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サウダーヂ
『サウダーヂ』
〜これが地方都市の真の姿!
         ビート溢れる無国籍ムービー誕生〜

(2011年 日本 2時間47分) 
監督:富田克也
出演:田我流、鷹野毅、伊藤仁、まひる、ミャオ、野口雄介他

2012年2月11日〜シネ・ヌーヴォ、3月3日〜第七藝術劇場、
3月24日〜新京極シネラリーベ、4月14日〜神戸アートビレッジセンター他全国順次公開。
・監督インタビュー⇒こちら
・公式サイト⇒
http://www.saudade-movie.com/
※ナント三大陸映画祭グランプリ「金の気球賞」受賞作






 アジア映画を観ているような熱を帯びた映像と、土の香りが力強く迫ってくる。日本映画もここまで来たかという驚きがジンとした余韻と重なった。自主制作で地方都市の断片を描いてきた富田克也監督が、今度は地方都市で暮らす日系ブラジル人やタイ人のコミュニティそのものや彼らの肉声をそのまま描ききり、異国情緒すら漂う力強い作品を作り上げた。

 舞台は山梨の甲府。土木建築業で働く男たちを主人公に、彼らが足しげく通うタイ人のバーや、ブラジル人ラッパーがはびこるクラブ、彼らの家族や彼女など様々な人たちが登場。厳しい現実にぶつかり右往左往しながら生き抜く姿を、日本人目線ではなく、それぞれのコミュニティー目線でリアルに描いている。登場人物の断片がモザイクをはめるように組み込まれ、ブラジル人のラップや、タイ人の民族舞踊と合わさりながら大きなうねりとなって、彼らの夢やささやかな希望を垣間見せるのだ。

 まるで、亜熱帯かのようにビビッドに見える甲府の風景。外国人労働者が介護の現場にまで入ってくる様子なども、今まで日本映画で取り上げられることのなかった地方都市の現実だろう。土方の現場を解雇され、「日本にいてもいいことがない。」と、妻を捨てて惚れ込んだタイ人女性をくどき、一緒にタイへ行こうとした男の姿は、考えの甘い日本人をまさに揶揄しているかのようだ。一方、厳しい生活をしている外国人労働者たちが日本に残る理由は、自国に帰っても生活できないからに他ならない。衝撃的な事件の後のブラジル人の言葉「またか。」という言葉に、多少の差別やトラブルも甘んじなければ生きていけない厳しい現状が浮かび上がる。


 結局のところ、大したことは起こらない。しかし、そこで行われているそれぞれの日常がどこか滑稽でもあり、愛おしくもある。何よりも登場人物たちの混沌とした姿が、彼らを包む地方都市の今を雄弁に語るのだ。群像劇の形を取りながら、街の様々な側面を生々しく切り取った意欲作。既成の枠を超えた新しい映画づくりができる可能性を大いに感じた。

(江口 由美) ページトップへ

   
             
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