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 『季節、めぐりそれぞれの居場所』大宮浩一監督インタビュー
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『季節、めぐりそれぞれの居場所』大宮浩一監督インタビュー
『季節、めぐりそれぞれの居場所』
大宮浩一監督インタビュー

(2012年 日本 1時間22分)
監督:大宮浩一

2012年6月9日〜第七藝術劇場、他全国順次公開
公式サイト⇒http://www.kisetsumeguri.com/ 
 2011年3月11日に起こった東日本大震災のドキュメンタリーとして、世界最速で公開された『無常素描』、若き介護スタッフたちの取り組みや介護福祉の現状を描いた『ただいま、それぞれの居場所』の大宮浩一監督の最新作『季節、めぐりそれぞれの居場所』が公開される。死や看取りに焦点を当て、再び被災地を含めた介護の現場を映し出しながら、死との向き合い方を描いた本作の関西公開に先立ち、大宮浩一監督が来阪し、誰もが避けては通れない「死」や「介護」、そして宅老所という新しい看取りの場について話を伺った。  
 

━━━本作のテーマは何でしょうか。
2年前の『ただいま、それぞれの居場所』は介護の現状でしたが、今回はある程度「死」ということを念頭に置いて作りました。介護の現場では看取りを目指している部分がありながら、なかなか出来ないという情報があり、本作を撮影していたら3月11日を迎えてしまったのです。3月11日の現場では看取るとか、病院が云々などと言っている場合ではありません。自然災害の死もしかりですが、いろいろな死をどういうふうに受け止めるのか。死を受け止めないことには私たちも亡くなった方との物語を紡げないので、介護の現場を体験して、受けとめ方を表現しました。

━━━若い世代の介護スタッフに焦点を当てたのはなぜですか。

介護をしてきたスタッフの人たちが、亡くなった方に対して最後に「ありがとう」という言葉をみなさんがおっしゃるんですよ。新人のスタッフが本当に「ありがとう」と言ってうなだれたりもします。それがすごく気になっていて、このテーマでやろうと思いました。多分一様ではなく、それぞれが何かを伝えてもらっていて、そういう感謝の言葉になるというのはすばらしいことです。血縁ではない者から「ありがとう」と言われる関係性のある場が羨ましくもあります。もしかしたらそれが、介護という現場の特権かもしれませんね。

━━━若い世代にとって、介護のどんな点が魅力的だと感じているのでしょうか。

2年前から撮っていて感じることは、なんとなくポストバブル世代が本当に生きづらくなってしまったのではないか。生きにくくなってしまった時代に、私たちが職業や住む場所や、放浪することを含めてたどり着いたのが、こういう老人や障害を持つ人たちのいる場所で、そこだと自分が認められるといううれしさが相手にも伝わるのでしょうね。

大概の社会行為は一方通行だと思いますが、(宅老所の)彼らと出会ったおかげで、行ったりきたりの本当にいい関係になっています。医療は一方通行のような気がしますね。他の作品で重度の障害者を描いた映画があるのですが、「君らはDoじゃなくていい。Beでいいんだ。」という名セリフがあります。行為をして代償が払われるのではなく、君はいるだけでいいという意味です。賃金を払うのも必要ですが、それだけではなくて、存在しているということが価値があるのです。

宅老所のような場所があるということが僕にとってはBeです。居るだけで一方通行ではなく深く関われる。深く関わるから深く悲しいけれど、ある時間が経つとそれがすごく爽やかになる。悲しいで終わるのではなく、その後爽やかな表情で語れる関係性がうらやましいと思いますね。

━━━前作『ただいま、それぞれの居場所』で登場した子安さんの娘さんが、両親亡きあと最後に登場し、清々しい表情だったのが印象に残りました。
前作は子安さんがお客さんを見つめてラストカットを迎えたのですが、あの時期から周りは死があまり遠い時期ではないということは意識していました。奥さんもご主人が亡くなって3ヶ月で亡くなっています。子安さんが心筋梗塞で倒れてから、亡くなるまで5年半ぐらいあったので、お嬢さん方は一番多感な時期でした。ある時期はお姉さんが家に寄りつかなくなったり、それを繰り返しながら倒れた後のお父さんを受け止めてきた二人だったのです。

ご両親の死を受け止めるまでにもちろん葛藤もあれば、時間も必要だったと思います。撮影させていただいたのは亡くなってから1年ちょっと経った頃でしたが、まさか遺影とお骨が家にあるとは思っていなかったので、やっと小さい頃のように4人で暮らし始めたのだなと思いながら撮影してきました。

━━━被災地の様子も一部描かれていますが、その意図は何ですか。
これは僕の希望ですが、震災で2万人もの方が亡くなって、悲しみの正体は比較にならないんでしょうけれど、それでも時間と受け止めるということがあれば、いつかは施設の人たちのように悲しいことでも爽やかに語れる日がやってくる。その想いで、介護の舞台を中心にした映画なのですが、あえて震災という時代のシンボルをいれました。

━━━介護にも病院や宅老所など、選択の幅があり、さまざまな関わり方ができますね。
どういう亡くなり方をされても、ああすればよかったとか、グラグラしていく気持ちの揺れがあるのはいいことです。あまりにもすべてのことがマニュアル化していて、人間味が薄れてきてしまっていますが、立ち止まるときも迷うときも必要です。病院と介護と看護は最近よく話題になっていますが、僕はあまりうまくいっていないイメージがあります。もっとその人らしい死に場所を考え、それによって死を垣間見る機会が増えるということは、決して悪いことではないと思います。専門職の方や家族だけが関わるのではなく、友人の方々が関わることによって、亡くなった方の思い出話をときどき話題にのせたり、生物的には亡くなってしまっても、まだまだ遺された者の生活の中に生きていることが撮りながらも感じられました。

━━━長期間キャメラを回された中で、他に印象的なエピソードはありましたか。
あまりエピソードを積み重ねると日常的なことが薄らいでいくので、あえてあまり極端なエピソードを使っていません。いろんな方が亡くなるかもしれないという情報もありましたが、その臨終の場をキャメラで撮影できても、すべきではないし、僕らはそういう関係性を作ってきてないのです。関係性をもたれたみなさんの話や想いで十分僕らは感じられたし、その瞬間ではなく、引き受けて、引き継いでいるものを感じて伝えているのです。

━━━誰にでも訪れる介護の現場の話ですが、自分が介護する立場に立っても怖がらなくていいと希望が持てました。
宅老所みたいなところをみなさんも作りましょうという映画ではなくて、こういう場やいろいな場があり、その中でいろいろな死がある。死に方もさることながら、死に場所や死というものをときどき考えたり、話題にすることによって、死が身近になってきます。できたら自分もこんな死に方をしたいという場にたくさん出会っていると、生きている間がすごく豊かになると思いますよ。
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  大宮監督ならではの暖かい視線で見つめる看取りと死をテーマにしたドキュメンタリーには、介護する側、される側の垣根がなく、人と人の触れ合いの中から生まれる老人たちの穏やかな笑顔が映る。これから介護をする立場になる人も、介護される立場になる人も、最期の居場所についてさまざまな想いを描いてみてほしい。

(江口 由美)ページトップへ
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