最初に旧約聖書ヨブ記38章4〜7節が示される。義人ヨブは,幾多の苦難に見舞われるが,それでも信仰を守り続ける。神は,理不尽に思える苦しみをヨブに与える理由を説明しないまま,最後にヨブを祝福する。唐突な感じを否めない。まるで人智を超えた神の行いは人間には理解できないとでも言うかのようだ。本作は,神の恩寵に生きる人に不幸は訪れないというナレーションで幕を開ける。そして,全能の神による創造が描かれていく。
天地創造から連綿と続いている地球の長い歴史の中で,人間が生まれてきた。今なお膨張し続けている宇宙の広大な空間の中で,人間が生きている。永遠に流れる時間と無限に広がる空間の中では,人間の存在はあまりにも小さく見える。人間は,自然の中から生まれ出て,その体内に歴史を宿している。だからこそ,自然の摂理には抗えない。父と子の間に確執が生まれ,子が成長して父を受容する。これもまた,自然の摂理にほかならない。
夫婦と息子3人のシーンでは,カメラの視線が低い位置に設定されている。そのアングルは,不安定感を内包し,神が作られた大地から離れては生きられない人間の限界を感じさせる。二男の死に直面した夫婦はただ悲嘆に暮れるしかない。父は息子たちに自分の価値観を押し付ける。そのため,妻子は父を疎ましく思い,長男は父に殺意さえ抱いてしまう。それでも,母は,慈しみ深く息子たちを見守り,自然を愛でて神への信仰を失わない。
脚本は,素晴らしい文章で,詩のような様式だという。これを基にVFXをも活用して完成された作品は,映像と音楽が融合した壮麗な映像詩となっている。ヨブ記は,善良な人がなぜ理不尽な苦しみに見舞われるのかという問いに対する回答を示していない。これについて監督の思索したイメージがスクリーン上で展開されるような感覚だ。それ故,ラストで夫婦と成長した長男が和合する楽園のようなシーンに唐突さを感じるのかも知れない。