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★ザ・コーヴ

『ザ・コーヴ』
〜イルカ漁は、環境問題か伝統か。賛否両論が吹き荒れる問題作〜

(2009年 アメリカ 1時間31分 PG-12)
監督 ルイ・シホヨス
出演 リック・オバリー ルイ・シホヨス サイモン・ハッチチンズ チャールズ・ハンブルトン 

2010年7月3日(土)〜第七藝術劇場
・リック・オバリー氏インタビュー⇒ こちら
・公式サイト⇒
 http://thecove-2010.com/

 和歌山県の太地町で行われているイルカ漁の実態を、イルカ解放運動家リック・オバリーら数名の撮影クルーが強行取材したアメリカのドキュメンタリー『ザ・コーヴ』。その内容は、太地町で捕獲されたイルカが世界各地にショー用として15万ドル以上の高値で売られていること。選ばれなかったイルカたち(およそ年間2万匹)は、槍で突き殺されクジラ肉としてスーパーで販売されていること。さらに、その肉は水銀値が高く危険であるにも関わらず、学校給食に使用されていること(現在は危険性が考慮され給食には出なくなっている)。そして、日本政府はこれらの事実を隠蔽または正当化し、反捕鯨国(主に欧米)からの批判をかわし続けているというものだ。
 映画は日本人が初めて知る多くの事実をあぶりだすと共に、太地町の入り江=コーヴで行われているイルカ追い込み漁にカメラを向ける。関係者以外立ち入り禁止の厳戒態勢で極秘に行われているイルカ漁の実態とはどんなものか。地元の漁師たちに何度も追い返されながら、撮影クルーはあの手この手で決定的瞬間に立ち向かう。その様子はスリリングに編集され、スパイ映画さながらにドラマチックだ。そして、ついに撮影(隠し撮り)に成功するのだが、映し出された映像はあまりにもショッキングなものだった。
 なぜ、“伝統で合法”のイルカ漁がこんなにも残酷に思えるのか。それは、多くの人々がイルカを愛玩動物として認識しているからだろう。イルカと泳げば心がリラックスする。その効果を利用したセラピーは多数存在し、イルカと一緒に水中出産する人もいるくらい、愛らしく賢い彼らは癒し業界のトップに君臨している。いわば、ヒーリングセレブだ。しかし、それは人間が作り上げた虚像で、私たちを“癒してくれる”イルカたちは、人間の私利私欲のもと捕獲され“労働”させられていると知りいたたまれない気持ちになった。
 本作はその内容から日本の伝統を理解していない反日映画として一部関係者から抗議が殺到。上映中止に追い込まれる異常事態となっている。日本人を猟奇的で野蛮な民族だと描いていると言うが、そんなことは一切ない。渋谷での上映反対デモ活動では、この映画はサリンに匹敵する猛毒だと声高に抗議していたが、この発言の方が何の根拠もなく野蛮ではないか。撮影クルーの目的はイルカ保護であり日本批判ではない。この映画が日本人への人種差別だと感じるなんて、白人コンプレックスか言いがかりかのどちらかでしかない。
 隠し撮りもドキュメンタリーならば良くあることだ。逆を言えば、伝統の漁をなぜ極秘で行うのか不思議で仕方ない。もちろん、日本でのイルカ漁は合法で食文化を守り抜くという言い分は理解できる。もしも、漁ができなくなれば太地町の死活問題になりうるからだ。しかし、どこの国でも人間と心理的関係が深い動物(例えば犬や猫)を食すことは、伝統であろうとモラルを問われ、批判の対象になる。「牛や豚は平気で食べるのに、なぜイルカやクジラはダメなんだ!」(←水銀値が高いからなんだけど…)このディスカッションは永遠に繰り返される問題なのだろう。文化か?保護か?その結論は当分出そうにない。しかし、守るも殺すも人間の勝手な感情に委ねられているなんて、イルカの運命は残酷だ。
(中西 奈津子)ページトップへ
   
             
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