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★『スリー☆ポイント』 山本政志監督インタビュー
『スリー☆ポイント』
〜疾走する映画の勢いと不思議な世界に迷い込み…〜

(2011年 日本 1時間57分)
脚本・監督・制作:山本政志
出演:村上淳、蒼井そら、渡辺大知(黒猫チェルシー)、小田敬、BETTY、KOYO-TE、SEVEN、SNIPE、青山真治

現在シネ・ヌーヴォXにて上映中(?8/19まで)
公式サイト⇒  http://www.three-points.com/
(C) スリー☆ポイント シンジケート
 『闇のカーニバル』(82)(ベルリン・カンヌ国際映画祭連続参加)、『ロビンソンの庭』(87)(ロカルノ映画祭審査員特別賞)、「リムジンドライブ」(00)と独創的な映画づくりで疾走を続ける異才山本政志監督の最新作。京都、沖縄、東京と3つの場所で異なるスタイルで描く。京都では、ラッパーやストリートのアウトローの若者たちの姿をスケッチ風に、沖縄では、行き当たりばったりで出会ったおもろい人々との出会いをドキュメンタリーで、東京では、妻子を亡くした男と、亡妻を演じる女との不思議な共同生活を描いたドラマ。大阪での公開を前に来阪された山本監督から、作品の魅力と製作過程の楽しいお話をたっぷりとうかがった。
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 映画づくりの発端については「3つの場所で3つのスタイルで、何も決めずにやるということをやってみたかった。どこまで自由に撮れるか。ストーリーがあるドラマと全くないドキュメンタリー。自分が住んでいる東京と、友達の林海象がいる京都、沖縄は、夏はいい季節なので泳げるかなと思って(笑)――でも結局、時間がなくて泳げなかった――、そんな決め方で何の脈絡もないですね(笑)。沖縄はよくわからないし、独力でやれるものとドキュメンタリー、京都はラインプロデューサーの柴田剛がいたので、ちょっとしたことができるかなと思った」
 沖縄では、あご髯をはやし、上半身裸の野生人“てっちゃん”、漁師、プロの任侠人、米海兵隊員とパワフルな人達が登場する。8日間の撮影期間のうち、初め3日間はカメラを廻せなかったという監督。「観光地に連れて行ってくれたんだけど、撮りたいと思うものがなく、気持ちが動かなかった。ちょうど仙頭武則プロデューサーのロケ隊に出会い、「金武町(きんちょう)」という町について尋ねたら、すごい喧嘩もあり、地元のやくざもきつく、撮影にお金もかかる危険な町と言われた。これだけあかんと言われると、逆に、じゃあそこしかないと動物的に思って、金武へ行った。

 金武でのシーンはやらせとかじゃなく、全くそのまま。たまたま突撃訪問したタトゥー屋がやくざの事務所兼用で、おもしろくなって3回位行った。俺は能天気なので、ちょっと暑いし、よく涼みに行った(笑)。本部長に「幾らか金落としていけ」と言われ、「いやあ、全然ないですよ」と答えてから、仲良くなって、海兵隊員の取材も撮れるようになった。金武からすべてが始まった。

 海兵隊っていうと記号みたいで個人がみえてこないけど、ああやって映画の中でいろいろ個々に聞いていくと、景気が悪くて生活費のために入隊したとか事情がわかり、おもしろかった。そこの基地は新兵ばかり派遣されるところで、19歳とか20歳代前半の子ばかり。アメリカで基礎訓練した後、沖縄に来て実践訓練を受け、またどこかに派遣されるらしい」
 波乱万丈だった沖縄での撮影の話はまだまだ続く。「マングローブは海と川の境目のようなところで育つ。マングローブ林がずっと茂っていて、向こうはすぐ海、満潮になったら海に隠れてしまう。最初蟹を採れるかどうかわからなかったけど、てっちゃんがぱっと穴をみつけて採るのは、ほんとにすごかった。

