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★マーラー 君に捧げるアダージョ

(C) 2010, Pelemele Film, Cult Film, ARD, BR, ORF, Bioskop Film GmbH
『マーラー 君に捧げるアダージョ』
(MAHLER AUF DER COUCH )
〜慈愛に包まれ天上へと旅立ったマーラー〜

(2010年 ドイツ,オーストリア 1時間42分)
監督・脚本:パーシー・アドロン,フェリックス・アドロン
出演:ヨハネス・ジルバーシュナイダー,バーバラ・ロマーナー,    カール・マルコヴィクス,フリードリヒ・ミュッケ,
   エーファ・マッテス,レナ・シュトルツェ
2011年4月30日〜
ユーロスペース、梅田ガーデンシネマ 、ほか全国にて順次公開
5月28日〜シネ・リーブル神戸、 7月〜京都シネマ にて公開
公式サイト⇒ http://www.cetera.co.jp/mahler/index.html

 




 



 グスタフ・マーラー(1860年生まれ)は,1910年7月に妻アルマの不倫を知り,翌8月にフロイトの診察を受けた。本作は,グスタフとフロイトの対話を軸として,時空を自在に操りながら,夫婦の心の深層に迫り,愛について真相を明らかにしようとする。必ずしもリアリティを追求するのではなく,表現主義的な激しいタッチが見られる。不安定な構図を用いたり,記憶と妄想の区別を曖昧にしたりして,グスタフの不安や恐怖を表現する。

 怪奇幻想的な雰囲気さえ漂い,サイコ・サスペンス風なところもある。人間の心をあるがまま表現すれば,そうなるのかも知れない。とりわけ,グスタフがグロピウスの手紙を見てアルマの不倫に気付いたシーンは圧巻だ。音楽が高鳴り,グスタフが走り出す。映し出される光景は斜めに傾き,アルマの姿が二重,三重になる。その直後,グスタフがアルマの作った曲を弾き,アルマが「私に作曲を禁じておいて」と怒りを向ける。大事なシーンだ。

 アルマは,グスタフの19歳年下で,歳がほぼ同じグロピウスとは自ら望んで不貞を重ねたと言う。グスタフの罪は何かと問うフロイト。グスタフは,最初は年上すぎることだけだと答えるが,やがて自らの罪に気付かされる。2人が出会って結婚し,娘が生まれ4歳で病死した後,溝が深まる。アルマは,グスタフに音楽を禁じられ将来を犠牲にされたと,その心情を吐露する。アップで映されるそのときのアルマの表情には鬼気迫るものがある。

 時折,アルマの母親やグスタフの妹らがカメラに向かって語りかける。「犠牲になってはダメよ」と注意する母親。兄は死を恐れており家族や子供が欲しかったのだと説明する妹。グスタフの見た主観的な世界だけでなく,第三者の視点を付け加えることにより,物語に客観性が与えられ奥行きが出ている。フロイトは「苦渋に満ちた聖母の顔…」と言う。その言葉は,グスタフの死後,過去を振り返るアルマの顔に映る光と影へと連なっていく。
(河田 充規)ページトップへ
   
             
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