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 ルルドの泉で

2009(C)coop99 filmproduktion, Essential Filmproduktion, Parisienne de Production, Thermidor
『ルルドの泉で』  (LOURDES)
〜奇跡…その曖昧なものを巡る人々の真実を描いた傑作〜

(2009年 オーストリア=フランス=ドイツ 1時間39分)
監督:ジェシカ・ハウスナー
出演:シルヴィー・テステュー、レア・セドゥー、
    ブリュノ・トデスキーニ、エリナ・レーヴェンソン

2012/1/28(土)〜梅田ガーデンシネマ、
2 月下旬(予定)元町映画館、3月〜京都シネマ

公式サイト⇒ http://lourdes-izumi.com/

 ルルド、そこは「奇蹟の水が湧き出る泉」で知られ、世界中から巡礼者が訪れる聖地。クリスティーヌは、不治の病により体が不自由で、食事も移動も介護者の手を借りないとままならない。鬱屈した思いを抱えて巡礼ツアーに参加し、ルルドの地を踏む。そして、突然、奇跡が訪れ、立ち上がって歩けるようになる…。

 

 

 手足を自由に動かせる喜びがクリスティーヌを包みこむ。自分で髪を梳かし、お洒落を楽しみ、ごく普通の女の子のように恋もしたいと願う。さして信心深くもない自分になぜ奇蹟が訪れたのか、疑問と不安を抱きながらも、夢のような時間を、自分の信じるままにふるまう姿がけなげで愛おしい。

 
映画は、介護側も含め、巡礼ツアーに参加した人々の姿を淡々と描き出し、その人となりを伝えていく。主人公はじめ各登場人物の境遇はほとんど語られることなく、表情や仕草、会話から想像するおもしろさ。それぞれ病や苦しみを抱え、奇蹟を求めて集まり、一心に祈る巡礼者たち。クリスティーヌに奇跡が起きたときの反応もさまざまだ。驚く者、喜び祝う者もあれば、羨望、嫉妬といった反応もある。あからさまに皮肉を口にする老人もいれば、信心が薄いと噂話にいそしむ婦人達もいる。かたや神父は冷静で曖昧な立場をとる。さりげない言葉や表情に、人間の本音、いわばその人の品性が見え隠れする。人間を、一歩引いたところからまっすぐ見つめ、ユーモアも効かせてありのままに描き出し、あとは観客の想像に委ねる監督の才腕が光る。

  クリスティーヌを演じるシルヴィー・テステューの演技がすばらしい。体が不自由な苦しみは内側に押し隠し、挨拶には笑顔を絶やさない。細かな動き、表情から、言葉にならない思いがあふれるほどに伝わる。歩く時のたどたどしい動きや倒れ方もリアリティに満ちていて見事だ。
  ラストをどうとらえるかは、観客しだい。奇跡は束の間のことで、また元に戻ってしまうかもしれないという不安が、クリスティーヌの脳裏からは離れない。その繊細な表情から、人が、人生においてどこまで強気に苦難に立ち向かっていけるのか、どうしたら前向きのエネルギーへとつなげられるのか、人間の可能性について深く考えさせられた。何度も思い返しては味わいたくなるような、知的好奇心を揺さぶる傑作。「アヴェ・マリア」の厳かなメロディが、祈りに込められた人々の思いと、真実の奥深さを伝える。エンディングの明るい歌が、希望として、うっすらと未来を照らし出しているように思えてならない。
(伊藤 久美子)ページトップへ
2009(C)coop99 filmproduktion, Essential Filmproduktion, Parisienne de Production, Thermidor
   
             
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