 うなぎ採りは、たまたま行ったら、採りに行くということで、急遽頼んで同行した。全くの偶然。編集中にこれをラストにしようと思った。なめたラストになってしまったが、やっとこれで終われると思った。沖縄では照明は一切なかった。事前に言っておいたんだけど、沖縄のノリで忘れていたみたい。行ったらなかったので、ま、いいかと思った。そもそも金武の街で夜に照明つけて撮影なんて全く無理な話」

 京都のラッパーの若者達の青春スケッチについては、「日常会話というのをイメージしていただけで、初めから3つつくると決めていたわけではない。どんなおもしろいことがあったか、何かやばいこととかなかったかと聞いていって、日常的なある一日のある時間を限定して撮りたくて、映画としてまとまりそうなピースを選んだ。自分のエピソードを自分で演じると馬鹿みたいだから、役者は変えていった。

  構成はあらかじめA4、1枚に、場所、二人がする話の内容とかを書いて、リハーサルしながら動きをつくり、本番前にアウトラインはつくっておいた。3話目「メンションとリサ」だけは、役者二人が芝居の勘もよく、できる子で、日程的にも難しくリハーサルができなかった。当日、現場に行って、俺は下で待って、二人で1時間くらいかけて、大枠をつくってもらってから、俺も一緒に入って、細かいところをやりながらつくっていった。こういうやり方は初めてで、すごくおもしろかった。リサ役の平島さんはオーディションの時から結構いけると思ったから、一番俺好みのキャラにしようと思い、馬鹿女――ああいうキャラ、俺は好きだからつくるんだけど――にして、一日で撮った」

  京都の2話目「シュートとジェイ」の松葉杖の男については「リハーサルの最中に骨折しちゃって、無理と言われた。でも、キャラクターの濃い役だから、変えるのは厳しく、大阪出身のカメラマンに別のやくざを紹介されたが、柴田から「知ってますよ。でも、それだけはやめましょうよ」と言われ、「じゃあ、どうすんだよ」となって、骨折した子を口説いて出てもらった。林海象も現場に見に来て、アクションができず、松葉杖で可哀そうにと言いながら、見るなり「いいじゃん」と言ってくれた。これは、監督としての呪われた性だね、俺もいいと思った。海象の京都造形大学は、リハーサルの場所の提供や、機材の提供など、すごく協力してもらったし学生も何人か参加してくれた」

  超インディーズ宣言について、監督は「同じ時期に会社企画で撮る話が進んでいた。俺が会社との打ち合わせとかに行くと無茶言うおそれがあるから、あんまり来るなと言われてた。まかせたほうがやりやすいと思っていたが、結局、企画は動かなかった。映画と自分に距離を感じ、映画づくりってもっと身近に見える形だったはずと思っていた。同じ頃、自主映画を幾つか観て、たまたまか、あんまりおもしろいのがなくて、自分を追い込むというか、宣言しちゃって、すごいスピードで進めた。映画を撮りたいと思ったから、もうやるしかないと思って…。別企画が成立しなかったことで、余計にエネルギーが出たのかもしれない」

  観客へのメッセージとしては、「エンターテインメントだから、全然難しくない。おもしろい人間が出てきて、リアルな、ちょっとじわっとくるような話もある。不思議な世界で、皆ばらばらのようで、でもなんか大きい意味で、アウトサイドの人間がいっぱい出ているという括り方もできるし、別にしなくてもいい。自由さがあるので結構よかったと思っている。自由につくって、自由にさせてくれる映画。軽い感じで来てもらって、終わったあとに、なんかいろいろなことを簡単にできるかもしれないという感じになったらいい。開放される力を持ってると思うから、楽しんでもらうのが一番」
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 シネ・ヌーヴォから送付されたスケジュールの案内文に「やんちゃ男・山本のどこに行っても友達になれる才能(?)が見事に花開いています」との言葉どおり、映像に刻みつけられた沖縄の人々は強いインパクトを、東京を舞台にした、村上淳と蒼井そらが織り成す不思議なドラマは、忘れがたい感覚を残す。監督のざっくばらんなお話からは、映画に対する、どこまでも真摯で、厳しく熱い思いが感じられた。監督の未完の大作『熊楠KUMAGUSU』はもちろんのこと、次はどんな作品を生み出すのか、楽しみにしたい。

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