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★カリーナの林檎 〜チェルノブイリの森〜

(C) 2011 カリーナプロジェクト All Rights Reserved.
『カリーナの林檎 〜チェルノブイリの森〜』
〜チェルノブイリ、「失われた森」の記憶を忘れない〜

(2011年 日本 1時間49分)
監督:今関あきよし
出演:ナスチャ・セリョギナ、タチアナ・マルヘリ他

2011年11月19日(土)〜シネマート六本木、梅田ガーデンシネマ、12月17日(土)〜京都みなみ会館、順次〜神戸アートビレッジセンター にて公開
・監督インタビュー⇒ こちら
・公式サイト⇒
  http://kalina-movie.com/
 1986年に旧ソビエト連邦で起きたチェルノブイリ原子力発電所事故から今年で25年。『アイコ十六歳』、『十七歳』の今関あきよし監督が、自主制作映画として現地取材を行い、一旦本作を完成させたのは2004年のことだった。当時は、公開のめどがたたずそのままとなっていた作品を、25年という区切りの今年に公開すべく再撮影、編集をしていたところ、3.11の地震と福島原発事故が重なり、更なる変更を加えたという。今関監督がゼロから出発して、現地の人をはじめ、さまざまな協力を経て撮りあげた『カリーナの林檎〜チェルノブイリの森〜』は、決して声高に原発反対を訴えた作品ではない。むしろファンタジーのようにも見えるドラマに仕上がっている。しかし、その中に原発の施設が映ったとき、巨大な恐怖感が押し寄せる。
 8歳の少女、カリーナは、夏休みに居住禁止区域の隣村にあるおばあちゃんの家を訪れる。森の中の一軒家で過ごすひと時や、池で遊んだり、並木道をおばあちゃんと歌をうたいながら歩いたりと、緑豊かな森や静かな輝きを称える湖は美しく穏やかだ。「オーディションで一番その場を楽しんでいた」と今関監督が語ったカリーナ役のナスチャ・セリョギナの自然な笑顔にも癒される。何の不安もないように見える風景からは、潜んでいる見えない敵など、みじんも感じさせない。それが一番怖いのだ。
 ファンタジーのような森の景色とはうって変わり、学校が始まって街に戻ったカリーナが入院する母を訪れた病棟のシーンでは、入院しながら抗がん剤治療を続けている小学生や中学生の子どもたちが映し出され、事故後何十年も経った今でも住人達を苦しめている現実を目の当たりにする。父は入院費を稼ぐために出稼ぎへ行き、母が入院しているカリーナも、親戚の家に預けられ、自分の家族と過ごすことができない。家族との生活が様々な形で奪われていることも、依然変わらない。母から「チェルノブイリの森にある悪魔の城が毒をまき散らしている」と聞いたカリーナ。自分が入院中にもかかわらず、病院を飛び出しおばあちゃんの家へ向かい、政府軍の監視車に警告を受けてもたじろがないカリーナの姿は、まさにキリストのようだった。入念な取材のもと、危険地域現地で撮影された映像は、ドキュメンタリーのような説得力がある。
 全てが福島での出来事と重なり、その未来を見ているように思える今、放射能の恐怖が分からないカリーナのような子どもたちに負の遺産を押し付けてしまうことが、無念でならない。ラストに挿入され原発の要塞のような建物が、未だに終わらない闘いの象徴のようだった。チェルノブイリの記憶を風化させないという想いからスタートしたカリーナプロジェクトは、私たちにチェルノブイリのことを今一度考える機会を与えてくれるだろう。
(江口 由美)ページトップへ
(C) 2011 カリーナプロジェクト All Rights Reserved.
   
             
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