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★ノルウェイの森

(C)2010「ノルウェイの森」村上春樹/アスミック・エース、フジテレビジョン

『ノルウェイの森』
〜累計1000万部突破の村上春樹原作を映画化〜

(2010年 日本2時間13分) PG-12
原作:村上春樹
監督:脚本 トラン・アン・ユン
撮影:マーク・リー・ピンビン

出演:松山ケンイチ 菊池凛子 水原希子 高良健吾 
    霧島れいか 初音映莉子 玉山鉄二

2010年12月11日(土)〜全国東宝系ロードショー
公式サイト⇒ http://www.norway-mori.com/


 

 



 

 「生と死と愛」の真理に直面する青春の息苦しさを叙情的に描いた村上春樹の『ノルウェイの森』。初めてこの小説を読んだ時は何てセンシティブで暗い話だと思った。ボリュームのある上下巻を読破するのがとても苦痛だったような記憶がある。なぜなら物語に入り込み過ぎてしまうと自分まで直子の深い森で迷子になりそうだったから。それから10年くらい経っただろうか。一度も再読せぬまま、映画になった『ノルウェイの森』を見た。正直見る前は不安でいっぱいだったが、監督を『青いパパイヤの香り』のトラン・アン・ユン、カメラを『空気人形』のマーク・リー・ピンビンに任せたおかげで、残酷だけど見事に美しい青春の一瞬が表現されていたように思う。

 主人公は高校時代に親友のキズキを自殺で失ったワタナベと、キズキの恋人だった直子。同じ喪失を共有する2人は互いを必要とし支えあっていたが、過去の悲しみから再生できずに心を病んでしまった直子は療養所へ入る決意をする。ささいなことでも深刻に苦悩してしまう思春期に最愛の人物を失った痛みは計り知れないものがある。10代の頃は、何でもできると確信していたのに結局は何もできない自分自身にもどかしさを感じる時期。だから、明日が確実に来ると信じていなかったし、できることなら明日なんて来てほしくないと思っていた。ずっと一定の場所でくるくると迷い続け、先へ進まない感覚は恐怖でしかないからだ。

 でも、経験を重ねるにつれ人生は回転扉のようなものだと気付く。気晴らししては塞ぎこみ、笑っては泣き、愛しては憎しむものだと。例え、どんなに深い孤独や矛盾を課せられても、人は耐えて生きていかなければいけない。それはとても辛い試練であるが「現実」だ。しかし、そのシンプルな答えを直子は導くことができなかった。そして、唐突に直子まで失ったワタナベは悟ったようにこう語る。「悲しみを悲しみ抜いて、そこから何かを学ぶことしか僕らにはできない」と。このひと言からはワタナベの自立とこの物語が伝えたい真のメッセージを受け取ることができた。

 役者では直子を演じた菊池凛子の儚い演技が圧巻。感情がこぼれ落ちるように心情を吐露する場面などは直子が憑依しているようだ。特に二十歳の誕生日を迎えた直子がワタナベと些細なお祝いをするシーンが心に残った。まだ二十歳まで七ヶ月あるというワタナベに直子はこうつぶやく。「いいわね、まだ十九なんて。思うんだけど人って十八と十九の間を行ったり来たりするべきなのよ。十八が終わったら十九になって、十九が終わったら十八になるの。そしたら色んなことがもっと楽になるのに」この台詞は混乱する心を抑えていた直子からの最初で最後のSOSであり、終焉への引き金だったのかもしれない。痛いほどに直子の心情を理解して演じきった菊池は本作でまた女優として進化を遂げた。

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