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★無常素描

(C) 大宮映像製作所

『無常素描』
〜東日本大震災から1か月。その傷跡と今、向き合う〜

(2011年 日本 1時間15分)
監督:大宮浩一
出演:玄侑宗久他

2011年6月18日〜オーディトリウム渋谷、
7月2日〜シアターセブン、
今夏〜神戸アートビレッジセンター他順次ロードショー
公式サイト⇒ http://mujosobyo.jp/

 東日本大震災が起きてから、我々は何度もテレビなどで津波の映像や被災地の映像を見た“はず”だった。しかし、本当の姿をきちんと見ていたのだろうか。何の脚色もされていない今の被災地の姿を、自分がその場で目撃したかのように映し出す作品が、本作『無常描写』だ。東日本大震災のドキュメンタリーとして、世界最速で公開される映画の「伝える力」は半端じゃない。

 震災から1ヶ月が経った4月の後半に、一台の車が津波の爪痕が露わな被災地を走る。車窓からキャメラが静かに映し出す風景、それは渦高く積み上げられた瓦礫、放り出されたおもちゃ。家の前にそそりたつ大型漁船、破壊された堤防、横倒しになったままの家。体育館を埋め尽くす泥にまみれたアルバムの数々。かつてあったはずの人々の営みの痕跡すらも一瞬で奪ってしまった津波の傷跡は、未だ生々しく剥き出しのままだ。

 家族を亡くした女性は「常にテンションを上げておかなければ、崩れてしまう。なんとか生かされた命、ちゃんと生きなければ。」と語る。自宅が半壊しても「海の近くに住みたい。海が好きだから。」と、涙ぐむ高校生。避難所の体育館で「行くところがないから、ここにいるの。」と遠い目をして語る98歳のおばあちゃん。倒壊した工場を後ろに、孫のことを思って涙がとまらないおじいちゃん。そして、気仙沼出身でボランティアに来ていた男性は「あの日を一緒に経験していない罪悪感がある。」と胸の内を明かす。生きること、それでもこの土地で過ごしたいと願うこと、再生の第一歩を踏み出す前に立ちはだかることはあまりにも大きい。
 BGMもナレーションもない静寂の中で、人々が語る言葉やありのままの表情から、多くの人の運命が変えられてしまったことを今更ながら痛感し、正直言葉も出なかった。福島県三春町で住職を務める玄侑宗久氏は「神がこれだけ荒れたのは、人間が進んできた方向を間違えているのではないか。」と語り、“無常”に対応できるような生き方の転換、復興のあり方を投げかけている。日本全体の問題として自問すべきこと、忘れてはいけない記憶や、そこから前を向いて再起をかける人々の今の姿がそこにある。
(江口 由美)ページトップへ
   
             
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