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さあ帰ろう、ペダルをこいで

(C)RFF INTERNATIONAL, PALLAS FILM, INFORG STUDIO, VERTIGO / EMOTIONFILM and DAKAR, 2008 All rights Reserved
『さあ帰ろう、ペダルをこいで』
(THE WORLD IS BIG AND SALVATION LURKS AROUND THE CORNER)
〜“記憶を取り戻す旅”が“絆を取り戻す旅”になるまで〜

(2008年 ブルガリア=ドイツ=ハンガリー=スロベニア=セルビア 1時間46分)
監督:ステファン・コマンダレフ
出演:ミキ・マノイロヴィッチ、カルロ・リューベック他

2012年5月12日〜シネマート新宿、5月19日〜シネマート心斎橋
公式サイト⇒http://www.kaerou.net/
※第24回ワルシャワ国際映画祭審査員特別賞受賞
 また新しく東欧の歴史を刻む映画が誕生した。共産主義国家の複雑な歴史に翻弄された主人公が、事故による記憶喪失を乗り越えて、自身のアイデンティティーを見つけ出すまでを描くロードムービー。エミール・クストリッツア監督作品常連の名優ミキ・マノイロヴィッチがブルガリアに住む祖父バイ・ロン役をユーモアたっぷりに演じ、過酷な状況を乗り越えてきた人間の厚みを感じさせる。クストリッツア作品を彷彿とさせる東欧ジプシー音楽もさりげなく心をわしづかみされるのだ。

 両親と自動車事故に遭い、唯一命は取り留めたものの記憶を失ったアレックス(カルロ・リューベック)と彼のもとに訪れる祖父バイ・ロンとの記憶を探す旅は、なんと自転車に乗って!二人乗りの「タンデム自転車」で一緒に自転車を漕ぎながら長年暮していたドイツから故郷ブルガリアを目指す。その道中の風景がなんとも素晴らしく、心を閉ざしていたアレックスに様々なお題をふっかけるバイ・ロンとの会話や、気持ちが解放されていく様子がロードムービーならではの味わいを醸し出し、爽やかな感動を呼ぶ。

 二人の旅の間に少しずつ挿入されていく失ったアレックスの記憶は、家族ぐるみの亡命、難民キャンプでの生活と、社会の裏側歩まざるを得なかった歴史だ。そして彼の両親が亡命を決意するに至る理由は、政権による抑圧に他ならない。ブルガリアの戦後から80年代、そして07年の政治的動向も反映させた描写が、ブルガリアの負の歴史を浮かび上がらせた。

 最後に忘れてはならないのは、幼少時代から最もアレックスとバイ・ロンを結び付けていたボードゲームの「バックギャモン」。シンプルなゲームだからこそ、サイコロの振り方ひとつで勝利を手にできる。勝負同様、結局自分次第なのは人生もしかり。亡命以来はじめてブルガリアに戻り、「バックギャモン」名人でもある祖父バイ・ロンと勝負をしたアレックス。本当の自信と絆を取り戻したアレックスに、これからは未来に向かっての旅を是非してもらいたいと願うのだ。

(江口 由美) ページトップへ

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