鬼って臭いと思いませんか。“獣の匂い”というか有機体そのものの匂いがするという感じにしたかったんです」
4.天国よりも地獄は信じられる
―昔から恐怖映画とかホラー映画が好きなんですか?
「子どもの時から好きです。どうしてもネガティブな方の発想で物事を観てしまいます。そっちの方が、物事をありがたい感じで観るよりも、本当のものに触れたような気がするんです。基本的に、天国は信じられないけど、地獄は信じられる、みたいな。天国というのは人間にとって都合の良いものですけど、都合の悪いものの方が本当のことを映し出しているように感じられるんです。そういう考えの人ってホラー映画に向かっているんじゃないでしょうか」

5.恐怖を具体化できるか?
―監督にとって恐怖映画とは?
「観終わって“あぁびっくりした”と、単にサプライズだけでしたら、びっくりした瞬間に終わりなんです。でも、そうじゃなくて、見ちゃいけないものを見たような気がする。何かずっと傷を負ったような状態になり、どうして見ちゃいけないものを見たと感じるのか、問い始める…。理想をいうと、映画はこういうことをやらなきゃ駄目だと思います。
以前はあり得ないものとして“幽霊”という表現で、ちょっと心霊写真に似せた幽霊を見せれば、それで観客は“ヒーッ”となっていたんです。そのやり方で結構、映画をつくってきたんですが、もう蔓延して飽きられているので、その手段ではやらない。それで、今回何ができるかなということを試してみて、眼に見えないものを追い求める人間たちの物語になってしまいました。そうすると最後の最後に、その人たちは一体何を見るのか考えた時、光しかないはずだと。人間は光に媒介されて物体を見ています。つまりどんな邪悪なクリーチャーが現れても、それは光を介して心がその物体を見ているわけです。それなら、光そのものならば、そもそも何を見てるか分からないものを表現できるんじゃないか、ということで、光に行き着いたんです。でもホントは、具体的な何か、さっき言われたように“具体”があったらよいですよね。表象できないものを具体化するっていうことがね…」
 6.次作品について
―この映画を観て、今までの高橋監督の作品の総集編的なものを感じました。
「今までの恐怖映画の古いパターンに決着をつけて、もう少し“オーソドックス”なことに歩みだそうということはあります。今回、一番無理のあるテンパッたお話をやりましたので、もっと“オーソドックス”なことをやりたいんです。“オーソドックス”というのは、極端な事を言うと、幽霊が出る瞬間がどうのこうの…というこだわりではなく、むしろ、単純に、ある部屋なり屋敷に幽霊がいて怖い、だから逃げるという、もの凄く単純な話です。何のひねりもなくストレートな話だけど、十分に怖いというのを観客と共有したいと思っています。
もう幽霊表現に関しては出尽くしました。『恐怖』では表象不能なことは表象不能です、ということをやりましたから、これでやっとJホラーの呪縛から解放され、いわば一番最初に立ち返ってみてもいいかなと思っています。Jホラーの表現方法は終わり、ですね」
―例えば『ジョーズ』、『激突』、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』みたいな方向性でしょうか?
「幽霊でなくてもいいし、本当に素朴なストーリーということです。観客が皆きちんと理解しながら観て、それでいてなお怖いというもの。それはもう今までのように心霊写真が出てきて、そのカットによって保証されているという映画ではなく、物語の流れ自体が怖いというものです」


 『恐怖』公開を記念して、DOOM!(注)主催の『高橋洋かく語りき 真夏の恐怖・映画談義』に招かれ、来阪された高橋洋監督。トークイベントでは、この20年もの間に映画において突き進められてきた恐怖の表現の歴史について、幽霊の描き方の変遷にも着目しながら、数々の映像とともにじっくりお話してくれた。ホラー映画の奥の深さを感じることができ、とても興味深い内容だった。

  筆者は怖いものが苦手で、今までホラー映画は敬遠していたが、今回『恐怖』に挑戦。思っていたほど怖くもなく、さりとて独特の世界観に、観終わった後、いつまでも不思議な感触が残った。今回、映画侠区(映画クラブ)の川村正英さんにメイン・インタビュアーをお願いし、映画侠区の特集上映でトークゲストとして参加された高橋監督にお話をうかがった。監督は、長時間のラジオ収録と熱気あふれるトークで、すっかりお疲れにもかかわらず、打ち上げの居酒屋の席におじゃました我々の矢継ぎ早の質問に、机上の料理に箸をつけることもなく、快く丁寧に答えてくださった。映画に込めた監督の思いをうかがっているうちに、恐怖というのは、案外、身近なものだという気がしてきて、ホラー映画の歴史をたどってみたくなった。

(注)DOOM!:「映画を映画館で見てほしい」と考え、年間数百本の映画を劇場で鑑賞する四人の青年がサイト「DOOM!」を運営。映画レビュー等を掲載。2010年春には瀬田なつき監督を招き、関西初の特集上映を企画・開催。7月の月刊ストリーミング・ラヂオ番組では、高橋洋監督をゲストに招き、2時間以上にもわたる熱いトークを展開。より詳細な話を聞きたい方はインターネットラジオでいつでも聴くことができます。
http://doom-insight.net/works/radio.html

(取材:川村正英、伊藤久美子)(文責:伊藤久美子)ページトップへ
   
             
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