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★悲しみのミルク
『悲しみのミルク』
〜無言の優しさが少女の苦しみを癒す〜

(ペルー 2008年 1時間37分)
脚本・監督:クラウディア・リョサ
出演:マガリ・ソリエル、スシ・サンチェス、エフライン・ソリス、
    マリノ・バリョン

2011年5月14日〜第七藝術劇場、 6月11日から京都みなみ会館、6月25日〜神戸アートビレッジセンター、近日公開〜 高槻シネマセレクト
公式サイト⇒ http://www.kanashimino-milk.jp/
 無言でそっと差し出された優しさが、心にしみこむように感じられるラストに、いつまでも涙が止まらなかった。観終わって、少女ファウスタがそれまでずっと心の奥に溜め込んできた苦しみ、悲しみが一気に押し寄せてきた。
 1980年代、極左ゲリラ組織によるテロ行為は、南米ペルーの人々を混乱と恐怖に陥れた。テロの犠牲となり命を失った大半は先住民。ファウスタの母親が死に際に歌った歌は、村人への冷酷非道なテロを伝え、あまりの残虐さに息をのんだ。恐怖は連鎖する。母が味わった苦しみは、母乳をとおして自分に受け継がれたと信じるファウスタは、堅く心を閉ざし、一人で外出もできずにいた。しかし、母を故郷に埋葬するための資金を稼ぐため、初めて、裕福なピアニストの屋敷でメイドとして働くことになる…。
 母から数々の歌を教えられたファウスタにとって、唯一、自分の気持ちを表現することができたのが、歌だった。アンデス系先住民のケチュア語で歌われる悲しげなメロディと、ファウスタの繊細で美しい声が心に残る。

 人と関わることのできないファウスタも、ピアニストの家で働く庭師の男にだけは心を開いていく。同じケチュア語を話すという以外、庭師がどんな人なのかは、ほとんど示されないが、花好きで心根の優しい人とわかる。ファウスタが、屋敷の玄関のドアを開ける時、庭師の手をみせてもらい、本人と確認してから開けるという場面が印象に残る。この何度も繰り返されるドアを開ける行為が、ラストへの伏線になり、見事だ。
 母の埋葬のために外の世界へと踏み出したファウスタを、庭師のように暖かく見守る者もいれば、彼女の心を傷つけ、そのまま去ってしまう者もいる。セリフも少なく、説明的な描写も最小限で、さりげない描写の積み重ねが、最後に大きな感動を呼ぶ。海辺の白い砂浜のロングショットをはじめロングにひいた場面が美しい。母親を無事に葬ることで、新たな一歩を踏み出せるようになったことが示唆される。
 ラスト、ファウスタにとって、苦しみの原因、悲しみの象徴であったものが、美しい花へと変わる。ファウスタの晴れやかな表情に希望のきざしを感じずにはいられない。
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