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ローマ法王の休日
『ローマ法王の休日』(HABEMUS PAPAM)
〜悩める新法王がローマの街で見つけた答えは?〜

(2011年 イタリア=フランス 1時間45分)
監督:ナンニ・モレッティ 
出演:ミシェル・ピッコリ、レナート・スカルパ、ナンニ・モレッティ他

2012年7月21日(土)〜TOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ二条、7月28日(土)〜シネリーブル神戸他全国順次公開。
公式サイト⇒http://romahouou.gaga.ne.jp/

 『息子の部屋』のナンニ・モレッティ監督が、ローマ法王を主人公に大胆な発想で法王就任への葛藤や、新法王発表を待つ各国の枢機卿たち、新法王のスピーチを待ち望む町の人々の姿をユーモアと風刺を交えて描いたイタリアならではのヒューマンコメディー。日頃なかなか触れることのないローマ法王選出シーンはローマ市内の歴史的建造物で撮影され、本物さながらの重厚感を味わうことができる。そして、何よりも名優ミシェル・ピッコリの悩める法王ぶりに注目したい。
 ローマ法王崩御で、新法王選出のコンクラーベのため集められた各国の枢機卿から新法王に選ばれたのは、事前に誰も予想だにしなかった老枢機卿メルヴィル(ミシェル・ピッコリ)。新法王の発表を待ち望みサン・ピエトロ広場に集まった民衆に向けて演説をする間際で、メルヴィルは「法王になるのは無理だ」と突然その場から立ち去ってしまう。バチカンからそのままローマに姿を消したメルヴィルだが、街の新聞やテレビでは未だ演説のない新法王のことでもちきりだった。
 新法王が任務の重大さや責任の大きさに耐えられず逃げ出すというスキャンダラスな出来事も、ミシェル・ピッコリの醸し出す人生に迷った老人ぶりが微笑ましく、一人の人間として温かく描写している。セラピーを受け、自らがウツではないかと疑う一方、多忙な日々で忘れ去っていた昔の自分を思い出すきっかけにチューホフの戯曲『かもめ』を使ったシークエンスが加わり、聖職を目指す前のメルヴィル像が浮かび上がる。
 逆に、法王の演説が終わるまでシスティナ礼拝堂から一歩も出られず、一切の連絡を絶たれている枢機卿たちの「ただ暇つぶし」している様を、セラピー役のナンニ・モレッティ監督本人も加わって滑稽に描写。枢機卿が各国から集まってきたのをいいことに、イタリアのお国芸、バレーボールワールドカップ杯を枢機卿たちが総出でやるなんて、あっと驚くアイデアに笑いが止まらない。誰も神に祈ることすらせず、失踪隠しのための影武者がカーテンを揺らしているのを鵜呑みにし、黙って新法王が登場するのを待っている能天気さを見事に皮肉っている。
 ようやく民衆の前で自分の決めたことを伝える勇気を取り戻したメルヴィル。ローマの街を一人で散策したり、役者たちと語らったり、普通の人の生活を送ることで、改めて自分の人生や使命を見つめ直したメルヴィルの決断は、世界が変わりゆく中でバチカンにも変化が必要であることを代弁したようにも映る。ナンニ・モレッティ監督が描く法王の「ローマの休日」は、一筋縄ではいかないようだ。

(江口 由美) ページトップへ

   
             
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