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★パレルモ・シューティング

(C) Number 9 Films (Perrier) Limited / Bounty Film Productions Limited 2009

『パレルモ・シューティング』 (The Palermo Shooting)
〜生と死のイメージあふれる旅の果てに〜

(2008年 ドイツ=フランス=イタリア 1時間48分)
監督・脚本・製作:ヴィム・ヴェンダース
出演:カンピーノ、ジョヴァンナ・メッゾジョルノ、デニス・ホッパー、
    ミラ・ジョヴォヴィッチ、ルー・リード

2011年9月3日〜吉祥寺バウスシアターにて3週間限定レイトショー公開
9月17日(土)〜シネ・ヌーヴォ、
京都シネマ、神戸アートビレッジセンターにて公開予定(時期未定)
公式サイト⇒  http://www.palermo-ww.com/

 ヴェンダース監督が久しぶりにヨーロッパに戻り、故郷のデュッセルドルフや、イタリアのシチリア島パレルモで撮影。あふれるほどのイメージで想像力をかきたて、期待を裏切らないロード・ムービーだ。
売れっ子カメラマンのフィンは仕事に追われる毎日に疲れ果て、不眠と死にまつわる夢に悩まされていた。あるきっかけでパレルモへ旅に出ることになり、そこで正体不明の男につきまとわれ、何度も矢で狙われる…。
 死は突然にやってくる。いきなり放たれる矢は、死の象徴ともいえる。デニス・ホッパー演じる死神とフィンとの対話シーンは、まさに本作のみどころ。生と死は対峙するものではなく、生の中に死があり、死の中に生がある。フィンは、死神との対話を経て、死への恐怖を乗り越えていく。ホッパーが強烈な存在感を残し、死は、恐れるものではなく、受容し、抱擁し、むしろ心を開いて対話すべき相手であることを教えてくれる。
 二人の魅力的な女優が登場し、フィンを「生」へといざなう。ジョヴァンナ・メッゾジョルノ(『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』)が、フィンの傍らに寄り添い、彼を「生」につなぎとめる「愛」の象徴となる、神秘的な美女フラヴィアを好演。妊娠したモデルとして登場するミラ・ジョヴォヴィッチは、生命力あふれ、輝くばかりの存在感で、豪快な笑いがフィンの憂鬱を吹き飛ばす。
 カメラマンであるフィンの仕事を通じて、デジタルの風景の映像にビルを付け足したり、夜空を朝焼けに変えたり、水面に映る光まで加工して変えられることが描かれる。デジタル映像の虚構性を目の当たりにして、思わず、俳優たち一人ひとりのリアリティあふれる表情に見入ってしまう。
 これは音の旅でもある。ドイツでは、フィンは始終イヤホンで音楽を聞いており、その音楽が映画でも流れる。観客はフィンと同じ音楽を聴きながら、同じ風景を見つめる。パレルモに舞台が移るとともに、フィンはイヤホンから解放され、背景の音も変わっていくおもしろさ。パレルモの街並み、風景が美しく、観客もまた見知らぬ街角にさまよい込んだ気持ちになる。
 長い旅の果てにフィンがみつけたものは、きっと観客の心をも温かく溶かし、映画という非日常から、自分自身の日常へと帰っていく勇気を取り戻してくれる。「パレルモ」はギリシャ語で「港」を意味する。私たちがいずれ向き合う死は、生の行き着く先であり、港ともいえる。私たちの人生がゆっくりと向かう先がパレルモなのか、あるいは、今ある現実そのものがパレルモなのか、一人ひとりにとって、パレルモを探す旅が始まる。
(伊藤 久美子)ページトップへ
   
             
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