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★イリュージョニスト

(C) 2010 Django Films Illusionist Ltd / Cine B / France 3 Cinema tout droits reserves

『イリュージョニスト』
(L'ILLUSIONNISTE/THE ILLUSIONIST )
〜穏やかな時間の中,今生きている幸せを思う〜

(2010年 イギリス,フランス 1時間20分)
監督・脚色:シルヴァン・ショメ
声の出演:ジャン=クロード・ドンダ,エルダ・ランキン

2011年3月26日(土)〜TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国順次公開
関西では、4月9日(土)〜シネ・リーブル梅田にて独占ロードショー
公式サイト⇒  http://illusionist.jp/
 手品師タチシェフと,彼を魔法使いだと信じたアリスの,ちょっといい話だ。穏やかな時間を醸し出すアニメーションの動きが,柔らかな色彩と相俟って,愛おしさを運んできてくれる。1950年代の終わり,時代の移り変わりが身に染みる。マジックは廃れ,ロックが人気を集めていた。舞台の上ではロックが演奏され,舞台の袖ではタチシェフが出番を待ち続けている。彼がやっと舞台に出たとき,客席にいたのはお婆さんと男の子だけだった。
 タチシェフは,汽車やフェリーで移動し,車に乗れば牛に囲まれて立ち往生する。そして,エジンバラでの平穏なひととき。公園ののどかな風景。バドミントンをする人がいるし,ベンチに座る恋人達,そして犬を散歩させる婦人もいる。だが,ゆったりとしていても,時間は確実に流れている。タチシェフとアリスが滞在するホテルの別室には人形遣いがいた。後のショットで,ぽつんとショーウインドウに置かれたマリオネットが映される。
 タチシェフは,ショーウインドウの中で手品をする。ショーを見せるというより,彼自身が見せ物になってしまう。車がゆっくりと走り,日常の時間が過ぎていく。その中で,アリスは若い男と出会いデートする。タチシェフは,その2人の姿を見つけて思わず身を隠す。大人へと一歩近付いたアリスを見て,別れの時が迫っているのを感じたのだろう。避けられない別れ。彼は,丘に上り,それまで一緒に過ごしてきたウサギを逃がしてやる。
 その後のシーンが実にいい。カメラが引きながら旋回し,さらに上空へと移動する。タチシェフは,汽車に乗って旅に出る。アリスは,荷物を持って部屋を出る。彼女が振り返って部屋を眺めるショットは,タチシェフとの時間が思い出となった瞬間を捉えているようだ。彼女が立ち去った後,誰もいない部屋で,本のページが風でめくられ,差し込む光で壁に鳥の羽ばたく姿が映し出される。そして,街の灯りが一つ,また一つと消えていく。
(河田 充規)ページトップへ
   
             
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