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『キリマンジャロの雪』
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キリマンジャロの雪

(C)AGAT Films & Cie, France 3 Cinema, 2011
『キリマンジャロの雪』 (Les Neiges du Kilimandjaro)
〜実在感を持って迫る寛容の精神の美しさ〜

(2011年 フランス 1時間47分)
監督・共同脚本:ロベール・ゲディギャン
出演:アリアンヌ・アスカリッド,ジャン=ピエール・ダルッサン,
    ジェラール・メイラン,マリリン・カント,
    グレゴワール・ルプランス=ランゲ,
    アナイス・ドゥムースティエ,アドリアン・ジョリヴェ

2012年6月9日(土)〜岩波ホールにて、6月下旬〜梅田ガーデンシネマ、順次〜京都シネマにて公開
公式サイト⇒ http://www.kilimanjaronoyuki.jp/

 厳しく沈うつな雰囲気でくじ引きが行われている。この出来事は,強盗犯の青年だけでなく,被害者夫婦にとっても人生の岐路となる。くじに当たった20人にはミシェルとクリストフが含まれていた。ミシェルは組合に所属して35年になる委員長だ。くじに当たり解雇されても妻との生活に困らない。クリストフは22歳の青年で3週間の新入りだ。父親は蒸発し,母親はたまに戻るだけで,解雇されると2人の幼い弟を抱えて生活に行き詰まる。
 ミシェルと妻マリ=クレールは,キリマンジャロのあるタンザニア旅行を子供らからプレゼントされる。それを奪った強盗犯の一人がクリストフだった。ミシェルは,組合の活動を侮辱され,公平と信じたくじが間違っていたことを思い知らされる。マリ=クレールは,事件の原因を求めて,犯人の家を訪ねたりその母親に会いに行ったりする。夫婦は違った経路で2人の弟を引き取る決意を固めるが,その過程が丁寧に描かれて説得力がある。
 パスカル・ダネルの「kilimandjaro」の哀しくも美しい歌が映画全体を包み込む。ミシェルのテーマのようにジョー・コッカーの「many rivers to cross」が流れる。50代になった夫婦がそれぞれ人生を振り返り,いま自分ができることを実行しようとする。それはウンザリするような慰めの言葉や善意では決してない。自らの人生を見据えて社会との調和を図る中から生まれてくる寛容の精神だ。社会が変わってしまっても,この精神を失ってはならない。
 ミシェルはフランスの社会主義者ジャン・ジョレスの言葉を実践する。マリ=クレールはバー“le tintamarre(喧噪)”で人生の苦しみにメタクサを処方される。そのシーンでウエイターが「失恋は新たな幸せの前奏曲だ」と言う。「失恋」を別の言葉に置き換えても面白い。隅々までフランスらしさに溢れた映画だ。しかも,端々に夫婦と子供らとの世代による見解の相違がさり気なく提示され,郷愁とは切り離された時代の変化をも捉えている。

(河田 充規) ページトップへ

(C)AGAT Films & Cie, France 3 Cinema, 2011
   
             
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