ファーガスの脳裡に浮かぶ戦場のシーンがカットバックで繰り返し示され，そこに観る者を連れ込むような臨場感を生み出す。突然銃撃戦が始まり，日常の中に死体があり，ゲームのように人が殺される。ファーガスもまた，ある少女の姿を毎晩思い出して眠れないと吐露する。拷問の再現シーンは，拷問者と被拷問者の心理戦の様相を呈して迫力がある。拷問者は，真実を引き出そうとするあまり，自分の想定する方向に事実を歪めてしまう。

　これは愛に関する映画でもある。ファーガスとフランキーは兄弟同然に育ち，２人とも腕にレイチェルの名を彫っていた。ファーガスは，フランキーをイラクに誘ったことへの悔恨もあり，暴走ともいえる行動に走る。フランキーの妻レイチェルは，２人の親しさに嫉妬すると同時に，不安から逃れるためフランキーがイラクにいることを忘れようとしてきたと後悔する。戦争は，戦場に行った者とそうでない者の双方の心に深い傷を負わせた。

　戦場では一瞬の判断の迷いが自分に跳ね返ってくる。だから，仕方なかったのかも知れない。だが，フランキーはネルソンを許せなかった。一方，軍事会社は携帯に残された事実を闇に葬ろうとした。その中で，本作は糾弾より救済を希求する。ファーガスは，フランキーの優しさに触れ，イラクでの体験を断ち切って昔の自分に戻ろうとした。その結果としての彼の選択は，あまりに悲惨で，人間の脆さと愛しさと崇高さを映しているようだ。