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魔弾の射手

(c)Syquali Multimedia AG
『魔弾の射手』 (Der Freischutz)
〜カメラも一つの楽器として映像を奏でる〜

(2010年 スイス 2時間22分)
監督:イェンス・ノイベルト
出演:フランツ・グルントヘーバー(領主オットカール,Br),
    ベンノ・ショルム(アガーテの父クーノー,B),
    ユリアーネ・ヴァンゼ(アガーテ,S),
    レグラ・ミューレマン(エンヒェン,S),
    ミヒャエル・フォッレ(カスパール,B),
   ミヒャエル・ケーニヒ(マックス,T),ルネ・パーペ(隠者,B),
    オラフ・ベーア(富農キリアン,Br)

2012年3月10日(土)〜ヒューマントラストシネマ有楽町、3月24日(土)〜シネ・リーブル梅田 にて公開
公式サイト⇒ http://www.cetera.co.jp/madan/

 ウェーバー作曲による全3幕のオペラ「魔弾の射手」は,1821年ベルリンの王立劇場で初演された。映画は,このオペラを原典に即して映像化したものであり,音響の整った美術館で聴くオペラといった趣がある。時代を三十年戦争(1618〜1648)ではなくナポレオン戦争下の1813年,舞台をドレスデンと設定している。初期ドイツ・ロマン派を代表する作曲家がこのオペラを書いた時期と場所に合わせたようで,監督のこだわりが感じられる。

 METライブビューイングは,メトロポリタン歌劇場で上演されたオペラをライブ撮影して上映している。これに対し,本作は,舞台を収録したものではなく,6週間にわたりドレスデンで撮影され,スタジオでレコーディングが行われた。ダニエル・ハーティングの指揮でロンドン交響楽団が演奏している。監督は,“オペラの映画”として劇場で聞こえる音を再現するのではなく,耳にとっての3Dを目指した“映画オペラ”だと強調する。
  正直に生きてきた者でも誘惑に負けて人の道を踏み外すことがある。人間は,弱い存在だが,誠実に生きることで神の祝福を受けられる。そんな印象が残るオペラだ。マックスは,アガーテとの婚礼を控えているが,その前の試演射撃で領主の命じた的を撃ち抜かないと結婚が許されない。その前日に撃ち損じて不安を募らせているとき,悪魔と取引したカスパールに奸計を用いられ,7発目が悪魔の意のままになるという魔弾を使ってしまう。
 1幕で,マックスが森を抜け野を越え…と歌い,アガーテの愛を心に描き奮起する。カメラは彼のうずくまった小さな姿や力強く立ち上がった姿を通して不安と希望の間で揺れる内面を映し出す。結局,彼は地獄の網に捕われて絶望の淵に追いやられる。歌と映像とが相俟ってマックスの心情を観客の中に刻み込む。2幕ではアガーテと従妹エンヒェンの美しい歌声に魅了され,3幕で狩人の合唱に元気づけられるが,映像的にもかなり面白い。

  アガーテとエンヒェンが枕を投げ部屋を走り回り戯れる楽しいシーンがある。一方,悪魔ザミエルの登場シーンや魔弾を作るシーンは超常的で呪術的な雰囲気を醸している。マックスが7発目の魔弾を撃ったとき,カメラは落ちた白い鳩を大きく映し,上にパンして倒れたアガーテに近付いていく。そのカメラの動きが人々の不安を増大させる。全てが終わったとき,何度か繰り返された真上からの俯瞰は神の存在を示すものだと気付かされる。

(河田 充規) ページトップへ

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