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『かぞくのくに』
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かぞくのくに
『かぞくのくに』
〜兄帰国の日、妹は兄の腕を離さなかった…〜

(2012年 日本 1時間40分)
監督:梁英姫(ヤン・ヨンヒ)
出演:安藤サクラ、井浦新、ヤン・イクチュン、京野ことみ、
    諏訪太朗、宮崎美子、津嘉山正種

2012年8月、東京・テアトル新宿、大阪・テアトル梅田、シネマート心斎橋、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 ほか全国ロードショ
公式サイト⇒http://kazokunokuni.com/

 25年ぶりに北朝鮮から日本に帰ってきた兄が“病気治療”の目的も果たせないまま本国から帰国指令がきて、わずか1週間で家族のもとを離れる。別れの時、妹は何も出来ず、何も言えず、去っていく兄を見送るだけだった…。

 ヤン・ヨンヒ監督は2本のドキュメンタリー映画「ディア・ピョンヤン」と「愛しきソナ」で(北)朝鮮籍の在日朝鮮人の苦難を描き、高く評価されたが「ドキュメンタリーでは描けないものがある」と初めて劇映画に挑んだ。本来、劇映画は虚構、作り物だが、この映画は監督の身の回りで実際に起こったこと。虚構などではない“ドキュメンタリー・ドラマ”である。これまで描きたくても描けなかった監督の思いが随所に滲んだ。その最大の「作劇」が兄妹の別れのシーンだ。
 現実には「何も出来なかった」妹(監督)は、一度その通りに撮り終えたが、妹役の安藤サクラに「何かアクションで反抗してほしい」と要求、妹(サクラ)はタクシーに乗った兄の腕を離さず、しばらく一緒に走る、というドラマチックなシーンになった。「俳優もスタッフも彼女の演技に引っ張られるようにリアクションした」とヨンヒ監督はいう。 監督が現実では果たせなずに味わった悔しい思いを、映画の中で女優に託して実行する、映画はやっぱり夢の実現なのだった。
 1959年末から約20年間続いた北朝鮮の帰国事業は、日本映画でも何度か描かれた。「キューポラのある町」(浦山桐郎監督=62年)のジュン(吉永小百合)一家の友人たちは北へ帰って行った。当時は本当に“夢の国”だった。「血と骨」(崔洋一監督=04年)の暴れ者・ビートたけしも帰国したが“夢のあと”の寂しい最後だった。「かぞくのくに」は帰国事業で北へ帰った兄ソンホ(井浦新)が病気治療のため、25年ぶりに日本に帰ってくる。彼を迎える日本の家族の物語である。父親(津嘉山正種)は北の在日組織「朝鮮総連」の幹部。母親(宮崎美子)と10歳下の妹リエ(安藤サクラ)は素直に喜んでいるが、帰ってきた兄には北の監視人(ヤン・イクチュン)がぴったり張りついていた…。
 25年ぶりの帰国、再会とはどんなものか、平和な今の日本では想像するのは難しい。ソンホは家の手前で車を降り風景を見回す。母親との抱擁。高校の同窓会で古い友人たちに会い、かつて思いを寄せ合ったスニ(京野ことみ)と思い出の曲「白いブランコ」を無口なソンホも口ずさむ…。監視人がつきっきりのためか、ソンホは無口でほとんどしゃべらない。日本人拉致被害者の帰国時の様子を見ても、一様に無口になってしまうようだ。
 ソンホに“北の陰”を感じたのはリエに“工作員”の役目を持ちかけた時。妹との再会を喜んでいるように見えた兄の思いがけない提案に妹は激しく拒絶する。一方で、2人で入ったスーツケース店ではリエに「お前はそういうのを持って色んな国に行け」と優しい言葉をかける。監視人の前では何も言えない彼がただ一度、妹に語りかけた心情あふれる言葉だった。病院で脳腫瘍の検査を受けた結果「治療には時間がかかる」という診断。他の方策を模索しかけた時に思いもかけぬ帰国命令。非情な措置に、家族は言葉を失う…。

 不可解な国であることは最近のロケット打ち上げ騒動でも思い知らされたが、国家の前では個人や家庭など木の葉のような存在でしかない…映画の中でリエが監視人に向かって言う。「あなたもあの国も大っ嫌い」。だがその言葉には祖国を罵らなければならない悲痛な思いが感じ取れた。

(安永 五郎) ページトップへ

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