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★『不惑のアダージョ』井上都紀監督インタビュー |
(C)2009 Autumn Adagio Film Committee |
『不惑のアダージョ』井上都紀監督インタビュー
〜女としての自分を見つめ直すターニングポイント〜
(2009年 日本 1時間10分)
監督:井上都紀
出演:柴草玲、西島千博、橘るみ、千葉ペイトン、渋谷拓生
2011年11月26日よりユーロスペースほか全国順次公開
関西では、2012年2月4日(土)〜テアトル梅田、3月〜神戸アートビレッジセンター、近日〜京都シネマ
公式サイト⇒http://www.gocinema.jp/autumnadagio/ |
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女としての自分をじっくりと見つめたことがありますか?
いつまでも若いと思い込んでいたのに、鏡や写真の中の陰のある自分に愕然としたり、または、体調の変化に年齢を感じたり、さらには結婚、出産、仕事など環境の変化に取り残されたような、そんな焦燥感にあおられて落ち込んだりすることはありませんか?
本作は、更年期を迎えようとするアラフォー修道女を主人公に、女である自分を見つめ成長していく様を秋暮色の中で静かに描いた、女性讃歌の映画である。
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本作を監督したのは、短編『大地を叩く女』で2008年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター部門グランプリを受賞した井上都紀監督。その賞金200万円をベースに自己資金で製作した長編第一作作品。自主制作で、日本バレエ界のスター・西島千博と橘るみを出演させるという豪華キャスティングで、主人公の心を開く重要なキーマンを演じさせている。しかも、34歳にしてアラフォー世代が抱く焦燥感や女性が持つ力強さをしなやかに描いてみせた手腕はお見事! 現在37歳。「公開するために作ったのではなく、作りたいから作った」というアーティストらしい一途さと正直さが魅力の井上都紀監督のインタビューは、和やかで楽しいひとときとなった。 |
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【STORY】
晩秋のカソリック教会。40歳を迎え早くも更年期のような体調の変化を感じ戸惑う修道女。賛美歌をオルガンで伴奏したり、信者の相談を聴いたり、若い時から神に仕える厳粛で規律のある日々を送ってきた。そんな彼女が、バレエ教室でのピアノ伴奏を頼まれ、そこで出会った男性バレエダンサーの情感あふれる美しいバレエに心を大きく揺り動かされる。他にも、ストーカー的な男性や信者の息子との関わりを通じて、それまで封印してきた女性としての意識に目覚めていく。 |
Q:製作から2年経っての公開ですが、感想は?
それまで海外の方の反応しかなかったので、日本でも公開できて本当に良かったと思っています。日本の女性に向けて作ったのですが、男性客が半分くらい来られたのは意外でした。更年期というのは女性にはあまりにも現実的なことですが、男性にとっては身近なファンタジーに映ったのかも知れません。
Q:34歳でなぜこのテーマに?
中年にさしかかる女性は美しいと以前から思っていました。私自身、年月があっという間に過ぎてしまう現実の中で結婚や出産を後回しにしてきたので、このままでいいのか?と不安になりました。それまで自由に選択して生きてきたのに、更年期という体の変化に伴い、考える時期ではないかと。普遍的なことなのに誰も描いてないことに気付いて、今まで描かれなかったことに挑戦しようと思ったのです。
Q:主役について?
柴草玲さんはシンガー・ソングライターですが、彼女の佇まいが面白いと思いました。存在感もあるが透明感もある。40歳を迎える彼女を撮りたいと思い、脚本も彼女をイメージしたあて書きです。
Q: プロの女優だったら?
演じ甲斐のある役だけに演じすぎると生々しいものになってしまうのが嫌で、観客には想像する部分を残したかったのです。被写体とは距離を置き、俯瞰で客観的に描きました。
Q:とても後味が良かったのもそのせい?
品の良さにはこだわりました。それに、エンディングは厳しさと優しさを込めましたから。 |
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Q:西島千博さんの出演について?
ちゃんとオファーして出演して頂きました。即興でバレエを踊って頂いたのですが、主人公の修道女が主体となるように編集しました。美しいもの、西洋文化を体現しつつストイックに厳粛な規律の中で生きている彼女の心が解放されていくようにしました。 |
Q:主人公の女としての目覚めについて?
バレエのシーンで目覚める彼女が一番のメインです。実は3人の男たちは、彼女にとって写し鏡でもあるのです。普通なら思春期に経験するようなことを一度に経験する。男性への恋情・憧憬・不快感・恐怖・性的なものなどを表現するのに、3人の男性をもっとクローズアップして撮っていたのですが、女性の心を中心に描きたかったので、そうした部分は削ぎ落としていきました。
Q:撮影後、更年期に対する意識の変化は?
年齢に対するリミット、焦りなどを表現するため季節も秋にこだわったのですが、「人生90年という時代にあって40代なんてまだ夏よ!」とか、「女性ホルモンがなくなると不安要素もなくなり、まだまだこれからですよ!」と言われました。ラストの方でお赤飯を食べるシーンがあるのですが、あれは第二の人生への始まりをお祝いするものだとも。更年期は自分の中の母性と折り合いをつけ、
人生を見つめ直すターニングポイントだと思います。
Q:観客の反応は?
一番響いていたのは私と同年代の女性です。女として生きる人生に対する考えを素直に語ってくれました。身につまされるという沢山のコメントや、男性にも通じるものがあるようで、見終えて語りたくなる作品なのかなと面白く感じました。
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Q:仕上がって意外に感じたことは?
映像を想像しながら脚本を書いていたのですが、それ以上の化学反応が起こったようです。カソリックを題材にしているので、オルガンのある教会へ通って許可をもらったり、シスターの衣装デザインや賛美歌の歌詞を自分で作ったりして気を遣いました。
それから、この映画を作って幸せになるぞ〜!と自戒を込めて撮ったのですが、まだ何も変わってません(笑)。 |
と、にこやかに笑う井上都紀監督の表情には焦りなどなさそうに思える。だが、同世代の女性監督は独身者が多いのに対し、男性監督は既婚者が多いのは、ずるい!と(笑)。確かに支えてくれる女性はいても、支えてくれる男性と出会えるのは至難の技かも。他に、ミュージカルが好きでいずれは撮りたいという。脚本にもこだわって、「練って練って本を書いてこそ意味のあるシーンが撮れるし、スタッフンに対しても説得力を示せるというもの」。描きたいビジョンをはっきりと示せる監督のようで頼もしい。願わくは、製作費もまかなってくれるプロデューサーとの出会いがあれば、不惑を脱却したスケールの大きな作品へとつながっていけるだろう。
本作の主人公は、早期の更年期で不安と焦りを感じることで自分自身を見つめ直し、新たな自分へと飛躍していった。その更年期症状だが、人によって症状や程度の差があり、中には情緒不安定で鬱になることもあるようだ。だが、本作のテーマにあるように、自分自身を見つめ直し、新たな人生のスタートとしてポジティブに考えれば、そんなに不安に感じることもないように思われる。人は皆(吉永小百合だって)歳をとり、一度は必ず死を迎える。アンチエイジングに執着するあまり自分を見失わないように、歳を重ねる自分を楽しみましょう。諦めではなく、年齢とうまく折り合いをつけながら、女として生きることも人生も楽しみたいものです。
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(C)2009
Autumn Adagio Film Committee |
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