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★イヴ・サンローラン

『イヴ・サンローラン』
〜故人セレブ・ドキュメンタリーの在り方とは?〜

(2010年製作 フランス 1時間43分)
監督:ピエール・トレトン
出演:イヴ・サンローラン、ピエール・ベルジェ

2011年4月23日(土)〜TOHOシネマズ六本木ヒルズ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか。5月7日(土)〜TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズ西宮OS、TOHOシネマズ二条ほかにて全国順次ロードショー
公式サイト⇒ http://www.ysl-movie.com
( C) Copyright 2010 LES FILMS DU LENDEMAIN - LES FILMS DE PIERRE - FRANCE 3 CINEMA (C) Pierre Boulat Courtesy Association Pierre & Alexandra Boulat
 2008年に逝去した、モード界の巨匠イヴ・サンローランの回顧ドキュメンタリー。もうこの世にいないセレブを描くドキュというのは、ある意味においてはパターン化している。過去の映像や写真を繰り出して、現在生きてる故人の関係者にインタビューし、それらを漫然と並べていくようなダラダラしたものになりがちだ。




 しかし、本作は違っていた。確かに作りや流れはいかにも、従来のセレブ・ドキュ・モードに則っているようだが、大きな違いは、イヴと盟友にして深い絆で結ばれていたピエール・ベルジェの、インタビューとナレーションをメインに、イヴの過去を振り返る構成にしている点だろう。

 実はこのスタイルだとイヴよりも、ピエールの人間性の方が浮き彫りになってくるのである。監督の狙いは、今を生きるピエールにあるといえる。競売シーンや彼の語りを通じて、イヴを失った喪失感が、そこはかとなく漂ってくる作りなのだ。だから、オートクチュールやスタジアムでの一大ファッション・ショー、イヴのインタビュー映像など、イヴの華やかだった頃の過去の映像は、むしろピエールの悲しみとの対比で、無常観みたいなものが滲み出てくるのだ。

 しかも冒頭から、ブルージーな感じが顕著に表現される。2002年のイヴの引退会見シーンが映されるのだが、3分くらいの長回し撮影で、わざとのようにモノクロにしている。その次には、イヴの葬式でピエールが弔辞を述べる、これまたモノクロ・シーンへと転じる。最初から本作の方向性・作品性が剥き出されているわけだ。レクイエムかソナタのように聞こえる、ピアノのメロディーが流れ続けているし、自然描写にしても、過去の鮮やかな緑のシーンと、現在の灰色の雲に覆われた空などを対比させている。

 
だが一方で、イヴの負の部分、例えば、アルコールやドラッグ漬けの日々や、神経症にかかっていたことなどは、映像も語りもそれほど深くは突っ込まない。説明不足・描写不足に見えながらも、その足りないように見えるところが、ラストシーンの哀愁へとつながっているような気がする。つまり、観客のイマジネーションを喚起する映画なのである。  
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