topへ
記者会見(過去)
旧作映画紹介
シネルフレバックナンバー プレゼント
  『レッド・バロン』
  作品紹介
新作映画
★レッド・バロン
『レッド・バロン』 (The Red Baron)
〜戦争に男のロマンの香りがあった時代…〜

(2008年 ドイツ 2時間09分)
監督:ニコライ・ミュラーション
出演:マティアス・シュヴァイクホファー、ティル・シュヴァイガー、
    レナ・ヘディ、ジョセフ・ファインズ

2011年5月21日〜丸の内ルーブルほか全国にて順次公開
関西では、5月21日〜梅田ブルク7、OSシネマズミント神戸にて公開
公式サイト⇒  http://www.redbaron-themovie.com/
(C) 2008 NIAMA-FILM GMB
 子供時代、少年向け週刊漫画誌で「空の英雄・坂井三郎」伝に惹かれた。第2次大戦中、主に零戦で敵機64機を撃墜し“大空のサムライ”と呼ばれた人。今なら野球好きの小学生がイチローに憧れるようなものか。戦争の悲惨さを知らない子供に“撃墜王”はイチロー級の英雄だった。

  第2次世界大戦で散々、悪役を務めたドイツも、第1次大戦の英雄リヒトホーフェンは誇れる存在だった…。「レッド・バロン」は航空機によるクラシカルな空中戦を描いた戦争映画、というより英雄ロマンだ。 第1次大戦中、連合国軍の葬儀のさ中、ドイツの飛行機が現れ、墓に花輪を投げ込んで去る。こんな少々キザな曲芸飛行をやってのけたのはマンフレート・フォン・リヒトホーフェン男爵(マティアス・シュヴァイクホーファー)。撃墜王レッド・バロン。敵の葬儀に危険を冒してチン入し空中から花束を投げ込むのが彼らの騎士道精神だった。人を殺し合う戦争にロマンなどない、はずだが、大空を駆け巡る飛行機とパイロットには少なくとも第1次大戦まではあったというお話。
 史実によると、リヒトホーフェン男爵はハンサム(主役はそっくりとか)。で、80機も落とした撃墜王だから全ドイツを熱狂させたのも当然。彼は目立つ方が味方にも判別しやすい、と機体を真っ赤に塗り、敵軍の好敵手と正々堂々わたり合い、仲間たちとばか騒ぎもする。貴族でありながら普通の若者として日々戦闘に明け暮れる。
 最も影響を与えたのは美しい従軍看護師ケイト(レナ・ヘディ)だが、彼女はスポーツを楽しむように殺し合いに出ていくパイロットが理解出来ず、素っ気ない態度。だがリヒトホーフェンが頭部を負傷した時、ケイトの手厚い看護で復帰、ようやく心を通わせる。その時彼が見た野戦病院の凄惨な光景で英雄の戦争観が変わる…。

 なぜ今、第1次大戦の空の英雄なのか、首をかしげたが、現代のまるでコンピュータゲームのような戦争と違い、復葉機(時に三枚翼)の空中戦のアナクロさが何ともクラシック。風防ガラスすらなく、手を伸ばせば相手に触れてしまいそうな接近戦は「やあやあ我こそは」と名乗り合って刄を交えた中世の騎士道精神の名残りだろうか。
 ドイツの英雄は士気高揚を目論む上層部の思惑もあり、早々と最高勲章を受章。戦闘機中隊の任命される。目が良く、いち早く敵を見つけられる能力で撃墜数を増やした功績から、皇帝ヴィルヘルム2世に拝謁した時、彼は堂々と「負ける戦争はするべきでない」と主張、皇帝の逆鱗に触れ配転される。
 日本の英雄、坂井氏も「敵よりも早く敵を発見し有利な態勢から先制攻撃を仕掛ける」ことが大事、とインタビューで答えている。視力の点などリヒトホーフェンも同じ特徴を持っていたことは間違いない。坂井氏も頭部を負傷して右目を失明。リヒトホーフェンも頭部負傷が戦争観を変えた。

 坂井氏は日本の誇る“特攻作戦”について愚策と批判。「絶対死ぬ作戦で士気が上がるわけはなく、大きく下がった」とインタビューで言っている。1次、2次と時期こそ違え、リヒトホーフェンも坂井氏も「戦争などさっさとやめなさい」と言ってのける“英雄たち”の共通認識は興味深い。
 敗色濃厚になった1918年4月21日、ドイツ軍は連合国軍に総攻撃をかける。ケイトに感謝と別れを告げ、すべてを覚悟して最後の戦いに飛び立って行く…。英雄はやはり戦死して完成する。生き残った坂井氏は真の英雄にはなりきれなかったかもしれない。だけど、生還する方が家族にも国にもプラスになったはずだ。 戦闘機映画は映画の歴史でもある。青空を切り裂いて飛ぶ飛行機はまず絵になる。飛行機は何よりも美しく、飛行機が主役の映画には主人公は要らない、といった極論まである。
 映画は当初から飛行機が好きだった。事実、第1回アカデミー賞は飛行機映画「つばさ」(1927年、ウィリアム・A・エルマン監督)だったし、日本の「ハワイ・マレー沖海戦」(1942年)も大ヒットして、同年のキネ旬1位に選ばれ、その後の東宝特撮映画の原点にもなった。復葉機が主役のクラシックな飛行機映画も「素晴らしきヒコーキ野郎」(65年)や「華麗なるヒコーキ野郎」(75年)など傑作も多い。空飛ぶ夢は「男のリビドー」とフロイトなら分析するだろうが、「レッド・バロン」のような映画も男のロマン、またはリビドーの産物といえる。当初、多少ともロマンがあった第1次大戦は5年にわたる死闘で兵士900万人、非戦闘員1000万人の死者を出した地球規模の戦争だった。これ以後、戦争にはロマンのカケラもなくなり、今なおどんどんエスカレートしていることはいうまでもないだろう。
(安永 五郎)ページトップへ
   
             
HOME /ご利用に当たって