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★奇 跡

(C) 2011『奇跡』製作委員会
『奇 跡』
〜子ども目線で綴る家族、夢、そして希望〜

(2011年 日本 2時間27分)
監督:是枝裕和
出演:前田航一、前田旺志郎、大塚寧々、オダギリジョー、
    橋爪功、樹木希林、夏川結衣、長澤まさみ他
2011年6月4日〜九州地区先行ロードショー、6月11日〜大阪ステーションシネマ、梅田ブルク7、シネリーブル神戸、Tジョイ京都他全国ロードショー

公式サイト⇒ http://kiseki.gaga.ne.jp/
 『奇跡』というあまりにもシンプルで、心掴まれるタイトルに、主演が人気漫才コンビの「まえだまえだ」の二人だと知れば、子どもが生き生きとした表情を見せる映画であることは想像がつくだろう。しかし『誰も知らない』の是枝裕和監督は、そんな想像をはるかに越える日本版『スタンド・バイ・ミー』のような子どもたちが願いを叶えようとする旅と、見守る大人たちの姿の暖かさを胸に刻ませてくれた。
 作品中でも兄弟役を演じる「まえだまえだ」。兄の航基演じる航一は、両親の離婚後鹿児島の母の実家に戻り、祖父や祖母と生活をしている。一方弟の旺志郎演じる龍之助はミュージシャンを目指す父親と福岡で暮らしをている。火山灰ばかり降ってくる鹿児島の暮らしに「訳わからん!」とぼやきながらも家族が再び一緒に暮らすことを夢見ている兄と、意外や父親だけの暮らしにも順応して、庭の野菜が育つのを楽しみにしている弟。それぞれのキャラクターがそのまま反映されたかのような役を、漫才さながらの子どもの本音を炸裂させながらイキイキと演じていて、ぐいぐい引き込まれる。特に兄航一の自分の思いをぐっとこらえた表情がたまらなくいとおしかった。

 後半は兄弟がそれぞれの友達を連れて、九州新幹線の一番列車がすれ違うときに起こる”奇跡”にそれぞれの願いをかけるべく行動を起こしていく。昨年公開された自身の初監督作品『トルソ』でも寄り添うようなキャメラワークが印象的だった山崎裕が、再び是枝監督作品でドキュメンタリーのように自然な子どもたちの表情を捉えている。彼らがそれぞれ語る夢、希望とそれを叶えたいと思う気持ち、それを実現させるための大旅行。福岡から鹿児島から、駅を駆け抜け、電車に飛び乗り、駅のホームのあちらとこちらで数か月ぶりの再会を喜ぶ兄弟の姿は、まさに感動的だ。

 本作に登場する大人もまた、不器用ながら一生懸命生きている普通の人たちだ。「ぼんやりした」味のお菓子(かるかん)を作る祖父、フラダンスが趣味の祖母、妙にアツイ先生、そして夢をあきらめない航一たちの父、スーパーでパートをしながら地道に生きる母。是枝監督はそんな大人たちをも子ども目線でリアルかつどこか愛すべき人たちに描いている。

  少年たちが願ったことが叶わなかったとしても、叶わないなりに生きていくことで一歩大人になったことは小さな『奇跡』に違いない。大人と子ども、親と子の関係を軸に子どもの本音を織り交ぜながら、それぞれがお互いを思いやり、少しずつ着実に成長する姿が暖かい気持ちを呼び起こす。主題歌を歌うくるりのサウンドが心地よく物語を包み、観ていて本当に気持ちのいい、あっという間の2時間半だった。

(江口 由美)ページトップへ

   
             
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