topへ
記者会見(過去)
旧作映画紹介
シネルフレバックナンバー プレゼント
  『エッセンシャル・キリング』
 スコリモフスキ監督合同取材
  作品紹介
記者会見レポート
★『エッセンシャル・キリング』スコリモフスキ監督合同取材

(C) Skopia Film, Cylinder Production, Element Pictures, Mythberg Films, Syrena Films, Canal+ Poland. All rights reserved.
『エッセンシャル・キリング』 (ESSENTIAL KILLING)
スコリモフスキ監督合同取材

(2010年 ポーランド、ノルウェー、アイルランド、ハンガリー 
1時間23分)
監督・製作・脚本:イエジー・スコリモフスキ
出演:ヴィンセント・ギャロ、エマニュエル・セニエ

(東京)2011年7月30日〜シアターイメージフォーラムほか順次公開
(関西)8月20日〜第七藝術劇場、シネ・ヌーヴォ、京都みなみ会館、9月10日〜神戸アートビレッジセンター、近日〜高槻セレクトシネマ

公式サイト⇒ http://www.eiganokuni.com/EK
 ポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキ監督による最新作がいよいよ公開される。2008年に17年の長い沈黙を経て発表された『アンナと過ごした4日間』で、研ぎ澄まされた音と映像の世界に魅了されたファンは多いはず。本作は、第67回ヴェネチア国際映画祭で、主演のヴィンセント・ギャロが審査員特別賞と最優秀男優賞をW受賞。ギャロ演じる、アラブの白い衣装に身を包んだ男が米軍から追われ、砂漠を、雪山を、延々と逃げ続けるサバイバル・アクション。キャンペーンのため来阪された監督を囲んで合同取材が行われ、監督はユーモアもまじえて、新作に込めた熱い思いを語ってくれた。
 映画化のきっかけについて、監督は「前作品『アンナと過ごした4日間』の時は、近所の森での撮影で、とても快適に撮影を進めることができました。私の“怠け癖”がでて、次の作品も同じようにつくりたいと思っていたら、CIAの基地が近所にあり、中東から囚人を連れてきているという噂を聞きました。これについての映画をつくれば、私は(自宅から撮影現場に通うことができ、)自分のベッドで寝ながら、映画をつくれると思いました(笑)。
 しかし、不運なことに、撮影の年は、私のイメージする雪景色が撮れるほど、ポーランドでは雪が降らず、マイナス35度のノルウェーで撮ることになりました。これは私の“怠け癖”への罰だと思っています(笑)」。結局、ポーランドでは、前半に登場する軍事基地のほか、男が森の中に見つけた一軒家の室内シーンが撮影されたそうだ。

 ギャロを選んだ経緯について「ギャロのことは随分前からよく知っていました。『GO! GO! L.A.』(1998 ミカ・カウリスマキ監督)で共演したこともあり、動物的資質を持った、とてもいい役者で、いかにも危険な男という風貌です。今回、映画化に当たり、初めからギャロしか頭にありませんでした。脚本を渡したらすぐOKの返事があり、髯を伸ばしてもらうよう依頼しました。彼の特徴的な髯や髪型から、アラブ人にもみえますが、観客は、彼が西洋人だと知っていますので、アメリカで生まれ育った男が中東に行って、こうした状況になったということも考えうると思います」
 本作で男は一言もしゃべらない。男がどんな人物で、どういう状況で今に至ったのか、といったことはほとんど描かれないまま、観客は、飢えと寒さと追っ手の恐怖で追い詰められながらも、必死で生きようとする姿を目の当たりにする。そうして、いつのまにか、その生き様から目が離せなくなる。撮影期間は全体で約40日、うち室内や軍の基地での撮影の日数を差し引くと、36日間はずっと歩いていたそうだ。
 それほどに、大自然の中をギャロが走り、歩き続ける。説明的な表現を入れなかった意図について、監督は「わざとセリフを省きました。というのは、できるだけ曖昧にしたかったからです。主人公が一言でも口を開けば、どこから来たのかわかってしまいます。アフガニスタンかイラクか、どこで始まって、どこで終わるのかを限定したくなかったのです。CIAの基地があると言われているのは、ポーランド、リトアニア、ルーマニアですが、どの国にも限定していません。テーマは、政治的目的では決してなく、彼がテロリストなのか無実の男なのかも曖昧にしています。本当の主題は、一人の男が動物のように狩られる悲劇的な運命について描きたかったのです」

 セリフがない分、さまざまな音が心に残る。音楽も特徴的だ。「私の初めのアイデアでは、音楽は一切使わず自然音のみでした。しかし、車中での拳銃の発砲音を消すために、音楽を使わざるをえなくなりました。ギャロが雪の積もった崖を上るシーンにはヘンリク・グレツキ(ポーランドの現代音楽の作曲家)の交響曲第3番を使おうと思っていたのですが、本作で音楽担当のパヴェウ・ミキーティンらと相談し、スタジオの中で映画を上映しながら、このシーンにこんな音はどうだろうと即興的に音楽をつくりあげていきました」
 監督自身、本作についてどう思っているのだろう。「私の映画はミニマリズムの映画といえるかもしれませんが、一方で、ドラマ性を帯びた映画でもあります。冒頭のヘリコプターでの追跡シーンや、車が崖から落ちるシーン、ギャロが雪山の崖から落ちて水の中にジャンプするシーンはアクション・ムービーといってもいいくらいドラマ性があると思います。本作は、ヘリコプターやアメリカ軍と、スケールの大きなシーンから始まり、最後は主人公一人になるという、大きなところからミニマルなところへと進行していく構成になっています」
********************************************************************************
  大阪での取材後、監督は京都の大学で、旧作の上映会で舞台挨拶に立たれた。本作は、監督の今までの映画づくりの知識がすべて入っているだけでなく、ギャロ、エマニュエル・セニエ(ロマン・ポランスキー監督の妻)の出演、刺激的なテーマ・ストーリーを得て、私の最高傑作になったと話された。大勢の軍隊、猛犬、ヘリコプターによって追われ、極限まで追いつめられ、野獣となっていく一人の男の運命、宿命について描きたかったと語る監督。

 軍隊の猛犬には吠えられ、噛み付かれても、大自然を生きる猪、鹿、野犬には、救われ、癒される主人公。逃げ続ける彼の背中にあなたは一体何を感じるだろうか。ぜひスクリーンで確かめてほしい。
(伊藤 久美子)ページトップへ
   
             
HOME /ご利用に当たって