首藤康之,1971年11月11日生まれ。生まれながらのダンサー。とはいえ,すぐできてしまう天才ではなく,小学生で自分の天職を見付けた男。出身地の大分でバレエと出会い,1980年に初めて舞台に立ち,それで人生が決まった。踊りたいという思いが強く高校には4日しか通えなかった。15歳から32歳まで東京バレエ団にいてモーリス・ベジャールからも振付を受けた。その後,バレエという枠に収まることなく,新しい領域に挑戦している。
小学校2年の誕生日プレゼントが大分で上演された森繁久彌の「屋根の上のバイオリン弾き」だった。幕が開き舞台の上で繰り広げられる現実と違う世界に感動し,自分の居場所を見付けたと思った。38歳になった2009年の冬も黙々と一人で練習している。毎日同じことの繰り返しの中で舞台に出たとき,このためにあの毎日があったのだと思うと,また頑張れたという。歳を重ねれば重ねるほどまだまだ踊りたくなるというから目が離せない。
同じ時期に東京バレエ団に入った斎藤友佳理,「空白に落ちた男」の演出・振付をした小野寺修二,「アポクリフ」を振り付けたシディ・ラルビ・シェルカウイが,首藤康之を語る。何か他の人とは違うものを持っていたという。不器用で,一つ一つ咀嚼するのにすごく時間が掛かり,形になるまで試行錯誤する。だが,一度掴んだものは放さず,決してブレない。コンテンポラリーでは,慣れない動きで困難もあったが,自らの限界に挑んだ。
ダンス作品「時の庭」の振付をした中村恩恵が首藤康之のためにソロ作品を創作した。彼が,初めは白シャツ姿で,終わりには上半身の筋肉を露出し,「Between
Today and Tomorrow」を2回踊る。椎名林檎の手掛けた音楽がダンスとマッチしている。鍛錬された身体が優美さを生み出している。じっと立ち止まって何かを考えたり,吹っ切れたように激しく動いたり,彼自身を表現する。広い空間を活かした約4分半のダンスが2回目は深く見えてきた。