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★神々と男たち

(C)2010 ARMADA FILMS - WHY NOT PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINEMA
『神々と男たち』 (原題:Des hommes et des dieux)
〜人間の魂の真の強さとは何かを問いかける傑作〜

(2010年 フランス 2時間)
監督:グザヴィエ・ボーヴォワ
出演:ランベール・ウィルソン、マイケル・ロンズデール

4/9〜梅田ガーデンシネマ、三宮シネフェニックス、5月予定〜京都シネマ
公式サイト⇒ http://www.ofgods-and-men.jp/
 見終わっていつまでも余韻に浸り、修道士一人ひとりの顔を思い浮かべながら、映画の中の言葉を反芻したくなる。

  1996年、アルジェリア山間の人里離れた小さな村の修道院で、フランス人修道士たちが、武装イスラム集団に誘拐される。本作は、実際にあった誘拐事件そのものというより、事件が起きるまでその地に留まり続けた修道士たちの日常を描くことで、その内面に迫る。淡々とした日常の営みを通じて、受難の死を覚悟し、恐怖を乗り越える修道士たちの気高さが浮かび上がり、圧倒される。
 イスラム原理主義者とアルジェリア軍との内戦が激化し、修道院の近辺でもテロや虐殺事件が相次ぐ。修道士たちは、内務省や軍から帰国を迫られる一方、村人たちからは見捨てないでほしいと強く慰留される。死を覚悟して修道院にとどまるのか、この地を去るのか、葛藤する姿が淡々と描かれる。
 まだ薄暗い夜明け前、祈りとともに一日が始まる。聖歌を朗誦し、畑を耕し、食事をつくるといった慎ましやかな日常。修道士が施す診療所には村人たちが大勢つめかけ、村人のお祝いの場には修道士たちも招かれる。イスラム教、キリスト教と宗教は異なっても、互いを尊重し、修道院が村に溶け込み、共に暮らしていることがわかる。8人の修道士たちは、迫り来る恐怖と不安の中、断ち難い生への執着、自らの信仰心、使命感との間で迷い悩む。黙想を重ね、内なる神に問いかけ、繰り返し話し合った末、皆である決断にたどりつく…。
 老練な役者たちの表情が何よりすばらしい。運命を共にしようと決めた者たちが、最後に共に囲む食事のシーンのなんと神々しいまでに美しいことか。瞳の奥に秘められた信念の強さ、確固たる決意が、深い哀しみの中から浮かび上がり、涙をぬぐいきれない。

 修道院長の「インシャラー」(神のお心のままに。イスラム教の言葉)という最後の言葉に、暴力を前に決して屈しない頑強で寛大な精神のありようをみる。キリスト教徒とイスラム教徒とは隣人であると、過激派のリーダーに説き、握手をして別れる場面は忘れがたい。
  祈り、歌う修道士たちの姿を背後からとらえるカメラの美しさ。人間の魂の力を静かに深く描き出し、「白鳥の湖」のメロディーが、彼らの崇高な精神とともに、いつまでも脳裏にこだまして止まない。間違いなく映画史に残る傑作だ。
(伊藤 久美子)ページトップへ
   
             
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